新聞を情報入手の発信源として、毎日目を通す必要があるのかどうか。年々新聞に対するわたしの不信感と嫌悪感が増してはいるのであるが、それでも漫然と新聞購読は続けている。記事の5割以上に「なに言っているんだ!」と内心舌打ちするのは、毎朝のいわばルーティーンで、ときに堪忍袋の緒が切れる。加齢によって堪え性が減じる兆候であろうか。
花粉症でただでも鬱陶しいこの季節に、またしても度し難い文言が目に入ってきた。今次は新聞記事ではなく、経済産業省の広告である。
「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」と、促されたので、考えた。でも、考えても、考えても、わたしの知識からは広告全体が伝えようとしているメッセージにどうしても得心がゆかない。
広告は、
Q.ALPS処理水って何?
A.東京電力福島第一原子力発電所の建屋内にある放射性を含む水について、トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化した水のことです。トリチウムについても安全基準を満たすよう、処分する前に海水で大幅に薄めます。
といった体裁で、QアンドAは上記を含め4つある。ちょっとでも原発問題に関わっている人間には、アホらし過ぎて反論する気も失せる虚偽だらけだ。しかしこの広告は経済産業省つまり国がわれわれの税金を使って新聞に掲載している。少ないながらも納税者であるわたしにも、ことの真相を問いただす権利はあろうし、国が悪化な嘘を吹聴していることを問いだす責任があろう。
そこで経産省傘下資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室(電話:03-3580-3051)に「考えよう」と指示された内容を教えてもらうために電話をかけた。
以下はその内容であるが、やり取りには重複や会話特有の不明点があるのでその箇所は適宜修正している。
◆「安全だ」とは書いていないけれども、汚染水は「安全」だと理解してもよいのでしょうか?
田所 恐れ入ります。新聞に「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」と広告が出ていました。そのことについてお尋ねするのはこちらでよろしいですか。
対応者 内容によって変わってくるかと思うんですけれども、一応こちらでお伺いできればと思います。
田所 「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」と書かれた広告のことですが「海に流して大丈夫? 本当に安全?」とQ(質問)に書かれていてA(回答)に「安全確保に万全を期します」と答えで書かれています。この広告によれば汚染水が「安全」だと理解していいのでしょうか。
対応者 そうですね。ここに書かせていただいている通りのことですけれども。
田所 「安全確保に万全を期します」と書いてあるけれども「安全」とは書かれていないのですね。
対応者 はいはい。
田所 「安全確保に万全期す」とはたとえば火災の場合でも、「万全を期して」防火しても火事が起きたら「安全」ではなかったと結論づけられます。
対応者 はい。
田所 「安全だ」とは書いていないけれども汚染水は「安全」だと理解してもよいのでしょうか。
対応者 その前半部に環境や人体の影響を書かせていただいているので……
◆処理水の7割は法令以上に汚染されている。なのになぜ安全と言えるのですか?
田所 Q&A(質問・回答)が4つ掲載されています。質問は「ALPS処理水って何?」、「なぜ、ALPS処理水の処分が必要なの?」、「海に流して大丈夫?本当に安全?」、「もっと詳しい情報は何処で確認できるの?」です。ですからお尋ねしているのですが、「処理水は安全」であるのが間違いはない、ということですね。
対応者 そうですね。充分希釈して放出することは図って頂いていることですので。
田所 希釈というのは何を希釈するのですか。
対応者 放出する物質を海洋放出するものを希釈させていただくということになっておりますので。
田所 希釈、は何か物質を希釈する訳ですね。
対応者 ALPS処理水ですね。
田所 汚染水を希釈しているから、大丈夫だと。
対応者 そ、そういうことになります。
田所 「トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化した水のことです」と書かれていますけれども、トリチウムは安全基準まで下がっていないということですか。
対応者 その下に書かせていただいている通り、トリチウムについても充分に希釈して、その前に希釈して。
田所 トリチウム以外のものは全部取り除けているということですか。
対応者 安全基準を満たすまで浄化しておりますね。
田所 わたしが知る限り、トリチウム以外の汚染濃度が法令基準以下に下がっているのは、汚染数い総量の30%だけでしょ。
対応者 しかし、その30%、えっと70%、70%は再度二次処理を済ませて同じようなところに……。
田所 だから、安全基準内に落ちているのは30%だけなのではないですか。
対応者 いえいえ。放出する際には全部。
