この8月と9月に東京と北京で、「アフリカ支援会議」が行われた。二つの会議は、日中両国のグローバルサウスに対する姿勢、国際政治における姿勢、立ち位置の「違い」を浮き彫りにしている。

◆中国の「中国アフリカ経済フォーラム(FOCAC)」

9月7日、北京で「中国アフリカ経済フォーラム(FOCAC)」が開催された。ここには全アフリカ54カ国のうち台湾と外交関係を持つエスワティを除く53カ国の首脳が参加した。

会議では、習近平国家主席が演説したが「今後3年間で、3600億元(約7・3兆円)の資金援助を提供する」と述べるや、参席したアフリカの首脳たちから大きな拍手が沸き起こった。その心情をボツワナのマシシ大統領は「アフリカ側は非常に興奮し励まされた」と述べている。

習主席は、アフリカ諸国との2国間関係を「戦略的関係」に引きあげるとし、「10の行動」を提示した。その内容は、政府関係者の招待。女性や若者の職業訓練。10億元の緊急食料支援。疫病予防センター建設と公衆衛生能力向上。10億元の無償軍事援助。軍人(6000人)と警察官(1000人)訓練。アフリカ産農産物の輸入拡大、アフリカの「後発開発途上国」33カ国だけでなく世界の全ての「発展途国」にゼロ関税待遇を与え中国の大市場を開放する、などである。

中国とアフリカ貿易額は、22年には2576億7000万ドル(約37兆6486億円)を超え、米英を抜いた。この急激な貿易拡大は、中国とアフリカの経済関係がウィンウィンの関係、相互に利益をもたらすものであることを示している。

注目されるのは、習主席がグローバルサウスという言葉を3回も使いグローバルサウス重視を鮮明にしたことである。

「10の行動」の最後で述べられた、「アフリカの後発開発途上国33カ国だけでなく世界の全ての「発展途上国」にゼロ関税待遇を与え中国の大市場を開放する、などがそれを示している。

今後、ウィンウィンの関係をグローバルサウスの中でも経済発展が遅れている全ての「発展途上国」と結ぶ、ということであり、今後、グローバルサウスとの交易は急速に拡大していくであろう。

◆日本の「アフリカ開発会議(TICAD)」

一方、日本では8月24、25日に東京でTICAD(アフリカ開発会議)が開かれ、ここにアフリカの37カ国の外相が参加した。

今回の会議は来年横浜で開催されるTICAD9の準備会議として開かれ、「社会、平和と安全、経済」をテーマに討論が行われた。

25日に発表された共同声明では、アフリカで活動するスタートアップ(新興企業)の支援に向けた環境整備、食料安全保障の確保に向けた協力、デジタル化支援、「女性・平和・安全保障」(WPS)の重要性などが明記された。

そして、最後に「法の支配の重要性が共有された」ことを強調している。

この会議について、読売新聞が「日本の強み生かし発展支えよ」と題する社説を載せたが、それはアフリカの人口が今の14億から50年には24億人に達することやアフリカが資源の宝庫であり、とりわけ電気自動車やスマートフォン、バッテリー製造で不可欠な銅、コバルト、ニッケルなどが豊富であることから、「最後のフロンティア」としてアフリカとの関係を強化せよというものだ。

この読売の社説が示すように、日本のアフリカ支援は、あくまでも自国の経済的利益のためだということである。

その上で、最後に「法の支配の重要性が共有された」と強調していることに注意しなければならない。

「法の支配」とは、「開かれたインド太平洋」(FOIP)のための用語である。それは中国が自国領土である南シナ海の諸島に軍事基地を建設しているが、それはこの海域の自由な航行を阻害する国際法違反であるとし、法を守れということである。そして「法の支配」は、米国の覇権秩序に反する行為を「違法」として、「秩序遵守」を説くための用語にもなっている。

昨年4月に改正された「政府開発援助」(ODA)の指針である「開発協力大綱」は、これまで相手国の要請に従って援助する「開発支援」を改め、日本が提案する「オファー型」に改定した。そこには「開かれたインド太平洋」を推進することが明記され、そのために途上国の海上保安能力を後押しする方針も盛り込まれている。

