釜ヶ崎地域合同労組委員長が「日本維新の会」交野支部幹事長を選挙妨害の疑いで提訴 裁判は2月27日13時30分~ 大阪地裁808号法廷です! 尾﨑美代子

釜ヶ崎から「日本維新の会」の選挙妨害に対する裁判が始まります。

原告は釜ヶ崎地域合同労組委員長の稲垣浩さん、被告は日本維新の会・交野支部幹事長の高石康氏です。稲垣さんは、2023年3月31日告示、4月9日投票日の大阪市議会議員選挙(西成区、定数3)に出馬しました。

その際、自身の顔写真と氏名を印刷したポスターを掲示板に貼り選挙活動を行いました。すると4月4日午後3時20分、当時のTwitter(現Ⅹ)のアカウント名「やっぱり満里奈様」というユーザーが、稲垣さんのポスターの写真に「ヨゴレ稲垣」と書いた記事を投稿しました。

これを見つけた稲垣さんは、8月28日、Ⅹ社を被告として東京地裁に発信者情報開示命令を申し立てたところ、稲垣さんの申し立てを認める決定がでました。Ⅹ社は決定に従って、人物を特定するためⅩ社に登録されたアカウントの電話番号を開示。稲垣さんの代理人がその番号について照会をかけたところ、日本維新の会のと判明しました。そのため、稲垣さんは高石氏を被告として選挙妨害で損害賠償請求裁判を提訴いたしました。

「ヨゴレ」とは物理的に何かで汚れているということを意味するだけでなく、釜ヶ崎で野宿している人や労働者を汚れている、劣った者とする差別的な表現です。ちなみに、釜ヶ崎などを警らする西成警察署の警察官は、道路などで泥酔して寝ている労働者や野宿者を見つけると、「センター西側に450(ヨゴレ)が2人」などと報告する隠語として使われているという情報もあります。

この高石氏、身長190センチでスキンヘッド、強面の風体、私も選挙を手伝った際、何度か見ています。大阪ではかなりな「有名人」? 維新関係者からは「入道さん」などと親しみを込めて呼ばれているようです。過去に橋下徹氏の後援会青年部長だったとのこと、橋下氏が市長選に出馬した2014年、同じく市長選に出馬したマック赤坂氏が橋下氏の会見場に、公開討論をやろうと入っていった際、マック氏を羽交い絞めにして会場外に引きずり出したことでも有名です。

選挙の際には松井、吉村などのボディーガードとして動いています。2023年6月には「文春」で、維新の女性府議に強烈なパワハラを行ったことが暴かれていました。

さてこの間、さまざまな選挙の場で、ネットをどう使うかなどSNSの運用について、多くの問題が噴出しています。そんななかで、高石氏の「ヨゴレ稲垣」の投稿がどういう意味をもつかを考えてみます。稲垣氏の出馬した西成区は定員3名で、維新の会の議員も立候補していました。そうした状況下、高石氏が、稲垣氏を侮蔑するSNS活動を行ったことは、稲垣氏を落選させ、維新の会の立候補者を当選させることが目的であることはいうまでもありません。

この間、東京知事選や兵庫県知事選で、元検事の郷原弁護士らが、特定の候補者を当選させさないための、いわゆる「落選運動」を展開しています。これは公職選挙法142条で認められていますが、そこでは「当選をさせないために活動に使用する文書図画を頒布する者」は、チラシなどに電子メールアドレス等を正しく表示することが義務づけられています。しかし、高石氏の「ヨゴレ稲垣」の投稿などに、高石氏のメールアドレスなどは表示されていません。これ一つみても、違法であることは明らかです。

稲垣氏は今回の提訴について、以下のように訴えています。

「ツイッター(現Ⅹ)上の投稿は稲垣を貶めるだけではなく、政治家としての資質、人格を誹謗中傷することであることも明らかです。被告(維新の会)による選挙妨害に対して損害賠償を求める裁判です」

この高石氏は、9年前の大阪市議会補欠選挙に稲垣氏が出馬した際、西成区役所近くで演説をしようと準備を始めた稲垣氏に「橋下徹が来るので立ち去るように」と妨害しました。「こっちが先に来ているだろう」と、妨害をはねのけ演説を終えましたが、その後、選挙カーに戻ろうとすると、うしろから維新の別の運動員が稲垣さんに「ヨゴレ」「ヨゴレ」と何度も言っていました。維新関係者はずっとこんな感じなのでしょうね。

ぜひ、この裁判に、ご注目とご支援をお願いいたします。

【裁判の日程】2月27日(木)午後1時30分~ 大阪地裁808号法廷

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』(鹿砦社)
尾﨑美代子著『日本の冤罪』(鹿砦社)

《緊急声明》今こそ「原発依存社会」への暴走を止める市民運動の大高揚を! 「第7次エネルギー基本計画」の閣議決定を受けて 木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)

2月18日、石破自公内閣は、原発依存度を「可能な限り低減する」とした第6次までのエネルギー基本計画をかなぐり捨て、「原発最大限活用」を明記した「第7次エネルギー基本計画」を、国会審議をすることもなく、閣議決定しました。この基本計画では、既存原発の再稼働、40年超え運転を加速し、60年超え運転の拡大、原発建て替え、新設も画策しています。

東電福島原発事故の悲惨、能登半島地震の教訓をないものとして、「原発依存社会」を定常化しようとするものです。原発は、地震に脆弱で、地震に伴って、原発過酷事故が起これば、避難や屋内退避が困難であることは明かです。

原発は、何万年もの保管を要し、行き場もない使用済み核燃料の発生源でもあります。「第7次エネルギー基本計画」は、現在および未来の人々の命・尊厳・生活を蔑ろにするものです。

なお、自公政権は、原発活用の根拠として、①地球温暖化対策を挙げていますが、原子核に閉じ込められた膨大なエネルギーを解放する原発が温暖化抑制に有効であるはずがありません。また、原発は、建設過程から廃炉、使用済み燃料の処理処分過程まで、あらゆる過程で、二酸化炭素を発生させるのみならず、海水温度を上昇させ、海水中の二酸化炭素の放出も加速します。

一方、②AI活用のために必要な電力を供給するためとしていますが、AI機器の高性能化とも相まって、政府の宣伝するほど大量の電力は不必要との見解も多数です。世界には、自然エネルギーのみでAI電力を賄おうとする国が多数あります。自公政権の「原発ありき」の主張に正当性はありません。

一方、自公政権が、2023年5月末に数を頼んで成立させた「GX脱炭素電源法」の完全施行は、原発運転延長認可の基準の整備などが終了する本年6月6日とされています。完全施行されれば、原発運転期間を「原則40年、最長60年」とした規定を原子炉等規制法(環境省の外局組織「原子力規制委員会(規制委)」の所管)から電気事業法(経産省・資源エネルギー庁の所管)に移し、運転延長を原発推進の経産相が認可するようになります。

また、規制委による再稼働審査の期間や裁判所による仮処分命令での原発停止期間などを「原発運転期間」から除外・上乗せすることで、原発の60年超え運転を可能にしています。「第7次エネルギー基本計画」は、「GX脱炭素電源法」の実態化のための計画と言えます。

◆原発政策で、変貌し続ける自公政権

石破首相は、首相就任以来、原発政策を次々に変節させています。昨年8月の総裁選出馬時には、「原発をゼロに近づけていく」と表明しながら、首相になって以来、岸田政権のエネルギー政策をほぼ踏襲して「原発依存社会」に向かっています。
経団連や経済同友会の主張に迎合・屈服しようとしています。人の命や生活の犠牲の上に、電力会社、原発産業、ゼネコンなどの大企業に税金と電力料金を垂れ流すための政策です。

変節は、石破首相だけではありません。自民党の総裁候補者の内、つい最近まで、原発に関しては慎重派であった河野太郎(元デジタル相)、小泉進次郎(元環境相)の両氏も総裁選では、この主張を取り下げています。

野党の中にも、原発容認、原発推進を掲げる政党もあります。とくに、労使協調路線の電力総連を支持母体とし、議席を増やして政権の行方にキャスティングボートを握る国民民主党は、原発推進を先導すると懸念されます。また、「原発(とくに核融合)推進」を掲げる日本維新の会は議席を減らしたものの、それでも政権の行方の狭間にあり、与野党いづれもが、これに擦り寄ると思われます。

立憲民主党の代表選も昨年9月に行われましたが、4候補者の中に、真っ向から積極的に脱原発を主張する候補はゼロでした。何れもが「避難計画ができていないから原発に賛成できない」程度の姿勢でした。「原発は、避難計画を必要とするほど危険な装置」とは思わないのか?と言いたくなります。

このように、自民党、立民党の変貌は目に余りますが、彼らがいかに変貌し、何を願望しようとも、選挙の都合、政治的思惑あるいは経済的利益で、原発の老朽化を防ぐ技術、安全性を高める技術、使用済み核燃料の処理・処分技術が急に向上することはありません。彼らが変貌すればするほど、原発過酷事故の確率は拡大します。

◆失敗のエネルギー政策の結末が「原発依存社会」への暴走

そもそも、政府や電力会社の「原発依存社会」への暴走は、脱原発の流れに乗り遅れた失敗を取り繕うためです。もし、福島原発事故以降の政権や電力会社が事故の教訓を生かして、原発ときっぱり決別し、自然エネルギーに切り替える政策をとっていたなら、今頃、化石燃料や核エネルギーに依存することなく、電気を供給し、世界の自然エネルギーへの切り替えの流れをリードできていたでしょう。彼らは、エネルギー政策で失敗したのです。自らの失敗を反省せず、更なる原発推進へと暴走する政府と電力会社を厳しく糾弾し、自然エネルギーへの政策転換を求めましょう!

◆自然エネルギーに全面切り替えを!

