島三雄(目白=キック)は藤原敏男と並ぶ目白ジムの看板でしたが、長江国政(東洋パブリック→協同)とライバル的に全日本フェザー級王座を獲ったり獲られたりの後、1978年(昭和53年)にボクシングに転向しました。キックで100戦あまりの戦績でセンスあったものの、元々視力が弱く、長くは続けられませんでした。
1983年(昭和58年)のキックが最も低迷した時期に活躍の場を求めてボクシング転向したのが、タイガー大久保(大久保貴史/目黒→北東京キング)。世間には情報が届きにくい時期のキックボクシングの画期的イベントの、前年に行われた1000万円争奪オープントーナメント52kg級に出場。勝者扱いを含む5戦を勝ち抜き優勝。その後、別ブロックの準決勝で去った松田利彦(士道館)にKOで敗れる波乱を起こすも、翌年、21歳でプロボクシング転向。ロイヤル川上ジムからデビューしましたが、キックで身についたアップライトスタイルからチェンジ出来ず大成はせず、単身アメリカへも渡りましたが、不利な条件が多く夢破れました。
土屋ジョー(谷山→大橋)は1994年(平成6年)11月、21歳でデビューし、早くも1996年に全日本バンタム級王座奪取。数々のタイトルを獲得しつつ、2000年8月に大橋ジムからプロテストを受け、群を抜く経験値でプロテストは合格。伸び悩んだキックでの環境を変える転向でした。ボクシングでは4戦して2勝2敗。格闘技経験者の観戦によると、4戦目の敗戦は「アップライトスタイルで待ち構えているところにフットワークの速い相手にいきなり入られてストレートを打たれた感じで仰向けに倒れた」というキックスタイルでの癖は取れない感じのようでした。わずか1年あまりでボクシングを止め、キック復帰を果たし、2003年4月に再起戦を飾りました。
松田利彦(士道館)はキックで1978年(昭和53年)に18歳でデビュー。9連勝と活躍し、デビュー前からライバル視していたWKA世界フライ級チャンピオン.高橋宏(東金)に連勝を止められるも通算3戦して2勝1敗と差を離した後、一時的ボクシング転向という形でした。所属する士道館がIBF日本に加盟し、導かれるように1985年にボクシング転向、JBC管轄下ではない組織でしたが、1986年8月のデビュー戦で、IBF日本フライ級王座決定戦に出場、内田幹朗(大阪島田)をKOし王座奪取。1987年7月5日、韓国で崔漱煥の持つIBF世界ジュニアフライ級王座に挑戦するも4ラウンドKO負け。4戦目というキャリアの浅さが露呈されました。その後、キックに復帰し、第4代MA日本フライ級チャンピオンに就いています。キックとボクシング両方で日本チャンピオンになったという点では松田利彦が初、ただしIBF日本王座。JBC管轄下の日本王座とキックの日本チャンピオンになったという点では田中信一が初、ただし1996年以降のキック界はそれまでより一層乱立が進み、国内王座の価値も1995年以前とは違いました。
最近の新しいところでは、2012年(平成24年)9月に元・NJKFフライ級チャンピオンの久保賢司(立川KBA→角海老宝石)のキックからボクシング転向がありました。23歳でB級プロテストに合格後、同年11月9日のデビュー戦で、同年4月、亀田興毅に挑戦したノルディ・マナカネ(インドネシア)に判定勝ちを収める話題を作りましたが、今年8月に判定負けし、8戦4勝(2KO)3敗1分の戦績を残し、戦前から語っていた引退を表明しています。
先週掲載の稲毛忠治選手は笹崎ジムからデビューし、6戦ほどやりましたが、視力が弱くライセンス更新ができなかった模様で、キックボクシング転向、千葉(=センバ)ジムからデビューしました。
ボクシングへの転向はプロライセンスを取得するところから始まり、B級またはC級スタートとなります。キックへの転向はプロモーター主体の団体によっては出世の早い場合もありますが、それぞれが新天地での一から再スタートとなり、限られた選手寿命の中で、大成するとは限らない危険な懸けに出る決心になると思われます。下手すれば回り道になり、再起の道も経たれる場合もあります。新人のうちに転向するケースは稲毛忠治(笹崎→千葉)のように開花する可能性がありますが、円熟期を迎えてからの転向は癖付いたスタイルや、“間合い”といった距離感の違いも修正は難しいのかもしれません。転向してよかったか悪かったかは、ファンや関係者が絶賛批判するより、本人に悔いが残らなければ良い人生経験になったのかもしれません。
[撮影・文]堀田春樹
▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない。」
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