筆者は、広島県福山市に1975年11月12日に生まれたあと、3週間ほどで東京へ両親とともに移動。大学卒業までを東京で過ごしました。東京は事実上の故郷です。その東京での都知事選挙が6月20日告示されました。

現職の小池百合子さん(自民、公明、国民都連、都民ファースト、連合東京支援)に20年間参院議員を務めた蓮舫さん(立憲、共産、社民支援)、そして筆者の現在の地元の広島県内から殴り込んだ前安芸高田市長・石丸伸二さん、現在は災害ボランティア活動で活躍するタレントの清水国明さん、10年ぶりに都知事選に挑む田母神閣下こと田母神俊雄さんらが挑む構図になった。また、ある政治団体が広告目的で立候補者数の過半数を占める候補を擁立しています。

告示日の前日の小池・蓮舫・石丸・田母神の4人の公開討論会や、これまでの各候補のご主張などを総合的に拝見し、以下のような感想を筆者は抱いています。

今回の都知事選挙の経済政策的な対立軸は以下にあるではないか?と考えます。

「新自由主義グローバリズムを進めつつ、都民サービス充実」を重視する小池都政の路線(平成を象徴する路線)
 vs
「新自由主義グローバリズムを見直しつつ、サービス提供に従事する人・地元中小企業に配慮」する路線

◆「東京一極集中」の富を原資とした小池都政の「豊かなサービス」

最近の都知事は基本的に全国で最も豊かな財政をバックに、大型開発を含む「サービス充実」の道を驀進してきました。21世紀に入り、特に小泉・竹中政権(2001-2006)以降、東京の大手企業に富が集中するような政治が進められてきました。他の地方自治体が四苦八苦する中で、東京都は豊かな税収をバックに、子育て支援や大型開発をやるだけの余裕がありました。

小池知事は、国会議員時代は、いわば新自由主義グローバリストの「青年将校」でした。日本新党、新進党→自由党(小沢一郎さん)→保守党(二階さん)→自民党(小泉さん)と所属する政党や政治の師匠を変えてきました。その時その時の師匠は、各時点で最も新自由主義グローバリズムを進める方でした。その時その時で、自民党本流よりも右から新自由主義グローバリズムを煽ってきたのです。

なお、小沢一郎さんは、30年前はまさに、海外派兵推進(そのために、アジア諸国にはきちんと謝る)&新自由主義のチャンピオンでしたが、のちに民主党内で横路グループと組んだ際に、大幅に社民主義寄りに路線を修正しています。(※若い方の中にはそのことをご存じない方もおられるので、念のため注記しておきます。)

そうして、東京への富の集中に加担した上で、2016年、小池さんは都知事に転進されたのです。その小池百合子知事は、今回の都知事選挙でも無痛分娩補助や第一子からの保育料無料化などを掲げています。

おおざっぱに言えば、新自由主義グローバリズムで東京に集中した富を子育て世帯を中心にばらまいていく、というのが「小池モデル」と言えるでしょう。これは東京だからできること。広島では新自由主義グローバリズムの下で富も人口も流出していますのでこれはとうてい不可能なモデルです。

この小池モデルの問題は、一つは、地方との格差の拡大です。しかし、これは、小池さんが主に小泉政権の目玉閣僚として在籍した国会と霞が関がつくった問題です。その是正は、国政に委ねられるべきでしょう。

国が大幅な再分配強化政策、例えば、大金持ちの資産所得への課税強化、儲かっている大手企業への適切な課税を行う。その一方で、農業など第一次産業の所得保障・価格保障や、地方における公共交通や医療など公共サービスの維持への投資などでしょう。

あるいは、ドイツを見習った中央省庁の地方への移転も、文化庁の京都移転以外でもガンガン進める(官僚の国会答弁はオンラインも可能にするなどいくらでも工夫は出来るだろう)くらいしないと解決は難しいでしょう。

石丸伸二さんが当初言っておられたような「東京を壊す」では、東京都民も広島など地方の住民も不幸せになり、日本全体が壊れて終り、になりかねません。

◆小池知事の大罪 ── 国政・都政通じて非正規増加の先頭に立ってきた「女帝」

もう一つの小池モデルの問題は、現場労働者が割を食ってきた、という点です。

1990年代以降、子育てや高齢化、さらには格差の拡大の中で、人々の悩みは複雑化、多様化しています。介護の問題一つをとっても、いわゆる老老介護から、いまはヤングケアラー・若者ケアラー、ビジネスケアラー、老障介護……。そうした中で、行政需要も爆増しています。もちろん、ITやAIの活用で削減できる手間もあるのはあるのですが、しかし、IT化が進めば、窓口がリアルだけだった時代より人々が気軽に相談に来る(それが悪いこととは言えない)など仕事を増やす面もあるのです。

一方で、小池さんが先頭に立って国政で進めてきた新自由主義グローバリズムの中で、労働者虐待政治とでもいうべき政治が進んできた。民間では日経連(当時)の「新時代の日本的経営」により、非正規雇用が増大。日本の大手企業は新機軸を打ち出すよりも、非正規を増やすことで、コストをカットする方向に走ってしまい、競争力を低下させて現在に至っています。

