忘年会たけなわの季節だ。「いやいや1年間あれこれありましたが、ご苦労様でございました」と労い合うこの習慣、強制されるのでなければ私は嫌いではない。

実は鹿砦社も毎年関係者を集め忘年会を開いている。文字通りの「鹿砦社大忘年会」である。今年は12月14日東京、東京編集室近くの水道橋で行われ80余名が結集した。司会進行は例年通り『紙の爆弾』で鈴木邦男の対談をプロデュースしている椎野礼仁さん。松岡社長の挨拶、マッドアマノさんの乾杯の音頭で歓談が始まった。

2015年鹿砦社大忘年会「もっと前へ!前へ!」(揮毫=龍一郎さん)

『紙の爆弾』や『NO NUKES voice』への寄稿者や出版関連の社長さん、編集者、ライターらに交じって「プリズンコンサート」で有名なPaix2(ぺぺ)をはじめ、芸能関係者の姿も。敢えて名を秘すが「サプライズゲスト」の社会派お笑いコンビが登場するや、忘年会は一気にフィーバー! また、脱原発や救援活動など社会運動関係者の姿も多い。

◆『紙の爆弾』創刊10周年、「言論・出版弾圧」から復活10周年だった鹿砦社の2015年

Paix2(ペペ)のお二人からのご挨拶

しかしこの忘年会の特徴は、なんといっても鹿砦社が参加者を無料で招待することだ(今年もご馳走様でした、鹿砦社の皆さま)! こんな太っ腹で大丈夫なのだろうか、と参加者が気を遣っている様子が一向にないのがまた鹿砦社の招待客らしい(何を隠そう私自身もそうだけど)。鹿砦社が10年前の壊滅的打撃から回復の兆しが見えた頃から支援してくれた方々への1年に1度の恩返しの意味でこの「大忘年会は」始まったという。

今年は鹿砦社にとって、月刊『紙の爆弾』創刊10周年。まさに悪夢だった「言論・出版弾圧」から10周年の記念すべき年だった。東京と本社のある甲子園で各10周年の記念イベントが行われ、そこにも鹿砦社の再起を祝う多くの人びとが集まった。
名誉毀損での松岡社長逮捕・勾留という致命傷に近い「弾圧」を受けながら10年後にこの姿で復活どころか、弾圧前を超える勢いで走り続ける鹿砦社の姿を想像できた人は少なかっただろうし、それを実現した松岡社長や中川編集長をはじめとする鹿砦社の皆さんの奮闘は察して余りある。

◆雑誌の原点──様々な立場、意見の人びとを紹介し、議論を喚起する媒体

「前へ!前へ!」と走り続け、どんな議論も引き受ける!!

そんなメモリアルな年にふさわしいというべきか、「ちょっとした事件」が忘年会を前に起こっていた。脱原発雑誌『NO NUKES voice』第6号は「脱原発と反戦・反安保─世代を超えて」を特集したが、そこでは安保法制反対運動を担った方々の生の声に加えて松岡社長自身による8頁に及ぶ「解題 現代の学生運動──私の体験に照らして」が掲載された。「解題」を読んで私はこれは賛否両論の大きな議論に発展するに違いないと直感した。

その予感通り、「解題」を含め『NO NUKES voice』第6号は壮絶な大論議を巻き起こし、特にネット上では相当の議論が交錯した。「雑誌」は本来、様々な立場、意見の人びとを紹介し、議論を喚起するのが社会的に期待される役割だろう。その役割を果たせる雑誌が減少している証左を図らずも証明することとなったのが『NO NUKES voice』第6号が巻き起こした大論議である。初めて買った方が大いに共鳴し、30冊まとめて購入し、仲間に配布したという知らせもあったという。

発行元としては大いに歓迎すべき闊達な議論が沸き起こったのだけれども、かといって雑誌を世に出せば「はい、それでおしまいよ」というほど出版や社会運動の世界は優しい場所ではない。詳細は省くが、この間、友好関係にあった反原連(首都圏反原発連合)から突然の絶縁声明が出されたのだ。

