広島県の湯崎英彦知事は県立広島病院(県病院)やJR広島病院、中電病院、市立舟入病院の小児救急などを統廃合し、広島駅新幹線口近くに1000床規模の巨大病院を設置する計画を進めています。
2023年9月定例議会では、JR西日本から土地を買い取る(債務負担行為)案を提出し、一部保守系会派や共産党が反対したものの、可決されてしまいました。
しかし、本当にこの計画は大丈夫なのか?様々な角度から県民の不安や疑問は解消するばかりか高まる一方です。2025年度には湯崎英彦知事が県病院を独立行政法人化してしまおうともくろんでいます。こうした中で、2024年は知事の暴走を止めるための正念場になります。
こうした中、「県病院問題を考える会」第二回学習会が2023年12月16日、広島市東区民文化センターで開催されました。第一回は、県病院がある南区での開催、今回は移転先となる東区での開催となりました。
◆災害危険度、広島駅も現在地もさほど変わらず
まず、今回は目玉として、地質学者の早坂康隆先生(広島大学大学院)の講演「瀬戸内・広島の自然災害と安全問題 日本列島の成り立ちから~」が行われました。
早坂先生は、伊方原発広島裁判でも原告側証人としてご活躍いただいております。
以下はお話しの概要です。
日本列島は、プレートの運動により、大陸から別れたが、比較的若い岩石が多い。その中で、広島の地質は白亜紀の花崗岩が多い。ただし、広島土砂災害2014で崩れたのはジュラ紀付加体というものだった。そもそも、降水量が限度を超えると斜面があれば地質と無関係にどこでも崩れる。
また、地震はM7.3クラスならどこでも起きえるというのが最新の研究である。
火山災害については、鹿児島の姶良カルデラの大噴火で広島でもかつて45cmくらいは火山灰が積もったことがある。そして、2mmも火山灰が積もれば停電する。
津波については、山口県の周防大島では16mという津波が近世の記録に残っている。ただ、周防大島などの島々にブロックされて、津波は広島ではさほどではなく、1854年の安政南海地震でも鞆の浦で1mという記録がある程度だ。
以上の内容から、広島県病院がある現在地も、県が「より災害危険度が少ない」と主張する移転先の東区新幹線口周辺も、災害危険度としてはそう変わらないことが理解できました。
◆独法化に疑問を呈する住民に当局は「有識者の検討会が進めた」の一点張り
その後、参加者と広島県健康福祉局政策監の石村康宏様と課長の渡部滋様という県庁の幹部職員お二人との意見交換会が行われました。
住民の間では「独立行政法人化で県が県民の健康をまもる責任を放棄するのではないか」という懸念が高まっています。これに対して、県側は「有識者の検討会で、県直営(公営企業法全部適用)、独立行政法人、指定管理者制度のうち、独立行政法人が優れているという結果になった」から、の一点張りでした。
しかし、広島県とほぼおなじ面積で、地理条件も似ている兵庫県では、阪神淡路大震災の教訓から、行政が命令できる直営病院を8か所つくっています。また、広島市では先に市民病院を独法化してしまいました。そのために、コロナ禍では、コロナ専用病床を迅速に確保できずに苦労したそうです。
中長期の計画については、確かに独立行政法人でも県知事や議会が関与することはできますが、危機管理という意味では直営が優れているから、兵庫県はそうしているのです。
◆島しょ部住民切り捨て、移転先の渋滞……疑問続出で時間切れ
「中区(中電病院の地元)や南区(県病院の地元)の急性期医療を切り捨てようとしているのではないか?」という懸念に対して県側は「区によっては病院がなくなるところはあるが、県全体で医療体制を維持していきたい」との回答でした。
これに対して、子どもが島しょ部に在住の市民からは「島しょ部の人にとっては、船で広島港から県病院に行くのが便利。島しょ部の出産を控えた女性にとって、県病院が今の位置に無くなるのは困る」と反論がありました。
また、新巨大病院が計画されている東区の広島駅新幹線口から筆者の自宅周辺は慢性的に渋滞が深刻です。これに対して県側は「現時点では新幹線口西側の交差点は渋滞が発生しやすいが、他の交差点は大丈夫」と回答しました。
しかし、広島駅には、今後も巨大な駅ビルが建設中です。これが完成すれば広島駅周辺の渋滞が悪化する恐れがあります。
孫が舟入市民病院にかかっているという佐伯区内在住の女性は、「舟入病院の小児救急も新病院に行く予定だ。その場合、救急車が渋滞で病院に入れなかったらどうする?救急車の通行と渋滞のシミュレーションを早くすべき。それをしないで計画を進めるべきではない」という怒りの声を上げました。
また、この女性は「そもそも、県知事は高度医療をこの新巨大病院でやるというが、それは国の仕事ではないのか?知事は県立安芸津病院の耐震化を先送りすると議会で答弁しているが、この耐震化こそ先にやるべきではないか?」とたたみかけました。
県当局は「この病院のもう一つの狙いは東京などに遍在する若手医師を広島県内に引き寄せることだ。」と答弁しましたが、「医師の偏在の解消も国の仕事ではないのか?」とこの女性は食い下がりました。
そうこうするうちに、制限時間いっぱいになってしまいました。
◆疑問点山積のまま事業強行は許されぬ
この他にも、広島駅近くに住む50代の男性は「巨大な駅ビルができれば、新病院へのドクターヘリの着陸が困難になるが大丈夫か?」ということを質問したかった、と言っておられました。
筆者も「また、本当に足りないのは、地域医療のしんどいところを担う医師。豪華な機械があるところに引き寄せられるような若手医師の人物像と、しんどいところを担う医師の人物像はたぶん重ならないだろう。地域医療のしんどいところを担う医師など医療従事者、介護従事者の労働環境、安全対策をしないと難しいのではないか?」「そもそも、医師でなくても、広島からどんどん若者は出て行く。そこを何とかしないと難しいのではないか?」ということをお伺いしたかったのですが、残念ながら時間切れとなってしまいました。
これだけの疑問が噴出し、県議会でも最終的には議案に賛成してしまう議員の中からも疑問が噴出する中でこの新病院計画を暴走するのはもってのほかではないでしょうか? そのことを痛感しました。
幸い、広島県当局の幹部職員の方は、次回は平日に意見交換にお越しいただけるそうです。ぜひ、しっかり、県民の意見を聴いて、それこそ、計画を場合によってはゼロベースで戻すことも検討いただくよう、知事に進言いただきたい。
そして、広島県民の皆様には、
〈2024年こそ、暴走する湯崎知事から、広島を取り戻そう。〉
〈広島県民の命、健康を守るため、ひとりひとりが知事になめられない県民になろう。〉
こうした、「ヒロシマ庶民革命」を改めて呼びかけさせていただく次第です。
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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