昨年末、世田谷一家殺害事件や「餃子の王将」社長射殺事件など12月に起きた「未解決事件」に関する報道をよく見かけたが、1月に起きた事件の中にも未解決の重大事件は少なくない。筆者が居住する広島市にも該当する事件が2つある。

1つは2000年1月20日、市の中心部に程近い西白島町の地下道で起きた少女殺害事件。当時16歳の被害少女は深夜3時50分頃、帰宅中に地下道で何者かに刃物で刺され、死亡した。事件後、市内の11の地下道に防犯カメラが設置されたが、事件は発生から16年も未解決。そのため、広島県警は今もホームページで事件に関する情報を募っている(http://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/police-hiroshimachuo/16sai.html)。

火災で家族3人が亡くなった事件の現場。しばらく空き地だったが、今は家が建っている

もう1つの事件は2001年1月17日、広島市西区の住宅街で起きた。深夜3時半頃、中村小夜子さん(事件発生当時53)宅が火事になり、焼け跡から小夜子さんと孫の姉妹・彩華ちゃん(同8歳)、ありすちゃん(同6歳)の計3人の焼死体が見つかった。小夜子さんの遺体に首を絞められた痕跡があったため、「放火殺人事件」と断定した県警は本格的な捜査に乗り出した。ところが――。

発生から15年経っても「未解決」であるにも関わらず、今、県警がこの事件を捜査している様子はまったく窺えない。県警のホームページを見ても、この事件の情報は募っておらず、3人の命が奪われた重大未解決事件を完全無視状態なのである。

◆捜査しない理由

なぜ、県警は捜査しないのか。それは一度、無実の男性を犯人だと誤認し、検挙してしまったことによる。

冤罪被害に遭ったその男性は中村国治さん(同30)。小夜子さんの長男で、彩華ちゃん、ありすちゃんの父親だ。中村さんは事件の前年に離婚し、事件発生当時は2人の娘と共に実家である小夜子さん宅で暮らしていた。しかし火災があった時は家におらず、家族の中で1人だけ難を逃れていた。県警はそこに疑いの目を向けたのだ。

実際には、中村さんが夜間に家にいないのは事件の日に限った話ではなかった。家には夜間、自分の車を駐車するスペースがないため、中村さんは毎夜、小夜子さんの経営する喫茶店で過ごしていただけだ。

しかし、県警は事件発生の5時間後から早くも中村さんを長時間取り調べるなど、犯人扱いだった。中村さんが当時乗っていた車も隅々まで捜索。その結果、犯行の痕跡は何も出てこなかったのに、なおも中村さんに執着し続けた。そして5年半も経ってから中村さんを詐欺の容疑で別件逮捕すると、過酷な取り調べで殺人や放火の容疑を自白させ、再逮捕したのだ。

その挙句、裁判が始まると、有罪証拠は事実上、捜査段階の自白調書のみだったことが明るみに。そして裁判で自白を撤回し、無実を訴えた中村さんは第一審から上告審まで3度、検察官に死刑を求刑されながら、いずれも無罪と判断されるという異例の事態となったのだ。

◆「被害者や遺族のために」と口では言うが・・・・・・

ただ、そんな重大な冤罪でありながら、この事件はマスコミであまり冤罪として扱われてこなかった。むしろ、最高裁で無罪が確定した際には、〈3人の死 真相は闇の中〉(中国新聞2月25日朝刊)などという無罪確定に懐疑的な報道が目立った。それは、広島地裁の第一審で無罪判決が出た際、裁判長が「シロではなく灰色かもと思うが、クロと断言はできなかった」などと異例の付言をしたことなどが原因だ。

実際には、この事件はクロの証拠が乏しいのみならず、中村さんがシロだと示す事実がいくつも明るみになっていた。たとえば、検察官は中村さんが保険金目的で犯行に及んだと主張したが、裁判ではそもそも中村さんは小夜子さんが保険に入っていたこと自体をよく知らなかったことが明らかに。娘2人にかけていた保険については、3か月も掛け金を滞納しているなど、およそ保険金殺人犯らしからぬ事実も浮き彫りになっていた。

また、自白調書では、中村さんは小夜子さんの部屋のあちこちに5・5リットルの灯油をまいたうえ、ライターで灰皿の吸い殻に点火し、放火したことになっていた。しかし事件発生の直後、県警の捜査員は中村さんの体や車を隅々まで調べながら、凶器の灯油を一切検出できなかったばかりか、灯油の匂いすら感じ取れていなかったのだ。

重大な未解決事件に関する報道では、警察幹部が被害者や遺族のために事件解決を誓うようなコメントを発するのが常である。しかし実際には、この広島の事件に限らず、警察が被告人の無罪判決確定後、真犯人検挙のために捜査を再開したためしはない。警察が犯人検挙にこだわるのは必ずしも被害者や遺族のためではないことがここによく現れている。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年、広島市生まれ。早稲田大学商学部卒業後、フリーのライターに。新旧様々な事件の知られざる事実や冤罪、捜査機関の不正を独自取材で発掘している。広島市在住。

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