今、世界は、紆余曲折を経ながらも、原発縮小、自然エネルギーへと向かっています。自然エネルギーのみを利用すれば、①燃料費はほぼゼロですから、コストは原発に比べて圧倒的に安いのは当然です。②地球環境の保全にも有効で、炭酸ガスを増やすこともありません。③大地震が発生しても過酷事故に至りません。また、④自然エネルギーは国際情勢の影響を受けない自前のエネルギーで、エネルギーの自立が可能です。

もとを正せば、人類のエネルギーに対する欲望のために、原子核に閉じ込められた膨大なエネルギーを解放しようとするから、原発過酷事故が起こり、危険極まりない使用済み核燃料が発生するのです。また、地球が数億年かけて地中に蓄えた化石燃料を100年程度で枯渇する勢いで使うから、炭酸ガスが増えるのです。

現在の焦眉の課題・気候問題は、太陽から現在届いている自然エネルギーのみを利用し、原子核や化石燃料に閉じ込められたエネルギーを解放しない社会の実現を求めています。

◆「第7次エネルギー基本計画」の実行を阻止し、「GX脱炭素電源法」を撤廃させましょう!

目に見え、耳に聞こえる市民の行動の高揚によって、混沌化、流動化しながら反動に進む流れを逆流させ、原発のない、人の命と尊厳が大切にされる社会を展望しましょう!

▼木原壯林(きはら・そうりん)
老朽原発うごかすな! 実行委員会。1967年京都大学理学部化学科卒。理学博士。専門は分析化学、電気化学、溶液化学。熊本大学、京都工芸繊維大学名誉教授等を歴任。京都悠悠化学研究所主宰。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年冬号(NO NUKES voice 改題 通巻41号)
紙の爆弾 2025年1月号増刊
A5判 132ページ 定価770円(税込み)

COP28 原発をめぐる2つの動き 「原発3倍化宣言」と「気候変動対策のための原発推進」合意〈4〉気候危機論」と原発の親和性 原田弘三(翻訳者)

◆「気候危機論」と原発の親和性

米国上院で証言を行ったハンセンは実は熱心な原発推進論者である(ハンセン著『地球温暖化との闘いすべては未来の子どもたちのために』日経BP、2012年参照)。

また、「気候危機論」を世界に広めた米国、フランス、イギリスのいずれもが原発推進に強い動機を持つ国である(この三国はCOP28での原発3倍化宣言国とも重なる)ことが物語っているように、「気候危機論」はその起源からして原発推進と強い親和性がある。先に触れたようにIPCCも従前から報告書の中で「原発はCO2を出さないため気候変動対策に有効」との見解を示してきた。それが今回COP28での「気候変動対策のために原発を推進しよう」という世界的合意として結実したのである。

「気候危機論」発祥の歴史的経緯は、「温暖化が地球環境の危機を招く」というハンセン証言以後の「気候危機論」が、1980年代以降の世界経済情勢に対応するために「人為的」に作り出されたイデオロギーであることを示唆している。そのイデオロギーの主要な意図はCO2という金融商品の活用と原発推進にある(本誌2023年夏号「『気候危機』論に関する1考察」、2023年冬号「『気候危機』論の起源を検証する」参照)。

◆「気候変動」対策を騙った原発推進を許すな

COP28が明確な「お墨付き」を与えたことにより、「気候変動」対策を謳った原発推進の動きが今後ますます強まることは間違いない。今年はエネルギー基本計画改定の年である。その中で、経済産業省は今回のCOP28合意を原発推進の口実として最大限活用するであろう。

パリ協定前文には「気候正義」という理念が掲げられている。これは、気候変動の影響や、負担、利益を公平・公正に共有し、弱者の権利を保護するという人権的な視点である。気候変動は人為的に引き起こされた国際的な人権問題であり、この不公正な事態を正して地球温暖化を防止しなければならないとする。つまり「気候変動」への対策は現代世界の不公正を正す活動であり、社会正義の実現だというのだ。

しかし、COP28合意文書はこともあろうに「気候変動対策のために原発を推進しよう」と世界に宣言したのである。究極の環境破壊である原発の推進が社会正義であろうはずがない。地球は温暖化しているのかもしれない。その温暖化にCO2の人為排出が影響しているのかもしれない。

仮にそれが事実であったとしても、温暖化防止のために原発を推進するなどということは救いようがないほど愚かな選択である。COPがそのような愚行を先導しているという現実を直視する必要がある。今回のCOP28の決定は、COPによって推進されている気候変動対策なるものの本質が、旗印に掲げている地球環境保護とは別の所にあることを物語っている。

COPの原発推進論を是認すべき道理などどこにもありはしない。私たち市民は、COP28合意文書は社会正義に反する「誤り」だと正面から批判すべきである。そして私は、福島原発事故という未曾有の核惨事を経験した国の1市民として、人類社会の持続可能性のためには脱原発こそが最優先である、と世界に向けて胸を張って主張したいと思う。

◎原田弘三 COP28 原発をめぐる2つの動き 「原発3倍化宣言」と「気候変動対策のための原発推進」合意
1〉「原発3倍化宣言」という暴挙
2〉「グローバル・ストックテイク」という文書に求められた役割
3〉「気候変動」3つの概念
4〉気候危機論」と原発の親和性

◎本稿は『季節』2024年夏秋合併号掲載(2024年8月5日発売号)掲載の同名記事を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

昭和のビッグイベント、オープントーナメントのその後! 堀田春樹

◆お祭り騒ぎ後の静けさ

前回までに語りました、キックボクシング界の見事な結集力を見せた活気ある1000万円争奪オープントーナメントも終わってしまうと閑散とした寂しさが残りました。その後は藤原敏男に続いて富山勝治も引退し、テレビに育てられたキックボクシングは終焉を迎えた1983年(昭和58年)で、このオープントーナメントの勢いもままならず、スターは居ない、テレビは付かない、再び沈静化した時代でした。

後の52kg級域頂上決戦は松田利彦が制した(1983.5.28)
暫定的日本統一ランキングは錚々たるメンバーが揃っていたが実現せず(1983.6)

◆タイガー大久保と鴇稔之らの運命

三階級優勝者の長浜勇、松本聖については過去に格闘群雄伝でも語っており簡略しますが、松本聖は興行の不安定さから出番が無くなり、長浜勇は翌1984年5月に優勝候補の一人ながら怪我で不参加だった斎藤京二に第2ラウンドKO負け。

52kg級の優勝者、タイガー大久保はその2ヶ月後、1983年5月28日の士道館興行で、こちらも優勝候補ながら準決勝で敗れ去った松田利彦と対戦。なんと第2ラウンドあっけなくKO負けしてしまいました。混沌としていた52kg級域でしたが、松田利彦株が急上昇。優勝者が崩れ落ちるのも、まだトップスターとして定着していない中での真剣勝負の厳しさがありました。

この後、タイガー大久保はプロボクシングに転向。「キックボクシングではもっと戦う場が欲しかった」という転身でした。

当時、京成小岩駅近くの西川ジムからも近かったロイヤル川上ジムからデビューし、数戦した後、アメリカのロサンゼルスに渡るも、アメリカでの試合は不遇な目に遭ったことも後に語られていて、紆余曲折した渡米のようでした。

3回戦トーナメントは後のチャンピオン、鴇稔之、渡辺明、鹿島龍、飛鳥信也も出場していた新人トーナメントでした。52kg級に出場した鴇稔之は初戦を勝利し、「これは決勝まで行けるな!」と思ったというものの、前回述べましたとおり、トーナメントはその後、立ち消えとなりました。

56kg級においては当初の10名トーナメントの開催が遅れたまま、6名に縮小となり立ち消え、62kg級においても欠場者が増え、いずれもその後の各団体に担った運営では日程も儘ならず、新人トーナメントは当初から計画性も進んでいなかった模様である。

後の62kg級域、ライト級頂上決戦は斎藤京二が制した(1984.5.26)

◆日本統一ランキング制定

同年6月半ば、オープントーナメント実行委員会は、トーナメント(5回戦)の結果を基に暫定的日本統一ランキングを発表されました。当時としてはなかなかの層の厚い名前が連なっていたものでした。

オープントーナメントは各階級を跨る変則的3階級で行なわれましたが、ランキングは当然の正規7階級制。トーナメントに参加していない選手名もランクされていますが、それまでの実績が考慮されての反映でした。

不参加だった伊原信一は新たに開拓していた香港興行が忙しくなった時期でした。先に述べました藤原敏男の後輩、斎藤京二は1982年7月のヤンガー舟木戦で負った顎骨折の影響で不参加でした。

またトーナメント戦から外れている、同シリーズ内で行なわれた重量級交流戦も対象となっており、向山鉄也(北東京キング)vsレイモンド額賀(平戸)戦とシーザー武志(東海)vs福島晃平(高葉)戦の4名はウェルター級とミドル級に分かれてランキングされています(勝敗結果は割愛します)。

正に画期的な日本ランキングでした。なかなか興味深いカードが期待され、これが真の日本統一王座制定へ進めば理想的でしたが、すぐの実現には至りませんでした。

しかし、1000万円争奪オープントーナメントも無駄ではないその後の流れでした。このトーナメントが在ったから辞めず踏み止まる選手やジムがあり、次の時代へ活かされたことでしょう。

◆オープントーナメントの裏側

元々、低迷期脱出と再浮上を狙っての二度に渡ったオープントーナメントでした。

500万円争奪戦はテレビ放映継続へ、1000万円争奪戦は業界全体の低迷からの底上げへ。欲を出せば裏目に出る傾向から、この時はテレビ放映復活の売り込みはしなかった模様。

また、優勝賞金は500万円争奪戦も1000万円争奪戦も資金調達が間に合わなかった様子も窺えました。ここにも苦しいやり繰りがありつつ、いずれも遅延しながらも円満に支払われた模様です。

