福島の小児甲状腺がん検査は本当に「過剰診断」なのか ── 《書評》高野徹他『福島の甲状腺検査と過剰診断』批判〈1〉 大今 歩

◆はじめに 甲状腺全摘4人、片側切除2人……

2022年1月27日、小泉純一郎、細川護熙、菅直人、鳩山由紀夫、村山富市の5人の元首相はEU(欧州連合)の欧州委員会が「(『脱炭素』のため)原発を環境に配慮した投資先」のリストに加えようとしている動きに対して、福島原発事故によって「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しんでいる」などを理由にこれに反対する書簡を送った。

この書簡に対して政府、自民党、福島県は5人の元首相に抗議・避難の文書を出した。例えば、山口壮環境相(当時)は、「福島県の子どもに放射線による健康被害が生じているという誤った差別や偏見を助長することが懸念されます」と指摘した(佐藤和雄『金曜日』2022年2月18日号)。小泉らの書簡は「風評被害を助長する」というのである。

書簡と同日(1月27日)、17歳~28歳の男女6人が福島原発事故のため、甲状腺がんに罹ったとして東電に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。訴えによると、原告のうち、2人は甲状腺の片側を切除。4人は再発によって甲状腺を全摘した(2022年1月28日付朝日新聞)。

5月26日、東京地裁で第1回口頭弁論が開かれ、原告が意見陳述を行った。原告Aさんは「この裁判を通じて、甲状腺がん患者に対する補償が実現することを願います」と締めくくった(松本徳子『人民新聞』2022年6月20日)。

小児甲状腺がんは通常100万人に1~2人程度の割合で見つかる稀少ながんである。ところが、人口約200万人の福島県では事故後、今日まで約300人に発見された。小児甲状腺がんは「風評(うわさ)」ではなく、福島の子どもたちを襲う現実に他ならない。原発事故を起こした国や東電の責任が問われねばならない。

「風評被害」の根拠は「過剰診断論」である。精密な検査により、治療の必要のないがんを多数見つけているため患者数が多いというものである。本書では5人の著者が「過剰診断」が福島の子どもたちに「被害」を及ぼしているとして、福島県による甲状腺検査の中止を求めている。本書の主張である「過剰診断論」について検討したい。

◆福島県における小児甲状腺がん検査

1986年、ソ連チェルノブイリ原発事故後、周辺地域の住民に小児甲状腺がんが多発した。IAEA(国際原子力機関)など国際機関とウクライナ、ロシア政府は事故と小児甲状腺がんとの関連を認めた。

これを受けて、2011年の福島原発事故後、福島県は事故当時18歳以下であった県民約38万人を対象に2年ごとの甲状腺検査を開始した。昨年からは5巡目の調査に入った。前述のようにこの調査によって約300人が甲状腺がんと診断されたのである。

◆本書の概要 「過剰診断論」「検査縮小論」の主張者・高野徹を中心に

 
高野徹・緑川早苗・大津留晶・菊池誠・児玉一八著『福島の甲状腺検査と過剰診断 子どもたちのために何ができるか』(あけび書房 2021年)

本書の主著者である高野徹は大阪大学講師で2017年11月、福島県民健康調査検討委員会(以下、検討委)及びその甲状腺検査評価部会(以下、評価部会)のメンバーとなった。高野を推薦した日本甲状腺学会は、かつて検討委の座長であった山下俊一が理事長を務めていた。山下は事故直後に福島県放射線健康リスク管理アドバイザーに就任し、「100ミリシーベルトまでなら全く心配はいりません」などの放言で知られる「被爆安全神話」の主唱者である。

高野徹は以後、評価部会や検討委において繰り返し「過剰診断論」や「検査縮小論」を強く主張してきた。

本書では高野を始め、緑川早苗(宮城学院女子大学教授)や大津留晶(長崎大学客員教授)など検討委のメンバーが「過剰診断論」を唱える。まず、本書の大きな流れを示したい。

①福島原発事故はチェルノブイリ原発事故に比べてヨウ素131の放出量は10分の1程度である。

②事故による被曝とがん多発の因果関係は考えにくいのに「過剰診断」によって小児甲状腺がんが多数見つかっている。

③小児甲状腺がんの性質は大人しく悪性化しないのに、がんと診断されて、子どもは進学・就職・結婚のハンディを持つため、検査は中止すべきである。
 次に順を追って「過剰診断論」について検討したい。

《1》福島原発事故によるヨウ素131の被曝量はチェルノブイリ事故に比べて低かったのか
 
本書は「福島第一原発事故によるヨウ素131の大気放出量はチェルノブイリ原発事故の放出量と比較して約10分の1程度であった」として「事故で放出された放射性物質によって健康影響が出ると考えられる量の放射線被曝はしていない」(児玉一八「はじめに」)とする。

しかし、初期被曝のデータは極めて少ない。2011年3月20日以降、国は甲状腺の被曝量の計測を実施したが、1080人というわずかな人数を計測したものに過ぎなかった。しかも限定的な検査は意図的なものだった可能性が高い(榊原崇仁『福島が沈黙した日』集英社新書)。

また「健康被害が出ると考えられる量の放射線被曝はしていない」のか。甲状腺がんが多く見つかっているベラルーシ・ゴメリの事故後1年間の平均実効線量は3.65ミリシーベルトだった(UNSCEAR報告書2008年版)。これに対し、福島事故のデータをまとめた同20年報告書によると、福島市の平均実効線量は5.3ミリシーベルト。郡山市は5.0ミリシーベルトだった(白石草『週刊金曜日』2021年3月26日号)。このようにゴメリよりも福島市や郡山市の方が線量が高いのである。健康影響が出ないと断定することに大いに疑問がある。(つづく)

本稿は『季節』2022年秋号(2022年9月11日発売号)掲載の同名記事を本通信用に再編集した全3回の連載記事です。

▼大今 歩(おおいま・あゆみ)
高校講師・農業。京都府福知山市在住

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格闘群雄伝〈38〉勝又厚男 ── 伝説の黒崎道場の厳しさと温かさを実感し、人生を戦う男 堀田春樹

◆黒崎道場への憧れ

勝又厚男(かつまたあつお/1961年3月12日、東京都武蔵野市出身)は、藤原敏男がまだ現役時代の活気ある名門・黒崎道場に入門。凄味ある先輩方に揉まれ、新格闘術バンタム級1位まで上昇。キックボクシング業界低迷期に差し掛かった時代で輝かしいタイトル歴は残せなかったが、藤原敏男、斎藤京二に続く黒崎道場第三の男と将来を有望視された存在だった。

 
まだまだ戦いです。勝又厚男氏も完全燃焼を目指す人生(2024年3月2日)

キックボクシングを始める切っ掛けは、テレビ各局で放送されブームとなったキックボクシングと黒崎道場の存在だった。

勝又厚男は「タイの一流選手のヒザ蹴り、廻し蹴りに芸術的な魅力を感じ、日本の選手でも錦利弘選手のローキック、沢村忠さんの飛びヒザ蹴りと魅せられ、中でも黒崎道場の大沢昇さん、藤原敏男さん達多くの選手は勝負に対する真剣さ、リング上での立ち振る舞い、一挙手一投足に他のジムの選手とは違う“何か”を感じました。」と語る。

1979年(昭和54年)3月、高校卒業も大学受験に失敗し浪人生活に入って1年近く経ったある日、テレビで観たキックボクサーの闘い様に心揺さぶられ、いても立ってもいられなくなって黒崎道場の門を叩いた。

ジムの門(扉)をノックして開けて初対面となったのはテレビで観た齋藤京二選手だった。嬉しさと緊張の中、入門手続きを済ませた翌日にも斎藤京二氏に声を掛けられ、
「キミ、試合出る気あるの?」と問われ、「ハイ、やってみたいです!」応えると、
「ちょっとこっちに来い!」と外の郵便受けを開けて、
「鍵はここにあるから明日から好きな時に来て好きなだけ練習やって帰る時に鍵を元の位置に戻しておくように。来月から月謝は要らない!」と言われてキョトンとしてしまったという。浪人として金欠だったので有難い待遇だった。

翌日から毎日練習に通い、半年先に入門して熱心に練習に励んでいた杉山という先輩とよく時間を合わせての練習だった。

当時の黒崎道場は一人練習もあったが、誰か試合が決まると厳しい先輩方との練習が多かった。

◆辛い戦い

入門して半年ほどの1980年9月28日にデビュー戦を迎え、花澤道場の選手に判定勝利。メインイベントは藤原敏男先輩の新格闘術世界ライト級タイトルマッチ。その前座に出場することが嬉しかったという。

ファイトマネーはマネージャーから3000円チケットを10枚渡され、売れた分の半額だったが、高校時代の仲の良かった友人に1枚タダであげたのみで残りの9枚は売ることなく手元に残ったままだった。

試合の数日後、一人で練習していると藤原敏男先輩が現われ、「オイ、半額をジムにバックしたか?」と聞かれ、正直に1枚友人にあげただけのことを話すと、「しょうがねえなあ!」と自分の財布から千円札を数枚「ホレッ!」と渡された。

