◆何の利点もない「核燃料サイクル政策」
使用済燃料再処理・廃炉推進機構によると、日本原燃が建設中の再処理工場の建設費について、約4,000億円増額の約15.1兆円に達した。変動した要因は、新規制基準対応に係る検討、円安やインフレなどの経済指標などの反映、規制への対応や安定操業について追加対策を行ったこと、核燃料税などの税負担の反映などとしている。
また、敷地内に建設中のMOX燃料加工工場についても約200億円増の約2・43兆円となった。6月21日に発表した。
再処理事業は、膨大な放射性廃棄物を生み出す。これがどれほどのものかを知る方法がある。福島第一原発の現状を直視することだ。
現在、福島第一原発では、デブリと呼ばれる放射性廃棄物の取り扱いをめぐり極めて困難な状況が生じている。これをわずか1グラム取り出す計画すら、何年も停滞し続けている。デブリとは溶けた核燃料が制御棒や構造物やコンクリート材と混じり合って生じた高放射性物質の塊で、使用済燃料を再処理して生成される高レベル放射性廃棄物とプルトニウムとウランを混ぜたような存在だ。
デブリの取り扱いができないのだから、再処理工場で事故が起きた際に流出する可能性がある高レベル放射性廃棄物も手に負えないことは自明である。
東海再処理工場では、こうした高レベル放射性廃棄物が液体で372立方メートルも存在し、そのほかガラス固化体も354本貯蔵している。地震や津波などの災害、航空機落下などの事故や軍事攻撃を受けた場合のリスクは巨大だ。毎年数百億円もの規模で維持管理、廃止措置費用がかかっている。
これらは税金でまかなわれている。このような再処理事業を、一体何のために行ってきたのか、そしてさらに巨大な六ヶ所村再処理工場も建設中で、いずれ稼働することになっている。そのために「再処理拠出金(以前は引当金)」が徴収されている。事実上の税金であり、もちろん電気料金に付加されて徴収されている。概ね核燃料1グラム当たり700円程度である。100万キロワット級原発で1基あたり30トンほどの燃料が装荷されているから、単純計算で210億円である。
しかしこの程度の費用で済むとは考えられない。実際には遙かに大きな費用がかかる。再処理工場の稼働率が極めて低いことも考慮するならば、足りない分は税金を使って補填するしかない。
現状では残される廃棄物、高レベル放射性廃棄物ガラス固化体やそれ以外の高レベル放射性廃棄物である燃料パーツ類などの金属残渣、そのほかにも除染により生じた廃棄物など、高い放射線を出す廃棄物類は、どのように処理・処分するのかも決まっていない。
◆今や隠さなくなった「核武装」のための原子力
原子力開発を巡っては、震災以前までは「平和利用」の名の下で「日本は核武装するとの謂れなき中傷」や「謂れのない国際的な疑惑」といった反論が席巻していた。震災後、原子力開発に急ブレーキがかかったところから、まるで開き直ったかのように政治家などから次々に「原子力をやめてしまったら国防上大きな問題を引き起こす」「潜在的核兵器開発能力が失われる」などと主張するものが現れる。つまり 「疑惑」でも「中傷」でもなく、明確に核武装を志向して実施されてきた核開発が厳然と存在したことを意味する。
開き直ったかのような「核武装オプション論」は、アジア諸国を強烈に刺激する。2013年、韓国では以前からくすぶっていた米国のダブルスタンダードへの反発が顕著になる。日米原子力協定において核武装国以外で唯1認めた「核燃料サイクル政策」についての懸念である。
再処理工場はプルトニウムを取り出すためには欠かせない施設だ。世界中で核兵器国以外で保有している国はない。日本が東海村に東海再処理工場を建設し始めた頃に、ジミー・カーター大統領(当時)が待ったをかけた。日米原子力協定においては核燃料はもとより、軽水炉についても米国から導入し、米国の技術で造られたものである。米国はこれに制限をつけており、平和利用以外の目的で利用しようとしたら差し止める権利を留保している。
事実上、米国の許可がなければ原発の建設も運転も、再処理工場の建設もできない。カーターは東海再処理工場の運転を差し止めようとした。これに猛烈に抵抗したのが日本政府である。様々な条件を受け入れながらも、再処理事業を実現することだけに固執し続けた。結果、1977年から1999年まで運転を続け、合計1140トンの使用済燃料の再処理を行い、その後の六ヶ所再処理工場計画も米国に認めさせている。
