昭和のレジェンド、長江国政氏を振り返った映像から見る偉大さ、
そこへ追い付く挑戦が続く瀧澤博人は僅差判定負け。
睦雅は僅差判定勝利で王座戴冠。
団体のエース格を自覚するモトヤスックは苦難の判定負け。

◎KICK Insist.19 / 7月28日(日)後楽園ホール17:15~21:25
主催:VICTORY SPIRITS、ビクトリージム
認定:ジャパンキックボクシング協会(JKA)、WMO 

◆第11試合 WMO世界フェザー級王座決定戦 5回戦

18位.瀧澤博人(ビクトリー/1991.2.20生/ 57.1kg)
          VS
10位.ペットタイランド・モー・ラチャパットスリン(タイ/ 56.75kg)
勝者:ペットタイランド / 判定1-2
主審:ナルンチョン・ギャットニワット(タイ)
副審:椎名利一(日本)49-48. アラビアン長谷川(タイ)48-49. シンカーオ(タイ)48-49

瀧澤博人はWMOインターナショナル・フェザー級チャンピオンで、ペットタイランドは元・WBC&IBFムエタイ世界スーパーフライ級チャンピオンの実績。

昨年11月26日に3回戦で対戦した際は、瀧澤博人はペットタイランドの上手さを崩せず2-0の判定負けを喫している。

今回の王座を懸けた戦いは、ポイントに繋がり難いであろう第2ラウンドまではローキックからミドルキック、前蹴りで距離を計り、ハイキックへ繋ぐがいずれも単発の軽い様子見の展開から徐々に首相撲のせめぎ合いも加わる。

前進する瀧澤博人に対し、ペットタイランドはフェイントが上手かった

第3ラウンドに入るとムエタイらしく主導権を奪いに掛かる蹴りのアグレッシブな攻防が始まった。首相撲に移るとヒザ蹴りの攻防。動きが止まるとブレイクが掛かって離れ、蹴りから首相撲へ移るパターンが続く。

最終第5ラウンドは蹴りの展開。ムエタイ式の勝ちに行く戦略で試合を進めた瀧澤博人だったが、どちらが優勢とは言い難い中、判定は厳しくもペットタイランドに上がった。

運命の採点発表の瞬間、ペットタイランドと瀧澤博人の明暗の表情

瀧澤博人は試合後、「何が相手のポイントに付いたのか分からないですけど、明確なダメージを与えなきゃいけなかったのかなと今、率直な感想です。もっとアグレッシブに行ってもよかったと思いますし、いろいろな意見もあったと思いますけど、最後は自分の自信ある信じたところを突き通しました。ペットタイランドは本当にディフェンス能力が高くて、一つ技見せると全部ペース持って行かれるぐらいで、目のフェイントとか肩の筋肉の動きのフェイントとかがやっぱり凄いなと感じながら、でもそれにちゃんとついて行けて、今回は相手の得意なところでの勝負をすると意識で対応出来ていたので、判定になった時は絶対勝ったと思ったんですけど、勝利を掴み切れなかったのは自分の日ごろの行ないとか、練習とか何か取り組む姿勢が足りなかったのかなと思いました。」

今後については「ちょっと分からないですが、とにかく腐らずもう一回やり直しですね。やれることはやったので周りに感謝です。」とコメントは一部割愛していますが、律儀に長く語ってくれました。

ペットタイランドがWMO世界フェザー級王座戴冠となったリング上

◆第10試合 WMOインターナショナル・スーパーライト級王座決定戦 5回戦

JKAライト級チャンピオン.睦雅(ビクトリー/1996.6.26生/ 63.4kg)
        VS
ケンクーン・ティンツアームエタイ(パタヤスタジアム60kg級Champ/タイ/ 63.1kg)
勝者:睦雅 / 判定3-0
主審:シンカーオ・ギャットチャーンシン(タイ)
副審:椎名利一(日本)49-47. アラビアン長谷川(タイ)48-47. ナルンチョン(タイ)49-47

初回開始から睦雅はアグレッシブにローキック、パンチで前進。ケンクーンは応戦するが睦雅はローキックでケンクーンをロープ際に詰める勢い。第3ラウンドにはケンクーンが首相撲に持ち込みヒザ蹴りが増えるが睦雅のパンチとローキックの勢いも強い。

睦雅の右ハイキックがケンクーンにヒット、倒しに行く姿勢を見せた睦雅

最終第5ラウンドも最後の追い込みをかける睦雅、勝負はまだ分からない

 

際どい展開ながらアグレッシブに攻めて王座を奪った睦雅

第4ラウンドには疲れが出たか、ケンクーンの組んでのヒザ蹴りの圧力が優ったが、最終第5ラウンドは睦雅のパンチ連打とローキックで追い込み、ケンクーンはミドルキックの重さで勝負した中、採点は厳しいと思えたところ、睦雅の3-0判定勝利となった。

