国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。
このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。
6人目は林欣寛氏。2018年6月11日、その4年前に静岡地裁(村山浩昭裁判長、大村陽一裁判官、満田智彦裁判官)が認めた袴田さんの再審を取り消す決定を出した東京高裁(裁判長は大島隆明氏)の裁判官の一人だ。
◆「林氏の略歴」と「林氏への質問」
林氏は1978年9月6日生まれ、愛知県出身。大島裁判長らと共に袴田さんの再審を取り消す決定を出した後、2020年4月1日に司法研修所の教官に異動し、2022年4月8日からは札幌高裁の事務局長を務めている。
「司法研修所の教官」は、司法試験に合格した修習生を指導する職で、「高裁の事務局長」は管内の司法行政(たとえば裁判官や職員の人事関係事務、会計事務、一般の庶務など)の責任者だ。つまり、林氏は東京高裁の裁判官として袴田さんの再審を取り消す決定を出した後、法廷で人を裁く仕事をしていないのだと思われる。
そんな林氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、札幌高裁に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。
【質問1】
袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。林様はこの状況をどのように受け止めておられますか?
【質問2】
林様は、大島隆明裁判長らと共に袴田さんの再審を取り消す決定を出されたのち、2度の人事異動で「司法研修所の教官」と「札幌高裁の事務局長」に就いておられますが、この2つの職はいずれも、法廷で人を裁くことをしない職だと思われます。林様がこのような職に就かれていることは、袴田さんの再審を取り消す決定を出されたことと何か関係があるのでしょうか? 何か関係があるのであれば、どのような関係があるのか、具体的に教えて頂けましたら幸いです。
この質問に対して、林氏からは以下のような回答が郵便で届いた。なお、林氏に郵送した「郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒」は、回答と一緒に返送されてきた。
令和5年7月3日
片岡健様
札幌高等裁判所事務局総務課
事務連絡
あなたから当裁判所に送付された2023年5月22日付け林欣寛宛ての書面に同封されていた郵便切手84円分(返信用封筒に貼付)を返送いたします。
なお、本件についてお答えできることはありません。
林氏については、追加取材をすることを検討している。
※林氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成二十八年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。
▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。