「放射能汚染地域に住む人の血って、ほしいですか?」「毒物作る農家の苦労なんて理解できません」
そんな言葉をツイッターに書き込んでいた、群馬県桐生の庭山由紀市議に対する、除名を求める懲罰動議が、桐生市議会で、賛成18、反対2、退席1で、6月20日可決された。庭山氏は地方自治法の規定で議員失職した。

発言だけを見れば、放射能による差別を煽るとんでもないもので、失職も当然と見える。
確かに彼女は、もう少し言葉を選ぶべきであった。
彼女は、どのような立場でものを言ったのか。

「放射能汚染地域に住む人の血って、ほしいですか?」は、今年5月25日に桐生市に献血車が来たことに対して言っている。
桐生市は、原発事故による年間追加被ばく放射線量が1ミリシーベルトを超える、汚染状況重点調査地域に指定されている。
環境省は当初、除染が必要なのは5ミリシーベルト以上としていたが、昨年10月に1ミリシーベルトに引き下げた。

チェルノブイリ事故の5年後にできた「チェルノブイリ法」では、年1ミリシーベルト以上の追加的被ばくを強いられる地域は、「避難の権利ゾーン(=避難権付居住地域)」と規定されている。他へ移住する住民は、被害補償と社会的支援が受けられる。
1ミリシーベルトはきわめてギリギリの数値だ。強制的な移住は強いることはできないとしても、そこで子どもたちを生んで育てていいか問われれば、良心的な専門家ならNOと言うだろう。

つまり、庭山氏は放射能で汚染された地域の人々を差別する意図ではなく、汚染された地域の住人であるという自覚に立って、自分たちの血でもいいのですか? と問うているのだ。

脱原発の人々の間でも、放射能汚染のことをあまりにも言い立てるのはどんなものか? という声がある。
それはもちろん、善意から来ている。放射能に汚染された地域の人々が差別されてはいけない、と考えているのだろう。
笑っていれば放射能の被害は受けない、などと、悪名高い、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーの山下俊一教授のようなことさえ言う、活動家もいる。
もちろん、免疫力が強ければ放射能の影響は受けにくいのは確かだろう。笑うことが多ければ免疫力は上がる。だが、被ばく量が高ければ、笑っていればすむような話ではない。

放射能は見えないことに加えて、起きてしまったことのあまりの大きさに、現実を直視しづらいということが、立場の違いに関わらずあるのだろう。

昨年の10月には、学校給食の食材検査で、群馬県産ハクサイから1キロ・グラム当たり18ベクレルの放射性セシウムを検出したことを、桐生市教委が隠蔽していたことがあった。「風評被害も考慮して」が理由だった。

そのような状況を見ての言葉が、「毒物作る農家の苦労なんて理解できません」だった。
確かに言葉は足りない。だが、隠蔽されることによって、群馬の野菜がすべて放射能汚染されていると思われるなら、自分たちの苦労は報われない、と農民は思うのではないか。

京都大学原子炉実験所の小出裕章助教は『騙されたあなたにも責任がある』(幻冬舎)の中で、「もはや放射能汚染されていない食べ物などない」と言い切っている。「汚染の少ないものから、猛烈に汚れているものまで、連続的にあるだけだ」というのだ。
それでは、汚染されたものは、どうするのか? 責任に応じて食べるしかない、ということになる。政府や東電の人間はもちろん、原発のある社会を許してきた大人も、汚染されたものでも食べるしかないだろう。
むごいが、それが現実なのだ。

桐生に生まれ育った人間なら、「この地は汚染されていない」と思いこみたいというのは、自然な感情だ。
それに抗って、現実を突きつけた庭山市議は、除名されてしまった。
原発を取り巻く、きわめて象徴的な出来事だ。

(FY)