今年、芸能界では、有名俳優や映画監督が次々に性暴力やパワハラを報じられ、出演作品やCMの降板、活動の休止などを余儀なくされている。そんな中、自身の「性加害」を報じた『週刊女性』に対し、民事訴訟を起こす反撃に出たのが、映画監督の園子温氏(60)だ。

その訴訟記録を東京地裁で閲覧したところ、園氏は同誌の記事の主要部分をほぼ全否定し、請求する損害賠償なども思いのほか巨額であることがわかった。『週刊女性』側にとって訴訟活動はハードなものになりそうで、「性加害」報道ブームに一石を投じる訴訟になりそうな予感もする。

園氏に訴えられた『週刊女性』4月5日発売号の記事 ※修正は引用者による

◆編集長と担当記者も被告に

「事実と異なる点が多々ございます」

園氏は公式サイトで5月19日、複数の女優に対する自身の「性加害」を報じた『週刊女性』4月5日発売号(表紙などには4月19日号と表記)の記事と、その続報を伝えた同誌4月12日発売号(表紙などには4月26日号と表記)の記事について、そう主張。同誌の発行元『主婦と生活社』を被告として損害の賠償と謝罪広告、インターネット記事(同誌の公式サイト『週刊女性PRIME』に掲載された上記2つの記事)の削除を求める訴訟を起こしたことを公表した。

東京地裁で訴訟記録を閲覧したところ、実際には、園氏は『主婦と生活社』のみならず、同誌編集長の栃丸秀俊氏と担当記者も被告として提訴。同誌の記事により名誉を毀損され、脚本・監督を担当したハリウッド映画の制作が中止になるなどしたとして、1億1000万円の損害賠償を請求し、さらに朝日、読売、毎日、日経、産経の5紙に各1回、『週刊女性PRIME』に10週間、それぞれ謝罪広告を掲載するように求めている。この種の訴訟としては、かなり巨額の請求だと言える。

そして、それ以上に驚かされたのが、園氏が訴訟の対象とした2つの記事について、主要部分のほぼすべてを「真実ではなく、虚偽である」と否定していることだ。事案の内容を正確に伝えたいので、2つの記事のうち、園氏が「虚偽」と主張する部分を以下にすべて示す。

・・・・・以下、『週刊女性』4月5日発売号の記事(タイトルは『映画監督・園子温(60)が女優に迫った卑劣な条件「オレと寝たら映画に出してやる」』)のうち、園氏が「虚偽」と主張する部分・・・・・

①「今も平気で“俺とヤッたら仕事をやる”と言う映画監督がいます。彼の作る映画は評価が高く、作品に出たがる女優はたくさんいます。それを利用して、彼は当たり前のように女優たちに手を出している。それが、園子温です」
※記事によると、証言者は「さる映画配給会社の幹部」。

②「出演予定の女優を園監督が自分の事務所に呼び出して、性行為を迫ったけれど、彼女は断った。すると園監督は前の作品に出ていた別の女優を呼び出して、目の前で性行為を始めたというんです」
※記事によると、証言者は「前出の映画配給会社の幹部」。

③園の映画作品に出演したことがある、女優のAさんは眉をひそめ、こう証言する。
「普段から“女はみんな、仕事が欲しいから俺に寄ってくる”と話していました。“主演女優にはだいたい手を出した”とも」

④園作品に出演したことがある女優のBさんが、その身に起きた実体験を告白する。
「あるイベントで出会い、LINEを交換したんです。その後、新宿で飲むことになりました。複数人いましたが、その席ではたしかに“俺はたくさんの女優に手を出しているけど、手を出したやつには仕事を与えている。だからほかの監督とは違うんだ”と話していました」
悪びれる様子もなく、堂々と話していたというのだから、それが“問題行為”だという認識を持ってはいなかったのだろう。

⑤「当時の私は“役者として売れたい”という目標があったから必死でした。あるとき園さんから連絡が来て、都内のシティホテルに来ないかと誘われて。“俺は仕事あげるよ”とずっと言っていたので、受け入れて向かったんです」(Bさん、以下同)
平日の昼間、Bさんはそこで園と関係を持った。
「嫌がることをされたとかはありませんが、“彼氏がいるなら、彼氏に電話しながらシタい”と言われました。“いない”と伝えたら“俺のために彼氏つくって”と。そういう性癖なんでしょうね。避妊はしてないです」
ほどなくして、園が監督する新作のオーディション案内が事務所に届いた。
「会場で園さんと会ったとき、アイコンタクトをしてきたので“受かった”と思いました。撮影が終わった後も、何度かLINEが来ました」