1000万円争奪オープントーナメント開催前の5回戦組み合わせ抽選では、52kg級優勝者のタイガー大久保においては、新人戦の鴇稔之同様、「これは案外楽に決勝まで行けるぞ!」と思ったところが、抽選やり直しを強行されたという話もありました。56kg級、62kg級においては決勝戦で争うカードが予想され、優勝候補がブロック分けされている工夫が読み取れます。番狂わせもありましたが好カードは幾つも実現しました。

後々に第3回オープントーナメントが行われなかったのは、高額優勝賞金調達が難しいことや、当初の企画発案者、野口プロモーションの衰退に対し、業界が低迷期を脱し、定期興行が安定した中、業界が一致団結するイベントは難しくなったことでしょう。

その後は昭和から平成、令和にかけて小規模の幾つものトーナメントは開催されて行く中、今年(2024年)11月10日のNJKF祭から2ヶ月間で行なわれているJAPAN CUP 55kg級最強決定トーナメントは錚々たるメンバーが揃っているところ、チャンピオンクラスが3回戦制とか、準決勝と決勝はワンデートーナメント(12月30日横浜武道館K.O CLIMAX)というアマチュアのような在り方に疑問点はありますが、このイベントが成功すれば他のウェイト、階級でも開催が見込まれており、来年以降もそんな規模が大きくなるトーナメント戦は増えていくと予想されます。また昭和の1000万円争奪オープントーナメントを超える開催に期待したいものです。

時代は令和へ、JAPACUP 55kg級トーナメント、昭和のオープントーナメントを知らない世代たち(2024.11.9)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2025年3月号

横浜副流煙裁判、カウンター裁判で藤井敦子さんらが敗訴、検証が不十分な作田医師交付の診断書 黒薮哲哉

横浜副流煙事件に関連した2つの裁判の判決が、それぞれ1月14日と22日に言い渡された。裁判所は、いずれも原告(藤井敦子さん、他)の訴えを退けた。藤井さんは、判決を不服として控訴する。判決の全文は、文尾のPDFからダウンロード可。

時系列に沿った事件の概要と、判決内容は次の通りである。

◆事件の概要(下記PDF参照)
 http://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2024/12/fdcded61b04523e7464182896e2c1b40.pdf

◆横浜副流煙事件の「反訴」(横浜地裁)

原告:藤井将登、藤井敦子

被告:作田学、A家の3人(A夫-故人、A妻、A娘)

横浜地裁は1月14日、原告の訴えを退ける判決を言い渡した。この事件は、裁判の提起そのものが不法行為に該当するとして、ミュージシャンの藤井将登さんと妻の敦子さんが、前訴を起こしたA家3人と、それを支援した作田学医師を提訴したものである。藤井夫妻が請求された現金は、4518万円だった。俗にいうスラップ訴訟である。

藤井夫妻は、客観的根拠の乏しい診断書を根拠とした訴訟により、3年ものあいだ精神的、あるいは経済的な苦痛を受けたとして、その賠償を求めたのである。

前訴が不当訴訟ではないと裁判所が判断した根拠は、提訴に至る前段で複数の医師が、A家の3人のために、「受動喫煙症」や化学物質過敏症の病名を付した診断書を交付していた事実である。それゆえにA家の3人が、提訴するに足りる理由があったと判断したのである。

◆A娘の診断書

しかし、作田医師によるA娘に対する診断書交付は、無診察による診断書交付を禁じた医師法20条に違反している。作田医師はA娘とは面識がない。インターネットによる診察も実施していない。他の医師がA娘に交付した診断書や、A娘のA夫・A妻の話を聞いて、病名を決め診断書を交付したのである。

実際、A娘の診断書は、作田医師が「倉田医師の診断書や被告A妻から問診で聞いた情報を基に」(17頁下から11行目)作成した杜撰なものであるにもかかわらず、「違法な行為ということはできない」と認定している。こうして裁判所は、医師法20条違反も不問に付しているのである。

◆故A夫の診断書

故A夫の診断書にも不可解な点が見うけられる。作田医師は、診断書に「受動喫煙症」の病名を付しているのだが、A夫は提訴の1年半前までビースモーカーだった。25年間も煙草を吸っていた。A夫本人も喫煙者だったことを認めている。それにもかかわらず、作田医師は「受動喫煙症」の病名を付した診断書を交付したのである。

ちなみに、「受動喫煙症」という病名は、日本禁煙学会が独自に命名したもので、公式には存在せず、保険請求の対象にもなっていない。受動喫煙という現象は喫煙の現場で起こりうるが、その事と病状を呈することは別である。

◆A妻の診断書

さらにA妻の診断書にも、「受動喫煙症」の病名を付したうえに、副流煙の発生源を1階に住む「ミュージシャン」であると事実摘示している。現場を取材して、そのような結論に至ったのではなく、「問診」の中で、患者から聞き取った内容をそのまま記述した結果か、勝手な想像である。

ちなみにA家3人の診断書はいずれも、当時、作田医師が外来を開いていた日本赤十字センターの公式のフォーマットが使用されていない。

このように作田医師が交付した診断書には不可解な部分がある。A家3人が著名な医師を過信して高額訴訟を起こしたことについては、同情の余地もあるが、作田医師の責任は免れない。4518万円の訴訟を起こされた藤井さんの側が、大変な苦痛と不利益を味わったからだ。

本来であれば、裁判所はこれらの点を重点的に検証しなければならないはずだが、判決文からは、診断書に関する問題点を詳細に検討した跡は読み取れない。疑惑の診断書を簡単に是認することになってしまった。医師が交付した診断書であれば、どのようなものでも違法性はないという恐るべき結論を示したのである。

◆スラップ訴訟の法理

訴訟提起の違法性を問う裁判は、次のような法理で審理される。

「提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り、相手方に対する違法な行為となるというべきである(最高裁昭和63年1月 26日第二小法廷判決・民集42巻 1号1頁参照)」

引用文の主旨は、訴訟提起に法的な根拠がなく、勝訴の見込みがないことを原告が認識していながら、あえて訴訟にふみ切った場合、訴訟そのものが不法行為に該当するという法理である。この判例でも明らかなように、訴権の濫用を認定させるハードルが高い上に、日本国憲法でも提訴権を保証しているので、過去に訴権の濫用が認定された判例は10件にも満たない。スラップ訴訟が増えている温床にほかならない。

◆名誉毀損裁判(東京地裁)

原告:藤井敦子、酒井久男

被告:作田学

この事件は、1月22日に判決が下された。原告の敗訴である。

裁判の本人尋問の場で、作田医師が藤井敦子さんと酒井久男さんの名誉毀損的な発言を行ったこと対する損害賠償裁判である。法廷という限られた場における発言とはいえ、傍聴席は満員だった。しかも、暴言を吐いたのは、かくれもしない禁煙学の大家として、その名を津津浦浦にまで轟かせている日本禁煙学会の理事長、作田学医師である。まぎれもない公人である。

事件の概要については、この記事の冒頭にある「事件の概要」を参考にしてほしい。裁判所が採用した法理は、次のような論理である。

「反論する機会が保障されており、当事者の主張・立証の当否等は裁判所に判断されることにより、訴訟活動中に毀損された名誉を回復することができる。このような民事訴訟の特質に照らせば、民事訴訟における当事者の表現について、相手方等の名誉等を損なうようなものがあったとしても、それが直ちに名誉毀損として不法行為を構成するものではなく、訴訟と関連し、訴訟のために必要性があり、かつ、表現も著しく不適切で相当性を欠くとは認められないといった事情により、正当な訴訟活動の範囲内と判断される場合には、違法性が阻却されると解される。」

端的に言えば、法廷では反論権が認められているうえに、発言を認定するかどうかを判断するのは、裁判所であるから、著しく不適切な発言をした場合を除いて原則的に自由闊達な発言が認められるというものである。

この点に関して、わたしは原告・酒井久男さんのケースに言及しておきたい。裁判所が、議論の前提となる事実認定を間違っているからだ。事実に基づいた発言なり評論であれば、なのを述べようと自由だが、虚偽の事実に基づいた言論活動は、重罪である。

◆創作された前提事実

「事件の概要」にも記録しているように、酒井さんは2019年7月に日本赤十字センターの作田医師の外来を受診した。当時、藤井敦子さんは、夫の藤井将登さんが被告として法廷に立たされた高額訴訟で、作田医師による診断書交付に関する疑惑を持っていた。そこで酒井さんに、作田医師の外来を受診してもらい、みずからも付き添って診断書交付の現場を自分の眼で確認する計画を立てたのだ。

裁判の判決次第では、家族が経済的に崩壊しかねない状況に追い込まれていたわけだから、疑惑について確かめようとするのは当たり前の行動である。批判される余地はない。

酒井さんと藤井さんは、計画を実施に移した。診察室での酒井さんの態度について、作田医師は別訴(反スラップ裁判)の本人尋問の中で、「うさんくさい患者さんでした」、「うさんくさい人だなと思いました」、「当然、会計にも行っていないと思います」などと供述した。これらの暴言について、酒井さんは、内容証明の書面で作田医師に真意を問い合わせたが、作田医師は回答しなかった。そこで訴訟を提起したのである。

裁判の審理の中で、作田医師はこのような発言に至った理由を説明した。それによると、酒井さんと藤井さんが診察室を退出した後、診察室にたばこの臭いが漂ったので、うさん臭い人間であり、会計にも行っていないと思った。さらに診断を間違ったと判断して、事務の女性に指示して、酒井さんと藤井さんを追跡させた。

