本稿は『季節』33号(2022年9月11日発売号)掲載の「電力逼迫を利用した原発推進政策の問題点」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。文中での全国の原発再稼働に関する記述は、2022年8月当時の状況であること、あらかじめご了承ください。

◆原発再稼動を急がせる政府

夏の電力不足を理由として、原発再稼働が前のめりに進められている。2022年には川内2号が6月11日、玄海4号が7月10日、大飯4号が7月17日、そして7月24日には高浜3号が起動した。

他にも、美浜3号は本来、10月までかかるはずの定期検査を前倒して8月12日に運転再開すると発表したが、その後、2次系設備の漏水で延期された。大飯4号も定期検査を前倒しての再稼働だ。

夏のピーク対策というのだが、西日本は今年の夏の供給予備率(100%から、その日の最大想定需要の割合を引いた数値)はすでに明らかになっていて、3%台の後半から4%程度と見込まれ、美浜3号などを前倒ししても特に大きく改善はしない。

再稼働予定の原発のうち、運転開始から44年6ヶ月経っている美浜原発3号機を無理矢理動かして、重大事故が起きることになれば、取り返しがつかない。

事業者の立場から見ても、定期検査を前倒ししてまで強行する利点はない。政府は5月27日に夏の電力需要について予測し「7月は東北から中部エリアで3.1%と非常に厳しい見通し」とする広報を行い、電力需要が高まる時期に足りなくなる恐れがあるとしていた。

そして6月末に東電エリアで設備の準備不足から想定予備率が1時ゼロになるという失態を演じたが、これを奇貨として夏の電力不足を大きくアピールした。6月末の電力逼迫騒動の謎については、次節に詳細に述べる。原発再稼動を進めるとの首相声明を参議院選挙中に突如出して、ショック・ドクトリン[注]の手法を使った再稼働推進策を打ってきたのである。

[注]ショック・ドクトリンとは、 ナオミ・クラインによる「惨事便乗型資本主義。大惨事につけこんで実施される過激な市場原理主義改革」のことである。

◆夏ピークの直前に東電で逼迫の事態

6月27日の梅雨が明けていない東電のエリアで、電力逼迫の注意報が突如発令された。すぐにも警報に切り替えそうな勢いで、経産省の役人が記者会見をしてまで、電力逼迫の危機を演出して見せた。だが、実際には90%台の後半の設備利用率になったものの電力危機は起こらなかった。電力会社は東電だけではないし、需要が高まるとすれば電力取引市場で多くの発電事業者が電気を市場に売り出すから、突如として停電が起きるとすれば設備の故障や自然災害以外には考えにくい。

この危機を細かく見ると逼迫は2つの時間帯で見られた。1つは「使用量のピーク点」である午後2~3時台、最大5254万kW(以下、万kWを省略)の需要に対して設備は5674で92%だった。

もう1つは「使用率ピーク点」で午前9時~10時台、最大4669に対して4820で、97%だった。6月のピークは、実際にはその後の時間帯に出現している。逼迫注意報は30日午後6時で解除されているが、この日の午後2時から3時の需要量ピークでは5487に対して、6036が準備された。率にして90%は、例年でも余裕がある水準。午前9時から10時台は4947に対して5145の設備で、率にして96%、こちらの方が厳しいが、「警報」という水準ではない。

夜に発電能力が落ちるのは、東電は太陽光発電を1400ほど有しているため、夜間の発電能力が落ちるからだ。

では、夏のピークどころか6月下旬に電力が逼迫したのはなぜか。この時期は例年、比較的需要が少ない時期だが、今年は早々に梅雨が明け、気温が急激に上昇し、湿度も高く、例年ならば7月下旬頃の天候状況になっていた。

加えて、火力発電所の多くが定期検査に入っていて、発電能力が大幅に制限されていたため、ピークに対する余力がなくなっていたところに、石油火力を中心に長期休止しているものも多く、稼働できない設備が多数あった。

夏のピーク時には定期検査が終わった火力が投入される。設備は常に6000以上が準備されるので、逼迫は例年起きていない。こうした時間のずれが電力逼迫の注意報に繋がっただけである。東電による想定の甘さと、電力供給力整備の遅れなど、リスク管理に失敗し続けたことが、時季外れの電力逼迫に繋がったのである。

◆「それに備えて原発」なのか?

むしろ、原発で大電力を供給するほうがはるかにリスク(この場合は特に停電リスク)が高いことは、東日本大震災と2007年の中越沖地震で経験ずみだ。原発も火力も海沿いに多数立地しているから、津波に襲われれば被災する。仮に発電所に大規模な破壊が生じなくても、高圧送電線や変電所が被災すれば電気は来ない。地震や津波では原発こそ停電のリスクが高い。自然災害に強いシステムとは、むしろ1つ1つが脆弱でも広く分散して設置され、地産地消の仕組みが出来ているものである。

とはいえ大都市ではそれは困難なので、その場合はできるだけ消費地に近いところに立地し、被災しても早期復旧が見込める天然ガス火力が良い。これを補完するためには立ち上げが早くメンテナンスも容易な石油火力を温存しておくことだ。もちろん、排ガス対策は十分行い、高機能で高効率なものに置き換える必要がある。

もう多くの人は忘れてしまったのかも知れないが、東日本大震災後の電力設備の復旧も、火力が圧倒的に早かった。震災で被災した原発15基は、いまだに1基も再稼働していないが、火力は震災の年の7月までにすべて復旧している。また、震災直後に大量のディーゼルやガスタービン発電機を調達し、電力供給を行うこともできた。