『NO NUKES voice』第6号ではほとんど直接的な反原連批判がなされているわけでもなく、また松岡社長の反原連への入れ込みようは傍で見ていてもハラハラするほどで、資金支援も相当してきたそうだ。なのに……。この過程の中で「老害」「内政干渉」などと詰られ鹿砦社は多少なりとも傷を負ったことも事実ではある。しかし、そんなことは、かの「弾圧」の経験に比べればこれっぽっちのかすり傷ですらない。むしろ前を向かせてくれるエネルギーでしかないと私は思う。

「前を向く」、そして「走り続ける」。どんな議論でも引き受ける。厄介であっても結構。いやむしろ社会の欺瞞を暴き、誰もがそれに口を閉ざすのであれば、敢えて「火中の栗を拾う」のが鹿砦社の使命と言ったら言い過ぎか。「虎穴に入らざれば虎児を得ず」を実践し手に入れた貴重な「虎児」は脱原発だけにとどまらない大議論であり、今日の閉塞した言論状況への挑戦状ですらあったといえよう。

忘年会では長年脱原発に取り組む「たんぽぽ舎」の柳田真さん、またわざわざ仙台から駆けつけてくださった、同誌で連載されているFM放送のプロデューサー・納谷正基さんからのスピーチで前述の議論へのそれぞれの立場からの言及があった。不肖私もご指名を受けたので思うところを偽りなく述べた。皆が同じ意見、感想ではない。それでいいじゃないか。参加者には言論や社会運動における多様性の重要さを再度認識させられる、楽しくも考える場面もある貴重な時間となったのではないだろうか。

◆年に一度の大盤振る舞いの宴は怒涛の二次会へと!

松岡利康=鹿砦社社長

そうしたことなどを松岡社長に聞いてみた──。

「今年は昨年の2倍ほどの皆様にお集まりいただき嬉しかったですね。毎年これに合わせ頑張り、それなりの出費は見込んでいるのですが、今年は50万円余り掛かりました(苦笑)。年に一度の大盤振る舞いで、皆様方に喜んでいただき、また来年頑張っていただけるのであれば安いものです。田所さんも言われるように、今年は内憂外患、ちょっとシンドいことがなかったわけでもありませんが、10年前に逮捕され半年以上も勾留されて、10年前の今頃は神戸・六甲の山の上の”別荘”でのた打ち回っていたことを想起すると全然軽いものです。今年、情況を察して、こんなにお集まりいただいたんじゃないでしょうが、皆様方から叱咤激励賜り、私たちの気持ちを察していただいたことに感謝いたします」

しかし、反原連による絶縁声明については、「脱原発運動のために泥仕合はしたくないので今は敢えて何も語りません。ミサオさんらにも面子や意地があったのでしょうから、恨んだり憎んだりしてはいません」と語るのみだ。

それにしても多彩な業界からの80名の参集は並みでは味わえない「勢い」を感じさせられて余りある。

でもそれだけでは終わらないのが鹿砦社忘年会の恐ろしさだ。場所を四谷に移して、なんと2次会も希望者は無料でご招待! それだけじゃーないぞ。もう終わったから告白するけども、松岡社長の長年の”悪友”たる板坂剛氏が編集し上田治躬氏が撮影を担った「占」(うらな)≪嬢王様の時代≫の主人公である「占」さんが二次会には登場。松岡社長があの噂の「全裸タロット占い」のターゲットとなった。いいのか! 今時こんなことをしていて! 気の小さい私は万が一警察に踏み込まれたら……と気が気でなく会場の鍵を閉めてドアのノブを握り占めていた。

怖いものはないのか?と聞いてみたくなる図太さと怒涛の勢いを見せつけられた「鹿砦社大忘年会」であった。残念ながら読者の皆様へは事後報告しかできないが、来年もまた盛大な忘年会をご報告したい。
恐るべし、限界なしの鹿砦社である。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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