ジムへのバックは免除。初のファイトマネーは3.000円だったが、金額よりも憧れの藤原先輩から貰ったことが嬉しくて、封筒に入れて大事にしまっておいたが、結局使ってしまったという。

黒崎健時先生とはデビュー以降に度々事務所に呼び出されるようになっていた。1年半くらいは氣構え心構えを聞かされたという。
「勝又、キックボクシングは難しいか?」
「押忍、難しいです!」
黒崎先生は怖い顔でニヤッと……「難しくなんかないんだ。試合でもそうだけどね。練習でも一旦始めたら真面目だなんていう範疇じゃないんだ。傍で見ていてコイツは気が狂っているんじゃないかと。こんな選手とは二度とやりたくない。今度やったら殺されてしまうんじゃないかと思わせないと駄目なんだ。狂気を持つ、狂ってしまえ!ってことなんだよ。何かを真剣にやるっていうことは!」

確かに大沢昇先輩をはじめ、黒崎道場の選手の試合に漂う“何か”はこんなところにあったんだと実感したという。

入門当時に一緒に練習していた杉山先輩はデビューから6戦ぐらいまで連勝街道を走っていた選手で、ミット打ち、マススパーリングとよく教えてくれたとても面倒見の良い先輩だったが、暫くして日本系の目黒ジムに移籍してしまい、何と杉山先輩との対戦が組まれてしまった。

「最近まで一緒に練習や指導してくれた杉山先輩。その試合は辛いものがありました。ジムの看板に懸けて負ける訳にはいかないと強く感じつつ、相手を睨み付けることなど出来ず、目倉めっぽうに思いっ切り拳を振り回し判定勝ち出来たものの、いろいろと教えて貰った人間と殴り合うことの辛さ。同じ階級の選手とは絶対に仲良くならないとこの時、胸に固く誓いました。」と語る。

◆育ての神様

デビューから3年目の1982年に入ると黒崎健時先生からはトレーニング法、技についてアドバイスを頂く。

腕立て伏せ二千回、スクワットは20分で千二百回、三点倒立二時間とか、スクワットは先輩方は一万回やっていたと聞いたので自身もやったというかなりのキツさ。

そのキツさを乗り越え、亜細亜プロ拳法フライ級チャンピオンの紅闘志也(士道館)との対戦が決まった。“紅闘志也”とは梶原一騎氏作の劇画主人公の名前だが、このリングネームの使用許可を求めて現在まで三人ぐらい居たという。

当時の紅闘志也は士道館が売り込んでいた存在感があったが、勝又厚男は第4ラウンドにパンチで初のノックアウト勝利を収めた。試合2週間前に同門の柳田光廣先輩が「必ずKOで勝たせてやる!」と後押し。柳田氏は妻子を親戚に預け、柳田先輩宅に寝泊り合宿で、パンチの打ち方を本格的に教えてくれた恩人でもあった。しかし、試合が終わって数日後、ジムに入った電話に「柳田先輩が交通事故で亡くなった!」と連絡が入った。

ショックでそのままロードワークへ、止まらない涙と共に夜の河原をどこまでも走り抜けたという。

「リングに上がったら自分のコーナーポストで、ブッ殺してやる!ブッ殺してやる!ブッ殺してやる!と3回念じろ!」と叩き込んでくれたのは柳田先輩だった。

紅闘志也に勝って新格闘術バンタム級の王座挑戦は近くなったが、定期興行は安定しない時代でタイトルマッチは実現しないままだった。

紅闘志也戦、黒崎健時代表、梶原一騎氏の顔も見える。レフェリーはウクリットさん(1982年)

同年9月12日には初のタイ遠征を前に、丹代進(早川/後の日本バンタム級Champ)と引分け。蹴りもパンチもタイミングをずらされ、ベテランのしぶとい蹴りに苦戦した。

タイ遠征前の1ケ月は黒崎先生の御自宅で合宿しリビング、外の公園で練習に励み、「小便チビるまで帰って来るな!」と言われ激しく練習してもチビるには至らなかった。

「簡単じゃないことを黒崎先生はよく解っていた。やはり黒崎先生のアドバイスが心に火をつけた千差万別の指導、選手育成の神様だったと思います。感謝の氣持ちが湧いて来ます。」と懐かしく語る。

小俣洋戦、セコンドは斎藤京二氏(1983年6月17日)
小俣洋に左ストレートヒット、レフェリーは島三雄さん(1983年6月17日)

1983年6月17日、藤原敏男引退興行では藤原氏を盛大に送る好カード勢揃いの第1試合で小俣洋(士道館)と対戦。パンチで圧しての判定勝利も、これが国内では最後の試合だった。2ヶ月後にはタイでの試合でシャヤプーンという選手に判定負けでこれが事実上ラストファイトとなった。勝又厚男も小俣洋も大学生で就職活動に入った時期であった。

戦績17戦12勝(3KO)3敗2分

◆人生のラストファイトへ

引退後、東洋大学を卒業し、大手通信会社で営業、設計なども携わったが、就職後は目的ある人生ではなかったという。

1997年に13年ぶりに黒崎健時先生と再会。戸田市の格闘技スクールに汗を流しに行き、藤原敏男氏とも再会。若手と一緒に汗を流す中、フッと目に留まったのは、13年前に使っていた自分の赤いネーム入りのメキシコ製16オンスグローブとヘッドギアがピカピカに磨かれて棚に置かれていたという。

「眺めていると思わず頬擦りするほど、13年も俺の使っていたグローブを道場に置いてくれていたのかと胸にジーンと来る熱いものがありました。」と語る。

その日、黒崎健時先生の書斎の書物を読み、日本はすっかりアメリカンナイズされ、経済以外、特に精神が衰退したことに黒崎先生は危惧されていたことも有って本を読み漁り、諸々のセミナーを受けたりと勉強する中、自身でもセミナー講師を目指し、1年半ほどかけて実現に至った。

その後も講師業を続ける中、2019年には年老いた父母とも入院してしまい、1年7ヶ月の看病、介護も及ばず両親とも他界。

ここから更に予期せぬ不運が起こった。母の告別式から1週間後、2021年8月7日、今度は勝又厚男氏自身が脳梗塞に罹り入院となった。

理学療法士から「車椅子生活を考えてくれ!」と言われても、左半身が麻痺してしまっても、一度たりとも精神が落ち込むことはなかったという。

講演会で自身の脳梗塞からの復活を語る勝又厚男氏(2024年3月2日)
リハビリテーションの一環、椅子を使ったトレーニングを再現(2024年3月2日)

「ここで寝たきりなんかに、ましてや死ぬ訳にはいかないと心の奥底から込み上げて来ました。回復して社会の役に立ちたい。国の為に命を燃やし尽くしたいと強く願いました。」と語る。

5ヶ月後に退院した現在までの2年半、当初の車椅子生活を考えるところから座れるようになり、立てるようになり、歩けるようになり、生活独立も出来て社会復帰。そして今回の脳梗塞から回復までの自身の体験談の講演や、多くの研修活動に力を注いでいる。

講演は日本の食物の危機、戦後の日本の在り方など、今後の日本が進む道などテーマは多い。この勝又厚男氏の講演模様はまた掲載したいと思います。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

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北國新聞社に対する「押し紙」の排除勧告、原文の全面公開 黒薮哲哉

新聞業界の「押し紙」問題の本質を考える上で欠くことのできない公文書の原文を公開しておこう。この文書は、公正取引委員会が1997年(平成9年)12月22日付けで、北國新聞に対して交付した「押し紙」の排除勧告書である。

この事件を契機として、公正取引委員会と日本新聞協会(新聞取引協議会)は、「押し紙」問題解決へむけた話し合いを始めた。そして約2年後の1999年に、独禁法の新聞特殊指定の改訂というかたちで決着した。

ところが不思議なことに改訂された新聞特殊指定は、「押し紙」問題の解決への道を開くどころが、逆に「押し紙」をより簡単に強要できる内容となっていた。実際、その後、「押し紙」率が50%を超えるケースが、「押し紙」裁判の中で判明するようになった。

本稿で紹介するのは、この問題(新聞業界の「1999年問題」)の発端となった公文書である。事件の概要については、下記のURLからアクセスできる。

■北國新聞に対する勧告書(全文)
http://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2024/07/IMG_0001.pdf

■北國新聞社に対する勧告について(プレスリリース)
http://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2024/07/IMG_0002.pdf


◎[参考動画]Collection of unopened bales of newspapers – possible oshigami

本稿は『メディア黒書掲載の記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』(鹿砦社)
黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)
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政府「エネルギー基本計画」における「原子力の位置付け」の嘘八百〈後編〉  立地妥当性や経済性を「対象外」とした規制基準 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

◆環境適合性は最悪の原発

「環境(適合性)」については唯一「発電段階で二酸化炭素を出さない」この1点だけだ。

日本の発電所から排出される二酸化炭素は全放出量の4割程度である。

この4割のうち半分以上は石炭火力なので、これを全部廃止し、天然ガスまたは最近注目を浴びるアンモニア(混焼を含む)などを使えば、4分の1以下にできるという。火力の全部を原発にすることは不可能だが、石炭火力を全部天然ガスやアンモニアにすることは現在の技術でも十分可能だ。

