◆海洋環境破壊

洋上風力発電は沖合に風車を建てて海底に送電線を敷く。建設には地元の漁業者らとの調整が欠かせない。ところが秋本氏は、国会で「過度な規制は国益を損ねる」などとして建設のアセスメントについて漁業関係者との相談などの期間短縮を求める質問を繰り返してきた。

これについても「日本風力開発」の塚脇前社長とメールで質問内容を確認しあった疑いがある(2023年9月22日付け毎日新聞)。秋本氏の質問により、環境省は昨年8月、アセス短縮に向かって動き出した(2023年9月10日付け朝日新聞)。

日本の漁協漁業の現状について、生物学者の池田清彦・早稲田大学名誉教授は次のように述べる。

「1986年、日本の漁獲量は約1280万トンで世界一だった。でも、それから33年が経過した2019年の漁獲量は417万トンまで減少して世界10位となっている。(中略)なぜこのようになったかというと(中略)何よりも大きいのは日本周辺の水産資源が激減していることだ」(池田清彦『SDGsの大嘘』宝島新書2020年)

日本の水産資源が激減しているのは、魚介類の乱獲の他に海の卵開発が原因であると考えられる。

窪川かおる・帝京大学客員教授(海洋生物学)は次のように述べる。

「(前略)再生可能エネルギーとして期待される洋上風力発電の送電海底ケーブルの設置も始まっている。海底ケーブルや洋上風力発電のような人工物の敷設は、ごく僅かであっても周辺の海洋環境、時に生物相に影響を及ぼす。そのため、環境への影響評価が事前から事後まで必要となる」(「深刻化する海の環境破壊」2023年7月11日付け京都新聞)

このように日本の漁業の衰退は著しいが、洋上風力発電はそれに拍車をかける。秋本氏が国会で進めてきた洋上風力発電の環境アセス短縮は論外である。そして漁業の振興を考えれば洋上風力発電の立地場所はない。

ところが、この事件により、いわゆる「第2ラウンド」の事業者選定は難航すると思われていたが、昨年12月13日経産省と国交省は秋田県、新潟県、長崎県の3海域で公募していた洋上風力発電の事業者を選定した。いずれも独占企業(伊藤忠商事、三井物産、住友商事など)を中心とする3事業体が選定され、2028年6月から29年8月の運転開始を予定しているという(2023年12月14日付け京都新聞)。

これだけ新公募基準の決定過程に問題点が指摘されながら、早くも事業者を選定したのである。

◆「再エネ発電100%」は可能か

「脱原発」運動の多くはIPCCなどの「人為的CO2温暖化説」やそれによる「気候変動(危機)」(異常気象。自然災害の激化)を認める。そのうえで政府が「脱炭素」のため進める「原発再稼働・新設」には反対して「再エネ発電100%」の実現を目指すとする。

しかし、「人為的CO2温暖化説」や「気候変動説」に対して疑問を呈する科学者は決して少数ではない。科学者が「世界気候宣言」を発表した背景には「人為的CO2温暖化説」や「気候変動説」が政治的に利用されて、非現実的な「脱炭素」政策が推進されていることに対する危機感があると思われる。

「宣言」は「2050年に向けて提案されている有害かつ非現実的なCO2ネットゼロ政策に強く反対します」(前掲近藤HP)と締めくくる。

例えばソーラーパネルや巨大な風車を再エネ発電による電力のみで製造できるのか(現在はソーラーパネルの多くは中国製で石炭火力による電力に頼っている)。また、出力が不安定な太陽光や風力発電は、火力発電によるバックアップなしで運転できるのか。

そして太陽光発電はエネルギー効率が低く、メガ・ソーラーは広大な面積の森林を破壊する。また、陸上風力発電も騒音や低周波音による住民被害を避けるためには、工事用道路建設のためふもとの山林を潰し、山頂を削って、風車を設置することになり、自然破壊が著しい。前述の通り、洋上風力発電は海洋の環境を破壊し、魚の生息を脅かす。

このように「再エネ発電100%」は非現実的かつ有害なのである。本年1月1日に起きた能登半島地震により運転休止中の志賀原発の変圧器などが損傷した。「本地震は地震列島全域の原発の地震安全性に対して、根本的な警告を発した」(石橋克彦『週刊金曜日』2024年1月26日号)のである。停止中の原発は再稼働してはならないし、運転中の原発もただちに停止すべきである。

その後は「再エネ100%」ではなく、火力発電を中心に電力需要を満たすしかない。しかし、化石燃料の使用を極力減らさなければならないことに議論の余地はない。日本では今後急速に人口減少が進むのに、AI(人口知能)やEV(電気自動車)などによる電力需要の急増が見込まれている。AIやEV拡大など電力大量消費社会が問われねばならない。(おわり)

本稿は『季節』2024年夏・秋号(2024年8月5日発売号)掲載の同名記事を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