一方、公共分野では、正規公務員を減らしていく路線が強行されました。広島県の場合は市町村合併を口実に公務員削減が強行されました。それは実際には東京においても、変わりません。行政需要が増えているのに正規公務員を減らしたので、非正規公務員を増やすという結果になります。

特に専門性が高い分野の公務員、すなわちスクールカウンセラーや図書館司書、女性相談員、介護や福祉、医療など幅広い分野で非正規公務員が多くなっています。

◆小池都政の冷酷 ── スクールカウンセラー(SC)大量雇止め 

2020年度からは非正規公務員の待遇を改善すると称して「会計年度任用職員」制度が導入され、退職金やボーナスが支給されるという触れ込みでした。ところが、現実には、いままでは、毎年更新されていたのが3年、4年で雇止めというケースも発生しています。

すなわち、現職の方も一度全員クビになり、公募に応募しないといけないということになったのです。総務省は実際にはそれは義務ではない、と言っています。しかし、各自治体はそういう制度の運用の仕方をしてしまっています。

東京都でもこの2024年3月末、公立学校のスクールカウンセラー(SC)が大量に雇止めされるという事件が起きました。勤務先の校長や先生方、生徒らの評価も良いSCも大量に首になり、大混乱です。こんな状況を招いたA級戦犯は小池知事その人に他なりません。

もちろん、小池の都政の無痛分娩補助や保育園無料化は筆者も大賛成です。しかし、財政が豊かであるなら、それこそ、SCを短時間正規公務員にするとか「も」すべきではないでしょうか?

◆「勝ち組」子育て世帯には良いけれど、「若者」含むサービス提供労働者には冷たい「小池モデル」

総じて、小池都政は、「勝ち組」ないし「中の上」より上の子育て世帯にとってはありがたい都政です。米国や中国の外資、東京都との癒着が指摘される三井不動産など超大手企業などに勤務する夫婦共働き世帯。あるいは、都庁などの正規公務員の夫婦共働き世帯。このあたりまでは、小池都政の恩恵は大きいかもしれません。小池都政が、グローバリストと「連合」の連立政権である以上、そうなるといえばそうかもしれません。

しかし、現場で必死に低賃金・重労働で、介護や福祉、保育、教育などを支える労働者にとっては、小池都政は冷たいとあまりも冷たいと言わざるを得ない。非正規公務員の就職氷河期世代の中には、結婚をあきらめてしまった方も多い。その結果としての出生率「0.99」です。

また、子どもたちにとっても、身近に見る大人である学校や保育園の先生、SCの方々が希望を持てない働き方だったら将来に希望を持てるでしょうか? 貧困対策も不十分です。民間団体の食糧支援に長蛇の列ができるという東京。決して「豊か」とはいえません。

しかも、そこに並んでいるのは、大昔のような野宿者とか失業者が並んでいるイメージとは全く違う。いまや、ごく普通の会社員とか、子育て世帯とか、そういう方が並ぶようになっているのです。

いわゆる子育て支援単体だけは、全国でも異常に充実している東京。しかし、他のことが相対的におろそかになってはいないか? 特に、現場で低賃金・重労働の若者を中心とする労働者に冷たすぎたことのつけが出ていないか?

その結果として、将来の行政サービスの安定的な供給、社会の持続性に赤信号がともっていないか?そのことは、いわゆる「勝ち組」や大手企業正社員・正規公務員共働きなど「中の上」の皆様にもご理解いただきたいのです。

◆蓮舫候補は過去の新自由主義路線の猛省を!

筆者は、蓮舫さんには何度かお会いしたことはあります。同じ候補者を応援するために事務所や広島の街頭に来られた蓮舫氏と握手(最近ではグータッチ)もさせていただいたことはあります。

ただ、蓮舫さんのこれまでの路線は、小池知事に近い「新自由主義グローバリスト」であるという認識です。それも、小池知事のような主体的なそれではなく、立憲民主党に多い「無自覚な新自由主義グローバリスト」ではないか、という思いが強い。

蓮舫氏のようなリベラル派でも新自由主義を進めてしまった人は多くおられるし、広島県政、市政では、それこそ新自由主義の知事や市長を国政ではリベラルと言われる政党の方が持ち上げて、広島維新の会や一部自民党議員などの方がやや距離を置いているありさまです。

そして、そもそも、立憲民主党におられる皆様も小池氏が「排除します」と言うまでは『希望の党』に行く気満々だったことも筆者は忘れていません。この点は、反省していただきたい。

また、立憲民主党さんについては、筆者の盟友である楾大樹先生の梯子を外したという事件のイメージが強く好きになれません。(※詳しくは「茶番選挙 仁義なき候補者選考」をご参照ください。)

◆蓮舫候補の公約=「非正規公務員の順次正規化」「公契約条例」には大賛成

それでも、蓮舫さんの今回の公約に注目したい点はある。一つは「非正規公務員の順次正規化」です。これについては大賛成です。うまく、労働組合の話も聞きながら、制度設計を進めていただきたい。

インターネットでは「公務員試験を受けない者を正規にするのは何事か?!」と蓮舫氏へのアンチのコメントも多くあります。しかし、公務員試験を受けて行政職のえらい人になった人が、では、非正規公務員がしている仕事をできるのでしょうか?