二酸化炭素だけをとっても原発でなければならない理由はない。もちろん、再生可能エネルギーに置き換えることが最も重要だが。原子力の環境問題と言えば、もっと重大なもの、放射性物質(廃棄物を含む)による被ばくの問題は無視されている。

原発は運転中にも大量の放射性物質を海や大気に放出しており、例えば加圧水型軽水炉の玄海原発では10年間に約800兆ベクレルのトリチウムを放出してきた。これは福島第一原発で今問題となっている汚染水に含まれる量に匹敵している。ほかにもセシウムやヨウ素なども一定量を排出している。

さらに重大なのは、エネ基でも「推進する」とされている核燃料サイクルのうち「原発が1年で放出する放射能を1日で放出する」とされる再処理工場だ。

一般に、原発には「五重の壁」があり、放射性物質はそれに封じ込められているから人体や環境に影響を与えないと宣伝されている。再処理工場ではこの壁をことごとく取り去って使用済燃料を硝酸に溶かし、ウランやプルトニウムを取り出す。この工程で大量の放射性物質を海中や大気中に放出している。

事故が起きなくても再処理工場の沖合や周辺敷地にはヨウ素、セシウム、ストロンチウム、トリチウム、ルテニウム、コバルト、プルトニウム、ウランなどの放射性物質が蓄積している。これが環境汚染でなくて何であろうか。

さらに、福島第一原発事故のような大事故を起こせば、その何百倍もの取り返しのつかない環境汚染を引き起こし、回復には膨大な時間がかかる。これに対して責任を取れる会社などない。

国も責任を取れない(取らない)のは、現状を見れば明白だ。

◆安全性は誰も保証していない

「安全」については電事連は新規制基準をクリアしていれば安全と主張する。しかし規制委は「安全性を保障するものではない」と否定している。

この関係については、阿部知子議員(立憲民主党)による質問主意書(2014年10月7日)に対する答弁書が明らかにしている。

質問「なお、田中規制委員長が一貫して述べている『規制基準の適合性審査であって、安全だとは言わない』との表現と9月10日会見での『運転にあたり求めてきたレベルの安全性』との表現とは同じ『安全(性)』という語を用いているが、その意味するところは異なると思われる。それぞれの表現における『安全(性)』の定義と相互の関係を示されたい。」に対して、

答弁「御指摘の『規制基準の適合性審査であって、安全だとは言わない』という発言の趣旨は、『いわゆる安全神話に陥ることなく、最新の科学的知見に基づき、不断に向上させるべきものである旨を述べたもの』さらに、『運転にあたり求めてきたレベルの安全性』が確保されることが確認されたとは、規制委が九州電力から提出された川内原発の設置変更許可申請について、原子炉等規制法の設置変更許可基準に適合していることを確認したことを述べたものである。」としている。

これは閣議決定を経た文書であり、政府の公式見解だ。

「安全性の確保」には2つの意味がある。狭義には原子炉等規制法の求める基準を満たすこと。しかしこの基準は現在の知見や福島の経験に依拠しているので、新知見や新発見そして想定外の事態があれば未達成になる可能性は国も否定しない。

それに対して広義の安全性は、「不断の努力により向上させることで達成する」との考え方だ。

重要なのは「最新の科学的知見」が反映され、常に更新され続けて初めて、新知見や新発見を取り込んだ水準になるから、新規制基準適合性審査が常に安全性を担保するものではないことだ。

なぜならば、規制委以外に「更新されているかどうか」を判断する機関や組織がない。震災以前は、原子力安全委員会と原子力安全.保安院という組織がありダブルチェックする建前になっていたが、 今はそれさえなくなった。

新規制基準では、火山ガイドや基準地震動の見直しなどを適宜しているとされるが、安全を保証できるものではない。そもそも新規制基準で対象としているのは一定の自然災害と、従来の想定を超える過酷事故への対策(テロを含む特定重大事故)にとどまり、例えば立地地点の妥当性(地質、地盤、断層以外)や経済性は審査済として対象外にされている。

当然ながら経済性が悪化すれば安全対策の劣化にもつながるのだが、審査対象外だ。

唯一、日本原電の東海第二原発で「経理的基礎」が審査対象とされた。このため日本原電は東電、東北電に支援の意思を示す文書の提出を要請し、関西、中部、北陸を加えた5社で合計で3500億円が安全対策費用として資金支援されることになった。

規制委が問題にしたのは新規制基準で追加設置を余儀なくされた防潮堤などの津波対策費や特定重大事故等対処施設関連の費用だった。

これまでも日本原電に対して5社は年間約1000億円を設備維持費用として支払ってきた。しかしこれではまったく足りないため、東電に対しては電気料金の前払いとして支払いを求めている。これがなければ東海第二の再稼働はできない。

資金支援はいずれ清算される。一部は再稼働後の電気料金として充当されるが、原発が動かなければ債務不履行となり倒産する。日本原電の「経理的基礎」はきわめて脆弱だ。これでは安全の足を引っ張るのではとの危機感は、規制委にも電事連にもない。

◎山崎久隆 政府「エネルギー基本計画」における「原子力の位置付け」の嘘八百
〈前編〉原発を「準国産エネルギー」と呼ぶ欺瞞
〈後編〉立地妥当性や経済性を「対象外」とした新規制基準

本稿は『NO NUKES voice』(現『季節』)30号(2021年12月11日発売号)掲載の「『エネルギー基本計画』での『原子力の位置付け』とは」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。共著に『核時代の神話と虚像』(2015年、明石書店)ほか多数。

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鹿砦社出版弾圧事件の張本人=岡田和生(旧アルゼ〔現ユニバーサル〕創業者)、 今度は巨額脱税発覚!   こういう輩に嵌められた悔しさと怒りを振り返れ! 鹿砦社代表 松岡利康

本日の朝日朝刊を見て驚いた。19年前に「名誉毀損」に名を借りて私を逮捕、鹿砦社に壊滅的打撃を与えた岡田和生が、今度は脱税! 

朝日新聞(大阪本社版)2024年7月24日朝刊

実は岡田は以前も脱税で有罪判決を受けている。1981年、当時の金で1億円。

その後、岡田(と、この会社アルゼ=現ユニバーサル)はアメリカに進出しゲーム機の製造、販売を行うに至る。しかし、アメリカでは、有罪判決を受けた者にライセンスは許可しないという法律がある。にもかかわらず、アルゼは、そのことを秘匿しライセンスを得て来ていた。

その公聴会の記録、そして脱税事件の判決文を取得し、われわれは公益目的、公共性のもとに、これらを暴露したのだった。これまでマスコミタブーでメディアはどこも触れなかったのである。

警察癒着企業アルゼを告発し弾圧の元になった4冊の本[4冊とも品切れ]

ライセンスを下し続けてきた米賭博規制局にも通告し、同局の係官は来日、われわれは弁護士立ち合いで面談に応じたのである。

危機感を持った岡田らは、事件を指揮し、のちに逮捕され失職する大坪弘道検事(当時、神戸地検特別刑事部長。のちに大阪地検特捜部長)らと組んでわれわれを嵌めたのだ! 

人を嵌めた者は、いつかは自らも嵌められることを実証した。”立派”な徒輩らに嵌められたものだ。地獄に堕ちろ! 

(松岡利康)

◎関連記事 松岡利康「名誉毀損」に名を借りた出版弾圧から19年 ─── 怒りを込めて振り返れ!(2024年7月12日デジタル鹿砦社通信)

【お知らせ】関係書籍として、一部品切れの本がありますが、『紙の爆弾2005年9月号』『パチンコ業界のアブナい実態』『パチンコ業界 タブーと闇の彼方』は僅かながら在庫あります。当時の雰囲気や弾圧の実態を知っていただきたく、ぜひご購読お願いいたします。
パチンコ業界のアブナい実態[在庫僅少 お早めに]
パチンコ業界 タブーと闇の彼方[在庫僅少 お早めに]

出版弾圧事件を記録した本、『パチンコ業界のアブナい実態』と、この続編『パチンコ業界 タブーと闇の彼方』
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ピョンヤンから感じる時代の風〈47〉 欧州での「右翼」進出をどう見るのか  赤木志郎

◆右翼の進出が台風の目

EU議会選挙でフランスをはじめ各国での右翼政党の大幅な進出が大きく取り上げられている。とくにフランスでは右翼の国民連合が第一党となり、危機意識をもったマクロン大統領は国民議会を解散し、総選挙を実施した。その結果、第一回目の選挙では国民連合が大きく票をのばし、決選投票でも国民連合が第1位となり過半数を占めるかどうかが焦点になった。国民連合が過半数を占めればマクロン大統領は国民連合党首に首相を指名しなければならず、混乱を避けることができない。ところが、第2位の左翼連合の「新人民戦線」と第3位の与党連合が組んだ結果、第1位は新人民戦線、第2位が与党連合で国民連合は第3位に後退した。左翼連合と与党連合の一人に候補者に絞る作戦が効を奏し、国民連合を封じ込めるのにかろうじて成功したのである。

それは一つの政治劇だった。しかし、政権を握っているマクロンの中道左派が孤立し、右翼の国民連合が支持率で第1党になっていることは変わらない。国民連合の目標は大統領選での勝利だ。

