「少子化の真実」。これをテーマにした投稿がネット上で話題にのぼっていたので、今回は書評を休み、この問題について語りたい。

◆金と希望とがそろわなければ出産への挑戦など不可能!

該当の投稿では、政策となっていることもSNSのリベラル系アカウントで言及される内容でも「子育て支援」一本槍だが、実際には少子化の原因は未婚化であり、その要因は若者の貧困であると社会学者は説明していることに触れられていた。

この投稿に対し、さまざまなコメントがつけられる。たとえば、少子化対策を学者でなく自民党の政治家がおこなっていることで、夫婦別姓ですら実現しない現状を嘆く声があった。予算内で解決できる問題しか拾い上げず、反対意見の出ない対策しか打たないのではないかという意見も出ている。これは、少子化対策に限ったことではないだろう。また、出生率について触れる人もいた。

「人口動態統計」をまとめた厚生労働省のデータ(https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/backdata/01-01-01-07.html)によれば、出生数は1950年の約234万人、73年の約209万人などと比較すると激減ともいえるように、2019年には約87万人にまで落ち込んでいる。

出生率、合計特殊出生率の推移:1950-2019(厚生労働省)

いっぽう、1人の女性が生涯に産む子どもの推計人数を示す「合計特殊出生率」に目をうつすと、1950年こそ3.65とかなり高くなっているが、73年でも2.14、75年には2.00を下回り、1999年にはすでに1.34にまで下がっている。2019年では1.36だ。

そして、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(平成29年推計)」をもとに、2040年には出生数74万人、出生率1.43になると推計されている。つまり、未来も現在同様、出生率は下げ止まるなか、出生数は減少の一途をたどると予測されているのだ。

より貧困だった戦後に触れ、未来に対する希望がなければ出産しないという問題を取り上げるコメントもあった。

◆相対的貧困率を参考にみる貧困のリアル

相対的貧困率については、たとえば首都大学東京(現・東京都立大学)子ども・若者貧困研究センター長の阿部彩氏が詳細を研究している(https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/5th/sidai/pdf/anzen/01/04.pdf)。

相対的貧困率の推移:1985-2015(厚生労働省)

相対的貧困率とは、収入から税金や社会保険料を引いた手取り収入である「可処分所得」を世帯人員の平方根で割って調整した、「等価可処分所得」に満たない世帯員の割合のこと。これが1985年には12.0%だったのに対し、2000年の15.3%まで上がり続け、03年には14.9%へと下がるものの再び2012年の16.1%にいたるまで上がり続けた。

いっぽう、「年齢層別の貧困率の推移」を見ると、男性では「1985年から2012年にかけて、20-24歳をピークとする『山』が出現。逆に、55歳後半から上昇していた貧困率の『山』が徐々に減少」と説明されている。これでは、貧困化を若年層が訴えても、政治・会社・社会を中心となって動かすような世代や立場の人に理解されることは難しいだろう。意図的に無視されているのかもしれないが。

女性も同様に「1985年から2012年にかけて、20-24歳をピークとする『山』が出現」と説明されており、「高齢期の貧困率は、2015年にも存在するが、1985年よりも高い年齢層で上昇する」と加えられている。

世帯構造別の1985年と2010年代の比較では、男性の場合、勤労世代の貧困率は、ひとり親と未婚子のみ世帯などで大きく上昇。単独世帯、夫婦と未婚子のみなどの割合が増えている世帯でも上昇傾向にあるとのこと。女性では、単独世帯の貧困率は下降しているもののいまだに3割。子どものいる世帯は上昇傾向。ひとり親と未婚子のみ世帯の貧困率は、貧困率がさらに高くなっている。

つまり、夫婦のみか3世代世帯で、誰かが高収入を維持するか共働き、なおかつ食べさせなければならない子どもがいない世帯でなければ貧困に陥りやすいということになるだろう。やはり、結婚したくてもできない、子どもをもちたくてももてないという人が少なからず存在することがわかる。

◆現在と未来の選択肢とは

冒頭の投稿に対するコメントでも、最低賃金の引き上げ、非正規雇用の規制、ブラック企業の撲滅、富裕層への課税を提案するものもあった。これらを求め続けることは重要だが、なかなか実現されることはない。むしろ逆行するような政策が目立つ。

背景としては、まず、労働法制の改悪・規制緩和の歴史があった。特に80年代後半以降、バブル崩壊とともに、賃上げ率は下がり、失業率が上昇。その後、派遣やアルバイト、パートといった非正規雇用の労働者が急増していった。企業はリストラを断行し、非正規雇用で労働者を使い捨てにする。非正規雇用の労働者の割合は、厚労省のデータ(https://www.mhlw.go.jp/content/001078285.pdf)によれば、1984年に15.3%だったのが、2019年の38.3%をピークに22年も36.9%と高い状態となっている。

正規雇用労働者と非正規雇用労働者の推移:1984-2022

その前の時代から、労働運動というものは展開されてはきた。派遣も「派遣村」を機に、問題視する声はあがった。ただし、近年ではパートやアルバイトが増加しており、筆者も過去にフリーランスの労働組合を設立して活動していたが偽装請負も蔓延した。

政治は企業や富裕層の声にばかり耳を傾け、労働運動ですら御用組合が跋扈。そしてこんにちにいたる。

地方に暮らしていると、小中学校の統廃合が進み、子どもどころか人間自体の減少を実感する。未来予測の数値をながめれば、限界集落化直前というわけだ。

たしかフランスで以前、4人産めば働かなくても暮らしていけるような社会保障的な制度があったと耳にしたことがあったが、調べてもなかなか情報を得られない。ただし、ハンガリーで類似のものがあったので、紹介する(https://comemo.nikkei.com/n/nb01fe91dec15)。

40歳未満で初婚であれば約360万円を借りることができ、第一子を出産すると返済が3年間猶予される。その3年以内に第二子を産めば、さらに3年猶予されるうえ、120万円程度の返済が免除される。第三子も産めば、全額免除。日本価値で約1000万円となるそうだ。4人産めば、約2000万円となることもあるらしい。

もし、この社会に上記の制度があったら、個人的には「やけくそ」と面白がる気分とで、今からですら4人以上産むことに挑戦してみようという気にもなるかもしれない。父親がすべて異なってもよさそうだし(笑)。

そもそも地球は人口過多で、発展する国々の増加にともなう食糧危機すら叫ばれる。世界中のそこかしこで人口減少が起こっていることは驚くに値しないことかもしれない。

それでも、社会を現実的に保持するため、国家が存続するなら政治に訴えながら、個人的には食べ物を少しずつでも自力で入手しながらコミュニティの助け合いシステム強化を試みるしかないと考えている。実際には、自らの死後に家やモノがどうなるかという問題をつきつけられはするわけだけれど。

この国の1人当たり実質GDPは2022年、35位となっている。もはや、おりていく社会の見本を目指すという選択をするときがきているのではないか。その前にできることをまたそのままにするなら、「失われた40年」も目前だ。中間層をあつくすることが最適な対策であるという声も無視し、大企業や富裕層、そして政治は外ばかり向いている。権力者が問題だらけであることは、各国をみても同様。ならば、もう私たちは、やっているふりを受け入れ続けることはやめ、「勝手にやって」いい段階ではないか。

▼小林 蓮実(こばやし・はすみ)
1972年生まれ。フリーライター。労働・女性運動を経て現在、農的暮らしを実現すべく、田畑の作業、森林の再生・保全活動なども手がける。地域活性に結びつくような活動や起業も準備中。この国の婚姻制度・家制度に違和感を抱き続ける。未婚、「子なし」。
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