心から哀悼の意を表したい。
選挙戦にめっぽうつよい一強のゆえに、また不寛容と強権的な政治手法ゆえに、生前の安部氏への批判はすさまじかった。本通信もその例にもれず、政策のみならず政治体質そのものへの批判に及ぶことが少なくなかった。
ネットの批評では、あまりにも安倍批判が過剰となり、匿名SNSで「安倍しね」などという何でもありの罵倒が嵩じて、安倍氏を殺す空気があったという指摘がある。ネット時代の匿名性・無責任な発言・異常な書き込みが社会のありようを壊しているのだとしたら、表現者としてのわれわれも、その弊害に自覚的でなければならないであろう。
いずれにしても、選挙戦のさなかの「銃撃」という暴力は許されない。選挙戦は「野次」や「批判」もふくめて言論戦である。銃を撃ちたいなら、逮捕や拘束・戦死をも覚悟で戦場に行くべきである。かさねて安倍氏の生前の労をねぎらうとともに死を悼み、銃撃犯の暴虐を弾劾するものです。
とはいえ、敵をつくってそれを叩くことで自分の主張を際立たせる。たとえば「あの悪夢のような民主党政権時代」などと、国民の分断を意識的につくり出す安倍氏の手法にこそ、ネット時代特有の弊害を生む理由があったのではないか。旧来の自民党にあった、日本的な寛容さで対立をも呑み込む広さは、安倍氏には感じられなかった。本通信で扱ってきた、安倍氏の時々の歩みを再録しておこう。直近のものから収録したので、編年的に読みたい方は、下から上にクリックしてください。
◆果たせなかった院政
福田家との争闘が想像されたが、安倍氏の院政は残念ながら「逝去」によってついえた。
安倍家と福田家もそうだが、日本の政治家(国会議員)の3人に1人が世襲制という現実が問題にされなければならないであろう。看板(名前)・地盤(組織)・カバン(金=借金もふくむ)を個人が継承しなければならない以上、この弊害というか異様な伝統は今後もつづく。
総理大臣にかぎっていえば、平成になってから32年間で19人の総理のうち、世襲でない人は6人。70%が世襲の総理大臣なのだ。もはや王朝政治ともいうべき世襲率、特権貴族のような人たちが政治を支配していることになる。これでは北朝鮮の金氏王朝を批判できない。記事はこれにも触れるべきであった。
⇒安倍派の誕生 ── 息づく「院政」という伝統 2021年11月12日
◆晩節を汚した「桜を見る会」
安倍氏の政権末期は、大物政治家らしいスキャンダルにまみれた。われわれは政治家に清廉よりも能力をもとめたいが、やはりルール批判は許せないものだ。そして安倍氏においては、ピンチになると姿を隠したり病気になったりと、正面から向き合わない、ある意味では政治家的なスマートさが、かえって格好悪さだった。そういえば、再登板も噂されていたのだ。
⇒危機になると、病気になったり姿を隠す……。卑怯な「容疑者」安倍晋三の逃げ切りを許すな! 再登板をねらうも、不起訴不当の議決で頓死! 2021年8月3日
⇒安倍晋三を逮捕せよ! 自民のアベ切りの背後に、菅首相の思惑 2020年12月26日
⇒安倍晋三の政治とカネの無様な実態 検察は自殺者を出さないために、前総理の身柄を押さえて説諭せよ 2020年11月28日
◆自民党のCM動画での安倍氏
昨年の春には、編集部の企画で自民党のCM動画で安倍氏の雄姿を懐かしむ記事も掲載した。
こうして見ると、やはりアジテーションの上手い頭のいい人だったのだろう。経済も法律(とくに憲法解釈)も、あまりわかっているとは思えなかったが、答弁力(質問の論軸をはぐらかす)やパフォーマンス能力は一流だった。
⇒自民党のCM動画で安倍元総理の雄姿を懐かしむと、政権の旧悪が露見してくる ── 政権奪還からコロナ禍逃亡退陣まで 2021年4月7日
◆コロナで挫折
経済への期待感から、景気の良い話に乗りたがる国民には圧倒的な人気があった。それが選挙戦での強みである。
だが、スキャンダル対応(すぐにカッとなる)もふくめて、守勢にまわると弱い人だった。コロナ禍で、はしなくもそれが暴露された。対応は後手にまわり、アベノマスクという遺産を残して、ふたたび病魔に倒れる。
⇒安倍総理辞任の真意 コロナ禍に対応できず、危機管理に苦しまぎれの退陣! 2020年8月29日
⇒247億円が使途不明? カビや異臭も? 髪の毛と虫が混入したアベノマスク疑惑 2020年4月25日
⇒コロナ恐慌「経済対策総額108兆円」のイカサマに安倍政権の末路が見えた! 2020年4月10日
◆反社との関係
もうひとつ。反社との関係は工藤會をはじめ、脇が甘かった。ネット上では「ケチって火炎瓶」というハッシュタグで、下関事務所襲撃事件が暴露されたものだ。桜を見る会の核心部は、反社との公然たる付き合いであろう。
⇒「反社会勢力」という虚構〈5〉やはり虚構だったのか? 「反社会的勢力」を「定義困難」と閣議決定した安倍政権に唖然 2019年12月14日
⇒「反社会勢力」という虚構〈4〉やっぱり反社が参加していた「桜を見る会」── 自民党政治は反社との結託で成立している 2019年12月7日
◎プーチンとの蜜月
二島返還もままならなくなった安倍〈売国〉政権・北方領土問題の絶望 2019年2月6日
◎政治手法
もはや圧倒的な独裁制 私物化された情報機関が生み出す政敵ヘイト工作の軌跡 2018年9月13日
◎アベノミクスの裏側
官民ファンドは全て赤字! アベノミクス「成長戦略」の無責任 2018年8月10日
◎放置された拉致問題
安倍氏を総理候補に浮上させたのは、いうまでもなく北朝鮮拉致問題だった。この課題もなおざりにされた。
⇒拉致問題「報告書」の真相とは? 2018年5月15日
安倍氏を追悼したあとは、事件の背後関係の有無であろう。山上容疑者(の母親)が関与していたという統一教会と対立しているサンクチュアリの教祖(文鮮明の七男)が現在、来日中なのである。
統一教会の母子骨肉の分派抗争が事件に関わっているとしたら、まるで映画のような歴史的事件ではないでしょうか。森田芳光『ときめきに死す』のラスト暗殺成功バージョンということになる。
◎[参考動画]安倍元総理銃撃の瞬間
▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。