右翼の進出はフランスだけはない。右翼が政権を握っているのはイタリア、ハンガリー、連立で政権に参加しているオランダ、オーストリアなどがある。まずハンガリーでオルバン首相率いる右翼政党「フィデス」が、今回の欧州議会選と地方選の両方で勝利し議席数を増やした。ウクライナ支援に反対し、ロシアとの関係を維持している。

イタリアではメローニ首相率いる「イタリアの同胞」はEU議会選挙で得票率は29%に上り、2022年総選挙での同党の得票を上回った。オーストリアは、右翼の自由党がEU議会選挙で第1党を占め、秋の総選挙で首相になることを狙っている。オランダでも右翼政党が昨年11月の総選挙で第1党となり、連立政権を発足させた。ベルギーでもEU議会選挙と同時におこなわれた選挙で前首相が右翼政党に敗北し首相を辞任した。

ドイツでも今回の選挙で「ドイツのための選択肢(AfD)」は得票率15.9%で国内2位となり、ショルツ首相の「社会民主党」は同13.9%で3位だった。トップは同30%の保守政党「キリスト教民主同盟」だった。

EUから脱退したイギリスは、今回、下院総選挙を実施し、スナク前首相率いる保守党は惨敗し、労働党が大躍進し労働党政権が発足した。ところがここでもファラージ率いる新たな右翼政党「改革党」が移民阻止、環境規制反対など保守党の「イギリス第一主義」の頓挫にたいしその徹底化を主張し、2割の支持を受けており、支持率で政権を握っていた保守党をすでに凌駕している。

スウェーデンでは右翼政党の「民主党」が第2党となり閣外協力をおこなっている。

これらの右翼政党は一様に自国第一主義をかかげ自国の利益を守ることを優先させ、EUのウクライナ軍事支援、環境政策、移民政策などに反対し、ロシア、中国との関係を強めている。それゆえ、右翼の進出がEU支配の欧州を揺るがせる台風の目になっている。ハンガリーのオルバン首相はチェコ、オーストリア、フランスの国民連合と組み、EU議会で3番目に多い「欧州の愛国者」という会派を7月に発足させた。

では、右翼政党が反対するEUとは何か? 欧州各国とEUとの関係はどうなっているのだろうか。

◆グローバリズムの欧州版であるEU

欧州では各国の主権があり、政治もその枠内で各政治勢力が、たとえばフランスでは今回のように国民議会選挙でマクロン派、右翼の国民連合、左翼連合、共和党などが争いながら、一方でEU(ヨーロッパ連合)のもとに各国がありEU議会選挙に参加している。だから5年に一度のEU議会選挙があり、各国ごと大統領制や議会で首相を選ぶ制度など独自的な政治制度がある。

EUは半世紀をかけてECSC(ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体1951年)、EEC(ヨーロッパ経済共同体1958年)、EC(ヨーロッパ共同体1978年)を経て1993年に発足した欧州における超国家機構・共同体だ。域内での市場の単一化、通貨の統合、人の自由な移動、物の自由な移動を実現し、域外からは共通の関税を課し、欧州の経済発展と平和をはかった。EUは機構としてEU議会(比例代表制)、EU理事会(各国の首脳・外相が参加)、そして行政的な指揮をおこなう欧州委員会がある。

EUは上で見たようにグローバリズム(国境を越えた地球統合主義)の欧州地域版である。EUはASEANやAU(アフリカ同盟)のような各国の主権の尊重にもとづいた地域組織ではない。各国はEU委員会の指示を受けて国内政策をおこない、各国の主権は3割しかないと言われている。EUは実質、ドイツとフランスが主導権を握り、欧州の支配層が握った政治機構だということができる。欧州各国は国があっても国の主権がない状態におかれた。関税や通商政策、漁業資源保護はすべてEU基準、エネルギー・環境政策などはEU法が優位。ここから、イギリス、ドイツなどが東欧諸国と移民の安い労働力を使い本国の労働者が雇用を失うという問題が起こったり、農業で欧州委員会の厳しい環境規制を受けて不満を呼び起こす問題などが不可避的に生じ、EUの指示に従うのではなく自国の実情、利益に合わせていこうとする自国第一主義がうまれるようになった。

数年前から各国でEU脱退の要求が起こり、EU本部があるブッリュセルのエリートにたいする激しい反発が生まれた。「渦巻くエリート支配にたいする嫌悪感」、ある新聞の欧州総局長はこう表現していた。今回のフランスでのEU議会選挙で国民連合が第1党に躍り出たとき、パルデラ国民連合党首は「これはブリュッセルに対するメッセージだ」と勝利宣言をした。ハンガリーのオルバン首相は「現在のブリュッセルのエリート層から得られるのは戦争・移民・停滞だけだ」と非難した。

とくにこの間、ウクライナ戦争の勃発を契機に、ウクライナにたいする軍事支援およびロシアにたいする制裁にともなうエネルギー価格、食料価格の高騰による生活難がEUにたいする反発と右翼進出に拍車をかけた。

EUは米軍から司令官をだすNATO(北太西洋条約機構)という軍事組織との密接な関係がある。NATOはアメリカの直接の覇権軍事機構だ。NATOはセルビアにたいする空爆、東欧諸国にたいする政権転覆であるオレンジ革命、イラク、アフガニスタンなどへの介入などアメリカの侵略策動に大きな役割をになってきた。EUは軍事的にNATOの軍事的基礎に築かれた欧州機構だということができる。だから、周辺諸国を経済的利害からEUに加盟させ、最終的にはNATOに加入させ、アメリカの勢力圏を拡大してきた。

今、ウクライナでの戦乱もウクライナをまずEUに加盟させ、つぎにNATOに加盟させようとするところからロシアとの摩擦、衝突が起きてきた。ロシアにとってはウクライナをめぐってアメリカ、NATO、欧州諸国の介入に反対し自国を守る戦いとなる。ロシアがウクライナにたいする軍事行動を起こしたとしてそれを侵略だといえない理由がここにある。NATOがアメリカの覇権のための欧州における軍事組織だとしたら、EUはアメリカの覇権のための政治組織であるといえよう。

EUがもたらしたもの、それは自国第一主義の欧州での台頭だということができる。

◆右翼か左翼かが問題ではなく、自国の主権を守るかどうかが根本問題

欧州で右翼か左翼かが問題にされている。フランスでの国民議会選挙で得票率2位の左翼連合と3位のマクロン派が組んで、決選投票で国民連合を1位から3位に転落させたのは、右翼に政権をとらせないという点で左翼連合とマクロン派が一致したからだ。

日本で進歩的学者として有名な森永卓郎氏が大竹まことのラジオ番組(文化放送)で、つぎのように述べている。「これがもう一つ気になっていることで、実は今日本だけではなくて、世界の先進国がみんな議会選挙で右派勢力が議席を伸ばしているんですよ。世の中が平和なときではないと左派勢力って勢力を維持できなくて。……

第一次世界大戦、第二次世界大戦が起こった原因もみんなが自分の国のことだけを考えるようになったというのが発端となっているわけですよね。だからこういう状態で少し刺激が加わると本当に戦争が起きかねないんですよね……」

果たして森永氏の言う「自分の国を考えることが戦争の原因だ」といえるだろうか。第一次大戦、第二次大戦すべて独占資本家が起こした植民地再分割戦争ではないだろうか。

今回、欧州で右翼が進出した直接の原因は、貧困化した大衆の不満をくみ上げたからだと言われている。貧困問題をとりあげたのが極右と極左といわれる政党だった。新自由主義のもと格差がいっそう広がる中で大衆にとって貧困が耐えがたいものとなっていた。それをウクライナ戦争と移民問題が拍車をかけたのである。従来の左派は中道左派を呼ばれ新自由主義に染まっていって大衆から孤立してしまった。

貧富の格差を拡大してきた根本要因は、EUやマクロンがすすめてきたグローバリズムと新自由主義政策にある。そのもとでフランスをはじめ各国は自分の国そのもの、そのアイデンティティまで失ってきた。パルデラ国民連合党首は集会で「フランスの消滅はすでにさまざまな地域で始まっています。私たちの文明は衰退してしまうかもしれません。……フランスを愛してください。私たちの仲間になってください。私たちと一緒にフランスを守り伝えていきましょう」と訴え、人々の心をとらえていた。

 
赤木志郎(あかぎ・しろう)さん

もちろん右翼の国民連合は、「不服従のフランス」党の最低賃金引き上げなどの政策を拒否しマクロン派に賛成し、パレスチナのハマスの蜂起を反ユダヤ主義として激しく非難するという問題点も有しているが、EUに反対し愛国心に訴え国を守ろうとする主張では正しいといえる。大衆の貧困化、ひいては国の消滅化の根源はEUのグローバリズムと新自由主義政策にあり、その解決の途も各国の主権をとりもどし、国の指導的役割を高めるところにあるはずだ。

フランスの国民連合など欧州の今日の右翼は、かつての右翼とは異なっている。それはEU脱退などのスローガンをおろしソフトなイメージ戦略で臨んだからだけではない。かつての右翼は愛国を掲げて侵略戦争の手先、体制側になったが、今日、愛国を掲げ、国を守れと主張することは反米、反グローバリズム、反体制派になる。それとは反対に国を否定し階級を掲げた左翼の多くがグローバリズムを支持し大衆から遊離していったのと対照的だ。フランスでは社会党がそうだった。