睦雅は試合後、
「何かまだまだだなあと思って。僕は倒す以外、あまり勝ちと思えないので、まあ終わった瞬間は負けたなあと思いましたが判定では名前呼ばれたので、ああ勝ったんだと思いましたけど、内容を反省して、今回はいい経験させて頂いたなあと思います。」

戦略について=「ローキックもボディブローもパンチも効いている感じはあっても、ケンクーンも倒れないという強さは感じて、それも倒そうと思ったんですけど、まあ僕の力不足とケンクーンの気合い根性というのを感じましたね。」

スタミナについて=「倒したかったので、そこは配分が難しかったです。行ってガス欠になったらポイント取る流しになってしまうので、やっぱり最後までどうやって倒せるかというのを考えながらやっていたので、第5ラウンドまで行く為に第4ラウンドは戦術で自分の中では温存しようかなと。そこはポイント取られてもしょうがないけど、倒せば関係無いと思っていました。」とこちらも一部割愛ながら長く話してくれました。

◆第9試合 71.0㎏契約3回戦
 
WMOインターナショナル・スーパーウェルター級チャンピオン.モトヤスック
(=岡本基康/治政館/2001.9.22埼玉県出身/ 71.0kg)
        VS
ジェット・ペットマニー(MAX MUAYTHAIミドル級覇者/タイ/ 71.0kg)
勝者:ジェット・ペットマニー / 判定0-3
主審:西村洋
副審:少白竜27-30. 中山27-29. 勝本27-29

初回は互いの蹴りは様子見ながら主導権支配へ圧力を掛けて行く。モトヤスックがパンチとローキック、ジェットは蹴り返すと首相撲に持ち込む。更にジェットのパワーでモトヤスックの頭を押さえ付け優位さを見せる。

第2ラウンドには首相撲からモトヤスックの頭を沈めておいて顔面狙いのヒザ蹴りを入れるジェット。第3ラウンドには離れた位置からもジェットの蹴りが増し、首相撲から頭を抑え込まれてのヒザ蹴りでモトヤスックはノックダウンを奪われる。勢い増したジェットを凌ぐこと出来なかったモトヤスックだった。

ジェットの首相撲からモトヤスックの頭を沈ませヒザ蹴りでノックダウンを奪う

◆第8試合 ジャパンキック協会フェザー級挑戦者決定戦3回戦
 
1位.勇成(Formed/ 57.1kg)vs2位.樹(治政館/2004.10.12生/ 57.1kg)
勝者:勇成 / 判定2-0
主審:少白竜
副審:西村30-29. 中山29-29. 勝本30-28

初回の蹴りからパンチの主導権争いは互角。アグレッシブな攻防が続く。第2ラウンドにはヒットや手数は互角ながら、やや勇成の前進が目立っていく。第3ラウンドには更に勢い増した勇成は多彩に攻め、反撃する樹も捨て身の打ち合いに出て、両者下がらない攻防には延長戦の可能性を残したが、勇成が2-0ながら判定勝利で、チャンピオン皆川裕哉への挑戦権を掴んだ。

勇成の右ストレートヒット、攻撃力で上回り、王座挑戦権を手に入れた

◆第7試合 スーパーフライ級3回戦  

JKAフライ級1位.細田昇吾(ビクトリー/ 52.0kg)
        VS
ペッチマイ・シット・ジェーカン(ムエサイアム東北部50kg㎏Champ/タイ/ 51.5kg)
勝者:細田昇吾 / KO 2ラウンド1分6秒 /
主審:椎名利一

ローキックを徹底しアグレッシブに攻めた細田昇吾。第1ラウンド終了間際にパンチか、ノックダウンを奪う。第2ラウンドに入っても右ローキックからパンチでノックダウンを奪い、続けて蹴りからパンチ連打のスピーディーな攻めで3度のノックダウンを奪って完勝。しかしこのラウンド中に細田昇吾は左眉付近をカットしており、ヒジ打ちの攻防もあったことからそのヒットも貰っていたかもしれない。チェックが入るほどではなかった為、危なげないとは言い難いが完勝というには問題無いでしょう。

細田昇吾がスピーディーにパワフルに圧倒してノックアウトに繋げた次の主役か

◆第6試合 ライト級3回戦  

JKAライト級3位.古河拓実(KICK BOX/ 61.0kg)
        VS
岡田彬宏(ラジャサクレック/ 61.1kg)
勝者:古河拓実 / KO 2ラウンド1分42秒 /
主審:勝本剛司

