3月17日(日)、ドーンセンターで開催された「汚染水を海に流すな! 関西集会」に参加してきた。

講師は様々な反原発関係の裁判の弁護人を務める海渡雄一弁護士。今日はほかにもドーンセンターだけでも様々な催しがあったにも関わらず会場は満席だった。汚染水問題を関西で論じることがあまりないからかもしれない。

海渡弁護士のお話のテーマは「ALPS処理汚染水海洋放出差止訴訟の論点と今後の取組」というものだった。汚染水だけだと、メディアに掲載してもらいにくいため、あえて「ALPS処理」の汚染水としたようだ。これだけでも大変だが、汚染水の海洋放出に対して訴訟を起こさなくてはと考えてはいたが、重要なのは誰が原告になるかで、弁護団らは汚染水放出で一番被害を受けるだろう漁師の方が原告になってもらわなければ…と考えていたようだ。確かに。しかし、当初はなかなか名乗りを上げてくれる漁師の方がいなかったようだ。福島では3・11以降、非常に強い情報統制化におかれている。かつては「鼻血が出ました」と言った井戸川克隆元双葉町長が、ものすごいバッシングを受けた。それを題材にした漫画「美味しん坊」の作者・雁屋哲氏とその周辺のメディアの方は未だに干されたままだという。

「モノをいえなくされてる」。福島の住民が悪い訳ではない。それほど強い同調圧力があるということだ。

 

 

新地町の漁師・小野春雄さん(『季節』2023年秋号より)

そんななか、汚染水の海洋放出では、なんと新地町の漁師・小野春雄さんが原告になると名乗りをあげ、しかも裁判では実名で意見陳述をされたという(原告になった方の中には、それで誹謗中傷されたりすることを恐れ、匿名を希望する人もいるという。鼻血問題のバッシング騒動をみれば、それも致し方ないことと思う)。小野さんの意見陳述全文も海渡弁護士から今日、報告された。小野さんには私も鹿砦社の反原発季刊誌『季節』で取材させていただいている。ぜひ読んで頂きたい。

今日の報告はいずれまたしたいが、ここで言いたいのは別のことだ。海渡弁護士の講演後、質疑応答が行われた。どこでもだが、最初の一人はなかなかでない。ようやく一人質問者が出るとその後何人かが質問してくれる。今日もそうして数人が質問した。ある女性が最近、れいわ新撰組の山本太郎氏の反原発の動画を見ているが……と切り出し、それは「あっているだろうか」という質問のなかで、浪江町を撮ったドキュメンタリー映画「津島」も見たと発言した。

すると海渡弁護士は「会場に浪江から関西に避難している方がいますので、その方に聞いてみましょう」と、私の前に座っていた浪江から兵庫に移住した菅野みずえさんに振った。突然のことであるにも関わらず、菅野さんの発言はいつも通り本当に涙が出る位素晴らしかった。映画「津島」は私も仲間と自主上映会を行った。その時も菅野さんは会場にきてくれて、今日と同じように警告を発してくれた。

津島は菅野さんの家がある地域で帰還困難区域に指定されている。なので、そこに出入りする場合は防護服やマスクを着けなければならない。しかし、映画に出演する村の人たちはそうしていない。出演している人たちはみな、菅野さんの知り合いだし、彼らが話していることは事実だ。しかし、帰還困難区域で映画を撮る際、防護服、マスクなどを着けさせなかった製作者の意図するものは何なのか?と菅野さんはいつも疑問を呈している。いや、疑問を呈するというような甘いものではない。「被ばくに一切触れられてないんですよ」と声を荒げる。

ここで思い出すのは、かつておしどりマコさんが話していたことだ。原発推進派は原発反対論者にも「先生凄いですね。一度お話を聞かせて下さい」と近寄ってくるそうだ。何を話したかわからないが、一度推進派と話した方々は、原発に反対するにしても「被ばく問題」を避けたり、地元に戻って復興を頑張ろうなどに変わっていくというようなことだ。