このことは日本の政治を考える上でも大きな示唆を与えているのではないだろうか。

たしかに右翼といえば宣伝カーで大衆の運動を妨害し、侵略戦争の反省を否定し、アメリカの従属に反対せず、体制側の手先の役割を果たしてきた。もし真に愛国をかかげるならば日本の自主独立のために闘っていかなければならないだろう。そのような右翼は日本では少ない。

現在、日本の支配層がアメリカの覇権主義との一体化を機軸に据え、日本という国をなくしていっているもとで、右翼が愛国をかかげるならば日本の自主独立のために闘い、左翼が格差に反対し階級をかかげるならば日米一体化に反対し闘うことだ。右翼か左翼かを区別する意味は久しくなくなっている。重要なのは、底辺の国民大衆の要求に応えるか、国民にとってもっとも重要な国の主権を守りその役割を高めていくかであると思う。そのスローガンは自国第一、国民第一だと思う。

▼赤木志郎(あかぎ・しろう)さん
大阪市立大学法学部中退。高校生の時は民青、大学生のときに社学同。70年赤軍派としてハイジャックで朝鮮に渡る。以来、平壌市に滞在。現在、「アジアの内の日本の会」会員

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』

広島県知事が産廃処分場問題を放置し続ける中で行われる三原市長選挙の行方 さとうしゅういち

任期満了に伴う三原市長選挙が7月21日、告示されました。

 
選挙ポスター。三原本郷産廃処分場近くで筆者撮影

新人で前の市議会議員の田中裕規さん(64)
新人で前の市の教育長の計田春樹さん(69)
2期目を目指す現職の岡田吉弘さん(39)
の3人が立候補されました。

2020年8月9日執行の前回選挙は、河井案里さんの参院選広島2019を巡る買収事件に伴い、前市長が辞職したために行われたものです。この点が、実は、東京都知事選挙2024で大善戦された前安芸高田市長の石丸伸二さんと全く同じです。ついでに言えば、岡田さんも石丸さんも両方とも京都大学ご出身の若手、という共通点があります。

選挙が告示された21日、筆者は、三原本郷産廃処分場近くの公営競技の場外売り場を家族の趣味に付き合い、訪れていました。開場まで時間があったため、処分場周辺の状況を確認させていただきました。

処分場から流れ下ってくる水路に近づくと硫黄のようなにおいがしました。色は茶色で、少しペロッとなめると、一瞬、塩辛い味がしました。その瞬間だけなのかもしれませんが、何が入っているかわからない。そういう状況です。

この水路は右下の写真の手前へ流れ、地域の農業用水となっている日名内川に合流します。これでは、安心して米作りなどできるはずがありません。

◆悪質産廃業者、そして業者ズブズブの湯崎英彦知事が起こした惨状

 
処分場から流れ下ってくる水路の水

三原本郷産廃処分場(JAB協同組合経営)は三原市の水源のど真ん中にある2020年に地域住民や議会の反対を押し切って湯崎英彦・広島県知事が許可をしてしまいました。住民側は裁判を提起して許可取り消しを求めますが、2022年秋から処分場が稼働開始。2023年6月頃には汚染水流出が発覚しました。

さすがに広島県もJAB協同組合に警告を出しましたが、一度水質検査をして「合格」になっただけで、警告を解除。一方、同じころ、広島地裁は「知事が設置許可を出す判断過程に看過できない過ちがあった」として、産業廃棄物処分場の許可取り消しを命じる判決を言い渡しました。

しかし、湯崎県知事はこれを控訴しました。そして、控訴審からは事業者であるJAB協同組合が県側に加勢=補助参加=するありさまです。湯崎英彦知事は悪質な産廃業者とズブズブであることを隠しもしなくなったのです。

そうこうするうちにも、汚染水流出は継続。しかし、2023年9月に定期の検査をして以降は、産廃処分場内の水質検査をしていなかったのです。「法律で定められた定期検査はしている」と県側は言い逃れています。それはそうなのですが、これだけ悪臭や泡が立っている状況で、抜き打ち検査もしないとはどういうことでしょうか? 現状では広島県は全く当てになりません。

そもそも、廃棄物処理法(廃掃法)は極めてザルです。形式さえ整っていれば、産廃処分場は作って良いというものです。その中でも、いわゆる安定型処分場は「安定している物を捨てる」と称して、シートもなしにゴミを捨てて良い、というものです。実際には、「安定しているもの」に猛毒物質などが混じっているわけですが、展開検査をするだけで、詳しく調べるわけではないのです。

その結果、1980年代、1990年代には香川県の豊島をはじめ、各地で大問題になりました。そこで、広島以外の多くの都道府県や産廃処分場ができそうな市町村では、「水源を守る条例」「水道水源保護条例」などが制定されました。ところが、広島県だけはその流れに遅れてしまったのです。

00年代以降は、多くの産廃が広島を目指すようになりました。三原本郷産廃処分場(写真、岡田和樹様SNSより)に来ているのも多くは群馬や長野などの関東甲信越地方から来たゴミです。あるいは、不適切盛り土で問題になっている上安産廃処分場(JAB協同組合が開発し、拡張後に外資系巨大企業に売り飛ばす)も多くが他府県のゴミです。そして、福山などでも汚染水流出問題が発生。東広島市安芸津でも巨大な産廃処分場が計画されています。

住民裁判の原告共同代表の岡田和樹さんによると他の都道府県では、ゴミの持ち込みの際にも抜き打ちで検査をしているそうです。それも広島県はしない怠慢ぶりです。

廃掃法を上回る条例はない。国の法律の枠内で独自に抜き打ち検査をすることすらもない。許可の手続きもいい加減。これで、惨劇が起きない方がおかしいし、現に起きています。

◆福島原発事故による放射性廃棄物も流入の疑い

こうした中、福島原発事故による放射性廃棄物も流入している疑いがあります。3.11後、広島県は2012年段階では、まだ一期目だった湯崎英彦知事の独自の判断で、100ベクレル/kg以上放射能で汚染されたゴミの県内持ち込みを禁止したのです。ところが(湯崎知事が大差で再選された)2014年に条件付きとはいえ、8000ベクレル/kgに緩和。三原本郷産廃処分場についていえば、福島周辺の十二都県から12回の搬入があります。

住民の請求で情報公開されても、黒塗りで実態がわからないのです。県が業者の主張鵜呑みで、測定もせずに放射性廃棄物が入り込んでいる可能性があるのです。
廃掃法では、放射性廃棄物チェックできない。岡田和樹さんたちは、いま、何をしたら良いのか考えているそうです。

◆三原市が独自条例も不十分な内容

これまでにご紹介したように、湯崎英彦・広島県知事は産廃業者と「完全にグル」です。そして、その言い訳として、「廃掃法では書類と検査データが整っていれば許可するしかない」というものです。しかし、広島地裁では、検査データのとり方そのものが不十分だったわけで、そうした点が違法とされたわけです。それでも控訴をした知事は全く、県民を守る気はなく、業者とグルということです。

そうであるならば、市民に最も身近な市長と議会が住民と水を守るしかありません。それには、法的根拠である条例策定です。三原市民たちは、産業廃棄物処分場計画が持ち上がった段階で、「水源を守る条例」をつくる運動を進めてきました。そして、ついに2024年4月、三原市当局が条例制定へ向けたパブコメを実施しました。

 
岡田和樹様SNSより

ところが、岡田吉弘・三原市長が2024年6月定例市議会に出してきた条例案は、問題だらけでした。市民の要望や市民への意見聴取会、250以上のパブコメ意見、市議による質疑などで求めてきた最低限度の実効性も削られていました。さらには、住民の責務として「特定事業者の立場を尊重しなければならない」という文言が組込まれ、水質汚染を受ける被害者という立場の住民側を縛り、被害者側に「解決に努めなければならない」と求める条文が加えられる始末です。 

「これでは、水源保全をするための目的は果たされず、業者側に忖度し業者の立場を保全してしまう事になると言う前代未聞の内容となっていたのです。全国的に見てもこんな条例は存在せず、三原市の姿勢を問うものとなっていました。」(原告団共同代表・岡田和樹様)

そこで、議会中、住民たちは問題個所を修正するように指摘。市民とともに動く多くの議員と、修正案を練り上げ、各会派や個々の議員に問題と修正への理解を話し合いながら伝えていきました。その結果、6月12日の委員会で市民側の修正案が議員提案で可決。しかし6月18日の本会議では残念ながら当局側の原案が成立し、多くの課題を残しました。

◆汚染激化の中で三原市長選挙突入

そして、7月に入り、深刻な異臭が確認されました。これまで、住民の通報などに冷たい対応だった広島県と県警も重い腰を上げ、調査・捜査に乗り出しました。

また、三原市の7月の独自調査では、日名内川のCODの値が農業用水としての基準を上回ったことも発覚しました。こうした中で、三原市長選挙が告示されたのです。

◆「市民に寄り添う産廃対応」二新人、「個別の案件については意見交換しない」現職

前市議の田中さんは街頭演説などで「本郷産業廃棄物処分場の対応はまったく県の言いなり状態で、地域の市民の皆さんに寄り添う姿勢が見られない」と厳しく批判しておられます。