初回から古河拓実が攻めの勢いで優り、完全に主導権支配した展開。第2ラウンドには左ミドルキックを岡田彬宏のボディーへ一発でテンカウントへ倒し切る圧勝となった。

◆第5試合 63.5kg契約3回戦 

JKAライト級4位.林瑞紀(治政館/ 63.4kg)
        VS
中尾満(元・日本ライト級暫定Champ/エイワスポーツ/ 63.3kg)
勝者:林瑞紀 / KO 1ラウンド2分28秒 /
主審:西村洋

初回の打ち合いに出るアグレッシブな攻防は林瑞紀の圧勝。左ストレートでノックダウンを奪い、更に左ハイキック、右フックと立て続けに3度のノックダウンを奪った。中尾満は新日本キックに於いて、2010年頃のチャンピオンではあるが、打たれ脆さが付き纏い、すぐ立ち上がる回復力もあるが、打ち合いに行くのは避けたい展開であった。

◆第4試合 フェザー級3回戦

石川智崇(KICK BOX/ 57.0kg)
        VS
マングース松崎(NEXT LEVEL渋谷/ 57.0kg)
勝者:石川智崇 / 判定3-0 (30-27. 30-28. 30-28)

◆第3試合 ライト級3回戦
 
菊地拓人(市原/ 60.85kg)
        VS
ユウキ・オー・チャロンチャイ(チーム・クンタップ/ 60.9kg)
勝者:菊地拓人 / TKO 1ラウンド1分8秒 / レフェリーストップ

◆第2試合 バンタム級3回戦 

九龍悠誠(誠真/ 52.6kg)vs翔力(拳伸/ 52.5kg)
勝者:翔力 / 判定0-3 (28-30. 28-30. 28-30)

◆第1試合 フェザー級3回戦

海士(ビクトリー/ 56.7kg)vs尾形春樹(チームタイガーホーク/ 56.75kg)
勝者:海士 / 判定3-0 (30-27. 30-27. 30-26)

《取材戦記》

元・全日本フェザー級チャンピオン(昭和第3代、5代)、長江国政氏が6月11日に肺癌の為、永眠されました。2018年頃から神経性の難病との戦いが続いていても車椅子で来場される姿が見られましたが、選手を叱咤激励する姿は力強さがありました。2019年5月のジャパンキックボクシング協会設立時には初代代表に就任。今回のKICK Insist興行は長江国政氏追悼興行となりました。現役時代には藤原敏男、島三雄との名勝負も語り草となっています。

御子息の長江政人氏が遺影を抱えて長江国政追悼テンカウントゴングが打ち鳴らされました。

「師の遺志を受け継ぎ強い選手を育てて頑張って行きたいと思いますので宜しくお願いします。」と御挨拶されました。

長江政人氏の御挨拶、長江国政追悼テンカウントゴングが打ち鳴らされた

今回のセレモニーでは更に、過去新日本キック協会に於いて、元・日本バンタム級、フェザー級チャンピオンの蘇我英樹氏が千葉市の蘇我駅前に蘇我キックボクシングジムをオープンし35坪ほどある中、多様な戦いに向け、リングも金網も設置したという。ジャパンキックボクシング協会にも加盟し、自身が市原ジムで小泉猛会長の下で活躍し4本のチャンピオンベルトを獲ったことから、

「今後も選手育成に務め、もの凄い選手を育ててカリスマを作り上げていくので宜しくお願いします。」と挨拶されました。

2011年にタイ国発祥のWMO(World MuayThai Organization)認定の二つのタイトルマッチ。立会人として顧問のウィラチャー・ウォンティエン氏が来日し、認定宣言されたことは権威を示す重要な儀式でしょう。名前ばかりの世界戦はここが揃いません。

その世界戦で瀧澤博人の僅差の判定負けは惜しい結果でした。審判構成がまた別のメンバーであれば違った結果になったかもしれないと言っては愚痴になってしまうが、過去に江幡睦が「ひとつのダウンでも取れなければ、ラジャのベルトは獲れないということです」と言ったように、ラジャダムナンスタジアムとは立場は違うが、もっと攻めていればという悔いは残ります。

睦雅はパンチとローキックは効果的にダメージを与えるも、ケンクーンの組み付いて来るヒザ蹴りにポイントが流れたかに見えたが、前半とラストラウンドの攻勢が活きたポイントが勝利を導いた。

二つのタイトルマッチはWMO公認として日本から椎名利一氏、タイからは三名の在日タイ人元・ムエタイ戦士が審判を務めました。日本の生活と日本のキックボクシングにも馴染んできたタイ審判員はいつも公正な審判をすることでは定評がありますが、今日の僅差の試合でのポイントを付ける審判の心理、傾向までは第三者には読めない難しさがありました。瀧澤博人の惜敗は残念でしたが、わずかな差で一喜一憂する運命は厳しい現実でした。

次回、ジャパンキックボクシング協会興行は9月29日(日)に新宿フェースで開催予定となっています(詳細は未定)。

KICK Insist.20は11月17日(日)に後楽園ホールで開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

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