韓国は2014年に改訂された米韓原子力協力協定でオバマ大統領に対してウラン濃縮と再処理を認めさせようとした。結果は失敗に終わるが、これは日本の原子力政策に強く影響を受けたものであることは確かだろう。
中核施設は高速炉の再処理工場ここまでは軽水炉、日本で1般的な原発である沸騰水型軽水炉と加圧水型軽水炉(合わせて軽水炉という)の燃料再処理について触れてきたが、過去に、そして今も日本が重要視しているのは高速炉の燃料再処理技術である。
現在、廃炉作業中の高速「増殖」原型炉「もんじゅ」は、1995年に発生したナトリウム火災事故に起因し、計画が頓挫したまま震災後の2016年に廃炉が決定した。運転した期間はわずか4ヶ月たらずだった。掛かった費用は本体建設だけで1兆2000億円、今後も約4000億円かけて廃炉にする計画だ。
この高速炉、原子力基本計画上の位置づけは「次世代炉」であり、言い換えるならばプルトニウムを消費しながら生産することが目的の原子炉だ。軽水炉の燃料を再処理して取り出したプルトニウムを高速炉の炉心燃料として装荷し、 周囲に「ブランケット燃料」(毛布のように炉心を覆うことからついた名称)に中性子を照射してプルトニウムを生産する。このプルトニウムをまた高速炉の燃料として使用すれば、1種の「循環」ができることから、核燃料のリサイクルが出来るとしていた。
実際には高速炉燃料のうち、炉心燃料の再処理は極めて困難であり、現実にはブランケット燃料の再処理だけが実用化される見通しだった。そのためにリサイクル燃料試験施設(RETF)という再処理施設を東海村に建設中だ。
RETFは高速炉のブランケット燃料からプルトニウムを取り出す再処理の技術開発を目的に計画され、約817億円を投じて2000年に地上6階、地下2階の建物を造った。しかし「もんじゅ」が廃炉になった今、建物だけが存在し中身である再処理設備は取り付けられていない。
三菱重工業が米国から提供された技術で製造することになっているが、使うあてのないものをさらに巨額の費用を投じて造る理由がないため、がらんどうのまま建物だけが建っている異常な状況である。
もちろん、国は諦めていないから、こうした中途半端な中断状態でも設備建設を続行する計画だ。というのは、ブランケット燃料体は「もんじゅ」だけでなく、茨城県大洗町にある高速増殖実験炉「常陽」にも残されている。これらを再処理することが当面の目的とされている。
「核開発に反対する物理研究者の会」が旧動燃、現在の原子力研究開発機構から1994年に得た情報によると、「大洗にある常陽において同位体純度99.4%の兵器級プルトニウムを22㎏生産し『もんじゅ』において同位体純度97.5%の兵器級プルトニウムを62㎏生産し、合計84㎏の兵器級プルトニウムを動燃は所有している」。
これを再処理してプルトニウムを抽出すれば、ただちに30発以上の核兵器を作ることができる。そしてこれを抽出する施設がRETFである。(つづく)
本稿は『季節』2024年夏・秋合併号(2014年8月5日発売号)掲載の「核武装に執着する者たち」を本通信用に再編集した全3回の連載記事です。
◎山崎久隆 核武装に執着する者たち(全3回)
〈1〉核武装のために不可欠な「核燃料サイクル政策」
〈2〉開き直ったかのような日本政府の「核武装オプション論」
▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。
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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年夏・秋合併号《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか
『季節』2024年夏・秋合併号(NO NUKES voice 改題)
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お陰様で10周年を迎えました!
