神奈川県青葉警察署が、6月19日付けで日本禁煙学会の作田学理事長を名誉毀損の疑いで横浜地検へ書類送検したことが、告訴人本人への取材で分かった。
横浜副流煙裁判「反訴」(原告・藤井敦子他)の証人尋問の席で、作田理事長が特定の人物を指して、「うさんくさい患者さんでした」「当然、会計にも行っていないと思います」と証言したことが告訴の根拠である。横浜地裁の傍聴席はほぼ満席で、その中に「うさんくさい患者」と名指しにされた酒井久男氏もいた。
発端は、2017年11月に提訴された横浜副流煙裁判にさかのぼる。メディア黒書で報じてきたように、この裁判は煙草の副流煙で「受動喫煙症」を発症したとして、ミュージシャンの藤井将登氏(藤井敦子氏の夫)が、隣人から約4500万円の金銭を請求された事件である。
第一審も第二審も、将登氏の勝訴だった。煙草が化学物質過敏症に起因したとする根拠がないというのが棄却理由である。ちなみに「受動喫煙症」という病名は、作田理事長が命名したもので、公式には存在しない。類似した病気としては、化学物質過敏症がある。
藤井夫妻は、横浜副流煙裁判の勝訴が確定した後、この裁判を起こした隣人3人に対して、約1000万円の支払を求める「反訴」を提起した。前訴の提起そのものが訴権の濫用(広義のスラップ)に該当するというのがその理由である。
作田理事長の酒井氏に対する暴言めいた証言は、この「反訴」の証人尋問の中で発せられた。作田医師と酒井氏の関係は、横浜副流煙裁判が進行していた2019年7月17日までさかのぼる。
この日、酒井氏は、藤井敦子氏を伴って日本赤十字医療センター(東京都渋谷区)の作田医師の外来を受診した。作田医師が、横浜副流煙裁判の原告3人に対して、受動喫煙症の病名を付した診断書を交付した経緯があったことに加えて、過去にもこの病名を付した診断書を頻繁に交付してきた事実があったので、どのようなプロセスを経て診断を下しているのかを実地に調査することが目的だった。この計画は、敦子氏の発案だった。
たまたま酒井氏には、衣類の繊維に対するアレルギーがあったので、作田外来を受診する根拠もあった。「はたして自分は、受動喫煙症と診断されるか」という事に好奇心を刺激された。予測したように作田医師は、酒井氏を受動喫煙症と診断した。
この外来診察の際の酒井氏のふるまいについて、作田医師は「反訴」の証人尋問の中で、「うさんくさい患者さんでした」「当然、会計にも行っていないと思います」などと証言のである。敦子氏への怒りを酒井氏へ向けたのかも知れない。
しかし、酒井氏は会計を済ませてから、日本赤十字医療センターを立ち去っていた。会計課を通ったことを示す領収書も残っていた。そこで酒井氏は、作田医師に対して内容証明を送付し、法廷での暴言に至った事情を問うた。しかし、作田医師は回答しなかった。そこで酒井氏は、民事訴訟を起こすと同時に、刑事告訴にも踏み切ったのである。
青葉警察署は、酒井氏の告訴を受理して事件を捜査し、書類送検するに至ったのである。
◎告訴状全文 http://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2024/06/240621.pdf
本稿は『メディア黒書』(2024年06月21日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。
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▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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