前教育長として元校長として長年三原の教育を支えてこられた計田さんも、「住民に寄り添った本郷産業廃棄物処理場の対応をします。」と公約しておられます

他方で、岡田吉弘市長は、選挙事務所でのミニ集会で岡田和樹さんが「汚染水が出て、住民に実被害が出ている本郷処分場問題に対する公約を出してほしい。また、意見交換の場を設けてほしい」と要望しましたが、吉弘さんは「印象操作はしないでいただきたい。個別の案件については、候補として意見交換しない」とのことでした。

終了後、一対一で和樹さんが「敵対心を持たないでいただきたい」と話すと、吉弘市長は「あなたが敵視している」趣旨の返事がありました。

和樹さんは吉弘市長に対して、「司法でも許可の違法性が問われ、三原市民8割の水道水源で進行している汚染水問題。

地域住民として実被害もでて、死活問題である本郷処分場問題に対して、この3年9ヵ月市長として何をしてきたのか。今回の市長選挙では、市長候補として、本郷処分場問題や困窮する市民にどう向き合うのか問われます。2018年から地域住民の方たちとともに求め続けてきた問題だけに、非常に寂しく今後がとても不安な気持ちになりました。」とコメントしておられます。

最近、選挙や政治を巡るマスコミやネットでの言説では、「石丸旋風」などに見られたように、若者が持ち上げられる一方で、「老害叩き」「シルバー民主主義批判」が流行っています。しかし、現実には「若い方が市民から乖離」ということも、この三原市における産廃問題などのように大いにあるのです。そのことに注意していきたいものです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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日本もパレスチナ国家承認に反対 ガザ停戦阻む米欧大国と日本の「論理」(広岡裕児)/災害や感染症を利用し地方自治を破壊 地方自治法“戦前回帰”の大改悪(足立昌勝)『紙の爆弾』8・9月合併号の注目記事 

月刊『紙の爆弾』の最新号記事がnoteで一部公開・購読可能となりました。記事単位での購入も可能になりましたが、『紙の爆弾』はあくまで紙がメインのメディアです。興味を持っていただけましたら、ぜひ書店でお手にとっていただければ幸いです。定価700円(税込)、年間定期購読7700円(1号分お得です)。ここでは8・9月合併号(7月5日刊行)の注目記事2本の一部を紹介します。

◆日本もパレスチナ国家承認に反対 ガザ停戦阻む米欧大国と日本の「論理」
 取材・文◎広岡裕児(ジャーナリスト)

 
 

 アメリカ停戦提案の裏で進む虐殺

アメリカのバイデン大統領が5月31日、ガザ停戦提案をした。まず6週間戦闘休止してイスラエル軍はガザの人口密集地から撤退し、100人ほどのパレスチナ人囚人を解放、ハマスは女性や高齢者・負傷者などの人質を解放し、死亡した人質の遺体を引き渡す。この間に両陣営が交渉し、イスラエル軍はガザから撤退して、残りの人質は解放され、「恒久的な停戦」をする、というものだ。

6月10日には、国連の安全保障理事会でこの停戦案をイスラエルとハマスの双方に合意し実行するよう求める決議が採択された。

バイデン大統領は、この提案はイスラエル側から出されたと言う。だが、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は「戦争を終わらせるための条件は変わっていない。すなわち、ハマスの軍事機構と統治能力の破壊、人質の解放、そしてガザ地区がもはやイスラエルに脅威を与えないという保証である」と断言し恒久的停戦を拒否する。

エジプトでこの提案についての交渉が行なわれている間にも、イスラエルは、ガザの住民たちの逃げ場となっているラファへの攻撃を粛々と進めている。ナチス・ドイツのように強制による移送はせず、パレスチナ難民たちに指定した「安全な場所」への移動を勧告している。それを聞かない人が残って死んでも、それは自由意思によるものであるから、イスラエルの責任ではないということだ。

そうこうするうちにハマスから人質4人を解放したと大宣伝である。この作戦でパレスチナ人はその50倍の犠牲を出したが、イスラエルの現政権を批判すると反ユダヤ主義のレッテルを貼られてしまうフランスなどのメディアでは、パレスチナ人の犠牲についてはほとんど触れられていない。ネタニヤフ首相は免責特権がなくなると汚職裁判が待っているから、絶対に政権を手放すことはできない。

政権は、パレスチナ人がこの世に存在すること自体を否定する極右との連立で保たれている。だから、戦争を続けるしかない。極右が離反しても中道が連立にのってくるという説もあるが、与党のリクードも極右に傾斜していることを忘れている。

 国家承認と国連加盟
 
このバイデン提案の10日前、5月22日。スペイン・アイルランド・ノルウェーはパレスチナを国家として承認すると発表。「パレスチナが自決権、自治、領土保全、安全を含む主権国家のすべての権利を保持し、主張できるべきであるという我々の見解の表明である」とアイルランドのサイモン・ハリス首相は説明した。

アイルランドは、バイデン大統領の母方の祖先をはじめ、大量移民した人々が受けた貧困と差別、英国との厳しい独立戦争の過去を持つ。パレスチナ人の情況を肌で感じる立場だ。

スペインのペドロ・サンチェス首相は、「今こそ言葉から行動に移り、苦しんでいる何百万人もの無辜のパレスチナ人に、我々は彼らと共にあり希望があることを伝える時だ」と述べた。

ノルウェーは、EU(欧州連合)加盟はしていないが、シェンゲン協定(欧州諸国間での出入国審査の廃止協定)には加盟しており、EUとも緊密な関係を持っている。ヨーナス=ガール・ストーレ首相は、「パレスチナ国家は中東和平を達成するための前提条件だ」とした。

続いて6月4日、新たにEU加盟国のスロベニアがパレスチナ承認をした。「この承認が、イスラエルとパレスチナ双方の穏健派勢力を強化し、パレスチナ自治政府の改革を促すことで、中東和平交渉に新たな弾みをつけることを願っている」と、ロベルト・ゴロブ首相は述べる。国会では、党首がイスラエルのネタニヤフ首相と親しい保守系野党スロベニア民主党が反対、同党が投票をボイコットするなか、全議席数90中52票の賛成で採択された。

これで、パレスチナ国家を承認した国は国連加盟国146とバチカンの計147カ国となる。

このさらに1月ほど前の4月18日、国連安保理でパレスチナ国家の国連加盟が討議されたが、アメリカの拒否権行使で否決された。現在、安保理には非常任理事国として日本、韓国も入っているが、これには両国とも賛成していた。英国とスイスが棄権で、反対したのはアメリカだけだった。

フランスのレゼコー紙(2024年4月19日付)は「パレスチナ人の夢は中断した」と言う。イスラエルが嫌悪するこの提案を潰すことによってアメリカは「ガザでの戦争の真っ只中に、国連に正式加盟するという希望を断ち切った」のだ。

パレスチナ自治政府は直ちに、投票の結果は、アラブ地域を「奈落の底の瀬戸際」に追いやる「あからさまな侵略だ。この間にもパレスチナの無辜の人々は、イスラエルの行動の代償、正義、自由、平和の遅れの代償を、自分たちの命と子どもたちの命で払い続けることになることを忘れてはならない」と声明を発表した。

5月10日の国連総会では、全加盟国の4分の3にあたる143カ国がパレスチナの国連加盟を支持する決議に賛成した。だが、安保理の承認がなければまったく効力はない。

なぜ今パレスチナ国家承認なのか? 歴史を振り返ってみたい。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/ne5195e4a6348

◆災害や感染症を利用し地方自治を破壊 地方自治法“戦前回帰”の大改悪 
 取材・文◎足立昌勝(救援連絡センター代表/関東学院大学名誉教授)

 
 

「地方自治法改正法案」が、自民・公明・維新などの賛成多数で6月19日に成立した。

今改正の目玉である国の地方自治体への指示権を認めてしまうと、大日本帝国憲法における天皇主権の下で、すべての権限が天皇に属し、地方自治の観念すら存在しなかった時代へと逆行してしまう。

地方自治は、戦後改革の一環として1947年に制定された地方自治法で、国の指示に服しない権限が、地方に認められたことに由来する。

特に、2000年の地方分権改革で、国と地方との関係は“対等”と位置づけられた。そのうえで地方自治法は、地方が担う「自治事務」についての国の関与を「必要な最小限度」とし、「地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない」と規定した。国民の生命や身体、財産の保護のため緊急の対応が必要な場合を除き、国は地方自治体に指示することはできない(245条の3第6項)。

結論的に言えば、今回の地方自治法改正による国の地方自治体への指示権の承認は、戦後改革で確立された地方自治制度を根本から揺り動かすものであり、国と地方の間に“主従関係”を認めていた戦前への回帰そのものだ。

 国の地方への指示を認める地方自治法改正

今回の改正は、現行の地方自治を否定し、国による地方自治体への関与を強めようとするものである。そのため、地方自治を認め、国と地方自治体との関係についての一般原則を定めた章とは別に、新たに章を起こし、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と普通地方公共団体との関係等の特例」を規定した。