これは原発では不可能なことだ。2007年の中越沖地震で被災した柏崎刈羽原発の7基は、2011年までに再稼働できたのは、重要設備の損傷が少なかった6、7号機など4基に留まっていた。こんなものに電力を頼っていたら、近い将来発生する南海トラフ地震では、日本中(特に西日本)がブラックアウトしたまま復旧に長期間要することになる。防災対策上も極めて危険な事態を招く。

今年夏の節電要請は、震災直後の2012年以来10年ぶりと各社報じたが、ではその前はいつだったかご存知だろうか。2007年である。この年の7月16日に中越沖地震が発生し柏崎刈羽原発が全部止まったため節電要請が出されている(経済産業省関東圏電力需給対策本部決定 平成19年7月20日付)。つまり過去の節電要請はすべて原発の停止が原因だったといっても過言ではない。(つづく)

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。共著に『核時代の神話と虚像』(2015年、明石書店)ほか多数。

◎『季節』創刊10周年特別企画『脱(反)原発のための季節セレクション』(仮)
出版のためのクラウドファンディングご支援のお願い

https://readyfor.jp/projects/kisetu_nonukes

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年夏・秋合併号《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年夏・秋合併号(NO NUKES voice 改題)
A5判 148ページ(本文144ページ+巻頭カラー4ページ) 定価880円(税込み)
お陰様で10周年を迎えました!
《グラビア》
「幻の珠洲原発」建設予定地 岩盤隆起4メートルの驚愕(写真=北野 進
「さよなら!志賀原発」金沢集会(写真=Kouji Nakazawa

《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 原子力からこの国が撤退できない理由

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 なぜ日本は原発をやめなければならないのか

《報告》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
 事実を知り、それを人々に伝える

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 核武装に執着する者たち

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
 課題は放置されたまま

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
 原発被害の本質を知る

《インタビュー》北野 進(「志賀原発を廃炉に!訴訟」原告団団長)
 珠洲原発・建設阻止の闘いは、民主主義を勝ち取っていく闘いだった

《対談》鎌田 慧(ルポライター)×柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
 東京圏の反原発 ── これまでとこれから

《報告》今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
「核融合発電」蜃気楼に足が生え

※          ※          ※

《回想》松岡利康(鹿砦社代表)
 創刊から10周年を迎えるまでの想い出

《墓碑銘》松岡利康(鹿砦社代表)
 お世話になりながら途上で亡くなった方への追悼記

《季節創刊10周年応援メッセージ》

 菅 直人(衆議院議員・元内閣総理大臣)
 守りに入らず攻めの雑誌を

 中村敦夫(作家・俳優)
 混乱とチャンス  

 中嶌哲演(明通寺住職)
「立地地元」と「消費地元」の連帯で〈犠牲のシステム〉を終わらせる

 水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
『季節』丸の漕ぎ手をふやして、一刻も早く脱原発社会を実現しよう

 山崎隆敏(元越前市議)
「核のゴミ」をこれ以上増やさないために

 今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
 裁判も出版も「継続は力なり」

 あらかぶ(「福島原発被ばく労災損害賠償裁判」原告)
 隠された「被ばく労働」問題を追及し、報じてほしい

※          ※          ※

《報告》なすび(被ばく労働を考えるネットワーク)
《検証》あらかぶさん裁判 原発被ばく労働の本質的問題 

《報告》北村敏泰(ジャーナリスト)
 棄民の呻きを聞け 福島第一原発事故被害地から

《講演》和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
「復興利権」のメガ拠点 「福島イノベーション・コースト構想」の内実〈前編〉

《報告》平宮康広(元技術者)
 水冷コンビナートの提案〈1〉

《報告》原田弘三(翻訳者)
 COP28・原発をめぐる二つの動き
「原発三倍化宣言」と「気候変動対策のための原発推進」合意

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
 総裁選より、政権交代だ

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
   タイガー・ジェット・シンに勲章! 問われる悪役の存在意義

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
   山田悦子の語る世界〈24〉
   甲山事件50年を迎えるにあたり
   誰にでも起こりうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか(下)

《報告》大今 歩(高校講師・農業)
   洋上風力発電を問う 秋本議員収賄事件を受けて

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
 時代遅れの「原発依存社会」から決別を!
 政府と電力各社が画策する再稼働推進の強行をくい止める

《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
 6・9大阪「とめよう!原発依存社会への暴走大集会」に1400人超が結集

《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
 女川原発の再稼働はあり得ない 福島事故を忘れたのか

《福島》黒田節子(請戸川河口テントひろば共同代表)
 浪江町「請戸川河口テントひろば・学ぶ会」で
 北茨城市大津漁協裁判で闘う永山さんと鈴木さんの話を聞く

《柏崎刈羽原発》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 7号機再稼働で惨劇が起きる前に、すべての原発を止めよう!

《首都圏》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
 福島原発事故の責任もとれない東京電力に
 柏崎刈羽原発を動かす資格はない!

《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
 静岡県知事と御前崎市長が交代して
「一番危険な原発」はどうなるか

《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
 政治に忖度し、島根原発2号機運転差止請求を却下
 それでも私たちは諦めない!

《玄海原発》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会)
 玄海町「高レベル放射性廃棄物・最終処分場に関する文献調査」受入!

《川内原発》向原祥隆(反原発・かごしまネット代表)
 私たちは歩み続ける

《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
 原子力規制委員会を責め続けて11年
 原子力規制委員会は、再稼動推進委員会・被曝強要委員会

《反原発川柳》乱鬼龍

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DB1GZ5CM/
◎鹿砦社 https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000748

龍一郎揮毫

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!