ロシアの侵攻・ウクライナ戦争の危機を、この通信で報じたのは、昨年(2022年)の2月23日のことだった。あれからあと10日で1年になる。経緯を振り返りながら、戦争の今後を展望しよう。

◆プーチンの戦争は近代以前のスタイル ── 力押しに兵力を前線に送り込み、兵士たちを消耗品のように使い尽くす

※[参照記事]「風雲急を告げる、ウクライナ戦争の本質 ── 戦争をもとめる国家・産業システム」(2022年2月23日付けデジタル鹿砦社通信)

当初われわれは、アメリカの軍産複合体による戦争の必要、ロシアの覇権主義による帝国主義的併呑として、この戦争の本質をみてきた。多数の人種が混住する東ヨーロッパに特有の、したがってボスニア・ヘルツェゴビナ紛争のような内戦状態になるであろうと。そしてアメリカの介入で長期化は避けられないと。

この見方はしかし、プーチンという独裁者を分析するにつれて、誤りであると結論せざるを得なかった。

それというのも、ウラジーミル・プーチンがかつてのアドルフ・ヒトラーとほぼ同じ、好戦的な独裁者であり謀略家であること。さらにはヨシフ・スターリン以来の民族併合主義であり、強権的な独裁者であることが明白になったからだ。

いや、ヒトラーやスターリンに擬するのはふさわしくないかもしれない。プーチンの戦争は力押しに兵力を前線に送り込む、兵士たちを消耗品のように使い尽くす、近代以前のスタイルである。

あにはからんや、開戦後のプーチンはピョートル大帝やエカチェリーナⅡ世を理想とするものだった(プーチン談話)。かれは21世紀に18世紀の戦争を持ち込んでいるのだ。そして、その心性も明らかになっている。

※[参照記事]「核兵器使用を明言した妄執の独裁者、ウラジーミル・プーチンとは何者なのか? ── 個人が世界史を変える可能性」(2022年2月26日付けデジタル鹿砦社通信)

◆スターリンを彷彿とさせるプーチンの強権

ヒトラーがウィーン時代に感じたユダヤ人への敵意と同じように、プーチンは東ドイツ時代(シュタージの一員として暗躍)に壁の崩壊を体験し、大衆の反乱に恐怖を抱くようになった。それゆえに言論統制と対立政党の非合法化をもって、ロシア連邦の復活を強権的に行なった。その姿は鉄の人スターリンを彷彿とさせる。事実、ロシアではスターリン像の再建が進んでいる。

※[参照記事]「第三次世界大戦の危機 プーチンは大丈夫か?」(2022年3月14日付けデジタル鹿砦社通信)

そしてこの戦争が、アメリカとロシアの中東派兵などとは違い、国境接した国同士の本格的な領土侵略として顕現した以上、そして片方の国が核大国であることから、第三次世界大戦の勃発につながりかねないと指摘してきた。第三次世界大戦の勃発とはすなわち、核熱戦争の招来にほかならず、人類の滅亡をもふくむ災禍であると。

しかし、その後の展開は核戦争の脅しと恐怖はありつつも、やはり核兵器は使えない兵器であることが明らかになりつつある。専門家のあいだで想定されていた戦術核もウクライナ国内(ロシア占領地)に配備されることはなかった。おそらく本格的な核熱戦争を怖れているのは、当のプーチンであるのだろう。

したがって、南部・東部地域においても通常兵器での応酬がもっぱらとなったのである。

※[参照記事]「ウクライナ戦争 ── 戦況総括と今後の展望」(2022年5月23日付けデジタル鹿砦社通信)

◆ウクライナ戦争は数年単位の長期化が必至

ところで、それ以前にロシアの戦争計画の杜撰さも明らかになっていた。当初、ロシア軍は南部(クリミア半島方面)・東部ドンバス地域、北部からウクライナの首都キーウを、3方面から急襲する作戦だった。このうち、北部から一気呵成に首都を陥れ、西側観測筋にもあったゼレンスキー政権の亡命を促す作戦だった。

