◆はじめに

2016年、パリで開催されたCOP21(第21回国連気候変動枠組条約締約国会議)で、地球の平均気温の上昇幅を1.5℃にするという努力目標が提示あるいは発効され、2020年に菅前首相がCN(カーボン・ニュートラル)なるものを宣言し、2021年にグラスゴーで開催されたCOP26に出席した岸田首相が、帰国後、GX(グリーン・トランスフォーメーション)なるものを言い出します。

そして2023年12月、『季節』2024年夏・秋号で原田弘三さんが詳しく述べておられますが、ドバイで開催されたCOP28で、「世界の原発の設備容量を2050年までに3倍にする」というアメリカの提案に、日本を含む25カ国が賛同しました。

平たく言えば、地球の平均気温の上昇幅を1.5℃にするために、多量の二酸化炭素を排出する石炭火力発電等を減らして原発を増やすというアメリカの提案に、日本を含む25カ国が賛同し、そして太陽光や風力、地熱等(以下「再エネ」と呼びます)による発電が原発の発電を補填する発電に成り下がりました。

日本では、原発に反対する識者の多くが、再エネによる発電は原発の発電を代替する発電であると考えているように思います。しかし、本年(2024年)から、日本政府は、二酸化炭素排出量の削減を大義名分にして、大規模再エネ発電システムと原発を同列化しています。

『季節』2024年夏・秋号で、大今歩さんが指摘していますが、原子力市民委員会座長の大島堅一さんのような人も含めて、原発に反対する識者の多くが、もはや再エネ発電システムが原発反対の旗印にならないという現実に、目を背けている。識者たちは、勇気を出して、原発反対運動が、場合によっては再エネ発電システムを否定し、石炭火力発電を擁護しなければならない場面がある、そのような難しい運動になってしまった、と認識しなければならないでしょう。

ちなみに、安全性という点では、原発や再エネ発電システムより石炭火力発電のほうが断然優れています。それについては、いくらでも強調できます。本年1月1日に能登半島地震が勃発した場面で、七尾市の石炭火力発電が稼働していて、壊れましたが、僕が知る限り、七尾市の住民に何らかの被害が及んだ場面はありません。

とはいえ、安全性を強調するだけでは、政府や電力資本が推進する原発の建設と再稼働、および大規模再エネ発電システムの建設と闘うことができません。石炭火力発電の弱点を克服するアイディア、そして大規模再エネ発電システムを凌駕するアイディアを出す必要があると考えます。

◆火力発電の二酸化炭素排出量のちがい、および日本の総発電量と発電種別割合

[表1]は、亜臨界圧石炭火力と超々臨界圧石炭火力、LNG火力とガスコンバインドLNG火力、石油火力による発電の1kWhあたりの二酸化炭素排出量をまとめた表です。

[表1]亜臨界圧石炭火力と超々臨界圧石炭火力、LNG火力とガスコンバインドLNG火力、石油火力による発電の1kWhあたりの二酸化炭素排出量

日本政府は、CN(カーボン・ニュートラル)とやらを実現するために、原子力と再エネ等による発電量の割合を増やし、石炭火力による発電量の割合を減らす、あるいはゼロにしようとしています。とはいえ、LNG(天然ガス)火力による発電量の割合を減らそうとしていません。むしろ増やそうとしています。

理由は、[表1]を見ればあきらかです。発電量が同じ場合、LNG火力発電の二酸化炭素排出量が石炭火力発電の半分以下なるからです。ちなみに、LPG(プロパンガス)火力発電の二酸化炭素排出量は、LNG火力発電より少ないです。原発や太陽光発電も二酸化炭素を排出するようですが、排出量は火力発電の10~20分の1以下です。

[表2]は、電気事業連合会が開示した、2016年度と2021年度(COP21があった年度とCOP23があった年度)の、日本の総発電量と発電種別割合をまとめた表です。

[表2]日本の総発電量と発電種別割合(2016年度と2021年度)

総発電量が年間1000TWh(1000兆Wh)以上というのは、多すぎますね。日本の総消費電力量は、総発電量の9割未満であると考えますが、私たちの省エネ、あるいは節電努力はまだまだ足りない、という気もします。他方、原子力の割合は2%と7%で、それくらいの発電量でしたら、他の発電システムで補填できます。原発を稼働する必要はありません。

しかし、日本政府と電力資本は、原発の建設と再稼働に邁進しています(多額の電気代と税金を使って!)。そして大規模再エネ発電システムの建設と稼働も推進しています。経産省や電力資本に巣くう原子力カルト教団の信徒たちは、「石炭火力発電のせいで地球が温暖化している、石炭火力発電を減らし、原発と大規模再エネ発電システムを増やさなければならない」などと言います。彼らは、原発と大規模再エネ発電システム、LNG火力発電を増やせば、日本の総発電量の約3割を占める石炭火力発電の発電量をゼロにできるとさえ考えているように思います。(つづく)