即ち日本の途上国支援は、米国覇権秩序を守るための支援であり、カネをちらつかせながら「米国覇権秩序に従え」というものになっているということだ。

◆どちらが本当の支援か

発展途上国支援は、その国の発展のためになる私心のないものでなければならない。

これまで日本の途上国支援がその国の要請に従って支援する「要請型」であり、それを「原則」としてきたのも、それが実際行われたかどうかは別にして、そのことを示す必要があったからである。その「要請型」を「オファー型」に改変すること自体、支援がその国のためのものではなく、日本のためのものであることを示している。

しかも、それは米国覇権秩序を守り、その覇権秩序に従えというものであり、「日米基軸」の「日本のため」のものでしかない。

それに対して、中国の支援は、「10の行動」を見ても、その国のためのものになっていると思う。

その本気度の違いは、支援額を見ても歴然としている。

今回の日本での会議ではアフリカ支援の額は示されていないが、途上国全体への支援である「政府開発援助」(ODA)の総額が昨年で5709億円だから、アフリカ「支援」額はその何分の一かの少なさとなり、中国の支援額「3600億元(約7.3兆円)」とは雲泥の差になる。

そうなるのは、ありていに言えば、「カネがない」ということである。

岸田前首相は、一昨年の訪米で、中国敵視の軍事費拡大や敵基地攻撃能力の保持を約束した。その額は5年間で43兆円といわれているが、新型ミサイル開発などで、70兆円に膨らむとか、際限なく膨らむとも言われている。

この膨大な軍事費をどう捻出するか。そこから増税メガネと揶揄された「増税」、全世代型社会保障を看板にした「社会保障費削減」が行われ「地方交付税の削減」など地方支援も減らされている。

今年4月9日に開かれた財政制度等審査会の分科会で財務省が能登復興について「ムダな財政支出は避けたい」と発言した。それは能登の本格復興はやらず、能登は見捨てるということに他ならない。

能登まで見捨てるという財政事情の下では、アフリカ支援、発展途上国支援などに使うカネなどないのだ。

それを見切って、アフリカ諸国のTICADへの熱は冷めている。前回18年に開かれた第8回会議までは首脳も参加していた。しかし今回は37カ国の外相会議になっている。

「もう日本にはカネがない」のであり、その日本が空財布をちらつかせて「開かれたインド太平洋」だとか「法の支配」とか言っても、それに耳を貸す国などないであろう。

◆「債務の罠」、中国覇権のためのワナなのか

中国の対外支援で常に持ち出されるのが「債務の罠」であり、それを使って「中国は覇権を狙っている」という言辞である。

その例として持ち出されるのが、セイロンの件。一帯一路として中国の企業が投資して道路や港湾を整備建設したが、その債務返済が滞り、セイロン政府が、中国企業に港の使用権を99年間譲渡するとしたことである。

これはあくまで、中国の一企業とセイロン政府が行ったことであり、これをもって、中国がセイロンを支配するとか中国覇権を狙っているなどと分析するのは、言い過ぎではないだろうか。

元々、「債務の罠」はG7など「先進国」が行ってきたことである。

先進国の後進国支援は、後進国の富を収奪し政治的支配を強めるためのものであり、債務漬けにして、その国を牛耳る、まさに「債務の罠」であった。

それは、南北格差が拡大し、後進国がいまだに経済的な発展ができないでいる現状がそれを如実に示している。

G7広島サミットを前に日本やG7がグローバルサウスを引き込む動きを示したことに対して、グローバルサウス諸国から「G7なんて旧宗主国グループじゃないか。我々を植民地にした者が上から目線で、きれいごとを言える身分か」「G7が守りたい国際秩序とは、米国がわれわれにやりたい放題の謀略、軍事侵攻を仕掛けてきたやり方だろ。まっぴらだ」などの声が上がった。