田所 現在放出ができる基準の値まで下りているのは貯めている汚染水全体の30%だけではないですか。
対応者 現在の話ですね。
田所 そうです。
対応者 そうですね。
田所 そうでしょ。ということは「ALPS処理水が安全だ」というのは事実とは違うじゃないですか。安全基準を満たさない残りの70%も一応ALPSで処理したのでしょ。
対応者 そうですね。それを再度浄化して。
田所 あなたは「ALPS処理水は安全で間違いないですか」とわたしがお尋ねしたら「安全で間違いない」と先ほどおっしゃいましたね。
対応者 はい。
田所 でも汚染水の30%だけがトリチウムを除く規準が法定以下に落ちているだけであって、70%は法定基準の汚染のまま残っているということですね。
対応者 はい。
田所 そうであれば汚染水は「安全」ではないのではないですか。
対応者 (無言)
田所 いかがですか。
対応者 どこをもって「安全」とするかについては、放出の際に関してはすべて同じく処理させて頂きますので。
田所 では当面放出するのは汚染水の30%だけですか。
対応者 はい、はい、はい。(その後長い沈黙)
田所 この広告では「ALPS処理水」と書いてありますが、今の説明を伺うと「ALPS処理水」が安全なものと勘違いしますね。
対応者 はい、はい、はい。
田所 トリチウムを除いて法令基準以下に出来ているものは30%だけなのですね。
対応者 現在のALPSでは3割になるんですけれども。
田所 現在のALPSではなく、一度使った水、汚れている水で法令基準値以下に値が下げられているものは3割以下ということですね。
対応者 はい、はい、はい。
田所 7割は法令基準値以上だから、流すことは出来ないわけでしょ。
対応者 はい、そうですね。そのままでは流せません。
田所 でもそのような汚染水も「ALPS処理水」と呼んでいるのではないですか。
対応者 そうですね、そこについてちょっと担当に……。
田所 これは専門的な内容ではなく、新聞に載っている広告です。わたしたちのように素人が見るものです。そこに「みんなで知ろう。考えよう。」と書かれているからわたしも「知ろう。考えよう。」と思って聞いているの。
対応者 はい。
田所 安全ですかとお尋ねしたら、「安全です」とおっしゃるので、法令基準値以上なのに、なぜ安全なのですか、とお尋ねしているのです。
対応者 放出する際のというところになるかと思います。
田所 この広告のどこに書いてありますか。
対応者 (長い沈黙のあと)「処分する前に海水で大幅に薄めます」というところになると思います。
田所 ん? でも「ALPS処理水のこと」と書いてあるけども、ALPS処理水には、法令基準値以上に汚染された70%以上のものを含むわけでしょ。
対応者 はい。
田所 それでは安全ではないものを含んでいるじゃないですか。
対応者 はい、はい。
田所 それどころか7割がたは安全ではないもの、じゃないですか。
対応者 (沈黙)
田所 今教えていただいた内容によれば、7割は法令以上に汚染されている。なのになぜ安全と言えるのですか。国が。
対応者 (沈黙)
◆「嘘も百回言えば本当になる」
田所 ダイオキシンの濃度は現在は規制されていますね。ダイオキシンを出す焼却炉は、今使えませんよね。でも同様に法令違反なのにALPS処理水と書かれているものが、あたかも安全かのように誤解しそうです。それでも安全とおっしゃるのですか。
対応者 そうですね。
田所 ALPS処理水はこれから海に流そうとしている汚染水だけではなく。タンクに溜まっている汚染水も含みますね。
対応者 はい、はい。
田所 その中にはトリチウム以外の核種が、いまだに法令基準をはるかに上回る濃度で入っている汚染水も含まれますね。
対応者 はい。
田所 それは安全ですか。
対応者 そのもの自体に関しては、安全じゃないと思います。
田所 でも、そのもの自体についても「ALPS処理水」と呼ぶのでしょ。
対応者 はい、はい。
田所 それでは「ALPS処理水は安全だ」という論は立たないのではないですか。
対応者 はい。そういったご意見があったことについては……。
田所 意見ではありません。客観的事実をお尋ねしている。「ALPS処理水は安全だ」と最初に教えて頂いたのですが、お尋ねしているうちに「ALPS処理水の7割は法令基準値を超える核種が含まれている」と言われた。であればそれは法令基準以上だから安全と呼ぶ対象にはならないのではないですかと。わたしは意見ではなく聞いているんです。
対応者 ちょっと確認させて頂きたいと思います。
国はあらゆる手を使って国民を騙し、不都合な事柄は「無かったことにしよう」と税金を使い宣伝する。残念なことにアドルフ・ヒトラーによる「嘘も百回言えば本当になる」との権力者発信情報の特質は、依然として有効だ。だからわたしたちは日々、少々面倒くさくても、情報の取捨選択や、偽り情報を流す者に対しての忠告を怠ってはならないのだろう。
▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。
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