《2》被曝と小児甲状腺がん多発に関係はないのか

 

高野徹・緑川早苗・大津留晶・菊池誠・児玉一八著『福島の甲状腺検査と過剰診断 子どもたちのために何ができるか』(あけび書房 2021年)

本書では「放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」をはじめ、多くの専門機関は福島県の子どもたちに見つかった甲状腺がんは放射線によるものではないと判断している。すなわち「甲状腺がんの多発見はスクリーニングが原因であり、過剰診断が起こってしまった」と述べる(児玉一八「原発事故と甲状腺」)。

小児甲状腺がんは100万人に1人~2人とされるのに福島では先行検査(2011年~2013年)で116人、本格検査2巡目(2014年~2015年)で71人もの患者が見つかった。ところが、2016年、先行検査について検討委は「甲状腺がんが通常の数十倍のオーダーで多い」ことを認めながら、「先行検査を終えて、これまでに発見された甲状腺がんについては(中略)、放射線の影響とは考えにくい」と評価した。

そして、2017年11月本格調査について評価部会は、外部被曝線量を線引きして4地域に分けて「避難区域の13市町村(10万人当たり49.2人)→中通り(同25.5人)→浜通り(同19.6人)→会津地方(15.5人)」の順で甲状腺がん発見率が高いことを認めた。

ところが、鈴木元評価部会長は「年齢や検査時期などを調整する必要がある」などと地域別の分析を投げ出してしまう(白石・同前)。外部被曝線量が多い地域ほど甲状腺がん発見率が高いことを覆い隠すためとしか考えられない。

そこで鈴木らが頼ったのがUNSCEARが公表した推計甲状腺吸収線量のデータである。これに基づいて2019年2月に提出された中間報告は「20ミリグレイ(=シーベルト)以下のグループに対して20~25ミリグレイは悪性率が高いと認める」ものの、「25~30ミリグレイ及び30ミリグレイ以上は高いけれども有意ではない」から、現時点において「本格検査で発見された甲状腺がんと放射線被曝との関連は認められない」とした。

ところが、その後驚くべき事実が発覚した。4月8日に開催された検討委後の記者会見で、雑誌『科学』(岩波書店)の編集長が計算違いを指摘すると、鈴木氏は「入力ミスがあったという指摘は受け止める」とあっさり誤りを認めたのである。
 
訂正されたUNSCEARの数値を用いても被曝被と悪性率の関係は明らかである。20ミリグレイ以下に対して20~25ミリグレイは2・42倍、25~30ミリグレイは1.34倍、30ミリグレイ以上では1.21倍となっている。20ミリグレイぐらい以上を合わせるとそれ以下に対して1.69倍となっている。有意な差があるのである。(牧野淳一郎『科学』2019年5月号)。

そして当日の検討委でも、「なぜ当初の4地区で解析できないのか」(成井香苗委員)など再解析を迫る意見が相次いだ。しかし同年6月公表された「甲状腺本格検査結果に対する部会まとめ」は何の変更もなく事実を覆い隠した。

このように福島県内では小児甲状腺がんが全国に比べて数十倍のオーダーで高く発生している。しかも福島県内の4地区を比較すると、外部被曝線量の多い地域ほど甲状腺がん発見率が高い。UNSCEARの数値を用いても被曝と悪性率の関係は明らかである。にもかかわらず、本格検査について検討委は「現時点では被曝との関係は認められない」という結論を変えようとしない。

高野らが関わった検討委の被曝と甲状腺がんは関係ないとする主張には大いに疑問が残る。(つづく)

本稿は『季節』2022年秋号(2022年9月11日発売号)掲載の同名記事を本通信用に再編集した全3回の連載記事です。

▼大今 歩(おおいま・あゆみ)
高校講師・農業。京都府福知山市在住

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