《グラビア》
「幻の珠洲原発」建設予定地 岩盤隆起4メートルの驚愕(写真=
北野 進)
「さよなら!志賀原発」金沢集会(写真=
Kouji Nakazawa)
《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか
《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
原子力からこの国が撤退できない理由
《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
なぜ日本は原発をやめなければならないのか
《報告》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
事実を知り、それを人々に伝える
《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
核武装に執着する者たち
《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
課題は放置されたまま
《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発被害の本質を知る
《インタビュー》北野 進(「志賀原発を廃炉に!訴訟」原告団団長)
珠洲原発・建設阻止の闘いは、民主主義を勝ち取っていく闘いだった
《対談》鎌田 慧(ルポライター)×柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
東京圏の反原発 ── これまでとこれから
《報告》今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
「核融合発電」蜃気楼に足が生え
※ ※ ※
《回想》松岡利康(鹿砦社代表)
創刊から10周年を迎えるまでの想い出
《墓碑銘》松岡利康(鹿砦社代表)
お世話になりながら途上で亡くなった方への追悼記
《季節創刊10周年応援メッセージ》
菅 直人(衆議院議員・元内閣総理大臣)
守りに入らず攻めの雑誌を
中村敦夫(作家・俳優)
混乱とチャンス
中嶌哲演(明通寺住職)
「立地地元」と「消費地元」の連帯で〈犠牲のシステム〉を終わらせる
水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
『季節』丸の漕ぎ手をふやして、一刻も早く脱原発社会を実現しよう
山崎隆敏(元越前市議)
「核のゴミ」をこれ以上増やさないために
今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
裁判も出版も「継続は力なり」
あらかぶ(「福島原発被ばく労災損害賠償裁判」原告)
隠された「被ばく労働」問題を追及し、報じてほしい
※ ※ ※
《報告》なすび(被ばく労働を考えるネットワーク)
《検証》あらかぶさん裁判 原発被ばく労働の本質的問題
《報告》北村敏泰(ジャーナリスト)
棄民の呻きを聞け 福島第一原発事故被害地から
《講演》和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
「復興利権」のメガ拠点 「福島イノベーション・コースト構想」の内実〈前編〉
《報告》平宮康広(元技術者)
水冷コンビナートの提案〈1〉
《報告》原田弘三(翻訳者)
COP28・原発をめぐる二つの動き
「原発三倍化宣言」と「気候変動対策のための原発推進」合意
《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
総裁選より、政権交代だ
《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
タイガー・ジェット・シンに勲章! 問われる悪役の存在意義
《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
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甲山事件50年を迎えるにあたり
誰にでも起こりうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか(下)
《報告》大今 歩(高校講師・農業)
洋上風力発電を問う 秋本議員収賄事件を受けて
《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
時代遅れの「原発依存社会」から決別を!
政府と電力各社が画策する再稼働推進の強行をくい止める
《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
6・9大阪「とめよう!原発依存社会への暴走大集会」に1400人超が結集
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
女川原発の再稼働はあり得ない 福島事故を忘れたのか
《福島》黒田節子(請戸川河口テントひろば共同代表)
浪江町「請戸川河口テントひろば・学ぶ会」で
北茨城市大津漁協裁判で闘う永山さんと鈴木さんの話を聞く
《柏崎刈羽原発》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
7号機再稼働で惨劇が起きる前に、すべての原発を止めよう!
《首都圏》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
福島原発事故の責任もとれない東京電力に
柏崎刈羽原発を動かす資格はない!
《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
静岡県知事と御前崎市長が交代して
「一番危険な原発」はどうなるか
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
政治に忖度し、島根原発2号機運転差止請求を却下
それでも私たちは諦めない!
《玄海原発》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会)
玄海町「高レベル放射性廃棄物・最終処分場に関する文献調査」受入!
《川内原発》向原祥隆(反原発・かごしまネット代表)
私たちは歩み続ける
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
原子力規制委員会を責め続けて11年
原子力規制委員会は、再稼動推進委員会・被曝強要委員会
《反原発川柳》乱鬼龍選
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