自分たちがやってきた悪行を中国もやろうとしていると疑うのは、疑心暗鬼であり、その語源通り「疑えば鬼を見る」であり、その鬼とは自分自身ということではないだろうか。

中国は「覇権の道は歩まない」と明言している。それは建前と見る向きもあるが、中国の支援が熱烈に「歓迎」されていることが、中国が覇権を狙っているのではないことを示していると思う。覇権を歓迎する国などないのだから。

ザンビアやエチオピアの鉄道整備など中々のものである。新幹線型の車両を使った近代的な鉄道網、瀟洒な建物群。南太平洋諸国での港湾や旅行施設、ホテル建設も歓迎されており、そこでは「債務の罠」も語られてはいない。

中国の投資や経済協力が歓迎されているのは、中国が参加するBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の発展を見ても分かる。24年にエジプト、エチオピア、イラン、サウジ、UAEが参加し、当初の5カ国から10カ国に増え、参加希望国が門前に列をなす状況になっている。

そこでは、米国ドルに代わる独自通貨の設立を目指されている。この独自通貨は中国元を基軸通貨にするというものではなく、各国の通貨(通貨主権)を認めたものである。

もし中国が覇権を狙っているとすれば、中国元を基軸通貨にするだろう。しかも、それは中国元の実力から見れば黙っていてもそうなる。それにも係わらず、そうせず各国の通貨を認めた上でBRICsの独自通貨を作るということは、中国の言う通り、米国のドル基軸通貨体制を変革するためだということではないだろうか。

米国覇権の強力な手段であった、ドル基軸体制に代わる、BRICs通貨体制の実現は、米国覇権を終わらせる一つの大きな契機になる。

その実現をグローバルサウスを始めとする多くの国々が望んでいる。ドル基軸体制の下で、不利益をこうむり、円安で七苦八苦する状況を強いられている日本にとっても、それは良いことではないだろうか。

「債務の罠」「中国覇権」などという言葉に惑わされてはならないだろう。

◆脱覇権自主こそが世界の流れ、時代の流れ

日本のマスコミは、習主席がグローバルサウスを3回も使ったことを中国のグローバルサウス重視だと解説しながら、「中国のグローバルサウス重視は米欧主導の国際秩序の変革を目指す中国にとって欠かせないパートナー」だからだと論評する。

あたかも「米欧主導の国際秩序を改革」するのは悪いことだと言わんばかりだが、それは良いことであり、グローバルサウス自身が求めていることだ。

元々、「米欧主導の国際秩序」とは米国覇権秩序であり、その下で、富を収奪され従属を強いられてきたアフリカを始めとするグローバルサウスこそが、その変革を切望している。

それは、どんな国も、互いに平等で対等な国として認め、互いに尊重していく関係を構築し、公平で民主的な新しい国際秩序を作ろうということである。

中国での会議で沸き起こった拍手と歓迎の言葉は、こうした脱覇権自主の新しい国際秩序を作ることへの熱烈な賛同の表示でもあろう。

 

魚本公博さん

日本と中国で行われた二つの「アフリカ支援」会議を通して見えることは、脱覇権自主が世界の流れ、時代の流れになっていることであり、日本の「日米基軸」の政治、「日米同盟新時代」政策が如何に、この流れに逆行する愚かな政策であるかということである。

しかし石破新政権は「日米基軸」堅持を表明している。立民新代表の野田氏もそれを明言しており、日本は、挙国一致で、その道を歩もうとしているかのようだ。「日米基軸」堅持、それは、あくまでも米国覇権の下で生きていくことの表明であり、そこに日本の未来はない。

しかも、それは米国覇権を維持回復する米中新冷戦のため、中国を敵視し、対中対決の最前線に立たされるものとしてある。それは日本全土を戦場にし、破壊する。

そのような道を歩んではならない。そのためにも「日米基軸」の政治を何としても終わらせなければならない。「日米基軸」から「国民基軸」の政治への転換。来るべき総選挙でその意思を断乎と示さなければならないと思う。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼魚本公博(うおもと・きみひろ)さん
1948年、大分県別府市生まれ。1966年、関西大学入学。1968年にブントに属し学生運動に参加。ブント分裂後、赤軍派に属し、1970年よど号ハイジャック闘争で朝鮮に渡る。現在「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』