昨年の今頃は、東京五輪の開催の可否をめぐる国民的な議論を背景に、都議選を前後するころだった。自民圧勝・都民ファースト大敗という、大方の予想をくつがえす結果となったものだ。

すなわち、選挙戦最終盤での小池百合子都知事の予想外の「退院」、選挙応援という行動で都民ファーストの善戦となったのだった。この予測が出来たのは、電子サイトならではの速報性もあって、本欄のわたしだけだった。自慢したいのではない。

都議選における自民敗退(微増)の延長に、菅政権の政治的危機は容易に予想できるものだった。役に立たないマスクでしかコロナに対応できなかった安倍の退陣、菅の学術会議への政治介入、桜を見る会問題、財務相職員を殺したモリカケ問題、国民を犠牲にしたオリンピック強硬開催など、政治危機の要素はおびただしいものがあった。

にもかかわらず、そうはならなかった。自民党による秋の政局は、わたしの「政権交代」「政権延命のための大連立」などという予測を押しつぶす。自民党が国民的な総裁選挙(知名度抜群の男女4人を出馬)によって、イッキに流れを変えたのだった。

政治は一寸先が闇、何が起こるか分からない。至言であろう。

小池都知事「入院」の真相と7月4日都議会選挙・混沌の行方(2021年6月28日)
《速報》2021年都議会選挙 都民ファーストの善戦、自民党の復活は不十分に(2021年7月5日)
この秋、政権交代は起きるのか? ── 『紙の爆弾』最新号を参考に、都議選後の政局を俯瞰する(2021年7月8日)
東京五輪強行開催で引き起こされる事態 ── 国民の生命危機への責任が菅政権を襲う(2021年7月14日)
無法と強権の末期政権 ── 菅義偉という政治家は、もはや憐れむべき惨状なのではないか(2021年7月16日)
五輪強行開催後に始まる「ポスト菅」政局 ── 二階俊博が仕掛ける大連立政権(2021年7月21日)

◆ほぼ無風の選挙情勢

とはいえ、今回の参院選挙に「風」は起きないであろう。政治危機の要素のない、無風選挙である。選挙の争点はすなわち、国民の関心がある政治テーマということになるが、岸田政権の消費税維持(前回あつかったインボイス)や物価高対策に関心はあっても、投票行動にいたる具体性にとぼしい。

第三次世界大戦の危機を招来しかねないウクライナ戦争も、自分にしか興味のない日本の有権者には対岸の火であろう。かつて朝鮮戦争で焼け太り、ベトナム戦争のさなかも高度経済成長を謳歌した日本人にとって、世界の動乱はテレビ画面を飾るものでしかない。おそらく防衛費の倍増をもとめる自民党内の議論も、それに反対する野党共闘の議論も、投票行動には顕われないであろう。

無党派層の比例代表投票先(2022年6月24日付西日本新聞)

無風選挙であれば、町会(自治会=子ども会・神輿会や神社崇敬会など)に根をはり、企業のサラリーマンまるごとが党員・党友である自民党の集票構造がものを言う。

政権およびそれに交代に近い投票行動が起きるのは、自民党が分裂する政界再編(1993年の日本新党)、消えた年金問題など国民生活をゆるがす事態で初めて起きる(2009年の民主党政権にいたる流れ)。つまり自民党支持層が自民党に投票しないこと、それにプラスして無党派層の投票行動が重なったときに、風が吹くのである。

◆与党の過半数維持は動かない

世論調査も紹介しておこう。

共同通信が実施した電話情勢調査(6月22・23日)では、3万8千人以上から回答を得られたという。取材も加味して公示直後の序盤情勢を探ったところ、自民・公明両党は改選124議席の過半数(63議席)を上回る勢いだという。立憲民主党は改選1人区での共闘が限定的となり伸び悩む。日本維新の会は選挙区・比例代表ともに議席増が見込まれ、立民と野党第一党の座を争う構図だ。

肝心なのは有権者の半数近くを占める無党派層だが、ここでは立民がトップに立っているものの、圧倒できる割合ではない。では一人区の野党共闘はどうなのだろうか。(2022年6月24日付西日本新聞)

◆はかばかしくない野党共闘

参院選1人区での野党の構図(2022年6月22日付東京新聞)

参院選で勝敗の鍵を握る32の改選1人区は、野党の一本化が進まなかった。じつに3分の2で競合し、事実上の与野党一騎打ちは11選挙区にとどまった。(2022年6月22日付東京新聞)

野党は直近2回の参院選で、ほぼ全ての1人区で候補を一本化してきた。2016年は11勝21敗、19年は10勝22敗と善戦していたが、今回は野党候補の乱立で政権批判票が分散して共倒れの懸念が高い。立民や社民といい共産といい、れいわ新撰組をのぞいては、もう賞味期限が切れた政党でしかない。

◆「ゆ党」の伸長

何らの波乱も起きそうにない今回の参院選で、前回の総選挙(衆院選挙)から始まった、いわゆる「ゆ党」の躍進である。この「ゆ党」とは、与党と野党の間にあって、第三極となる中間政党である。すなわち、自民を右から批判する維新の会、および国会の予算案決議で賛成にまわった国民民主党である。

上記の共同通信の調査でも、前回衆院選につづいて維新の会の伸長が予想される。これに加えて、国民民主も無党派層の比例区では共産党にせまる5.6%が予測されている。

自民党批判・中央批判(大阪)だが、左翼の立民と共産には入れたくない。ネット右翼のような革新派保守層とも右翼ともいえる層が増えているということであろうか。その実態はともかく、財界癒着と世襲制の自民党政治に対する批判、減税志向の公約がうけているのなら、理由がないわけではない。

◆危惧される? 社民の消滅

「ゆ党」の伸長のいっぽうで、注目されるのが社民党の消滅である。現在、社民党の議員は3人(政党要件では5人)。このうえ全国の得票率が2%を下回ると公職選挙法上の政党要件を喪失するため、党として正念場を迎えた。

あいかわらず、教条的にスローガンを羅列するだけの福島党首の演説では、今回をもって政党でなくなる可能性が高い。市民運動の議会主義的な幻想を煽るだけの政党なら、消滅してしかるべきかもしれない。今回の選挙の、もっとも注目に値すべき焦点であろう。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年7月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年夏号(NO NUKES voice改題 通巻32号)