3・11以降、その誘いに乗って、原発反対でないにしても被ばくを言わない、ことさら問題にしない反原発の方が増えてきた。詳細は言わないが、地元で自ら線量を測って頑張っている人たちや、地元に戻って復興を考えている人たちを称賛する人たちだ。もちろん私は福島に戻って頑張ろうとする人たちを非難している訳ではない。が、だとしても、戻って生活する人たちに被ばくの危険性はありますよと伝えていくのが福島の人に寄り添う支援者ではないか。

菅野さんも仰っていた。誰だってふるさとに帰りたい。でもそのためには村のほとんどを覆う森林を除染しなくてはならない。それを担うのは誰ですか?そして高齢者が村に戻られても、すぐに介護の問題などが生じる。線量の高い汚染地に、遠くからヘルパーさんなど介護する人を呼び寄せて良いのですか?と。

とつぜん意見を求められたにもかかわらず、菅野みずえさんはいつも切々と、「これ以上無用な被ばくをさせていいのですか?」と訴えられる。海渡弁護士のお話もとても重要な話だったが、この菅野みずえさんの話が頭から離れない。先日、汚染水の海洋放出現場でも、驚くようなずさんな作業で多くの作業員が無用な被ばくを強いられたことが明らかになったではないか。どこまで多くの人たちに無用な被ばくを強いるのか?反原発問題で被ばく問題を口にしない人たちを、私は絶対信用しない。

なお、菅野みずえさんの影響で気になりだしたことに浪江町の沿岸部、津波で家屋や田畑が流された請戸地区周辺で進む「イノベーション・コースト構想」だ。昨年、そこを今野さんに案内して頂いた。一体、国は原発推進派は、そして原発で儲けた連中は、そこで何をしようとしているのか? その問題について5月連休明け、「イノベーション・コースト構想を監視する会」の和田央子さんをお招きして講演会を開催します。詳細は追ってご連絡致します。ぜひご参加ください。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年春号 能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年春号(NO NUKES voice 改題)

能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

《グラビア》能登半島地震・被災と原発(写真=北野 進

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 能登半島地震から学ぶべきこと

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 地雷原の上で踊る日本

《報告》井戸謙一(弁護士・元裁判官)
 能登半島地震が原発問題に与えた衝撃

《報告》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 珠洲・志賀の原発反対運動の足跡を辿る

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 「大地動乱」と原発の危険な関係

《講演》後藤秀典(ジャーナリスト)
 最高裁と原子力ムラの人脈癒着

《報告》山田 真(小児科医)
 国による健康調査を求めて

《報告》竹沢尚一郎(国立民族学博物館名誉教授)
 原発事故避難者の精神的苦痛の大きさ

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表
 命を守る方法は国任せにしない

《報告》大泉実成(作家)
 理不尽で残酷な東海村JCO臨界事故を語り継ぐ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
《検証》日本の原子力政策 何が間違っているのか《2》廃炉はどのような道を模索すべきか

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
すべての被災者の人権と尊厳が守られますように

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈後編〉

《報告》漆原牧久(脱被ばく実現ネット ボランティア)
「愛も結婚も出産も、自分には縁のないもの」311子ども甲状腺がん裁判第八回口頭弁論期日報告

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
本当に原発は大丈夫なのか

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
日本轟沈!! 砂上の“老核”が液状化で沈むとき……

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
松本人志はやっぱり宇宙人だったのか?

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈23〉
甲山事件五〇年目を迎えるにあたり誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈中〉

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
能登半島地震と日本の原発事故リスク 稼働中の原発は即時廃止を!
《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(志賀原発に反対する「命のネットワーク」)
《六ヶ所村》中道雅史(「原発なくそう!核燃いらない!あおもり金曜日行動」実行委員会代表)
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
《東海第二》久保清隆(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《地方自治》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)

《反原発川柳》乱 鬼龍

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0CWTPSB9F/

龍一郎揮毫

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