この章は「特例」とあるように、従来の国と地方自治体との関係を超えた特別なものとして位置づけられている。

この特例で規定された具体的な内容は、次のとおりである。

想定されている事態は、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」である。具体的には大規模な災害、感染症のまん延その他、その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態だという。

そのような「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」が発生し、または発生するおそれがある場合には、国は、以下のような四類型の措置をとることができるとされた。

① 国による地方公共団体への資料又は意見の提出の求め
② 事務処理の調整の指示
③ 生命等の保護の措置に関する指示
④ 地方自治体相互間の応援又は職員派遣に係る国の役割

特に、重大な権限を行使することになる③生命等の保護の措置に関する指示については、特別な要件と手続きを定めている。

その要件として、まず「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」の規模および態様、その事態に係る地域の状況その他の当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に関する状況を勘案することが必要であるとした。

さらに、他の法律によって「生命等の措置に関する指示」ができる場合でないときに限るとされている。他の法律で具体的指示が定められているときは、それを行なわなければならない。

指示を行使するための手続きは、閣議決定で行なうという。

これらを簡略にまとめると、国民の安全に重大な影響があり、生命等の保護に特に必要で、個別法が想定しない事態であり、行使は必要最低限、ということになる。
ここで想定されている事態とは、具体的にはどのようなものだろうか。「大規模な災害、感染症のまん延」が例示されているが、それらは個別法ですでに対応されている。ならば、「その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」とは何なのか。

この規定の契機となったのは2020年2月、横浜港に寄港した大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号での新型コロナ集団感染だという。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/n3595ff254e40

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年8・9月合併号

『紙の爆弾』2024年 8・9月合併号

科学者は誰も信じていない CO2温暖化説の嘘ともたらされる被害 広瀬隆
植草一秀解説 米国債を売れば50兆円利益と円安是正 米官業「日本政府支配」
災害や感染症を利用し地方自治を破壊 地方自治法“戦前回帰”の大改悪 足立昌勝
WHOの公衆衛生全体主義を許すな!「パンデミック条約反対」日比谷公園2万人集会 高橋清隆
本当にワクチンを打つべきなのか? ウィルス「不存在」をめぐる科学的議論 神山徹
学歴詐称・事前運動疑惑、裏金自民援護 東京都知事選で露呈した小池都政の正体 横田一
フィリピン元大統領報道次官が訴える日比米安全保障の罠と日本との連帯 木村三浩
モディ政治の光と影 グローバル・サウスの盟主・インドの実相 浜田和幸
日本もパレスチナ国家承認を拒否 ガザ停戦を阻む米欧大国と日本の「論理」 広岡裕児
重信房子さんに聞く世界と日本の学生運動が証明するパレスチナ抵抗の正当性 浅野健一
政権交代に向け見極めるべきもの いま日本政治の転換を迫る負と正の力 小西隆裕
「岸田続投だけはありえない」「裏金国会」がもたらした自民党内の暗闘 山田厚俊
「社会貢献活動」法人設立の目的 ジュリー前社長が離さないジャニーズ最大利権
被害額は昨年から倍増 オンライン詐欺の実態と“野放し”の理由 片岡亮
世界史の終わりとハードボールド・ワンダラランド 佐藤雅彦
シリーズ日本の冤罪 特別編 西成女医変死事件 尾﨑美代子

連載
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け:西田健
「格差」を読む:中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座:東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER:Kダブシャイン
SDGsという宗教:西本頑司
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激変タイ国! ムエタイ界 コロナ禍後の現在 堀田春樹

2020年3月にルンピニースタジアムで発生した新型コロナウイルスの集団感染に始まったタイ国内のムエタイ界は大打撃を受けてさまざまな形で変貌を遂げてきました。

コロナ禍以前と同様にギャンブルありきのムエタイも復活していますが、”新しい様式のムエタイ”と言われるルンピニースタジアムでのONE Championship(興行名はONE Friday Fight)、ラジャダムナンスタジアムでのラジャダムナン・ワールド・シリーズ(RWS)といった新しいスタイルでのムエタイが毎週開催されて現地では人気上昇中の様相です。

今年5月28日には、ラジャダムナンスタジアムに於いて、現職警察官による総合格闘技ルールでの「COPS COMBAT」が開催され、女性警察官も出場。今やバイクの発表会にも使われ、いろいろなイベントが開催される殿堂スタジアムへ変貌してきました。

5月28日に行われたCOPS COMBATの様子 ©THAI RATH
COPS COMBATの試合、グローブはオープンフィンガーグローブ ©THAI RATH

◆ONEとRWSの人気

ONE Championship(設立当初はONE Fighting Championship)は2011年7月、総合格闘技団体としてシンガポールで設立されていますが、ルンピニースタジアムでのONE Friday Fightは2023年1月10日から始まりました。

ONE Championshipは魅せる演出と競技をバランスよく融合させて来た様子で、極力ワイクルー(試合前の戦いの舞い)を少なくし、試合中の演奏は排除。グローブはMMA(Mixed Martial Arts)と同様のオープンフィンガーグローブ使用となっており、ムエタイルールだけでなく、キックボクシングルールや総合格闘技(MMA)ルールでの試合も同興行内で混合して開催しています。

オープンフィンガーグローブはサイズがS、M、L、XLとあって選手各自が選べます。毎試合新品を使用し、重さ的には4オンス程度と言われます(大きさにより若干ズレがある模様)。

RWSは2022年7月22日より8人トーナメントでスーパーウェルター級、フェザー級、ライト級、ウェルター級で開催され始めました(当初の発表)。

RWSはONEよりは従来のムエタイ様式を残しており、試合前のワイクルーや試合中の戦闘音楽演奏は従来どおりでも、独自のルールを作り上げている部分があり、3回戦制でのラウンドマストシステム、オープンスコア制を採用しています(タイトルマッチは5回戦)。

ONEとRWSのトレードマーク

◆ギャンブルとしてのムエタイ

これらはいずれもタイ国スポーツ局で認可されている本来の正式なムエタイ競技で定められたものではありません。

本来のムエタイは1999年制定のタイの法律で管理されており、ムエタイ競技は5回戦(3分制)は当然で、グローブも打撃技も従来どおりです。スポーツ局が認定するコンバットスポーツ(一対一で戦うコンタクト競技)に関してはカテゴリーが4つに分かれており(以前に取り上げていたら重複する説明かもしれませんが)、

1.ムエタイ競技
2.ボクシング競技
3.アマチュア競技
4.その他の格闘技

以上が定められた分類です。

MMAや本来のムエタイルールとは違う独自のシステムで行われている3回戦制などの試合は、全てカテゴリー4の“その他の格闘技”に一括りにされている状態で、正規ムエタイ競技の公式戦とは違ってしまうのが法律上の解釈です。それでも“ムエタイ”と言ってイベントが開催されているのは、ここが抜け道と言えるような状態に規制が無く、緩く感じさせている要因でしょう。

しかし、細かな競技の規定に対して一般ファンや視聴者にとってはさほど興味は無く、観る側が面白いかどうかが重要で“これもムエタイ、あれもムエタイ”と多様化して来た流れでしょう。

プロモーター主催の正規5回戦制試合は、水曜日と木曜日のラジャダムナンスタジアム、火曜日と金曜日のランシットスタジアム、日曜日のBBTV・7チャンネルスタジアム、土曜日のオムノーイスタジアム、土曜日のヨッカオスタジアム(ジットムアンノンスタジアム)などで開催されており、コロナ禍前と同様にギャンブラーが賭けを行なっています。

ラジャダムナンスタジアム、ルンピニースタジアムなどの歴史あるスタジアムは、標準スタジアム、公式スタジアムと表現されることが多く、標準規定のリング設置、リングドクター常駐や厳格な計量、ボクシング法に基づいた運営と言えるスタジアムで、正式にギャンブル可能な賭博場の政府認可を受けたスタジアムとも言えます(現在ルンピニースタジアムは賭博停止)。

2018年6月17日、緑川創が挑戦したラジャダムナン王座、本来のムエタイである

◆スタジアムの新しい在り方

懸念されることは、ラジャダムナンスタジアムのタイトルマッチでも、RWS興行内で行われるタイトルマッチと通常のプロモーター主催興行で行われるタイトルマッチとでは、同じ5回戦でありながら、RWSではラウンドマストシステムでのオープンスコアでの採点方式で、通常興行では本来のシステム(10対10有り、採点公開無し)で行われておりダブルスタンダードになっています。同じスタジアムの正式タイトルマッチでシステムが違うことについては、採点基準そのものは問題無いものの、どこのマスメディアも問題提起しないことが不思議ではあります。

しかしながら、ONEやRWSのような新型ムエタイでも、ムエタイの名が世界に広まるのはタイ国としては大歓迎の様子で、本来のムエタイも正規のルール、システムで盛り上がっており、伝統格式が完全には崩れていない安堵もあります。生き残るのは元祖ムエタイか、新型ムエタイか、数年では決着は付かない様相のムエタイ界を楽しんでいきましょう。

6月14日のONE Friday Fightポスター

6月14日のONE Friday Fightに出場した日本側の選手4名もポスターに登場しました。
小田魁斗(VERTEX)
COCOZ (TRY HARD)
谷津晴之(新興ムエタイ)
山岸和樹(PCK連闘会)

