震災の後で日本の原発がすべて止まった。2012年5月のことだ。東日本大震災による東京電力(以下東電)福島第一原発事故で、原発の危険性、そして再びどこかの原発が過酷事故を起こしたら今度は国が滅亡するとの危険性を感じた当時の民主党政権は、「2030年代に脱原発を目指す」との政策を決定しようとした。
◎[参考動画]「2030年代原発ゼロ」決定 新設・増設一切認めず(2012/09/14)
しかし巨額の資金を投じて原発と核燃料サイクル事業を推進してきた原子力産業や原子力ムラ、核兵器保有技術を保有しておきたいとの一部政治家などの力で、脱原発政策は潰された。
かつて日本の核燃料サイクル政策にはウランサイクルとプルトニウムサイクルという2つの流れがあった。ウランサイクルはウラン燃料を採掘し、核燃料に加工して原発で燃やし、使用済燃料を再処理してプルトニウムとウランを抽出、これを使ってウラン・プルトニウム混合燃料(MOX燃料)を生産して、また原発で燃やすサイクルを指す。
一方、プルトニウムサイクルは再処理した後のプルトニウムを使って高速炉の燃料に加工し、高速増殖炉を動かしてプルトニウムを再生産するサイクルをいう。
日本はプルトニウムサイクル完成を目指して高速増殖炉「もんじゅ」と「常陽」を建設した。しかし「もんじゅ」は1995年にナトリウム漏洩火災事故を起こして無期限停止、その後廃炉になった。高速炉がなければプルトニウムサイクルは成立しないので、今ではウランサイクルのみの核燃料サイクルを目指している。
核燃料サイクルとは、ウラン採掘から高レベル放射性廃棄物を処分するまでの1連の工程を指したものである。ウランサイクルは鉱山から採掘されたウランを使って核兵器を作る工程だったが、核拡散防止条約(NPT)の下では核武装は原則として禁じられていること、平和利用と称して核兵器開発に転用可能な技術が多々あることで技術移転も厳しく規制されていて、世界で核燃料サイクルを保有する国は核武装国に限られている。
しかし日本だけは、現在も核燃料サイクルを機能させる政策を有している。すでに脱原発を達成したドイツは、以前は核燃料サイクルの完成を目指した時代があったが、今は廃棄物貯蔵施設とウラン濃縮プラントしか存在しない。
◆再処理工場は完成しない
核燃料サイクルのバックエンドとは、原発から再処理工場を経て放射性廃棄物の処分までを指す。使用済燃料の流れである。そのうち、日本国内で計画されている事業は核燃料再処理、MOX燃料製造、放射性廃棄物の貯蔵と処分である。
核燃料は再処理せず、燃料体のままで保管もできるし、処分もできる。実際に軍用ではなく商業再処理を行っている国は現在ではフランスしかない。したがって、米国や英国やドイツなどでも使用済燃料はそのまま貯蔵されている。
日本でもそのまま貯蔵するという選択も可能だが、核燃料は全量再処理し、プルトニウムはMOX燃料に、回収ウランは再利用、高レベル放射性廃棄物はガラス固化体に加工して地下300㍍に埋め捨てとの方針が、法律で決められている。
その中核施設が青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場だ。しかし、着工からすでに30年、1997年に完成する予定だったが、今の計画では「2024年度上半期」とされる。実際には、これまでの審査状況から、来年に終わるなど到底考えられない。審査会合では日本原燃が提出した申請書6万ページのうち約3100ページに、誤記や記載漏れがあったことが明らかになった。これでは何も進むはずがない。(つづく)
◎山崎久隆 核のごみを巡る重大問題 日本で「地層処分」は不可能だ
〈1〉震災後も核燃料サイクルが残った
〈2〉再処理工場は稼働できない
〈3〉科学的根拠に乏しい経産省「科学的特性マップ」の異常さ
〈4〉放射性廃棄物「地層処分」を白紙にし、本当の議論を
本稿は『季節』2023年冬号掲載(2023年12月11日発売号)掲載の「核のごみを巡る重大問題 日本で『地層処分』は不可能だ」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。
▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。共著に『核時代の神話と虚像』(2015年、明石書店)ほか多数。
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号
通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)
2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ
《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)
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必要なことは資本主義的生産様式の廃止
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誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉
再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
反原発川柳(乱鬼龍 選)
書=龍一郎