2024年度は3年に一度の介護報酬改定の年です。その24年度へ向けて、厚生労働省は省令の改正を行います。
その改正案の中で、ICTなどのテクノロジーを導入した施設は職員を減らしてよいという趣旨の人員基準改悪が盛り込まれています。今回は特定施設(いわゆる介護付き有料老人ホーム)で導入される案になっていますが、いずれ、全ての施設に広がるのは明らかです。労働法も含めて様々な制度改悪は〈小さく産んで大きく育てる〉戦法を過去、政府や財界の〈エライ人たち〉は取ってきたことを想起してください。
◆ショボすぎた岸田総理の介護職員給料アップ
岸田総理は2021年の自民党総裁選や衆院選で「介護などの労働者の給料アップを軸とした経済の底上げ」を公約して勝利しました。総理は、確かに2022年は介護や保育労働者の給料アップ3%を実施しました。ただし、他のとくに介護と似て女性労働者が多い業種でイオンさんを含めて大幅な賃金アップが実施され、介護から他業種への労働者の流出が深刻になりました。
2023年度はさらに物価上昇が深刻にも関わらず、岸田政権は新たな介護労働者の給料アップ策を怠りました。秋になって慌てて月6000円アップというショボすぎるし舐めすぎている賃上げ策を出しています。
◆これ以上の人減らしなら介護現場が崩壊する
他方で、実は岸田政権は発足直後の2021年冬から、見守り装置やICTなどテクノロジーの導入による職員配置の削減も検討していました。
しかし、見守り装置ができれば、居室で利用者が転倒された際の発見は早くなりますが、対応するのも人間=職員です。ICT導入で事務仕事は簡便化されるでしょうが、それで職員を減らせる状況では現場はありません。ただでさえ、職員が少なすぎる中で、広島地裁では「90代男性がゼリーを誤嚥して亡くなったことに対して施設が遺族に損害賠償を支払え」という判決も出てしまいました。
あまりにも現場を知らない理不尽な判決です。
筆者自身、勤務先の施設でのおやつ時間中に帰宅したがる利用者が大声を出される中、別の午前中までは異常のなかった利用者が誤嚥でもないのに「うっ」という言葉を発してぶっ倒れて亡くなられるという状況も経験しています。
あるいは、利用者が別の利用者に殴りかかり、筆者が慌てて止めに入る、という事件も日常茶飯事です。他施設では酷い場合には、男性利用者が女性利用者に性的暴行をすると言う事件さえ起きています。
あるいは、利用者や家族の暴力が職員に向くこともあります。埼玉県ふじみ野市では、渡辺宏被告人が要介護者だった母親が亡くなった翌日の2022年1月27日、母親の主治医の訪問診療医の鈴木純一Drや介護を担当していた理学療法士らを呼びつけ「まだ心臓マッサージで生き返るかもしれない」と要求。
鈴木Drに断られたことに逆切れし、猟銃で鈴木Drを殺害し理学療法士に重傷を負わせたとされる事件を起こしています。同市は事件を教訓に〈ふじみ野市地域の医療と介護を守る条例〉を事件後に制定。
だが、そもそも、岸田総理率いる中央政府が本腰で医療や介護の現場労働者のための安全対策を行わないから、市が対応したのではありませんか?広島で介護福祉士として働く筆者も、時として理不尽な要求をされるご家族に遭遇することもありますから、埼玉の事件は他人事ではありません。
このように国が行政府(官僚)・立法府(議員)・裁判所(裁判官)の三権ともに、言い方は悪いですが〈介護現場を見捨てている〉状況でさらに人を減らす一方で、岸田総理による介護職員の給料アップは月6000円とショボい。これでは介護を仕事としてやる人がいなくなってしまいます。
◆介護崩壊回避へパブコメに応募を!