◎大今 歩 洋上風力発電を問う 秋本議員収賄事件を受けて
〈前編〉洋上風力発電そのものへの疑問
〈後編〉AIやEV拡大による電力大量消費社会こそ問われねばならない

▼大今 歩(おおいま・あゆみ)
高校講師・農業。京都府福知山市在住

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年夏・秋合併号《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか


◎『季節』創刊10周年特別企画『脱(反)原発のための季節セレクション』(仮)
出版のためのクラウドファンディングご支援のお願い

https://readyfor.jp/projects/kisetu_nonukes

『季節』2024年夏・秋合併号(NO NUKES voice 改題)
A5判 148ページ(本文144ページ+巻頭カラー4ページ) 定価880円(税込み)
お陰様で10周年を迎えました!
《グラビア》
「幻の珠洲原発」建設予定地 岩盤隆起4メートルの驚愕(写真=北野 進
「さよなら!志賀原発」金沢集会(写真=Kouji Nakazawa

《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 原子力からこの国が撤退できない理由

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 なぜ日本は原発をやめなければならないのか

《報告》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
 事実を知り、それを人々に伝える

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 核武装に執着する者たち

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
 課題は放置されたまま

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
 原発被害の本質を知る

《インタビュー》北野 進(「志賀原発を廃炉に!訴訟」原告団団長)
 珠洲原発・建設阻止の闘いは、民主主義を勝ち取っていく闘いだった

《対談》鎌田 慧(ルポライター)×柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
 東京圏の反原発 ── これまでとこれから

《報告》今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
「核融合発電」蜃気楼に足が生え

※          ※          ※

《回想》松岡利康(鹿砦社代表)
 創刊から10周年を迎えるまでの想い出

《墓碑銘》松岡利康(鹿砦社代表)
 お世話になりながら途上で亡くなった方への追悼記

《季節創刊10周年応援メッセージ》

 菅 直人(衆議院議員・元内閣総理大臣)
 守りに入らず攻めの雑誌を

 中村敦夫(作家・俳優)
 混乱とチャンス  

 中嶌哲演(明通寺住職)
「立地地元」と「消費地元」の連帯で〈犠牲のシステム〉を終わらせる

 水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
『季節』丸の漕ぎ手をふやして、一刻も早く脱原発社会を実現しよう

 山崎隆敏(元越前市議)
「核のゴミ」をこれ以上増やさないために

 今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
 裁判も出版も「継続は力なり」

 あらかぶ(「福島原発被ばく労災損害賠償裁判」原告)
 隠された「被ばく労働」問題を追及し、報じてほしい

※          ※          ※

《報告》なすび(被ばく労働を考えるネットワーク)
《検証》あらかぶさん裁判 原発被ばく労働の本質的問題 

《報告》北村敏泰(ジャーナリスト)
 棄民の呻きを聞け 福島第一原発事故被害地から

《講演》和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
「復興利権」のメガ拠点 「福島イノベーション・コースト構想」の内実〈前編〉

《報告》平宮康広(元技術者)
 水冷コンビナートの提案〈1〉

《報告》原田弘三(翻訳者)
 COP28・原発をめぐる二つの動き
「原発三倍化宣言」と「気候変動対策のための原発推進」合意

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
 総裁選より、政権交代だ

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
   タイガー・ジェット・シンに勲章! 問われる悪役の存在意義

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
   山田悦子の語る世界〈24〉
   甲山事件50年を迎えるにあたり
   誰にでも起こりうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか(下)

《報告》大今 歩(高校講師・農業)
   洋上風力発電を問う 秋本議員収賄事件を受けて

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
 時代遅れの「原発依存社会」から決別を!
 政府と電力各社が画策する再稼働推進の強行をくい止める

《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
 6・9大阪「とめよう!原発依存社会への暴走大集会」に1400人超が結集

《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
 女川原発の再稼働はあり得ない 福島事故を忘れたのか

《福島》黒田節子(請戸川河口テントひろば共同代表)
 浪江町「請戸川河口テントひろば・学ぶ会」で
 北茨城市大津漁協裁判で闘う永山さんと鈴木さんの話を聞く

《柏崎刈羽原発》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 7号機再稼働で惨劇が起きる前に、すべての原発を止めよう!

《首都圏》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
 福島原発事故の責任もとれない東京電力に
 柏崎刈羽原発を動かす資格はない!

《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
 静岡県知事と御前崎市長が交代して
「一番危険な原発」はどうなるか

《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
 政治に忖度し、島根原発2号機運転差止請求を却下
 それでも私たちは諦めない!

《玄海原発》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会)
 玄海町「高レベル放射性廃棄物・最終処分場に関する文献調査」受入!

《川内原発》向原祥隆(反原発・かごしまネット代表)
 私たちは歩み続ける

《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
 原子力規制委員会を責め続けて11年
 原子力規制委員会は、再稼動推進委員会・被曝強要委員会

《反原発川柳》乱鬼龍

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DB1GZ5CM/

◎鹿砦社 https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000748

龍一郎揮毫

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