⑥「マネージャーと一緒にアトリエに呼ばれて3人でビールを飲んでいたら、いきなり園さんが脱ぎ始めて“ふたりでフェラして”と要求してきたそうです。結局、園さんは飲みすぎたせいか、途中でやめてしまったみたいですけど」
※記事によると、証言者は前出のBさん。「別の女優から聞いた話」として、このように証言したという。

⑦向かいに座っていたはずの園だったが、話をしながらだんだんCさんに近寄ってきて、いつの間にか隣に。
「肩に腕を回して、突然キスされて……。私は驚いて“本当にやめてください。さっき、奥さんに感謝してるって言ってたじゃないですか”と。すると、今度は違う話をし始めて、抱きついてきたんです」
その後も押し問答が続く。
「ずっと抵抗していると“俺は業界で有名なヤリチンだよ?”って言ってきました。言い間違えだったようで“違う、違う! 有名なアゲチン!”と焦っていましたが……。そして“俺、ハットがすごい好きなんだよ。コレクション見せるよ”と、別の部屋に案内されました」
その部屋が、寝室だった。
「私は、絶対に寝室に入りたくなかったので、ドアの外からハットを見ていました。でも、強引に腕を引っ張られ、ベッドに押し倒されて馬乗りされました。そして、キスをされたり、首元を舐められたり、胸を揉まれたり……。さらに“めっちゃ勃ってる”と私の身体に股間を押しつけてきて触らせようとしてきたり、服の首元から、中に手を入れられたりもしました」
どうにか部屋を出ようと、Cさんは床に転がり下りた。
「園は服を脱いで、“見て見て。勃起してる”と言ってきました」

・・・・・以下、『週刊女性』4月12日発売号の記事(タイトルは『園子温「覚悟の性暴力告白」に対して“法的措置”で威嚇 被害女性が憤怒「また傷つけられた」』)のうち、園氏が「虚偽」と主張する部分・・・・・

①「予想どおりの反応でした。そもそも謝る気がないんです。自分がした行為がどれだけ卑劣なことか、わかっていないんですよ」
怒りで声を震わせながら、そう話すのは、映画監督の園子温から受けた“性被害”を、4月5日発売の週刊女性で告白した元女優のひとり。

②かつて園と親交があったという別の女優は、彼の人柄についてこう明かす。
「性暴力ではないですが、撮影現場で“俺にはヤクザがバックについてるからな!”と、もめた相手を威圧しているのを見たことがあります。本当にヤクザと関係があるなら、そんなこと言わないでしょうけど。自分を大きく見せようとする、すっごく気の小さい人なんですよ」

◆『週刊女性』側にとってハードな戦いになりそうな理由

さて、このように記事のうち、園氏が「虚偽」と主張する部分を見ただけで、『週刊女性』側にとってハードな戦いになりそうだと筆者が予想する理由をわかる人はわかるだろう。

名誉毀損訴訟では、訴えられた側が仮に相手方の名誉を毀損する表現をしたと認定されても、その表現の公共性や公益性、真実性を立証できれば、免責される。今回の場合、『週刊女性』の2つの記事は、芸能界の性暴力やパワハラが社会問題化する中、著名な映画監督による複数の女優らに対する「性加害」を報じたものだから、公共性や公益性は認められるはずだ。

しかし、園氏にここまで徹底的に記事内容を否定されたら、『週刊女性』側にとって記事の真実性を立証するのは大変だろう。記事中で園氏の「性加害」を証言している映画配給会社幹部や女優ら「匿名の取材協力者たち」に実名を明かしてもらったり、場合によっては法廷で証言してもらったりしなければならないことが考えられるからだ。

法的なことだけを言えば、『週刊女性』側は仮に記事の真実性を立証できずとも、真実と信じた相当の理由や根拠があることを立証できれば足りる。しかし、そのために取材協力者たちに面倒をかけること自体、メディアにとって辛いことだ。

この訴訟で『週刊女性』側が仮に敗訴し、巨額の損害賠償や謝罪広告の掲載を余儀なくされればもちろんのこと、仮に勝訴したとしても取材対象者たちを法廷に立たせるようなことになれば、俳優や映画監督に関する「性加害」報道ブームにブレーキがかかったり、メディア全体が「性加害」報道のあり方の検証を迫られたりする可能性もあるように思う。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

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