そして、ご紹介したように、今回の省令改悪案が出てしまいました。現在、厚労省は2024年1月3日までの期限で、省令案へのパブリックコメントを行っています。
指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の一部を改正する省令(仮称)案に関する意見募集について
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495230254&Mode=0&fbclid=IwAR0L9E0884akl-_AVb7MxgpSSOjM2OwUKehvGeLrk6vmj2za6W0iRF_SdNo
このQRコードでも大丈夫です。スマホの方はこちらからでも入力ください。
皆様からも介護崩壊を避けるため、ご意見を送っていただければ幸いです。以下に、参考文例をお示しします。
長めの文例
ICTなどテクノロジーを活用したからと言って人員配置を削減するのを可能にすることには反対します。
具体的には、以下の点について意見します。
7.居住系サービス
(1)(介護予防)特定施設入居者生活介護・地域密着型特定施設入居者生活介護
生産性向上に先進的に取り組む特定施設に係る人員配置基準の特例的な柔軟化
テクノロジーの活用等により介護サービスの質の向上及び職員の負担軽減を推進する観点から、利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会において、生産性向上の取組に当たっての必要な安全対策について検討した上で、見守り機器等の複数のテクノロジーの活用、職員間の適切な役割分担等の取組により、介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減が行われていると認められる指定特定施設に係る当該指定特定施設ごとに置くべき看護職員及び介護職員の合計数について、常勤換算方法で、要介護者である利用者の数が3(要支援者の場合は10)又はその端数を増すごとに0.9以上であることとする。(居宅基準第175条、地域密着型基準第110条及び予防基準第231条関係)
上記については
・常勤換算方法で、要介護者である利用者の数が3 (要支援者の場合は10)又はその端数を増すごとに0.9以上であることとする。
を現行通り
・常勤換算方法で、要介護者である利用者の数が3 (要支援者の場合は10)又はその端数を増すごとに1以上であることとする。
とすべきです。
現場では、見守り機器等の複数のテクノロジーを活用したところで、最終的に人に対応するのは人です。現場では、現状でも人手不足が深刻です。現場では、例えば、ある利用者が誤嚥しているときに、別の利用者が帰宅しようと玄関へ向かって歩き出す、ということも現実に起きています。
夜勤帯では、トイレに行きたいと訴えられる利用者、「腹が減った」と訴えられる利用者、ご自身の人生に関する様々な悩みを訴えてこられる利用者が入れ替わり立ち替わりお見えになったりコールを鳴らされたりします。
こうした人々に対応できるのは人間です。
見守り装置があれば、例えば居室で転倒されるなどの異変に早く気付くことはできます。しかし、その異変に対応するのも人間です。見守り装置があればサービスの質の向上にはなるけれども、人間を減らせるという性質のものではありません。
いま、職員を減らせば、さらに利用者への対応が困難になります。
広島地裁では先般、ゼリーを誤嚥して亡くなられた利用者のご家族が施設側を訴えたことについて、施設側に損害賠償を払うよう命じる判決が出ました。
しかし、そもそも、食事時間帯はそれこそ、20人の利用者に2、3人で対応します。お1人の利用者だけに対応するのは困難です。比較的リスクが少ないと思われた人がいきなり誤嚥する、あるいは誤嚥すらなく、いきなりぶっ倒れて亡くなるというケースもあります。それが高齢者というものです。
ITなどの機器の導入で、もちろん効率化はできるでしょう。しかし、人間を減らせばますます、利用者への対応は困難になります。
その上、上記のような理不尽な裁判所が認める要求にもこたえなければならないとなれば、誰もこんな仕事はしなくなってしまいます。
ただでさえ、2022年には低賃金を背景に介護で働く人が減少に転じています。わたしの周囲でも外国人労働者でさえも給料の高い東京などへ流出し、地方の介護現場では人の確保が困難です。
その上、職員の配置基準の引き下げで仕事がハードになれば、ますます職員が辞めていき、現場は崩壊します。意図的に現場を崩壊させたいというのが目的であれば、この案は非常に合理的ですがそうでなければ、愚策です。見直しをお願い致します。職員確保が難しいからと言って配置基準を減らすのではなく、職員への給料を大幅アップして、職員の確保に力を入れてください。
短いバージョンの文例は以下です。
人員配置を削減するのは絶対に止めてください。たとえICTや見守り装置を導入しても、最終的に利用者に対応するのは人間である職員です。ただでさえ低賃金等で職員が辞めていく中、これ以上、職員定数を減らされたら現場は崩壊します。職員確保が難しいからと言って配置基準を減らすのではなく、職員への給料を大幅アップして、職員の確保に力を入れてください。
〈以上〉
◆岸田総理になめられない県民を!広島から多くの意見を!
ところで、人員配置という大事なことが、国民の代表たる国会で議論される法律ではなく、省令という形で定められるというのはいかがなものか?そのことは問題的させていただきたい。ただ、現行制度の枠で緊急に暴走を止めるにはパブコメ応募しかありません。もちろん、時間的に余裕があれば総理以外の他の国会議員や地方議会にも陳情しましょう。
岸田総理も武見厚労相も日本に住む人々をなめ切っています。とくに総理は、選挙区の有権者である広島県民をなめ切っています。
筆者と広島瀬戸内新聞では、「岸田総理や湯崎知事から公をあなたの手に取り戻し、広島とあなたを守る大改革・ヒロシマ庶民革命」を呼び掛けています。その大きな柱の一つは「〈エライ人〉になめられない広島県民になる」ということです。総理の地元から特にガツンと意見を出していきましょう。
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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