2024年の春闘が本格化しています。岸田総理の選挙区で筆者の地元・広島でも連合広島は2月5日春闘をスタートさせました。
連合広島の大野真人会長は8日には、各経営者団体などに対し、「デフレ経済からの脱却には、労働者の7割を占める中小企業や非正規雇用の労働者の賃上げが重要」とし、「2023年を上回る5%以上」の賃上げを要請しました。
こうした中、筆者もよく利用するスーパー「ハローズ」(本社・福山市)が4月から全社員の基本給を3万円引き上げると発表しました。ハローズさんは物価の高騰の中、従業員の生活を支援する、としています。
この20-30年、まさに労働者虐待政治とでもいうべき状況が続き、日本の労働者の実質賃金は主要国でも唯一伸びていないという有様です。一人当たりGDPではイタリアに抜かれ、日独伊のいわゆる第二次世界大戦のいわゆる枢軸国でも最下位になってしまいました。そもそも、「賃金が伸ない」というのは、通常は失礼ながら内戦が続いたアフガニスタンやリビアなど、いわゆる失敗国家状態の国の現象であり、日本のような戦争も革命も起きていないような国で起きること自体が異常です。
こうした中で、韓国や中国よりは緩いとはいえ少子化の激化、外国人労働者も日本を敬遠し、日本人でも若手女性を中心に海外へ流出するなどの現象もみられます。こうした中で、賃金を上げていくこと自体は大いに結構です。連合広島は、筆者も2000年~2011年の広島県庁在職時代は組合員でもあり、筆者は連合OBでもあります。鹿砦社刊『労働貴族』の中でも苦言は呈してきましたが、そうはいっても、OBとして労働者のために頑張っていただきたい。筆者は、現在は「広島県労連」系広島自治労連の幹部を拝命していますので、お互いの持ち場で労働者のために頑張っていきたいものです。
今回の春闘では、とくに中小企業の賃上げを、大手企業が発注単価の引き上げという形で支援するという構造も連合広島はつくりたいとのこと。これは、大手企業に組合を持つ連合広島にがんばっていただくことが実現への必要条件です。
◆置きざりにされる介護労働者 賃上げ2.5%
しかし、介護福祉士として介護現場で働く筆者は、自分自身も含めて、介護労働者が置き去りにされていることに危機感をおぼえます。
すなわち、厚生労働省が1月に発表した2024年度の介護保険についての省令では、介護労働者の給料は2024年度2.5%、2025年度2%というベースアップを想定しています。
ただでさえ、介護労働者の月給は、全産業平均より4万円低い状態(2022年12月現在)です。そのことを背景に、2022年はついに初めて介護分野から労働者が流出超過となってしまいました。このままでは、さらに全産業平均と介護労働者の格差は拡大してしまいます。
広島では、介護分野では外国人労働者も流出しています。いったん広島に配属された「特定技能」の外国人労働者も、東京の給料が広島より高いと知れば、結局東京へ行ってしまう。その繰り返しです。東京の介護施設に行く場合もあれば、それ以外の業種へ行く場合もあります。
今回の春闘2024を経て、4月以降、その傾向が激化することは間違いありません。
◆報酬本体引き下げの訪問介護は崩壊の恐れ
特に危機的なのは「訪問介護」です。在宅で過ごしたいという高齢者や障がい者の皆様に不可欠です。もし、「訪問介護」がなくなれば、ご家族が仕事や勉強を犠牲にして要介護のご家族を介護せざるを得なくなります。今でも深刻ないわゆるビジネス・ケアラー(仕事をしながら介護)、ヤング・若者ケアラー問題が大変なことになります。ヘルパー不足は高齢者・障がい者だけの問題ではなく、社会全体の問題です。
しかし、広島都市圏も含めた一部の地域では、人手不足から事業者がサービス提供をお断りするケースも続出しています。若い人もなかなか介護、とくに訪問介護で働こうとせず、職員=ホームヘルパー自身の多くが後期高齢者という事業所もあります。それこそ、ヘルパーがぶっ倒れてお年寄りが救急車を呼ぶという、笑い事ではない事態も発生しています。そして、2023年には訪問介護事業者の倒産・廃業が過去最悪を記録しました。
原因は、あまりにも低賃金で労働基準法違反が横行していることです。例えば、本来、労働基準法では労働時間に入るべき移動時間や待機時間、キャンセル発生なども労働時間に入らず、給料をもらえない実態があります。その原因は、あまりも介護報酬が低いために適切な給料を事業者が払えないからです。厚生労働省は、きちんと給料を払うように、と通達を出すだけで、有効な対策を取らないできました。
そうした中で、2024年度からの報酬改定では「平均的に見ると訪問介護は儲かっているから」という理由で、報酬をカットされてしまいました。利益が出ている事業所もありますが、そうではない苦しい事業所も多いのです。平均値だけを見て、報酬カットとは言語道断です。
◆ホームヘルパー国賠訴訟、控訴審で介護現場の惨状認定 ボールは総理の手に
そこで、現役のホームヘルパー3人が、国を相手取って、介護保険制度が違法であるとして、損害賠償を求める裁判を2019年11月1日に東京地裁に提起しました。2022年11月1日、東京地裁は原告の訴えを全面的に退ける不当判決。原告は東京高裁に控訴し、2024年2月2日、控訴審判決が言い渡されました。
判決は、賃金未払いなどの問題が解決されていない「訪問介護員の現状(権利侵害)」に言及し、「賃金水準の低さとこれを一因とする慢性的な人手不足が長年にわたり問題とされながら、いまだ問題の解消に至っていない」状況を認めました。損害賠償請求そのものは認められませんでしたが、介護現場の惨状を司法が認定した形です。
司法が事実を認定した以上、ボールは為政者である総理の手にあります。岸田総理は、今回の東京高裁の判決を受け、厚労省に対して訪問介護報酬カットの撤回、そしてさらなる抜本的な介護労働者の給料アップを指導するとともに、今からでも、2024年度予算案にしかるべき修正をすべきです。
そもそも、介護保険制度では介護サービスの維持が難しいというなら、さらなる国費投入もすべきです。また、介護保険制度導入の前は、訪問介護は、広島市では市の公社が、東京23区でも公務員ヘルパーが担っていた時代がありました。特にサービス提供が民間では困難な地域では、公務員としてヘルパーを雇い、サービス提供を保障することも選択肢とすべきです。
◆総理は「日本だけが大損」の「軍拡・台湾介入」より「介護現場防衛」を
岸田総理に申し上げたい。台湾有事に備えた軍拡のために、社会保障費を削るなどやめていただきたい。また、少子化対策と称した、社会保障支出カットも止めていただきたい。
そもそも、米国でさえ、中華人民共和国が中国を代表する政府と認めています。何かあってもせいぜい武器を中華民国=台湾に送るだけで米国自身が表で闘うなどあり得ません。そんな中で、国共内戦の延長に日本が首を突っ込み、中華人民共和国への敵基地攻撃でもした日には、それこそ、中国への侵略と受け取られ、中華人民共和国による日本の侵略への反撃と称した日本攻撃の口実を与えるだけです。日本には平和的な問題解決を言い続けるしか選択肢はないのです。「日本だけが大損をする」台湾有事介入。そしてそれに備えた軍拡などおやめなさい。選挙区・広島も含めた介護現場の崩壊を防いでください。
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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