2019年末、東証一部上場企業の大手不動産会社「プレサンスコーポレーション」の山岸忍元社長が「業務上横領」で逮捕・起訴された事件で、山岸さんはその後一審で無罪を勝ち取った。

 

6月11日のテレビ報道

地検特捜部は控訴しなかったため、判決はそのまま決まった。その後、山岸さんが提訴した国賠訴訟が山場を迎えている。

事件については「日本の冤罪」シリーズで今後紹介したい。一代で大企業を築いた山岸さんはこの事件で248日間不当に囚われら、自身の子供のような会社を手放す羽目になった。山岸さんは、逮捕時より一貫して否認していた。しかし、山岸さんの前に逮捕されていた部下のKさんと関連不動産会社社長のYさんが「山岸さんも(横領に)関与していた」と供述したため、山岸さんも逮捕となった。

「なんじゃ、こりゃ」と思っただろう山岸さん。それもそのはず、飛ぶ鳥落とす勢いのプレサンスは当時で5年先までのマンション建設予定の土地を確保していた。そのため、わざわざ「横領」してまで、難しい土地を購入する必要などなかったのだ。ではなぜ山岸さんは逮捕されたのか。前述したが、KとYが「山岸さんも関与していた」と嘘の供述をしたからだ。

しかも、ゴーンさんの国外逃亡劇があった時で、山岸さんの保釈はなかなか認められなかった。山岸さんが当時で最高額の保釈金を積んだとしても、まだまだ金はあるから、ゴーンさんのように逃亡するのではないか、あるいはKとYを金で買収するのではないかと懸念されたのだ。

6回目にようやく保釈された山岸さん、さらに優秀な弁護士を集め裁判の準備を進める。詳細は省くが、次々に出てきた証拠はすべて山岸さんを無罪とするものだった。「なんじゃこりゃ」と山岸さんが思ったかどうかわからん。

 

6月11日のテレビ報道

弁護団が力をいれたのが、大阪地検特捜部の検察官がKとYを取り調べた際の録音録画の反訳(書き起こし)だ。

膨大な反訳を業者に依頼せず、弁護団自身で行った。その結果、大阪地検特捜部の検察官のとんでもない実態が明らかになった。脅し、脅し、机バン、気休め、小さな飴、利恫喝、脅しなどが繰り返され、KもYも結果として「山岸さん関与」を認める供述をしてしまったというわけだ。

今日大阪地裁の法廷に出廷したのは、Kを取り調べた検察官だ。

この検察官とのやりとりは本当にみたかった。でも裁判終了後の山岸さんらの会見をみてると、Kさんを取り調べた大阪地検特捜部・田淵大輔検事は、相変わらずいい加減な証言をしていたみたいだ。

裁判に出席した西弁護士のⅩ

 

山岸忍氏の著書『負けへんで! 東証一部上場企業社長vs地検特捜部』(文藝春秋社)

田淵検事の取り調べ内容とこのプレサンス事件のもうひとつの肝は、今回大失態を起こした大阪地検特捜部は、10数年前にも、村木厚子さんの事件で同じような大実態を犯しているということだ。郵便不正・厚生労働省元局長事件とも呼ばれる事件で、大阪地検特捜部は村木さんを逮捕・起訴したが、一審で無罪判決が下されている。

しかもこの事件では、特捜部の担当検事が裁判の証拠書類のフロッピーディスク(懐かしい響き)の文字を書き換え、証拠の改ざんをはかっていた。それが、その後ばれ、改ざんした検事はもとより、彼を庇っていた上司の検察官も逮捕されるという一大不祥事件に発展していた。

担当検事、上司らはその件で検察官としての政治生命は絶たれたが、当時もその大事件の真っただ中にいて、今回の山岸さんの事件にも関わっていた検事がいる。その人物こそが、山岸さんを取り調べた検事、組織内で「チーママ」と呼ばれ、バカラで飲ませる店でしか飲まないという山口智子検事だ。

そう、山岸さんが最初に任意の取り調べに呼ばれた際、「社長! いらっしゃーい!」とにこやかに迎えた女検事だ。今日は書かないが、この山口検事が村木事件でどのような役割を果たしたかを知ると、プレサンス事件での彼女の動きに何か味わい深いものを感じてしまう。いつまでもチーママな山口検事。実は彼女は山岸さんと同じ同志社出身らしい。特捜部の安っぽい脳みその持ち主の上層部が「ここは山口を当てれば山岸も落ちるだろう」と安易に考えていたのだろう。ところが、そうはいかなかった。私がこの事件で取材した西愛礼弁護士によれば、山岸さんは本当に嘘がつけない人なのだ。だから……。

という訳で、話はかわりますが、先日再審請求に棄却が下された「飯塚事件」をもっと知ろうと徳田弁護士を大阪にお招きする計画を進めています。現在、関係者と「調整中」(小池百合子っぽいね)。8月頭の土曜日になる予定。頭の隅っこにそっとメモしててね。


◎[参考動画]【特捜部の「取り調べ映像」独自入手】「検察ナメんなよ」怒鳴り続けた検事 強引な捜査で『冤罪』 証言を強引に引き出す特捜部の実態 21億円の巨額横領(カンテレ「newsランナー」2024年6月11日放送)

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/