兵庫県知事で筆者の同一大学同一学部の後輩の斎藤元彦君。パワハラやおねだりなど数々のご乱行。そしてそれらについての告発を「嘘八百」と決めつけたことが、渡瀬元県民局長、そして阪神・オリックス優勝パレード担当課長の命が失われるという、取り返しのつかない事態を招きました。8月30日、9月6日には百条委員会でご本人が尋問を受けるという事態になりました。
◆出直し知事選挙「やる気満々」の斎藤君に腰を抜かす
9月19日、兵庫県議会により、前代未聞の全会一致での不信任案可決を受けました。そして、26日、斎藤君は記者会見し、県議会は解散せずに失職し、出直し知事選挙に立候補すると表明しました。筆者はこれにはびっくりしました。筆者はてっきり「斎藤君は、議会を解散し、延命を図る」のかと思いこんでいました。筆者の知り合いの兵庫県議も、解散の可能性が高いとして、選挙に備える覚悟を決めていました。
斎藤君は知事選挙になればほぼ、勝ち目はないと、いうのが客観的な見方でしょう。例えば2021年の横浜市長選挙では、与党(当時の菅総理)からも、野党からも見放された林文子・横浜市長が、当選した野党共闘候補や自民推薦候補、さらには落下傘の田中康夫さんをも下回る得票で大惨敗したくらいの結果が予想されます。
そうであるならば、議会を解し、40日以内に行われる県議選のあと、不信任案再可決(今度は過半数で可決)となるまでは知事に居座る。冬のボーナスや退職金もまんまと頂く。合理的に考えるとこのシナリオしかありえません。
すこし、奇策を混ぜるなら、議会を解散した上で、自分も辞職し、斎藤君自身が県議選に殴り込むのです。定数が多い選挙区なら可能性はある。そうすれば、県議として、斎藤君は「安定した身分」をしばらくは享受することになるのではないか?
ところが、斎藤君の出した答えは「失職・知事選再出馬」でした。なお、不信任案可決との場合は失職と辞職、両方選べます。辞職の場合は、斎藤君が当選した場合は残りの任期、すなわち一年足らずと言うことになります。これは、自己都合で退職、という意味合いもあるのでしょう。失職は「県民によりクビになった」ということで、斎藤君が当選した場合は四年の任期が与えられます。雇用保険の失業給付で会社都合退職の方が労働者に有利になるのに似てなくもありません。
実際には、辞職を選ぶ場合はそのまま引退と言うケースが多いです。例えば安藤忠恕・宮崎県知事(故人)は官製談合事件で不信任案可決となり、2006年12月4日辞職。その4日後、逮捕され有罪判決を受け、上告中の2010年に亡くなられました。安藤さんの場合は、現実問題、逮捕が迫っていることを自覚し、逮捕で選挙運動どころではないことを見越してお辞めになったのでしょう。
◆大義も勝機もないはずの出直し選挙
失職を選んだということは、出直し知事選挙で当選する可能性が高いと踏んでいるということです。
それでは斎藤君に「勝機」はあるのか?
失職したケースで出直し選挙に挑んで勝った人としては田中康夫・長野県知事がいます。田中知事の場合は確かに既成政党の多くを敵に回したものの、当時、長野県では結構大きな勢力を誇っていた日本共産党が支援に回ったこと。マスコミも田中県政を評価する論調だったことなどがあり、大差での再選となりました。
その時とはあまりにも状況が違います。田中知事の時は「脱ダム」などの争点となりましたが、今回の場合は、斎藤知事や片山副知事らによる一連の「ご乱行」が問われます。阪神・オリックス優勝パレード担当課長、そして渡瀬・西播磨県民局長が自死に追い込まれたという結果は取り返しがつくものではありません。
渡瀬さんの告発文書で告発されたことについて十分な調査もせずに「嘘八百」と決めつけてしまい、さらに、利害関係者である藤原弁護士(百条委員会で証人尋問された)による内部調査だけをうのみにして懲戒処分としてしまった。まさに、公益通報者保護法違反です。
また、斎藤知事の腹心(俗にいう牛タン倶楽部)の片山副知事(当時、7月31日付で「退職」)や小橋理事(当時、現在は降格)は、警察でもないのに「がさ入れ」を強行。片山副知事は必要な決裁も取らずに渡瀬さんの退職願を受理しない、とその場で本人に申し渡してしまいました。