作田医師のこの弁解は、特に重要な点なので、それを裏付ける箇所を尋問調書から引用しておこう。弁護士の質問に答えるかたちで発言している。

弁護士:陳述書でも書いていただいたように、一つには診察が終わった後に男女の2人組み(黒薮注:酒井さんと藤井さんのこと)が出てったら、うっすらとたばこのにおいがしたんだと。それで事務方の方にも確認してもらって、やっぱりたばこのにおいがすると。これは、もしかしたら誤った診断書を出してしまったかもしれないと思って、慌てて後を追ってもらったんだと。ただし見つからなかったという報告があったと。こういう出来事があったことが一点でいいですか。もう一点としては、後に提出された酒井さんの診断書には、検印、割り印ね。病院の印鑑が押してなかった。この2点がまず挙げられているということでいいですかね。

作田:はい、そのとおりです。(略)

弁護士:診察した後に書類を整理していたら、たばこのにおいがしたというわけですね。

作田:はい。

弁護士:そのたばこのにおいがしたというのは、患者さんと思われる二人組が出ていってから何分ぐらい経っていましたか。

作田:まあ、3分ぐらい(※太字は黒薮哲哉)でしょうね。

作田医師は尋問の中で、自分が酒井さんに対して「誤った診断書を出してしまったかもしれないと思って」、事務の女性に後を追わせたと証言しているのである。従って、特別な事情がない限り、作田医師は酒井さんの診断記録を訂正するはずだ。

ところが作田医師が、酒井さんの診断記録を訂正することはなかった。なぜ、そのことが判明したのかと言えば、酒井さんを作田医師に紹介したユミカ内科小児科ファミリークリニックに対して、酒井さんが行った診療記録の開示により、訂正の痕跡がないことが確認されたからだ。

つまり煙草の臭いがしたから、事務員に酒井さんと藤井さんの後を追わせたというのは、この発言が法廷で争点になった後、作田医師が創作した話の可能性が高いのである。実際、喫煙者が退席して、3分後の臭いを感じ始めることなどありえない。また、その前の診察中には、臭いを感じていないのでる。

このように虚偽の事実を前提にして、作田医師は、一連の暴言の正当性を主張し、裁判所もそれを認めたのである。

◆横浜副流煙事件の「反訴」(横浜地裁)判決全文(下記PDF参照)
https://atsukofujii.lolitapunk.jp/%E6%A8%AA%E6%B5%9C%E5%9C%B0%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%B1%BA%EF%BC%88%E8%A8%B4%E6%A8%A9%E3%81%AE%E6%BF%AB%E7%94%A8%EF%BC%89%E4%BF%AE%E6%AD%A3%E7%89%882024-01-14-%E5%9C%A7%E7%B8%AE.pdf

◆名誉毀損裁判(東京地裁)判決全文(下記PDF参照)
https://atsukofujii.lolitapunk.jp/%E4%BD%9C%E7%94%B0%E5%90%8D%E8%AA%89%E6%AF%80%E6%90%8D%E8%A8%B4%E8%A8%9F%E5%88%A4%E6%B1%BA%E6%96%872025-01-22%20%EF%BC%88%E4%BF%AE%E6%AD%A3%E6%B8%88%EF%BC%89-%E5%9C%A7%E7%B8%AE.pdf

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年1月26日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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USAIDの内部資料で露呈した公権力とジャーナリズムの関係、だれがメディアに騙されてきたのか? 黒薮哲哉

トランプ大統領が、USAID(アメリカ国際開発庁)を閉鎖した件が、国境を超えて注目度の高いニュースになっている。USAIDは、原則的に非軍事のかたちで海外諸国へ各種援助を行う政府機関である。設立は1961年。日本の新聞・テレビは極力報道を避けているが、USAIDの援助には、メディアを通じて親米世論を形成すためのプロジェクトも多数含まれている。

実際、親米世論を育てることを目的に、おもに敵対する左派政権の国々のメディアや市民団体に接近し、俗にいう「民主化運動」で混乱と無秩序を引き起し、最後にクーデターを起こして、親米政権を樹立する手口を常套手段としてきた。そのためのプロジェクトが、USAIDの方針に組み込まれてきたのである。

USAIDの閉鎖後に公開された内部資料によると、助成金を受けていたメディアの中には、米国のニューヨークタイムスや英国のBBCも含まれていた。これらのメディアをジャーナリズムの模範と考えてきたメディア研究者にとっては、衝撃的な事実ではないかと思う。

Columbia Journalism Review誌の報道によると、USAIDは少なくとも30カ国で活動する6,000人を超えるジャーナリスト、約700の独立系メディア、さらに約300の市民運動体に助成金を提供してきた。

ウクライナでは、報道機関の90%がUSAIDの資金に依存しており、一部のメディア企業では、助成金の額がかなりの高額になっているという。

トランプ大統領がUSAIDを閉鎖した正確な理由は不明だが、「小さな政府」を構築すると同時に、事業を民営化する新自由主義政策の一端ではないかと推測される。

その役割を担って入閣したのが、イーロン・マスク氏である。従ってUSAIDが閉鎖されたとはいえ、今後は、従来とは異なった形で、経済的に西側メディアを支配する政策が取られる可能性が極めて高い。本当に資金支援を打ち切れば、西側世界はスケールの大きい世論誘導装置を失うからだ。

◆助成金の支出先がコミュニスト?

USAIDによる助成金に関するニュースの中には、間違った情報も含まれている。たとえば助成金の支出先は、「左派勢力」や「コミュニスト」であったというものだ。これはUSAIDの一方的な閉鎖を正当化するためのでたらめな報道にほかならない。

マスク氏自身も、Xの中で、USAIDを指して、「『非常に腐敗している』『悪だ』『アメリカを憎む急進左派マルクス主義者の巣窟』と表現している」。(Columbia Journalism Review誌)

なぜ、こんな根本的な誤りを犯しているのか? おそらくマスク氏にとって、左派やコミュニストとは、真正のマルクス主義者のことではなく、自分とは意見を異にする者のことである。マルクスやエンゲルスの著書を読んでいれば、こうした間違いはしない。だれがマルクス主義者で、だれがマルクス主義者ではないかも判別できる。

たとえ反トランプの陣営であっても、米国資本主義の枠内での改革を主張する者はマルクス主義者ではない。民主党のバーニー・サンダース氏がその典型例だ。米国共産党のように資本主義経済から、社会主義の目指す勢力がマルクス主義者である。USAIDに関する報道では、この点の区別において、大変な混乱が生じている。

◆NED(全米民主主義基金)の反共戦略

UASIDからの助成金を受け取ってきた個人や団体の大半は、「反共」の旗を掲げた右派勢力である。

たとえば、UASIDの下部組織にあたるNED(全米民主主義基金)を通じて提供された助成金の支払先は、同団体の年次報告書によると、香港の「独立」を目指す市民運動体やニカラグアの左派政権を転覆させよとしている市民運動体である。さらに同じ目的で、ベネズエラやキューバに関連した反共市民団体などである。いずれも左派勢力の転覆を目指す勢力である。

◎[関連リンク]NEDに関するメディア黒書の全記事 

◆日本における公権力によるメディア支援の構図

USAIDを閉鎖したことで図らずも、公的機関がメディアに経済的な援助を実施する構図が、国際的なレベルで判明した。日本のメディア企業やジャーナリスト個人が、助成金を受け取っているかどかは不明(一部は明らかになっている)だが、日本には、メディア会社の収益を劇的に増やす独自の手口もある。それがメディアのタブーとなってきた新聞社による「押し紙」制度である。USAIDの内情が暴露されたこの機会に、「押し紙」について考えることは、日本におけるメディアと公権力の関係を考える上で有益だ。

日本には、政府や公正取引委員会が新聞の「押し紙」制度を黙認することによって、新聞社に莫大な経済的利益をもたらす構造が存在する。わたしの取材によると、新聞業界全体で年間1000億円近い不正な資金が新聞社に流れ込んでいる。つまりUSAIDと世界のメディアの間にある癒着関係と類似した構図が、日本の公権力と新聞・テレビの間にも構築されているのだ。

これに関しては、次の3本の記事を参照にしてほしい。

◎「押し紙」問題がジャーナリズムの根源的な問題である理由と構図、年間932億円の不正な販売収入、公権力によるメディアコントロールの温床に

◎国策としての「押し紙」問題の放置と黙認、毎日新聞の内部資料「発証数の推移」から不正な販売収入を試算、年間で259億円に

◎1999年の新聞特殊指定の改訂、「押し紙」容認への道を開く「策略」

◆メディアリテラシーの欠落

改めて言うまでもなくメディア企業を運営するためには、資金が不可欠になる。この点を逆手に取ったのが、USAIDの助成金である。日本の場合は、「押し紙」制度である。「押し紙」の黙認が生む莫大な経済的メリットが、メディアと公権力の距離を縮める。この構図を把握することなしに、報道内容を批判しても、ジャーナリズムの質の向上にはつながらない。問題の解決にはならない。

USAIDの内幕が暴露されたのを機に、再度、メディアやジャーナリズムのあり方を考えてみる必要がある。だまされてきたのは、メディアリテラシーを身に付けていないわれわれ大衆なのである。メディア企業が成り立っている経済的な諸関係を理解した上で記事を解釈した方が良い。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年2月9日)掲載の同名記事
を本通信用に再編集したものです。

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ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2025年3月号

平和記念式典の過剰警備・過剰規制に弁護士会も抗議! 広島市は「全人類と追悼・核廃絶共有」の原点に立ち還れ! さとうしゅういち

2024年8月6日。広島の平和記念式典はまさに過剰警備・過剰規制でした。原爆ドーム前には「関所」ができ、平和公園を囲むように「城壁」ができていました。まるで三国志のゲームか何かの中のような錯覚さえ覚えました。「関所」での持ち物検査ではビラやプラカードを鞄の中に持っているだけで、入場拒否。また、そもそも持ち物検査にも法的根拠はないのですが、それを断ったために、平和公園内で開催される慰霊行事に参加できない人も出る始末でした。