6月22日のラジャダムナンワールドシリーズトーナメントポスター

6月22日のラジャダムナンワールドシリーズ、ウェルター級トーナメントが行われました。(8人制/ Aブロック4選手、Bブロック4選手)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

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モラル崩壊の元凶、「押し紙」── 西日本新聞・押し紙訴訟の報告 黒薮哲哉

福岡・佐賀押し紙訴訟弁護団の江上武幸弁護士による西日本新聞・押し紙訴訟の報告を以下、紹介する(編集部)。

◆福岡・佐賀押し紙訴訟弁護団 弁護士・江上武幸(文責)

去る7月2日、西日本新聞販売店を経営していたAさんが、押し紙の仕入代金3051万円の損害賠償を求めた福岡地裁の裁判で、被告の担当員と販売部長の証人尋問が実施されました。双方の最終準備書の提出を待って、早ければ年内に判決が言い渡される見込みです。

押し紙は、新聞社が販売店に対し経営に必要のない部数を仕入れさせることをいいます。販売店への売上を増やすと同時に、紙面広告料の単価を吊り上げるためABC部数の水増しを目的とする独禁法で禁止された違法な商法です。

押し紙は、1955年(昭和30年)の独占禁止法の新聞特殊指定で禁止されてから約70年になります。このような長い歴史があり、国会でも再三質問に取り上げられてきたにもかかわらず、なぜ押し紙はなくならないのか、公正取引委員会や検察はなぜそれを取り締まろうとしないのか、押し紙訴訟に見られる裁判官の奇怪な人事異動の背景にはなにが隠されているのか、といった問題については、マスコミ関係者、フリージャーナリスト、新聞労連、独禁法研究者、公正取引委員会関係者、司法関係者など多方面の関係者、研究者・学者らによって更に解明が進められることが求められます。

新聞の発行部数は1997年(平成9年)の5376万部をピークに、2023年(令和5年)10月には2859万部と半世紀で約46%も減少しています。新聞販売店も2004年(平成16年)の2万1064店舗から、2023年(令和5年)の1万3373店舗と大きく減っています。

このまま推移すれば、10数年後には紙の新聞はなくなるだろうと予想されており、現在進行中の裁判の経過や背景事情について、時期を失せず皆様にお知らせすることはますます重要性を増しています。

西日本新聞社は、販売店からの注文は書面やメールではなく電話で受け付けていると主張しています。他の新聞社が、販売店の注文はFAXやメールで受けているのを認めているのに対し、西日本新聞社は別途注文部数を記載した注文表のFAX送信を指示しているにもかかわらず、販売店から電話で受けつけた部数が正規の注文部数であるとの主張をくずそうとしていません。

FAXやネットではなく電話で受けた部数が正規の注文部数であると主張するメリットは、電話の会話には文字情報の記録が残らないからです。

押し紙裁判では、販売店経営に真に必要な部数を超える新聞がどれだけ多く供給されているかが審理の出発点となります。

西日本新聞社は販売店が電話で注文した部数が正式な注文部数であり、その部数を供給しているにすぎないと主張しているため、その主張をくつがえすには、電話の会話を録音する以外に他に適当な方法がありません。福岡市西部の西日本新聞・今津販売店の場合、店主は電話で報告した部数をノートに記録して残す方策を構じたものの、電話の会話を録音することまではしていませんでした。

私どもは、ノートに記載した部数は電話による注文部数と同じであるとの立証趣旨でノートを提出しましたが、西日本新聞社はノートに記載された実配数に多数の間違いがあると指摘し、ノートに記載された部数全体の信用性を争う訴訟戦術に出ました。裁判所も結局、西日本新聞社のこの主張を認め今津販売店の損害賠償請求を棄却しました。

今回は、佐賀県で販売店を経営していたBさんが電話で報告した部数を所定の用紙に書き込んで記録として残すだけでなく、電話の会話も録音していましたので、西日本新聞社はBさんが電話で報告した部数と記録された部数とが一致していることは認めざるを得なくなりました。

他方、Aさんは電話録音をしていませんので、録音データーを証拠に提出することは出来ませんが、Bさんが提出した証拠はAさんの裁判でも有利な証拠として利用することが出来ましたので、裁判所はAさんの主張を無下に退けることが難しくなったと見ています。

もう一つの成果は、電話で報告を受けた担当員は、報告部数をその場でメモし、後刻、長崎県全体の販売店ごとに、電話による報告部数と定数を一覧表に整理して記録している事実を認めたことです。

販売店毎の実配数がわかれば、広告主から公正取引委員会に対する押し紙の調査や、警察・検察に対し広告料の詐欺罪の告訴・告発が可能となります。

私は以前、ある新聞社の販売店経営者から、「押し紙をなくすために、まず自分が地元の警察に折込広告料の詐欺罪で自首しようと思っているがどうだろうか。」との相談を受けたことがあります。新聞社と販売店は折込広告料の詐欺罪の共犯関係にあるので、まず自分が自首して新聞業界の押し紙問題を世間に訴えたいというのです。

私は、「警察・検察・裁判所などの司法機関は、記者クラブなどの便宜供与にみられるように、新聞社と日常的に密接に交流しており、基本的には持ちつ持たれつの関係にあると考えた方が良い。仮に自首しても、新聞社は押し紙はしていないと言い張るし、新聞やテレビで報道されることもない。詐欺罪で立件されるとしても犯人はあなただけにされますよ。そうなれば家族を路頭に迷わせ、あなた自身の人生も台無しになるので、自首することは考えないほうがいいですよ。」といって、警察や検察への自首を断念させたことがありました。

今回は、部外秘の佐賀県販売店の部数報告書を内部関係者が公益通報してくれましたので、4・10増減の問題(*注記参照)と併せて、西日本新聞社の折込広告料の詐欺の事実は認定可能ではないかと考えます。

しかし、民事裁判だけでなく、公正取引委員会や、警察・検察庁に対する詐欺の容疑の証拠資料として提出することは決断しかねています。予想される社内圧力により、内部からの公益通報がなくなる危険性が懸念されるからです。

最後に、個人的感想を述べますが、西日本新聞社の押し紙は、読売・朝日等の中央紙の地方進出の防戦のために余儀なくされた側面がないとはいえないと思っています。私は当年73歳になりますが、福岡県南部の農村で生まれ育っており、家の購読紙は西日本新聞でした。

役場の職員の方が朝日新聞を購読しておられるのを知り、インテリの人は読む新聞が違うなと妙に感心したことを思い出します。当時、夏と冬休みの期間中の新聞配達は村の子供達の仕事でした。アルバイト代として10円玉を何枚か握らせてもらった時のうれしさは今でも覚えています。

新聞記者は若者のあこがれの職業でしたので、西日本記者に就職した友人・知人もおります。そのほとんどは社の幹部として定年を迎え、悠々自適の生活を送っています。

隣県の熊本日々新聞社は昭和40年代に予備紙2%の業界の自主目標を達成していますので、私はその事実を法廷で紹介しながら、担当員に、「熊本日日新聞社に習って西日本新聞でも押し紙をなくそうという動きはなかったのですか」と質問しました。比較的若い担当員でしたが、「他社のことですから」と口ごもりながら答えをはぐらかしてしまいました。

政治家、行政・司法官僚、大企業の役員、やくざや半ぐれなど、白アリが木造物を食い尽くすように、社会の隅々までモラルの崩壊現象が発生しています。私は、目を背けたくなるようなこれらのモラル崩壊の元凶は、新聞の押し紙にあると確信をもっていうことが出来ます。

最近、ユーチューブの番組をよく見るようになりましたが、様々な分野の人たちが新聞・テレビでは報道されない問題を分かりやすく紹介してくれています。インターネット社会の情報変化をつくづく感じています。

グーグルで「押し紙」を検索すると黒薮哲哉さんだけでなく、他の多くの人達による押し紙問題の調査・報道の記事、動画があふれるように出てきます。黒薮さんは、今回の裁判に、遠路わざわざ福岡市まで駆けつけていただき、西日本新聞社の証人の証言をいち早く記事にして発信していただきました。

インターネット上の押し紙に関する記事や動画は、海外のマスメディア関係者、公正取引委員会関係者、国会・地方議会の議員、学者・研究者など、関係各方面の多種多様な方たちが閲覧しておられます。本件裁判の行方についても、新聞業界関係者だけでなく、多くの方達から見守っていただいています。

押し紙問題に関する内部情報については匿名で結構ですので、私どもに公益通報していただくようお願いする次第です。

押し紙の解決のために、引き続き皆様のご支援・ご鞭撻をお願いして、今回の報告といたします。

* 4・10増減について

西日本新聞の郡部の販売店の場合、折込広告部数は4月と10月の年2回の定数が基準とされています。その月だけ約200部も多い部数が供給されています。

折込広告主は、折込広告会社の公表部数を信頼して枚数を発注します。あらかじめ押し紙を見込んで7掛けや8掛けで部数を発注する賢い折込広告主もいますが、自治体の広報紙などは公表部数通りの部数を発注しますので完全に税金の無駄使いが行われています。

本稿は『メディア黒書掲載の記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』(鹿砦社)
黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)