◆「隣国にミサイル基地ができたら?」プーチンの言い分
「もし米国が自分の隣国にミサイル基地ができたらどうするだろう?」
プーチンがウクライナに対する「先制攻撃的軍事行動」をとった直後の言葉だ。
1962年に「キューバ危機」というのがあった。キューバに配備されるミサイルを運搬するソ連軍艦を武力で阻止しようと米艦艇群が太平洋で待ちかまえた。すわ米ソ核戦争勃発! 世界は本気で恐怖した。かのボブ・ディランは「もう君に会えないまま死ぬのかと覚悟した」とイタリア留学中の恋人スーズに手紙を送った。米国の学校では机の下にもぐる核戦争退避訓練をやった。
結局、ソ連が折れて事は収まったが米国は一戦交えてでもキューバへのミサイル配備を阻止する構えを見せた。プーチンはこのことを念頭にロシアの立場を説明したのであろう。ウクライナのNATO化によって対ロ・ミサイル基地が隣国にできるならロシアは黙っていられるだろうか、と。
いま日本に中国本土を射程に入れる中距離核ミサイルが配備されようとしている。それはプーチンが言ったロシアにケンカをふっかけた隣国、ウクライナのような国になること、日本の「東のウクライナ」化を意味するものだ。これがいまわが国の現実になりつつあるということを強く訴えたいと思う。
◆日米首脳会談合意の「成果」── 対中「共同対処」
5月26日のバイデン大統領を迎えての日米首脳会談は二つの「共同対処」を合意した。
これについて自衛隊元統合幕僚長・折木良一氏は次のように評価した。
「中国を念頭に置いて『共同対処』する認識を共有したことは大きな成果と言える」(2022年5月24日付読売新聞論評)。
折木氏といえば岸田政権の今年度末の国家安全保障戦略改訂に向けた政策提言を行う立場の人物だけにその発言は重要な意味を持つ。
この人物が「成果」と評価する日米首脳会談で合意された「共同対処」の第一は、岸田首相が「敵基地攻撃能力保有」、防衛費増額を表明したこと、その第二は、米国が日本への核による「拡大抑止」提供を保証したことだ。
「拡大抑止」とは同盟国への攻撃を自国への攻撃とみなし報復する態度を米国が示すことで「敵国」の攻撃企図をためらわせることを意味する。折木氏の言う今回の「成果」とは「米国の核」を報復攻撃に使う保証を得られたということを指す。
ここで注目すべきことは、「拡大抑止」の提供、「米国の核」を報復攻撃に使う保証を与えることを改めて米国が強調したこと、これが「成果」とされることだ。そして米国の「拡大抑止」保証との関連で日本が米国に約束した「敵基地攻撃能力の保有」を「成果」としたこと、この意味をよく考えてみる必要があると思う。
◆「核抑止100%の保証を得る」覚悟 ── 中距離核ミサイル配備受け入れ
フジTV「プライム・ニュース」で「米国は本当に核の傘をさしかけてくれるのか?」が論議された。「ウクライナ戦争」の教訓として「米国は自国への核戦争の危険があれば参戦しないということがわかった」からという前提での議論だ。
ここでは河野克俊・前統幕長の発言が注目を集めた。彼は「米国から核抑止100%の保証を得るべき」としつつ「それはただではすみませんよ」と日本が同盟国としてやるべきことを示した。
「いずれ核弾頭搭載可能な中距離ミサイル配備を米国は求めてくる、これを受け入れいることです」と。そのためには少なくとも「核持ち込み」は認める、すなわち「非核三原則の見直し」が必要ですと河野氏は国民に覚悟を求める。
なぜこれが米国から「核抑止100%の保証」を得ることになるのか?