当日、式典に参加した筆者も原爆ドーム前の「関所」(写真)では、年配の女性警備員が「これは何ですか?」とビラやプラカードについて質問されました。筆者は「これは、ただの紙です。ここでは。」と押し通しました。何度か同じ問答を繰り返しましたが「これはただの紙です。ここでは。」でなんとか、「検問」を突破したのを今でも鮮明に覚えています。さらに、平和記念公園内の式典会場の前にも設けられた「関所」では今度は金属検査をされました。

原爆ドーム前の「関所」(写真、式典前日に筆者撮影)

ただ、こうした過剰規制・過剰警備については、8.6以前の市議会で自民から共産に至るまで、ほとんどの議員が賛成した決議で後押してしまったのです。社民党の一人と無所属の一人、いずれも女性の方が決議に反対をしています。また、国民民主党所属の議員も退席をしています。そうしたことを背景に松井一實・広島市長は嵩にかかって過剰規制をしたと言えるでしょう。

これに対して広島弁護士会が過剰規制に反対する声明を2025年1月31日、出しました。

◎広島平和記念式典の規制強化に反対する会長声明https://www.hiroben.or.jp/iken_post/3595/
                    
「こうした規制に対して、私物の検査に応じず、かつ、広島市が許容しない物品を所持したままでは、広島平和記念公園内で慰霊の祈りを行うことができないとする本規制は、信教の自由に対する制約の程度として、必要最小限のものということはできない。

信教の自由は、個人の尊厳に密接に関連する精神的自由権であることから、上記表現の自由への制限と同様、その合憲性は厳格に審査されなければならない。そのため、「参列者の安全確保のため」という目的だけで、何ら法的根拠なく、本規制を行うことは正当化されない。

よって、広島市が行った本規制は、憲法20条に反し、市民の信教の自由を侵害するものとして許されない。」

と声明は指摘しています。

まったくその通りです。確かに、原爆ドーム前で、いわゆる新左翼系と言われる市民団体の演説などが「うるさい」と感じる市民が多かったのは事実です。ただ、2024年8月6日行われた規制は、持ち込み禁止の対象にマイク以外のものもなっていました。どう見てもやりすぎでしょう。

◆憲法擁護・尊重が欠落した広島市役所の体質も反映?

筆者は以前、広島市の職員が新規採用される際の宣誓文書に「日本国憲法を擁護・尊重」するという文言がないことを指摘しました。松井一實市長だけでなく、広島市役所内の憲法軽視の体質も過剰規制の背景にはあるのではないでしょうか?

◆G7広島サミット以来の米国忖度と連動

さて、この過剰警備は、広島市が2023年のG7広島サミットの開催が決定して以降、米国や日本以外のG7(旧白人帝国主義諸国)に過剰な忖度をしていることとも連動しているように思えます。

広島市は2023年のG7広島サミットを前に平和教育の教材からはだしのゲンや第五福竜丸を削除。サミット後には、パールハーバーと姉妹協定をエマニュエル駐日大使との間に議会の事前審議もなしに締結しています。

また、2022年の平和記念式典からは、ウクライナ侵攻の当事者であるロシアと同盟国のベラルーシを呼ばない対応をしています。他方で、2024年の平和記念式典にはイスラエルは招待する一方で、パレスチナは招待しないというどうみてもG7忖度の対応をしています。

◆トランプ2.0で米国も変質 忖度の意味なし

地球上の全人類と原爆犠牲者追悼・核廃絶・世界恒久平和を共有する意味からは、全ての国と地域の代表を呼ぶべきではないでしょうか?

確かに、ロシアの核威嚇発言は許しがたい。だが一方で、広島市に原爆を投下したのに反省も謝罪もない米国政府も招待されているのですよ?あくまで、平和「行政」なのだから、全ての国と地域とともに、原爆死没者追悼・核廃絶・世界恒久平和の思いを共有する、の原則に戻れば良いのではないでしょうか?

米国はトランプ政権下で良いか悪いかは別にして根本的に変わりつつあります。イスラエル首相のネタニヤフ被疑者との首脳会談後の記者会見でトランプは、ガザを米国所有するなどと言う発言をして世界を仰天させました。民主党政権下では、法による支配の守護者のふりをしてあくどいことをしていた感のある米国政府ですが、もはや、法による支配の守護者のふりさえしない。「国徳」が暴落しようがかまわない、と言う姿勢になっています。

そうした、米国に忖度し続けても広島にとってもなにも良いことはありません。そして、トランプ2.0の背景にある「西洋の時代」と言う数百年単位での大きな波の終焉傾向=「西洋の没落」は変わらない。

こうした情勢にも鑑み、広島市は規制の在り方、招待の在り方両面で平和記念式典の在り方を原理原則に還って、また公務員全員が仕事をする上で守るべき日本国憲法の精神に戻って見直すべき時に来ています。

特定の国忖度ではなく全人類と原爆犠牲者追悼・そして核廃絶の思いを共有する原点に還り、Make Hiroshima Great Again! こそ、求められるのではないでしょうか?

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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武田幸三率いるNJKF CHALLENGERは今年も過激に前進! 堀田春樹

今年もエース格、大田拓真は圧倒のKO防衛。世界へ大きく前進。
吉田凛汰朗は薄氷の初防衛、課題は残るも世界へは一歩前進。
女子試合、SAHOは攻勢を保って判定勝利。

◎NJKF CHALLENGER 7(2025.1st) / 2月2日(日)後楽園ホール17:15~21:31
主催:(株)オフィス超合筋 / 認定:ニュージャパンキックボクシング連盟(NJKF)

戦績は興行プログラムを参照、この日の結果を加えています。

◆第9試合 NJKFフェザー級タイトルマッチ 5回戦

第14代選手権者.初防衛戦.大田拓真(新興ムエタイ/1999.6.21神奈川県出身/ 57.0kg)
41戦31勝(10KO)8敗2分
      VS
挑戦者1位.TAKAYUKI(=金子貴幸/K-CRONY/1988.11.18茨城県出身/ 56.95kg)
33戦17勝(7KO)15敗1分
勝者:大田拓真 / KO 4ラウンド 30秒 /
主審:児島真人  

ローキックとパンチの様子見から大田拓真が先に仕掛け、パンチ連打で金子貴幸をコーナーに詰める攻勢。

第2ラウンドも大田が攻勢を強め、金子をロープ際に追い込み首相撲からヒザ蹴りも加えていく中、俯く金子に右フックかヒジ打ちか、側頭部にヒットさせノックダウンを奪う。圧倒する大田が蹴りから追い詰めてヒザ蹴り、コーナーに詰めると右ストレートで2度目のノックダウンを奪う。

終始圧倒した大田拓真は飛びヒザ蹴りで金子貴幸にプレッシャーを与えた

第3ラウンド、劣勢でも巻き返したい金子に、太田はペースを乱さない。右ボディーブローから右フックでノックダウンを奪い、仕留めに掛かる大田はロープに詰めて組んでヒザ蹴り、右フックで通算4度目のノックダウンを奪う。更に攻める大田はヒジ打ちで金子の右頭部をカット。インターバル中の金子は陣営に止血されながら目を瞑り疲労困憊の様子。

人生一番苦しい時間かもしれない第4ラウンド、絶対優勢の大田がパンチからヒザ蹴りでノックダウンを奪うと、レフェリーはカウントする中、終了のゴングが打ち鳴らされた。セコンドはタオルを投げてはおらず、WBCムエタイルールをNJKFルールにも起用していたということで、全ラウンドを通じての5ノックダウン制で自動的KO勝利となって初防衛となった。

大田拓真の右ハイキック、懸命に戦う金子貴幸にヒット

リング上で大田は王座返上を告げ、6月8日のNJKF興行でWBCムエタイ世界タイトル挑戦の意向を示しました。

大田拓真は金子貴幸の印象を「覚悟を持ってチャンピオンベルト狙いに来ているなという目と気迫を感じていました。僕も本当に油断せず、世界を狙って行くには誰が相手とか関係無く、しっかり追い込んで来たので、結果がしっかり出せて良かったです。」

今後については「ONE(Championship)もそうですし、WBCムエタイ世界戦もNJKFでやらせて頂きたいと意向を伝えました。」と内定したWBCムエタイ世界フェザー級王座挑戦は実現に向かう模様である。

金子貴幸は「もっといけるかなと思ったんですけど、大田選手はあまりにも強過ぎて、こんなに差があるのかビックリしちゃいました。」と完敗を認めていた。

愛息子とツーショットに収まる大田拓真

◆第8試合 NJKFスーパーライト級タイトルマッチ 5回戦

第7代選手権者.初防衛戦.吉田凜汰朗(VERTEX/2000.1.31茨城県出身/ 63.2kg)
28戦13勝(3KO)10敗5分
       VS
挑戦者.健太(E.S.G//1987.6.26群馬県出身/ 63.2kg)122戦68勝(21KO)47敗7分
勝者:吉田凛汰朗 / 判定2-0
主審:多賀谷敏朗
副審:宮沢49-48. 児島49-49. 中山49-48

距離を取ってのパンチとローキックで出方を探る様子見の両者。徐々に経験値優る健太が前進。ハイキック、右ストレートヒットとパンチでわずかに上回ったかに見える攻勢。

第3ラウンドには、健太のパンチか、吉田の左目尻から出血。このラウンドまでの公開採点でジャッジ三者とも第3ラウンドに差を付け30-29で健太が優勢。第4ラウンドも一進一退な展開は変わらずも、健太の手数がやや落ちたか。