◎平宮康広 石炭火力発電の可能性(全3回連載)
〈1〉「脱炭素」よりも「安全性」を重視する、当たり前のエネルギー政策を取り戻すために

▼平宮康広(ひらみや・やすひろ)
1955年馬生まれ。元技術者。オールドウェーブの一員として原発反対運動に参加している。富山県在住。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年夏・秋合併号《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか


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お陰様で10周年を迎えました!
《グラビア》
「幻の珠洲原発」建設予定地 岩盤隆起4メートルの驚愕(写真=北野 進
「さよなら!志賀原発」金沢集会(写真=Kouji Nakazawa

《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 原子力からこの国が撤退できない理由

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 なぜ日本は原発をやめなければならないのか

《報告》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
 事実を知り、それを人々に伝える

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 核武装に執着する者たち

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
 課題は放置されたまま

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
 原発被害の本質を知る

《インタビュー》北野 進(「志賀原発を廃炉に!訴訟」原告団団長)
 珠洲原発・建設阻止の闘いは、民主主義を勝ち取っていく闘いだった

《対談》鎌田 慧(ルポライター)×柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
 東京圏の反原発 ── これまでとこれから

《報告》今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
「核融合発電」蜃気楼に足が生え

※          ※          ※

《回想》松岡利康(鹿砦社代表)
 創刊から10周年を迎えるまでの想い出

《墓碑銘》松岡利康(鹿砦社代表)
 お世話になりながら途上で亡くなった方への追悼記

《季節創刊10周年応援メッセージ》

 菅 直人(衆議院議員・元内閣総理大臣)
 守りに入らず攻めの雑誌を

 中村敦夫(作家・俳優)
 混乱とチャンス  

 中嶌哲演(明通寺住職)
「立地地元」と「消費地元」の連帯で〈犠牲のシステム〉を終わらせる

 水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
『季節』丸の漕ぎ手をふやして、一刻も早く脱原発社会を実現しよう

 山崎隆敏(元越前市議)
「核のゴミ」をこれ以上増やさないために

 今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
 裁判も出版も「継続は力なり」

 あらかぶ(「福島原発被ばく労災損害賠償裁判」原告)
 隠された「被ばく労働」問題を追及し、報じてほしい

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《報告》なすび(被ばく労働を考えるネットワーク)
《検証》あらかぶさん裁判 原発被ばく労働の本質的問題 

《報告》北村敏泰(ジャーナリスト)
 棄民の呻きを聞け 福島第一原発事故被害地から

《講演》和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
「復興利権」のメガ拠点 「福島イノベーション・コースト構想」の内実〈前編〉

《報告》平宮康広(元技術者)
 水冷コンビナートの提案〈1〉

《報告》原田弘三(翻訳者)
 COP28・原発をめぐる二つの動き
「原発三倍化宣言」と「気候変動対策のための原発推進」合意

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
 総裁選より、政権交代だ

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
   タイガー・ジェット・シンに勲章! 問われる悪役の存在意義

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
   山田悦子の語る世界〈24〉
   甲山事件50年を迎えるにあたり
   誰にでも起こりうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか(下)

《報告》大今 歩(高校講師・農業)
   洋上風力発電を問う 秋本議員収賄事件を受けて

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
 時代遅れの「原発依存社会」から決別を!
 政府と電力各社が画策する再稼働推進の強行をくい止める

《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
 6・9大阪「とめよう!原発依存社会への暴走大集会」に1400人超が結集

《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
 女川原発の再稼働はあり得ない 福島事故を忘れたのか

《福島》黒田節子(請戸川河口テントひろば共同代表)
 浪江町「請戸川河口テントひろば・学ぶ会」で
 北茨城市大津漁協裁判で闘う永山さんと鈴木さんの話を聞く

《柏崎刈羽原発》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 7号機再稼働で惨劇が起きる前に、すべての原発を止めよう!

《首都圏》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
 福島原発事故の責任もとれない東京電力に
 柏崎刈羽原発を動かす資格はない!

《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
 静岡県知事と御前崎市長が交代して
「一番危険な原発」はどうなるか

《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
 政治に忖度し、島根原発2号機運転差止請求を却下
 それでも私たちは諦めない!

《玄海原発》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会)
 玄海町「高レベル放射性廃棄物・最終処分場に関する文献調査」受入!

《川内原発》向原祥隆(反原発・かごしまネット代表)
 私たちは歩み続ける

《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
 原子力規制委員会を責め続けて11年
 原子力規制委員会は、再稼動推進委員会・被曝強要委員会

《反原発川柳》乱鬼龍

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◎鹿砦社 https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000748

龍一郎揮毫

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