また、「維新」の掘井けんじ代議士(近畿比例、地盤は加古川市など)は街頭演説で渡瀬さんの個人情報を有権者にべらべらしゃべってしまうという事件を起こしました。個人情報を斎藤知事、片山副知事、小橋理事(いずれも当時)ら誰かが漏らさなければ起きえない事態で、これも重大な犯罪です。
こんな中で斎藤君の立候補に大義もなければ勝機もない。通常で考えればそうなります。
◆「孤軍奮闘」イメージと「既成政党自滅」で若年層中心に善戦も
しかし、筆者は一抹の不安を感じています。
斎藤君は26日の会見の中で「一人で選挙をやる」ということを繰り返していました。これがウケる可能性はあるかもしれません。既成政党への不信感も強い中で、現職であっても一人で闘う姿に心を打たれる人は出るかもしれない。斎藤知事が嘘をついていなければという前提はありますが、高校生から激励の手紙を受け取ったという。これは、石丸伸二さんが東京都知事選挙で、主にインテリの若い男性に特にバカ受けしたのに似ているようにも思えます。
いま、地方選挙では政策などが全くいい加減な人でも無所属・無党派と言うだけで結構な票を取る現象が結構起きています。この傾向は政党が自己反省し体質を改善しない限り続くでしょう。
出直し選挙に向けては、自民が独自候補を模索し、公明、立憲が自民に同調の構えだそうです。
共産は無所属新人の医師を推薦。維新も独自候補を模索。
そういう中で、反斎藤票が割れ、政党への反感の受け皿に斎藤君がなるかもしれないのです。
おりしも、9月25日、神戸地裁で民商による共産党県議候補だった東郷ゆう子さんが不当解雇された事実が認定されるという労働裁判の判決が出ました。
筆者は労働者が救済されることは大歓迎します。他の全労連系の労働組合幹部の多くの仲間とは違い、筆者は日本共産党を支持しておりませんので、堂々と、判決を歓迎すると言明しています。ただ、これは兵庫県内においては間違いなく、反斎藤側に打撃になるでしょう。党内で年配者が若手にハラスメントする有様は、斎藤知事と瓜二つではないか? だから筆者は常々、「立憲や共産と言った野党はスターリン主義をやめて人を大事にすべき、と口を諫言してきたのですが言わぬことはない、です。
もちろん、おそらく自民党が出す候補が最有力にはなるでしょうが、自民党自体は決して評判は芳しくありません。維新は維新で斎藤知事の製造物責任があります。独自候補を出すことで余計に批判を浴びることも予想されます。
そういう中で、斎藤君が結果として一位になる、ということは既成政党側が油断すればあり得るのではないか? 東京都知事選挙で石丸伸二さんがバカ受けした現象を軽視すべきではありません。
ただ、石丸伸二さんが兵庫県知事選挙に突如殴り込めば、また状況は変わるでしょう。反既成政党票が割れて斎藤君に不利な展開になるでしょう。まさかの石丸知事誕生まではいかないまでも、アンチ既成政党票を石丸さんに食われると斎藤君の苦戦は免れないでしょう。
◆「斎藤事件再発防止」こそが争点だ
ともかく、斎藤君には、反省がない。内部告発に対する対処を決定的に誤った、公益通報つぶし、さらには維新のほりいけんじ代議士への情報漏洩などは刑事事件ものです。阪神・オリックス優勝パレードへの公金流用も信金関係者の証言も出てきて全容が明らかになってきた。これも解明されれば刑事責任は免れない。
斎藤君は次の任期で、県立大学無償化などの「若者への投資をやりたい」と会見で繰り返していました。
だが、くどいようですが、問題になっているのは政策ではなく斎藤知事とそのお仲間のコンプライアンスです。
どうしたら、人が二人も亡くなるような事件の再発が防げるか?それが大きな争点であるべきです。兵庫県内各政党は斎藤君の土俵=政策に乗ってはいけません。「若者への投資」も、新しい知事の下で、知事や小橋理事らの「独裁」ではなく、きちんと県民ニーズを踏まえて推進すべきです。
同時に、公益通報つぶしを許さない体制の整備は、県警の裏金問題の隠ぺいが起きているわが広島県、鹿児島県警本部長の不祥事隠しが起きている鹿児島県など全国の自治体です。そして公益通報者保護法の改正は国政の大きな課題ではないでしょうか? 来るべき衆院選の争点の一つにしても良いと思うくらいです。
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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