国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

1人目は、大島隆明氏。2018年6月11日、その4年前に静岡地裁(村山浩昭裁判長、大村陽一裁判官、満田智彦裁判官)が認めた袴田さんの再審を取り消す決定を出した東京高裁の裁判長だ。

現在は弁護士と大学院の教授をしている大島隆明氏。大学院では「人気教員」らしい(『スタディサプリ社会人大学・大学院』より)

◆「大島氏の略歴」と「大島氏への質問」

大島氏は1954年7月28日生まれ、東京都出身。袴田さんの再審を取り消す決定を出した約2か月後の2018年8月3日付けで依願退官。現在は、東京都港区南青山にある『西綜合法律事務所』に弁護士として所属しつつ、日本大学大学院法務研究科の教授を務め、学生たちに刑事訴訟などを教えている。

なお、リクルートが運営する『スタディサプリ社会人大学・大学院』というサイトでは、大島氏が日本大学大学院法務研究科の教授という立場で受けたインタビューをまとめた記事(URLはhttps://shingakunet.com/syakaijin/0001763189/0001867405.html)が、〈【インタビュー】人気教員は社会人をどのように指導しているのか?〉という見出しを付されたうえで配信されている。

そんな大島氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、『西綜合法律事務所』に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。回答が届けば、紹介したい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。大島様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

リクルートが運営する『スタディサプリ社会人大学・大学院』というサイトにおいて、大島様が日本大学大学院法務研究科の教授という立場で受けられたインタビューをまとめた記事(URLはhttps://shingakunet.com/syakaijin/0001763189/0001867405.html)が、〈【インタビュー】人気教員は社会人をどのように指導しているのか?〉という見出しを付されたうえで配信されていることに関して、質問させて頂きます。

日本大学大学院法務研究科では、大島様が袴田さんの再審を取り消す決定を出した裁判長であるという事実は、学生の方々に周知されていないのでしょうか? それとも、学生の方々にその事実が周知されていてもなお、大島様は学生の方々から人気があるのでしょうか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

※大島氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成二十八年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

《8月22日追記》

8月22日午前9時過ぎ、大島氏に対し、回答をもらえるのか否かについて回答を求める文書をファックスで送信したところ、同11時52分、大島氏から以下のような回答がメールで届いた。

片岡様

取材のご回答をしたつもりでしたが、下書きに保存されていて送信されていませんでした。申し訳ありません。

①(【質問1】)については、自己の関与した具体的な事件についての最終的な結論、理由に関しましては、たとえ感想程度のものであったとしても、裁判官の在り方(判決以外には弁明しない)、合議の秘密等に関わりますので、このインタビューに応じることは裁判官倫理に反することと考えています。

②(【質問2】)につきましてもロースクールの教育と具体的な裁判のことは別の事項でありますし、日大ロースクールの紹介に関しては、多くの裁判官OB、現役法曹の教員が分かりやすく法律学を教えているということから日大ロースクールが学生に人気がでてきているという趣旨を述べたものです。ロースクールは、法律の実務的な基礎理論を修得する場であり、①と同様の見地から、具体的な関与事件についてのことに言及するような教育はしておりません(既に確定した事件については、事実を抽象化あるいは改作した上で、考える題材として使用することはあります。)。なお、基礎理論を前提とした純粋の事実認定の訓練は、主に司法試験に合格して司法研修所に入所した以降に学ぶのが通例です。

大島氏については、追加取材をすることを検討している。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)