2015年のキックボクシング界主要団体で目立った出来事を大雑把に振り返り、2016年の潮流を展望してみます。
◆日本選手7名全員が敗れたムエタイ王座戦への挑戦
2015年、ムエタイ二大殿堂のルンピニースタジアム王座とラジャダムナンスタジアム王座に挑戦した日本選手は7名で、そのすべてが敗れ去りました。
ムエタイ技術の奥深さ、タイトルが掛かる場合や、プロモーターや賭け屋の暗黙の査定が存在する中では異様な底力を発揮するタイ選手のノンタイトル戦とは違う本気度。現地ラジャダムナンスタジアムでの挑戦は1月19日の石毛慎也(ライラプス東京北星)と5月24日の喜多村誠(伊原)の2名。他はすべて日本国内でした。
接戦も撥ね返された試合もありました。3月15日の江幡睦(伊原)もラジャダムナン系で、他はすべてルンピニー系でした。4月5日に藤原あらし(バンゲリングベイ)、4月19日に一戸総太(WSR・F)と梅野源治(PHOENIX)、7月19日と12月27日に一刀(日進会館)の4人が挑戦。梅野源治が最も注目を浴び、過去の実績から王座に近い存在でしたが、優勢の流れから技術でミスし逆転負けの屈辱を味わいました。
キックの老舗WKBA世界戦では蘇我英樹(市原)と江幡弟・塁(伊原)が初防衛。江幡兄・睦はフォンペット・チューワタナ(タイ)とのダブルタイトル戦で敗れ奪われた王座が、後に返上された為、再び王座決定戦で奪回に成功。
WBCムエタイでは5月10日、同・世界スーパーライト級チャンピオン.大和哲也(大和)がノンタイトル戦で500グラムオーバーとなる失態があり、その試合もゴーンサック・シップンミーに判定負け。その汚名返上となるべき9月27日の王座統一戦は、暫定チャンピオンのアランチャイ・ギャットパッタラパン(タイ)に初回からダウンを奪われ判定負け。初防衛と王座統一は成らず。
7月20日、WBCムエタイ世界スーパーフェザー級タイトルマッチでの梅野源治の初防衛戦で、挑戦者ペットブーンチュー・ソー・ソンマーイが1.43kgオーバーによる失格により計量時で“防衛”という不可解な裁定が勃発。ノンタイトル戦となった試合は梅野の3R・TKO勝利。
11月15日、WBCムエタイ日本チャンピオン.宮越兄弟(拳粋会)がWBCムエタイ・インターナショナル王座決定戦に出場。兄・宗一郎はスーパーウェルター級、弟・慶二郎はライト級で王座奪取。
WPMF世界王座奪取したのは4名。3月17日アユタヤでフライ級の福田海斗(キングムエ)が王座奪取。7月12日、青森でフェザー級の一戸総太(WSR・F)が奪取し、スーパーバンタム級に続く同時2階級制覇。9月20日、岡山県倉敷市でスーパーフェザー級で町田光(橋本)がで奪取、ミドル級でT-98(=タクヤ/クロスポイント吉祥寺)が奪取しました。
◆高校生チャンピオン福田海斗の躍進
3月17日にWPMF世界フライ級チャンピオンとなった高校1年生・福田海斗(キングムエ)が、12月8日にタイのルンピニースタジアムでタイ国ムエスポーツ(プロムエタイ)協会フライ級王座決定戦に出場。同協会4位の福田海斗が10位のタナデー・トープラン49 にヒジで切り裂き、3-0(3者49-47)で完勝。タイ人以外初の同協会チャンピオンとなりました。
本来このムエスポーツ協会は公的機関の組織でタイ国の国家予算が使われており、外国人には充てないはずのタイ国王座でしたが、プロモーターの見切り発車で、協会役員の反発がありつつも押し切られての開催でした。前例が出来た以上、今後も外国人が絡んでくることは止められないでしょう。
出場に至った経緯など価値的には問題視されますが、これで形式上は福田海斗もムエタイ“三大”殿堂王座を制したことになります。「日本人5人目の・・・」と言いたいところ、本来はタイ国の統一王座に在り得る団体だったのにも関わらず、そういう活動は少なく権威は崩れているので、残念ながら“二大”殿堂には適わぬ第三の地位に落ちています。
◆ルンピニーボクシングスタジアムオブジャパン発足!
8月7日に記者会見が行われ、ルンピニーボクシングスタジアムオブジャパンの発足が発表されました。代表はセンチャイ・ムエタイジム会長のセンチャイ・トーングライセーン氏。2016年には日本タイトルも制定し、ランキングに入るとタイ国ルンピニースタジアムのランキングにも反映され、日本チャンピオンになるとルンピニースタジアム王座に挑戦有資格者となり、ルンピニースタジアムのチャンピオンクラスを招聘し、トップレベルの試合も行う予定と発表されています。12月13日に従来のムエタイオープン興行で最初の日本ランキング査定試合も開催されました。
◆WPMF日本支局長、ウィラサクレック・ウォンパサー氏の3期目へ続投
2009年1月にWPMF日本支局が発足し、日本での運営を管理管轄してきた組織は任期3年で、2期務めたウィラサクレック・フェアテックスジム会長のウィラサクレック氏でしたが、2015年前期に、日本支局はタイ本部の直接的管轄下に置く案があり、日本支局長廃止案が出ていました。しかし、長く務められたウィラサクレック氏の功績も非常に大きい為、第3期目の続投が認められました。
◆2016年の展望──ムエタイ“二大”殿堂王座に江幡ツインズが再挑戦
ムエタイ“二大”殿堂のひとつラジャダムナンスタジアム王座に再挑戦することが確実視される江幡ツインズと、再度ルンピニースタジアム王座狙う梅野源治は王座奪取なるか。3人とも実力で優るものがありながら、首相撲が絡む駆引きで苦杯を味わう壁を打ち破れるか期待が掛かります。
高校生まで低年齢化したチャンピオンやランカークラスの台頭が目立った2015年でしたが、福田海斗(キングムエ/16歳)、伊藤勇真(キングムエ/18歳)、那須川天心(TARGET/17歳)、佐々木雄汰(尚武会/15歳)、石井一成(エクシンディコンJAPAN/17歳)といった選手が日本国内とタイ国でもアマチュア枠ではない、プロのチャンピオンレベルの話題を振りまく試合を続けていますが、その実力は本物か、試される年になりそうです。
夜魔神、竹村哲、松本哉朗などの引退があった昨年は、国内でも世代交代が目立ち、二十歳代本来の成熟した新チャンピオンが幾人も誕生した中、日本と世界の狭間にいるWBCムエタイ・インターナショナルチャンピオン.宮越兄弟(拳粋会)と宮元啓介(橋本)、新日本キックの殿堂選手の緑川創(目黒藤本)、石井達也(目黒藤本)もひとつ上の世界へ挑む時期に来て臨戦態勢を保っています。
権威の在り方が問われるムエタイ殿堂を含む各認定組織。WBCムエタイもアマチュアから日本、世界王座まで構築された構造が創られ、WPMF日本も更に活性化した運営を期待され、支局長・ウィラサクレック氏の更なる戦略拡大も注目です。
活動始まったばかりのルンピニージャパンはまだ展開が見えない中、ルンピニースタジアムと日本国内を繋ぐ吸引力は保てるか。結局乱立が増しただけのタイトルになっている各組織に健全な運営が続けられるか、順調そうに見える組織が頓挫しないか、選手の活躍以外にも、ファンは競技存続の鍵を握る組織を注視していてもらいたいところです。
[撮影・文]堀田春樹
▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない。」
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