流血の吉田凛汰朗が健太と打ち合う

最終第5ラウンドも倒しに行こうと吉田はパンチを振り回してもヒットしないが健太も同様に吉田を止められない。互角の展開で終了も判定は逆転した流れで吉田凛汰朗が勝利した。第4ラウンド以降はジャッジ二者は吉田にポイントが流れた模様。一者は第5ラウンドのみ吉田に与えドロー裁定。微差も振り分けるなら採点が不可解とは言えないが、見極めの難しい試合だった。

初防衛に成功した吉田は、勝ったらいろいろ言いたかったことがあった様子も、出直しを誓っていた。

健太と吉田凛汰朗、微妙な判定に明暗分かれた両者の表情

◆第7試合 53.0kg契約 ノンタイトル3回戦

S-1女子世界バンタム級チャンピオン.☆SAHO☆(闘神塾/1999.10.15兵庫県出身/ 52.85kg)
21戦19勝2敗
        VS
ダンコンファー・キヤペットノーイジム(タイ/23歳/ 52.65kg)52戦38勝14敗
勝者:SAHO / 判定3-0
主審:少白竜
副審:多賀谷30-28. 児島30-28. 中山30-28

SAHOは蹴りとパンチのリズムで距離を詰め攻勢強める。ダンコンファーは下がり気味でも怯まずチャンスを窺う。第2ラウンドも同様にダンコンファーが蹴って来てもSAHOも構わず蹴りパンチとも多彩に優っていく前進が続いた。

SAHOが圧倒したが、ダンコンファーもムエタイボクサーらしく蹴りは上手かった

第3ラウンド、首相撲になってもSAHOがダンコンファーを崩して優る。SAHOが終始圧倒する展開となったがKOには至らず、チャンピオンとして納得いく試合が出来なかったことに反省のコメントも残していた。

チャンピオンとして納得いかない内容に反省の弁もあった

◆第6試合 ミドル級3回戦

WBCムエタイ日本スーパーウェルター級チャンピオン.匡志YAMATO (大和/1993.1.29愛知県出身/ 72.25kg)28戦16勝(9KO)10敗2分 
        VS
雄也(MY/29歳/ 72.1kg)9戦2勝(2KO)7敗
勝者:匡志YAMATO / TKO 3ラウンド 1分48秒 /
主審:宮沢誠 

匡志がローキック中心の前進。更にパンチ連打で攻勢を強めていく。第2ラウンドも蹴りで雄也をコーナーに追い詰めローキックでノックダウンを奪う。更にパンチ連打で二度目のノックダウンを奪う圧倒の展開。

第3ラウンド、匡志が追ってローキックからコーナーに詰めて右ストレートでノックダウンを奪う。雄也は蹴りで反撃も疲労困憊。更に右ストレートで通算4度目のノックダウンを奪うとノーカウントのレフェリーストップとなって匡志が圧勝となった。

匡志は対戦相手(他団体チャンピオン予定)が変更された経緯もあって、雄也戦となったことに感謝の言葉を述べて、次回には他団体チャンピオンやタイ選手など強い相手を要望していた。

◆第5試合 51.5kg契約3回戦 

S-1世界フライ級チャンピオン.優心(京都野口/2002.5.28京都府出身/ 51.05kg)
17戦7勝7敗3分 
      VS
NJKFフライ級チャンピオン.西田光汰(西田/2001.2.13愛知県出身/ 51.4kg)
12戦8勝(1KO)3敗1分 
勝者:西田光汰 / 判定0-2
主審:多賀谷敏朗
副審:少白竜28-28. 宮沢28-29. 児島28-29

優心は首相撲や蹴りとパンチのコンビネーションでやや優る流れが続いた。第3ラウンドには西田光汰の右ストレートで優心がバランス崩してスリップダウンし、更に似た流れながら西田の右ストレートでスリップ気味に尻もちをつくと、レフェリーはノックダウンと見極めた。

西田光汰の右ストレートが優心にヒット、ノックダウンに至る兆しはあったか

ノックダウンではないとアピールする優心だったが、覆らぬことは分かる様子で素直に受け入れ、再開後に反撃も巻き返すには時間は少なく終了し、西田がポイント的には逆転する判定勝利となった。

“フラッシュダウン”の後の両者のアクション、レフェリーは毅然と対処した

◆第4試合 フライ級3回戦

NJKFフライ級3位.髙木雅巳(誠至会/ 50.55kg)12戦7勝(5KO)5敗
        VS
NJKFフライ級4位.永井雷智(VALLELY/ 50.8kg)7戦6勝(4KO)1分
勝者:永井雷智 / 負傷判定0-3 / テクニカルデジション 2ラウンド 1分8秒
主審:中山宏美
副審:少白竜19-20. 多賀谷18-20. 児島18-20 

永井雷智がパンチ中心にやや優勢気味に進めたが、第2ラウンドに髙木雅巳の股間ローブローを受けた永井雷智がダメージを負って立ち上がれず試合終了。偶然のアクシデントによる負傷判定となって永井雷智が望まぬ展開ながらも勝利した。

◆第3試合 スーパーフェザー級3回戦

NJKFスーパーフェザー級6位.匠(KING/ 58.5kg)9戦6勝(2KO)2敗1分
      VS
豪(GRATINESS/ 58.65kg)6戦4勝(3KO)2敗 
勝者:豪 / TKO 3ラウンド 1分21秒 /
主審:宮沢誠

第2ラウンドに豪が接近戦でのパンチでノックダウンを奪い、ヒジ打ちで匠の右瞼をカットし、第3ラウンドにも豪がヒジ打ちで匠の左目尻もカットし、流血が酷くドクターの勧告を受入れレフェリーストップ。

豪(左)のヒジ打ちで流血しながら戦う匠(右)

◆第2試合 スーパーフェザー級3回戦

Ryu(クローバー/1990.1.14茨城県出身/ 60.9→60.65kg)1.68kgオーバー、計量失格、グローブハンデ、減点2
7戦3勝(2KO)3敗1分
      VS
細川裕人(VALLELY/ 58.75kg)8戦4勝3敗1分
勝者:細川裕人 / 判定0-3 (25-30. 25-30. 26-30. Ryuに減点2が加算)

前進して蹴る勢いはあるRyuだったが、細川裕人がパンチからヒザ蹴りで応戦。ボディーを徹底的に狙った細川裕人が大差の判定勝ち。

◆プロ第1試合 60.5kg契約3回戦

高橋優(CORE/ 60.4kg)1戦1勝(1KO)
     VS
井岡巧(E.S.G/ 60.25kg)1戦1敗
勝者:高橋優 / TKO 2ラウンド 1分59秒 /

高橋のボディー蹴りで井岡巧が2度目のノックダウンでカウント中のレフェリーストップ

◆アマチュア2. オープニングファイトEXPLOSION U15 -60kg 級2回戦(90秒制)

佐藤陽平(第4代EXPLOSION60kg級覇者/TAKEDA/ 59.65kg)
     VS
田中豪 (VALLELY/ 60.0kg)
勝者:佐藤陽平 / 判定3-0 (20-18. 20-19. 20-18)

◆アマチュア1. オープニングファイトEXPLOSION U15 -45kg 級2回戦(90秒制)

堀口遥輝(TAKEDA/ 43.7kg)vs吏佐(ポンムエタイ/ 44.05kg)
勝者:吏佐 / 判定0-3 (17-20. 17-20. 17-20)

《取材戦記》

大田拓真は順当に金子貴幸を圧倒するKO勝利で初防衛。更なる上位王座を目指すことにはファンや陣営、NJKF運営関係者も新たな展開に期待したいところでしょう。
敗れた金子貴幸には戦前、もし番狂わせが起こったら。ここから金子貴幸の新たなドラマが生まれればという想定も出来ましたが、そこには至らずも、大田拓真に向かって行った闘志は、撥ね返されても悔いの残らない戦いだったでしょう。

この試合、レフェリーが止めた訳でもない不自然な試合終了だったので、試合後にレフェリーや運営部に尋ねたところが、全ラウンドを通じて5ノックダウン制だったらしく、WBCムエタイルールに倣ったという、そういった細かいルールは改訂する毎に発表する必要があるでしょう。NJKFはそんな曖昧さが少ないしっかりした団体です。今後の厳格な運営にも期待です。

吉田凛汰朗は僅差判定勝利の初防衛。2年前に敗れている老獪なテクニックの健太に雪辱出来るか、年齢や吉田の成長度で健太を圧倒しなければならないといった見所がありましたが、健太に呑まれた流れの微妙な結果と「パンチ貰っちゃいました!」と苦戦の反省もしていました。まずは“防衛してこそ真のチャンピオン” を果たして、更なる防衛か上位王座へ一歩前進でしょう。

優心にノックダウン奪って判定勝利した西田光汰は、第3ラウンドに西田の右ストレートによる優心のスリップ気味のフラッシュダウンではあったが、ノックダウン扱いとなったのは、軽くてもパンチを受けた上、尻もちダウンが2度目だったことが窺えました。要は同じパターンで尻餅ついては不利な流れとなったかもしれないことでしたが、他者の意見では「あれはノックダウンではないだろう」という意見も聞かれました。また、タイムストップはせず、ラウンド終了後に審判団で審議することも可能でしょう。

女子のSAHOは攻勢を維持し内容的には大差の展開でしたが、チャンピオンとして圧倒出来なかった、KO出来なかった悔しさはあったでしょう。試合内容に納得していないというSAHOはマイクで「また強くなって帰って来ます」とコメントを残しました。

次回、NJKF CHAKKENGER.8は4月27日(日)に後楽園ホールで開催です。バンタム級とスーパーバンタム級で各4名参加のトーナメントが発表されています。詳細はまた次回に。決勝は6月8日予定です。

他、3月16日(日)に女子ミネルヴァ興行、「GODDESS OF VICTORY Ⅲ」がGENスポーツパレスで開催。同じく3月16日、大阪で誠至会興行、4月20日(日)岡山県で拳之会興行が予定されています。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2025年3月号