その作戦は北部からの機甲部隊の圧力、および空挺部隊で空港を支配下に置くことで、首都キーウを包囲するというものだった。

しかし空挺部隊の空港制圧は、事前にウクライナ軍に読まれていた。ウクライナ軍の待ち伏せにより、ロシア軍空挺部隊は孤立、初期の段階で壊滅した。いっぽう、戦車を先頭にした機械化部隊も、ウクライナ軍がキーウ北部の河川堤防を決壊させることで、泥濘の中に動きを止められた。

そして地対地ミサイル、ジャベリンによって、動けなくなった戦車が砲塔上部を破壊される事態が多発した。ために、ロシア軍の戦車は砲塔の上に鉄製のバリケードをくっつけて走るという、珍無類の戦闘風景が現出したのである。


◎[参考動画]ウクライナジャベリン対戦車ミサイルが5両のロシア戦車を破壊-ARMA3

戦車であれ戦闘艦であれ、兵器の弱点は武器庫である。ロシア戦車は砲塔に弾薬庫が併設されているために、真上からミサイルを受けたさいに自爆する。ウクライナの戦争報道で、砲塔が吹っ飛んだ戦車が赤茶けるまで焼けているのは、弾薬の爆発→軽油(ディーゼル燃料)の炎上の結果、剥き出しになった鉄甲が赤く錆びるという現象なのだ。

速戦圧勝という、ロシア軍が想定した作戦は頓挫した。北部から東部へと部隊を移動せざるをえなくなり、そのかんにロシア軍の大部分が部隊としては崩壊してしまったのである。プーチンの予備役招集、新たな徴兵はその証左にほかならない。

そしていま、ドイツ製レオパルド1・2の供与など、NATOのウクライナ支援が継続、拡大している。ポーランドが100輌供与するレオパルド1については、ロシア製のT72など前世代戦車に属するが、赤外線暗視装置や渡河可能なシュノーケルなど、50年前は最新鋭とされたものだ。

レオパルド2は普及型としては最新鋭だが、現代戦車の優劣はソースコードによるとされている。ようするに、クルマでいえばマニュアル式のギアミッションとオートマの違い、ナビゲーションシステムの有無、後方確認システムなど、最新の電子システムを備えているかどうかの違いである。

そのレオパルド2、アメリカ製のM1A2エイブラムス、イギリス製のチャレンジャーなど最新戦車が投入されたならば、戦局は長期化する。かくして、ウクライナ戦争は数年単位の長期化が必至となったのである。


◎[参考動画]これが、どの国もレオパルト2戦車と戦うことを望まない理由です。

※[参照記事]「戦争の長期化は必至 ── 犯罪人プーチンとロシア軍が裁かれる日」(2022年6月18日付けデジタル鹿砦社通信)

◆21世紀を生きる我々に何ができるのか

プーチンの戦争に反対し、ウクライナの人々を支援する以上に、21世紀を生きる我々に何ができるのか。ウクライナ大使館を通じた支援、ユニセフやアムネスティを通じた支援もさることながら、国際法違反を声高に発信するのが、じつは歴史的には有効である。ロシアに対して、虐殺や国際法違反を警告するのである。

この点はSNSを通じて、あるいは国際的に影響力のある報道機関をつうじて、研究者や識者の提言を送ることで、プーチン政権の動揺を誘うことが可能であろう。それはわれわれにも出来る活動だ。

街頭行動も準備されているので、紹介しておこう。1周年の2月23日には、ロシア大使館行動もあるようだ。

プーチンの戦争を止めよう! ウクライナに連帯を! 2.23新宿デモ 2023年2月23日(木)13時半~ 新宿駅東口アルタ前広場 (呼びかけ団体=ウクライナ連帯ネットワーク)

さて、今回の戦争は反戦平和を訴える左翼陣営において、思いがけない混乱が生じた。ロシアもウクライナも、どっちもどっちだ。アメリカ(NATO)とロシアの帝国主義間戦争論、ウクライナは降伏するべきだ、などなど。これについては私が批判した共産同首都圏委の沈黙、論争回避の決定など思わぬ事態に発展しているので、後編としてお伝えしたい。(つづく)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

月刊『紙の爆弾』2023年3月号