現実に他府県では、災害の時、非正規公務員の方は招集に応じる義務はないので行政職のえらい人だけで災害弱者に対応しますが、えらい人が訳が分からず右往左往してしまった、ということも起きています。現に非正規公務員として働いている専門職の方を優先的に、正規への採用試験(社会人枠)を受けていただく、など制度設計はいろいろしようがあります。今は、役所も昔のような新卒一括採用ではもはやないのですから。

また、蓮舫氏が掲げている「公契約条例」、すなわち、若者がきちんと暮らしていけるように給料をアップすることを都庁の取引先の企業に義務付ける条例も良いと思います。都が、中小企業からきちんとした価格で財やサービス(公共工事も含む)を購入し、企業が若者にきちんとした給料を払う。そういう好循環をつくるべきです。

ここ20~30年、あまりにも行政に関する議論はコストカットに偏りすぎました。経済循環と言う視点が疎かにされたのも大問題です。ただ、これについても、蓮舫氏を含む立憲民主党さんは猛省していただきたい。一時期は自民党以上に、コストカットにこだわったのが民主党~立憲民主党の流れですから。

ただし、過度に「若者」を強調するのもどうかと思う。「中堅世代、シニア世代も含めて現場で働いている人が虐待されている状態であるのを救う。それにより、持続可能で子どもたちも機能が持てる東京を造る」くらいの感じのことをうまく強調された方が良いとは思います。

◆石丸伸二候補は「遅れてやってきた小池」=グローバリストの「青年将校」

さて、前安芸高田市長の石丸伸二さんも都知事選挙に立候補。それなりの支持を集めているというデータもあります。

石丸さんは当初は「東京を壊すことで東京と地方の格差を是正する」という方向性を強く打ち出しておられました。ただ、19日の共同記者会見を拝聴する限り、それはさすがに引っ込めたようです。そのかわり、「政治屋の一掃」ということを掲げられました。ただ、これも注意しないといけない。新自由主義政治家が、人気取りのためにこういうことを言いだすケースが過去に多かったからです。

90年代~00年代は「公務員を打倒」が人気取りのメインでしたが、最近では、「政治家の打倒」「老害の打倒」がウケる傾向があります。そのメインは議員定数の削減です。

石丸さんは安芸高田市長時代に議員定数の半減案を提出し、否決されたことがあります。しかし、現実には定数を減らすと有利になるのは、政策能力がなくても地盤だけは強い、いわゆる腐った議員のほうです。

まともな議員で地盤が弱い人は定数が減ると落選してしまう。そういう傾向があります。もし、都議会で定数を半減したりすればどうなるか? おそらく、地盤が固い議員だけが当選してしまう。政策能力があって志がある人が入り込もうにも、当選は難しくなるでしょう。

そうすると、ますます議会構成は固定化される。議会構成が固定化されるということは意思決定過程、分配が固定化されるということであり、ひいては階層が固定化、格差が拡大するということです。

また、議員は本来、行政をチェックする機能があります。それを減らすということは、行政へのチェック機能を減らすということです。供託金の廃止、大幅引き下げとかで庶民が参入しやすくするという改革なら賛成できますが、石丸さんのような議員定数半減、ではますます庶民から政治は遠のきます。

また、石丸伸二さんが広島県内で大問題となっている産廃処分場問題について、率先して規制に乗り出したということは寡聞にして知りません。この点でも、石丸さんが庶民の味方だと思っている方は認識を改めていただきたい。

むしろ石丸さんは「老害叩き」で溜飲を下げてもらって票を取り、新自由主義グローバリズムを煽る青年将校だと思います。小池氏以上に危険な面もある。ただ、石丸さんが立候補したことで新自由主義グローバリズム票が小池氏から削られ、蓮舫氏が有利になることもあり得るとは思います。

◆「平成」「ポストモダン」が終わるか?

小池百合子さんは、ある意味「平成」を代表するカメレオンな政治家だとも言えます。

グローバリズムを進めつつ、いわゆるジェンダー平等や子育て支援単体は推進。しかし、現場労働者は使い捨て。関東大震災で虐殺された朝鮮人慰霊祭への式辞は中止する一方で、米中などの超大金持ちにはゴマをする。新自由主義グローバリズムとある種の多様性尊重、一方でタカ派路線の組み合わせ。

そうした「平成」「ポストモダン」が終わるかどうか。それが注目される都知事選挙だと思います。


◎[参考動画]玉川徹、都知事選の候補者を直接取材…なぜ立候補?現職との違いは? それぞれの主張【羽鳥慎一モーニングショー】(ANN 2024年6月19日)

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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