『紙の爆弾』2025年3月号に寄せて 『紙の爆弾』編集長 中川志大

フジテレビ問題に続き、週刊文春“誤報”問題が世間を騒がせています。1月27日の「10時間記者会見」でフジは、中居正広の事件把握後も出演番組を継続した理由について、「もし正式な調査に着手することで新たに多くの人間が知ることになると、女性のケアに悪影響があるのではないかと危惧した」と回答。文春の“誤報”は、事件当日に被害女性が中居宅を訪れたのはAプロデューサーではなく中居の誘いだった、というものでしたが、そうであればいっそう、望まない誘いに女性がなぜ応じたのか、そこで起きた事態をなぜフジは放置したのか、という点で、フジテレビのカルト性が浮かび上がってきます。同時にそんな社風が構成された背後に、日本の歴史的な男性社会も見なければなりません。

一方で、週刊文春の“誤報”を叩き、あげく「フジテレビ形勢逆転」と報じるメディアまであることには、大きな違和感があります。そもそも「文春砲」が生まれたきっかけはタレント・ベッキーの一件で、たかが不倫を大事件にしたのは文春ではなく世間でした。「文春砲」を勝手に権威化して、訂正記事を出したらこき下ろす。そんな状況で、オールドメディアもニューメディアもないのでは。とにかく必要なことは、メディアにかかわらず、私たち自身が報道に接する姿勢なのだと思われます。

アメリカで第二次トランプ政権がスタート。そのことが、日本人にとって「対米自立」を徐々にでも、具体的に意識させつつあるように感じています。ひょっとすると、石破茂首相の日米地位協定への言及も、トランプ大統領の再就任を前提としていたのかもしれません。とはいえ、本誌に登場する鳩山友紀夫元首相や植草一秀氏の指摘どおり、永田町のほとんどと、なにより霞が関は、あくまで対米従属です。人々の間で自立を求める声が高まるほど、その異常性が浮き彫りとなり、自民党裏金事件やフジテレビ問題もあわせて政官業米電の実態が暴かれつつあります。

現実に、日本は世界からアメリカの属国とみなされ、その主張が説得力を持たない状況が続いています。10年前、後藤健二さんを拘束・殺害したイスラム国から、当時の安倍晋三首相が「8500キロ以上も離れているのに、十字軍への参加を自ら志願した」となじられたことが思い出されます。そういう中で、日本が主体性を取り戻し、他国にそれを認めさせるきっかけとしなければならないのが、日本製鉄によるUSスチール買収問題です。バイデン前大統領の禁止命令を発端にしたこの問題で、日本政府の姿勢が問われています。決して日鉄が望んだことではないでしょうが、自ら日米関係との秤にかけられたようにも見えます。一方、鳩山元首相も語っているように、すでに沖縄の人々の命と貴重な自然環境より、アメリカへの忖度を優先し続けているのが日本の政府です。

ほか今月号では、トランプ大統領による安倍昭恵氏「私邸招待」の目的、日本でだけ増加を続ける「超過死亡」問題、警察の身分偽装、ヒット中の映画『どうすればよかったか?』と日本の精神医療、さらに“実行可能”で世界を変える「日本のグリーンランド買収」提言など、本誌ならではのレポートをお届けします。ぜひ全国の書店で入手をお願いいたします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2025年3月号
『紙の爆弾』2025年 3月号
A5判 130頁 定価700円(税込み)
2025年2月7日発売

鳩山友紀夫元首相インタビュー
対米自立と政権交代——USスチール買収騒動が問う「日本とは何か」
トランプ第二次政権で日米関係の行方は? 日本の「対米従属勢力」を暴く 植草一秀
「安倍昭恵私邸招待」に隠された目的 トランプと孫正義 蜜月の裏側 浜田和幸
シリアにしのびよる「第二のナクバ」アサド政権崩壊の背後の国際謀略 木村三浩
ワクチンとの明らかな相関 最高値更新を続ける日本の超過死亡の原因 青柳貞一郎
“闇バイト対策”名目に国民監視強化 警察が身分証を“偽造”「仮装身分捜査」とは何か 足立昌勝
映画『どうすればよかったか?』を観た全ての人へ 精神疾患者への日本人の無知と無理解 野田正彰
薬物蔓延、連日の銃乱射、ホームレス急増……「危険国」アメリカの現在 片岡亮
実現可能で世界に貢献する“死活の奇手”日本こそがグリーンランドを買収せよ 藤原肇
中居正広「9000万円示談」で露見したフジテレビ「女子アナ上納」の伝統 本誌芸能取材班
米国マスコミが自主検閲で隠してきた2024年の重大ニュースTop25 佐藤雅彦
横行する「排除の論理」石丸新党・国民民主党・立花N国の記者排除 横田一
【静岡県掛川・菊川市】行政と産廃業者の露骨な癒着 不要な「ごみ外部委託」で巨額公金横流し 青木泰
報道改革提言・冤罪救済のウルトラマン監督・山際永三さんを偲ぶ 浅野健一
シリーズ日本の冤罪「ブラック校則」事件 片岡健
「カウンター大学院生リンチ事件」から十年(中・補)松岡利康

〈連載〉
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER Kダブシャイン
「ニッポン崩壊」の近現代史 西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/

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西日本新聞押し紙裁判 控訴のお知らせ──モラル崩壊の元凶「押し紙」 江上武幸(弁護士)

2024年(令和6年)12月24日の西日本新聞押し紙訴訟の福岡地裁敗訴判決について、同月27日に福岡高裁に控訴したことをご報告します。本稿では、判決を一読した私の個人的感想を述べさせて頂きます。

なお、「弁護士ドットコム・押し紙」で検索して戴ければ、判決の内容が簡潔且つ的確に紹介されております

*弁護士ドットコムの読者の方の投稿に弁護士費用を心配されるむきがありますが、法テラスの弁護士費用立替制度なども用意されていますので、地元弁護士会等の無料法律相談窓口などを気軽に利用されることをお勧めします。

*別の合議体に係属中の西日本新聞押し紙訴訟(原告は佐賀県の販売店)は、証拠調べを残すだけになっております。

◆新聞社は、社会の木鐸(注:世の中を指導し、正すひと。多くの場合は、新聞記者を指している。)としての役割を果たすことを使命としており、民主主義社会にとってなくてはならない存在です。新聞社はそのような役割と期待を担っていますので、押し紙なるものはそもそもあってはならないものです。

西日本新聞社(以下「被告」と言います。)は、明治10年3月、西南の役で騒然とする九州の一角、現在の福岡市中央区天神に誕生した「筑紫新聞」を源流とする九州を代表するブロック紙であります。読売新聞が九州に進出してきたときは、これを真正面から迎え撃った歴史と伝統を有する創刊150年を迎えんとする新聞社です。しかし、昭和40年代に全国に先駆けて押し紙を解決した隣県の熊本日々新聞社の経営姿勢と比べると、押し紙をなくそうとする姿勢が見られませんので、なんとも残念です。

*被告の押し紙政策の問題点は、昨年10月15日の「西日本新聞押し紙訴訟判決期日のご報告」と12月26日の「西日本新聞福岡地裁敗訴判決のお知らせ」で紹介しております。

◆第1の問題は、被告が販売店からの注文は書面ではなく電話で受け付けていると主張している点です。

被告は、販売店に部数注文表をFAX送信するよう指示していますが、そこに記載された部数は参考にすぎず、正式な注文は電話で受け付けていると主張しています。

被告がそのような主張をするのは、部数注文表に記載された部数と実際の供給部数が一致していないからです。部数注文表に記載された部数が正式な注文部数であれば、実際に供給している部数と一致していない理由を説明する必要が出てきます。

被告は平成11年告示の押し紙禁止規定の「注文した部数」は文字通り販売店が注文した部数を意味するとの解釈をとっていますので、実際に供給した部数が、部数注文表記載の注文部数を超えれば、直ちに、独禁法違反の押し紙が成立します。

そこで、被告は部数注文表記載の部数は参考に過ぎず、電話による注文部数が正式な注文部数であると主張せざるを得なくなっているのです。

本件原告をはじめ被告の販売店は、注文部数を自由に決める権利は認められていないため、被告から指示された部数を仕入れざるを得ない弱い立場におかれています。

今回の押し紙裁判の提訴にあたり、佐賀県の販売店の店主が電話の会話を録音していることがわかり、録音データーを再生したところ、電話で部数を注文していないことを証明することが可能との結論に至りました。私どもは、本件裁判でも、佐賀県販売店の店主の録音データーとその反訳文を証拠として提出しました。ところが、被告は私どもが思いもつかない反論をしてきました。録音の最後の方に担当の声は聞こえないものの販売店主が「ハイ、ハイ」と答えている箇所があります。被告は、この箇所で担当が販売店主に対し、「注文部数は前月と同じでいいですか」という質問をしており、それに対し販売店主が「ハイ」と答えていると主張したのです。

裁判官は電話の向こうがわの担当の声が聞こえていないのに、「注文部数は前月と同じでいいですか」といった会話がなされているとの被告の主張をそのまま認めました。あらかじめ、結論ありきの判決だったことがわかります。

◆第2の問題は、「4・10増減」の問題です。本件では、4月と10月に普段より200部も多い新聞が供給されています。

被告は、原告が4月と10月に200部多い部数を注文したのは折込広告料と補助金を得るのが目的であるとして、被告には何の責任もないと主張しました。被告が原告に対し、4月と10月に普段の月より200部多い部数を注文させているのは、押し紙の仕入代金の赤字を折込広告収入で補填させるのが目的です。

