◆「汚職大国」、ウクライナ

先日、ウクライナで兵役免除と引き換えに賄賂を受け取る汚職が続出し、全州の軍部委員会トップ全員の解任が行われた。

周知のように、今、ウクライナにおいて、成人男子の出国は禁止されている。兵役を免れるため、成人男子が海外に逃亡するのを防ぐためだ。

そのウクライナで兵役免除のための賄賂が横行しているというのだ。

これは、戦争の行方を左右する大問題だ。

だが、今日、ウクライナでは、こうした由々しき深刻な汚職問題が至る所で、日常茶飯事になっている。

兵士らの食料調達や軍服購入が小売価格、通常価格の2~3倍で行われていた事実、国防省の調達責任者が使い物にならない防弾ベストを購入、調達費を着服していた事件、等々、明るみに出た事実だけでも枚挙に暇がない。

一方、政府や軍部高官の特権を使った生活や遊興も目に余るものになっている。高級住宅や別荘、高級自動車の購入や海外行楽地、避暑地での豪遊、等々、国民が戦火の中、家を失い、命を危険にさらしながら飢えに苦しんでいる時、これはあり得ないことだ。

この間、戦争勃発以来その任にあった国防相、レズニコフが更迭になったのをはじめ、少なからぬ政府、軍部の幹部、高官たちが相次いで解任になっているが、その原因も、主としてそのためだという。

そうしたウクライナを指して言われている言葉がある。それは、「汚職大国」だ。

◆「汚職大国」、その原因を問う

これまで、ウクライナと言えば、「苦難に耐え、国民皆が一致団結して、ロシアに抗戦している」、そんなイメージだった。

だが、現実はそうではない。その落差は大きい。

なぜそうなのか。それを説明するものとして出されてきているのが「汚職大国」だ。

もともと「ソ連帝国」にはびこっていた官僚主義、それと一体だった「汚職大国」がこの戦火の中で蘇ったというのだ。

ソ連の一部だったウクライナがロシアともどもそうなるのは必然だ。少なからぬ識者がそう言っている。

それも一理あるかも知れない。人間過去と無縁ではない。かつての悪弊が蘇ることは十分にあることだ。

だが、現実に今生まれている問題の原因を過去にのみ求めるのはいかがなものか。やはり今起きていることの原因は、今ある現実の中に求めるのが基本だと思う。今ある現実を見ようともせず、過去にのみ原因を求めるのは間違っているのではないか。

今ある現実で決定的なのは、このウクライナ戦争が、その本質において、ウクライナとロシアの戦争なのではなく、米欧とロシアの戦争であり、ウクライナは、その狭間で、米欧に押し立てられ、代理戦争をやらされているという事実ではないかと思う。

この戦争が勃発する以前、米英をはじめとする米欧によるロシア包囲は、甚だしいものになっていた。

この30年近く続いてきた旧東欧社会主義諸国のNATO化の締めくくりとして、ロシアと国境を接する大国、ウクライナのNATO加盟が日程に上らされていたこと、米英がその軍事顧問団や大量の米国製最新兵器をウクライナに送り込み、その対ロシア軍事大国化を推し進めてきていたこと、さらには、東ウクライナに多数在住するロシア系住民へのファッショ的弾圧と虐殺が敢行されていたこと、等々。

これらが、米国家安全保障会議で、「現状を力で変更する修正主義国家」だと中国とロシアを名指しで決めつけたのに基づき、中国に対しては、「米中新冷戦」が公然と宣布され、その一方、ロシアに対しては、その包囲殲滅への準備が隠然と推し進められてきたのがこの間の歴史的な事実だ。

この分断と各個撃破の米覇権回復戦略に対して、プーチン・ロシアが米英覇権を中ロへの二正面作戦、引いては「グローバルサウス」など非米反覇権勢力全体を敵に回す戦争に引きずり出し、米英覇権との闘いに決着をつけるため敢行したのが先のウクライナに対する「特別軍事作戦」に他ならないと言えるのではないだろうか。

この戦争において、ウクライナは、米英覇権の矢面に立たされ、米英に代わって代理戦争をやる役を押し付けられている。

この押し付けられた代理戦争の傀儡指導部がどういう精神状態に陥るか、それは推して知るべしだと思う。

事実、2019年、「米中新冷戦」が宣言された年、奇しくもウクライナ大統領に選出されたゼレンスキーが数百万ドルの別荘、十数億ドルに上る預貯金を海外数カ国に分け持ち、自らの親族は、戦争勃発の前にイスラエルに退避させていた事実は、すでに公然の秘密になっている。

なぜウクライナが「汚職大国」になったのか。そのもっとも基本的な原因がどこにあるのかは、余りにも明白なのではないだろうか。

◆問われている日本の選択

「汚職大国ウクライナ」を前にして、今、われわれに問われているのは何か。

それは、何よりも、日本の進路ではないかと思う。

ウクライナの汚職と日本の進路、それは、米覇権の運命を通して、密接に結びついている。

一言で言って、ウクライナの汚職は、米覇権の崩壊を意味していると思う。

ウクライナ戦争でのウクライナの敗北、それは、米覇権の崩壊に直結していると思うからだ。

ウクライナ戦争が始まって以来、米覇権の崩壊は一挙に顕在化した。国連でのロシア非難、ロシア制裁決議、それは、最初のほぼ満場一致から棄権、反対の続出まで、米国の意思は急速に通らなくなっていった。

国際決済機構SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication SC)からのロシアの排除など、ロシアに対する経済制裁は、ロシアの米欧市場からの撤退と中国を含む非米市場への参入から生じる世界的な物価高騰、欧米の経済危機など、むしろ米欧側により大きな被害を及ぼし、ロシアと中国など非米世界の結びつきを強め、その勢力拡大を生み出している。

BRICSやG20など世界的な諸会議でも米欧側の衰勢は顕著で、もはやその意思が影響を及ぼせるのはG7ぐらいしかなくなり、そのG7も、招請した「グローバルサウス」の国々のウクライナ戦争支持を取り付けることもできなくなっている。

ウクライナへのもっとも熱心な支援国、ポーランドまでその軍事支援中止を表明したこと、事態はここまで進展しているのだ。

こうした米欧覇権力の低下にあって、ウクライナ戦争の結果がもたらす影響は決定的だ。ウクライナ戦争での敗北は、すなわち、米覇権の最終的崩壊を意味している。

「ウクライナの汚職」に米覇権の呪縛から解き放たれた脱覇権日本の未来を見る。

それこそが今、日本に問われていることではないだろうか。

その時が近づいていると思う。

小西隆裕さん

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼小西隆裕(こにし・たかひろ)さん
1944年7月28日生。東京大学(医)入学。東京大学医学部共闘会議議長。共産同赤軍派。1970年によど号赤軍として渡朝。現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』