◆中距離核ミサイル配備の意味
中距離核ミサイルとは射程500km以上の戦術核ミサイルを指し、これを中国や朝鮮に近い日本に地上配備、ここを発射拠点とすれば米本土から戦略核・大陸間弾道弾発射の必要がなく米国本土が核戦争被害を受ける心配がない。米国が安全なら「核抑止100%の保証を得られる」というのが河野氏の計算だ。
すでに昨年、米インド太平洋軍は「対中ミサイル網計画」として、日本列島から沖縄、台湾、フィリッピンを結ぶいわゆる対中包囲の「第一列島線」に中距離ミサイルを配備する方針を打ち出している(2021年7月8日付朝日新聞)。
「軍事作戦上の観点から言えば……中距離ミサイルを日本全土に分散配置できれば、中国は狙い撃ちしにくくなる」(米国防総省関係者)。米軍の本音は日本列島への分散配備だ。
さらに河野氏はこうも言う、「日本独自にミサイルを持つという議論もあるが、まずは米ミサイルを配備させて……」と。
この意味は、まずは「核抑止100%の保証」を米国から得るための「同盟国の義務」として米国の要求する中距離核ミサイル配備受け入れ、すなわち「核持ち込み」容認の覚悟を日本国民が持つことが第一歩だということだろう。
逆に言えば、これには次のステップ、第二歩があるということだ。
◆中距離核ミサイル発射は自衛隊が担う
首脳会談で岸田首相が約束した日本の敵基地攻撃能力保有を上記の米国の中距離核基地日本配備計画と関連させるとその危険な本質が見えてくる。
米インド太平洋軍の計画では、米軍自身のミサイル配備と共に自衛隊がこの地上発射型の中距離ミサイルを保有することも求めている、そしてすでに防衛省は地上配備型の日本独自の長射程ミサイル開発を決めている。
すでに対中ミサイル基地としては沖縄、南西諸島に自衛隊の短距離対艦・対空ミサイル基地があるが、これらが中国本土を射程に入れる中距離ミサイル攻撃基地になるであろうし、日本本土の陸自基地にも米軍が望むように中距離ミサイルが「分散配置」されることになるだろう。
これはまさに自衛隊が任意の対中(朝鮮)「敵本土」攻撃能力を保有することとなる。
これとの関連で安倍元首相の持論である「米国との核共有」論を見ていくと、有事には自衛隊の地上発射型中距離ミサイルに米国の核を搭載できるようにするための論理と言える。
日本の敵基地攻撃能力保有と米国の「拡大抑止」提供の保証、この「共同対処」を合意したことが日米首脳会談の成果とした折木・元統幕長の真意が見えてくる。それは日本が地上発射型中距離核ミサイルの対中(朝鮮)本土攻撃基地となる覚悟を全国民的に迫る根拠を得たということではないだろうか。
◆「日本のゼレンスキー」たちの暗躍を許すな
プーチン大統領は、5月29日、祖国戦争勝利記念日の演説で「ウクライナ戦争はロシアと米欧の闘いである」とした。ゼレンスキー政権下のウクライナは米欧の代理戦争をやらされているということだ。
いま日本は対中新冷戦最前線として中距離核ミサイル攻撃基地を担う「覚悟」を迫られている。それは「東のウクライナ」・米国の代理戦争国化の道である。
上述のTV番組で折木氏は「いいタイミングでこの議論ができた」とつい本音をもらした。その真意は、「ウクライナ戦争」でいかに米国の拡大抑止力の保証を得ることが大切か、そのための同盟国としての義務を果たすことの重要性を日本国民が痛感しただろう、そんなタイミングでの国民の覚悟を促す議論ができたということだろう。
また同氏は米軍の中距離核ミサイル配備を受け入れるということは、もしそれを実際に撃てば「相手国の10万、20万が死ぬことに責任を負う」覚悟を持つことだとも語っている。「撃てば撃ち返される」が戦争の常識だ。だからそれは「日本の10万、20万が死ぬことを覚悟する」ということでもある。
いまウクライナでは18歳から60歳までの男子の国外退避を禁じる法律に抗議するSNS投稿への賛意拡大にゼレンスキー政権は神経をとがらせている。それは「ウクライナ戦争」がけっして愛国戦争などではなく米国の代理戦争ではないかと国民が薄々感じ取っているからではないだろうか。
事が起こってからでは遅い。日本の「東のウクライナ」・代理戦争国化への道、そんな「覚悟」を迫る「日本のゼレンスキー」たちの暗躍を許してはならない。
▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)さん
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」成員