郡部の販売店では、4月と10月の部数がその後半年間の折込広告部数決定の基準とされています。そのため、被告は子会社である折込広告会社が、原告販売店の4月と10月の部数について普段の月より200部多い部数を折込広告主に公表出来るようにしているのです。

この折込広告料詐欺のスキームは被告が独自に考えだしたものではなく、新聞業界全体で考案したスキームだと考えられます。

この問題については、黒薮さんが2021年7月28日の「元店主が西日本新聞社を『押し紙』で提訴、3050万円の損害賠償、はじめて『4・10増減』問題が法廷へ」という記事で詳しく紹介ておられます。是非、御一読ください。

押し紙と広告料の詐欺は、手段と目的の関係にあります。私ども押し紙裁判を担当している弁護士は、広告料の詐欺の主犯は新聞社であるとかねてより公言してきました。ネット社会が普及したおかげで、押し紙問題はもはや世界的にも知られるようになっていますので、新聞社が裁判でいくら責任を販売店に押し付けようとしても、社会的にはますます信用を失うだけです。

◆私は以前、「押し紙問題で本当に恐ろしいのは、新聞社が押し紙の存在を隠蔽して責任逃れすることより、裁判所が新聞社の味方をして販売店の権利救済に背を背けていることである。」という趣旨の意見を述べたことがあります。今でも、その考えに変わりはありません。

本件判決を言い渡した3人の裁判官は、2024年(令和4年)4月1日付で、裁判長は東京高裁から、右陪席は東京地裁から、左陪席は札幌地裁から転勤してきた裁判官です。高裁管轄をこえる人事異動ですので、この人事が最高裁事務総局の差配によることは明らかです。

以前の裁判官は、和解の可能性を打診したり、双方の主張を詳細に整理して検討を求めるなど、この押し紙裁判に熱心に取り組む姿勢を示しておられました。そのような裁判官が本件裁判の担当から離れ、遠方から新しい裁判官3人が転勤してきましたので、正直やられたと思いました。

というのも、これまで、販売店の勝訴が間違いないと思われていた裁判で、判決直前で裁判官が交代して敗訴判決が言い渡された例を見聞きしていたからです。

ご存じの通り、最高裁事務総局は司法行政の一環と称して日常的に下級裁判所の動向を調査・把握しています。その中でも、国政や外交の根幹にかかわる問題については一段と目を光らせています。

憲法と日米安保条約にかかわる問題、米軍基地と軍人・軍属にかかわる問題、原子力発電所や大規模公共工事にかかわる問題等については、最高裁は裁判官会同や合同研修会を招集し、審理の進め方や判断基準の統一をはかっているのではないかと言われています。

私は、最近の押し紙訴訟は販売店敗訴の判決が相次いでいることから、押し紙禁止規定の解釈や判断の枠組みについて、最高裁事務総局の意向があらかじめ担当裁判官に示されているのではないかという疑いをもっています。

黒薮さんは、令和6年12月31日の「1999年の新聞特殊指定の改定、『押し紙』容認への道を開く『策略』」と題する記事で、平成11年に押し紙禁止規定の改定で、それまでの「注文部数」という文言が「注文した部数」に変更された件について、その背後に、当時の公正取引委員長根来泰周氏(元東京高検検事長・後に日本プロ野球コミッショナー)と日本新聞協会長の読売新聞渡邉恒雄氏の存在があったのではないかと推測しておられます。私も同感です。

この文言の変更に隠された意図・目的が、渡邊恒雄氏側から何らかの経路を経て最高裁に伝えられたのではないかとの疑念を抱いています。といいますのも、渡邊恒雄氏が読売新聞1000万部の力(注:実際は張り子の虎にすぎないことは、これまで散々述べてきたとおりです。)をバックにして、政界中枢に大きな影響を与えてきたことは本人自身も認めています。

最高裁判所裁判官の指名権を有する内閣と渡邊恒雄氏の関係、読売新聞の代理人弁護士とTMI総合法律事務所の関係、TMI総合法律事務所と最高裁判事の関係など、疑えばきりがありません。

4・10増減の問題について、判決は被告主張のとおり、原告が折込み広告収入を得るために行ったもので、被告には責任はないとの判断を示しました。私どもは、押し紙は新聞社の広告主に対する詐欺であると批判してきましたが、今回の判決はすべての責任を販売店に押し付け被告の責任を不問にしました。

刑事問題と民事問題は違うからという言い訳をするのでしょが、それは法律関係者だけに通用する詭弁であって一般社会では通用しません。

◆東京地裁・最高裁判所に勤務したことのある元エリート裁判官の瀬木比呂志氏は、裁判所内部や裁判官のかかえる問題について多数の本を出版されており、外部から伺いしれない貴重な情報を社会に紹介して頂いています。2017年に新潮社から発行された『裁判所の正体-法服を着た役人たち-』の帯には、「忖度と統制で判決は下る!」・「裁判所には『正義』も『良心』もなかった!」との文字が踊っています。今回の敗訴判決を一読して、まったく瀬木裁判官のおっしゃる通りだと思いました。

最近体験した読売新聞押し紙裁判の控訴審判決の言渡し期日の出来事を紹介しておきます。判決を聞くために法廷に出向いた私は、前の事件の判決言い渡しが終わるのを傍聴席に座って待っていました。言い渡しが終わりましたので、おおもむろに傍聴席から立ち上がり、原告代理人席に移動していたところ、代理人席に着く前に、裁判長が控訴棄却の判決主文を読み上げさっさと後ろの扉から法廷を出ていきました。

私は唖然として言葉も出ませんでした。社会常識に反する裁判官にあるまじき行動と言わざるを得ません。そこまでして新聞販売店側に嫌がらせをしようとする裁判官の子供じみた行動は、まさに瀬木裁判官のいう「法服を着た役人」そのままでした。

昔話になって恐縮ですが、以前は書記官より裁判官の方がふさわしいと思わせる方たちが、裁判所にはたくさんおられたように思います。しかし、最近は、裁判所全体の雰囲気がなんとなく暗い感じで、昔の自由闊達な空気感で仕事に励んでおられる書記官や事務官の姿が見られなくなったような気がします。

官僚の縦社会とはむごいものです。若い時代の資格試験の合否だけで人生が決まる世界で生きていかざるを得ない優秀な方たちが、人間性のかけらもないような上司の下で働かざるを得ないことで受けるストレスは、外部からは想像もつかない大きいものがあるのではないかと思います。(注:弁護士の世界も同じかもしれませんが……)

◆今回の判決を言渡した合議体の裁判長は、司法研修所の元民事裁判教官です。右陪席は元最高裁の行政・民事局付だった裁判官です。いずれもエリートコースを歩んできた裁判官で、裁判をしない裁判官あるいは判決を書かない裁判官ともいわれる裁判官です。

私どもは、西日本新聞社を相手方とする今回の押し紙裁判は、勝訴の見込みが十分あると考えて提訴しております。今回の判決を言い渡した裁判官の人事異動は最高裁事務局の差配であることは冒頭で述べた通りですので、予想された敗訴判決だったとも言えます。

裁判長と右陪席の経歴をみると、最高裁事務総局は押し紙訴訟では新聞社を絶対負けさせないとの強い決意でいることが伺えます。

しかし、裁判所の内部には、日本の裁判所は今のままではいけない、何とかしなければならないと考える人達が大勢おられると思います。最高裁なにするものぞという気概に満ちた九州モンロー主義と呼ばれた時代を蘇えらせる力が、福岡地裁や福岡高裁に残っていることを期待します。

古くは福島重雄裁判官・宮本康昭裁判官、最近では、瀬木比呂志裁判官・樋口英明裁判官・岡口基一裁判官(注:いずれも元裁判官)らが、裁判所改革の必要性を様々な方法で訴えておられます。現役の裁判官・書記官・事務官の中にも、憲法に基づき法と良心にのみ従って判決が書けるような裁判所であって欲しいと願っておられる方が多数おられると思います。

*読売新聞の渡邊恒雄氏は、昨年12月19日に98歳の生涯を閉じられました。渡邊氏の存命中に、読売新聞1000万部が虚構の部数であったことを社会に知らせる役割の一端を担うことは出来たと思っています。

*元毎日新聞社の取締役河内孝さんの「新聞社-破綻したビジネスモデル-」(新潮新書)や、黒薮さんの最新本『新聞と公権力の暗部-押し紙問題とメディアコントロール-』(鹿砦社)などの著作を裁判の資料として使わせていただいています。ありがとうございます。

*名古屋大学の林秀弥先生と鹿児島大学の宮下正昭先生には、貴重な意見書を作成して頂きありがとうございました。今後とも、先生方の研究成果を裁判官に伝えるよう努力を続けたいと思います。

私は押し紙問題と出会い、日本社会の成り立ちや現状および将来について少しは考えるようになりました。田舎で生活していてもネット社会の広がりによって、新聞・テレビ・週刊誌・本によってしか知りえなかった世界よりもっと広くて奥深い世界があることを知りました。ありがたいことであり、また、怖いことでもあります。情報に溺れるという言葉がありますが、今後、情報の選択がますます大事になってくると思います。

最後に、本件については控訴理由書が完成しましたら続報をお届けする予定です。今後ともご支援のほどをよろしくお願いします。

2025年(令和7年)1月15日
福岡・佐賀押し紙弁護団 弁護士 江上武幸(文責)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年1月18日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼江上武幸(えがみ・たけゆき)
弁護士。福岡・佐賀押し紙弁護団。1951年福岡県生まれ。1973年静岡大学卒業後、1975年福岡県弁護士会に弁護士登録。福岡県弁護士会元副会長、綱紀委員会委員、八女市役所オンブズパーソン、大刀洗町政治倫理審査会委員、筑豊じんぱい訴訟弁護団初代事務局長等を歴任。著書に『新聞販売の闇と戦う 販売店の逆襲』(花伝社/共著)等。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
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