なんと8年ぶりに、昔、仲がよかったヤクザと偶然に会った。
52歳くらいの風貌は変化があまり見えない。
声をかけられて「人ちがいですよ」と逃げようと思ったが、カバンで前をふさがれた。
当時、彼は調査会社を経営。帝国通信社を、ものすごくスケールダウンしたような仕事をしていた。
本来であれば、部下にやらせばいい仕事なのに、企業を訪問しては、「財産状況は?」「これから拡大の方向ですか、縮小ですか」と質問取材を繰り返していた。
人なつっこく、頼りがいがあり、ずいぶんとさまざまな相談をした。
そうかと思えば、借金の取り立てもしていた。
「不景気なほうがさあ、仕事があるんだよね」と彼はにやついた。
冗談で、「初恋の人を探してくれ」というと「500万円だね」と目を吊り上げた。

しかし、そんな彼も今は、探偵業法の適正化で、仕事ができなくなり、廃業した。
今はさらに、暴力団排除法で厳しいと嘆きつつ「影のコンサルティングでしのいでいるよ」とちょっと疲れた笑顔を見せた。
平成19年、探偵業法の改正で、探偵にもモラルが求められるようになったのである。

平成19年6月1日に探偵業の適正化に関する法律が施行された。
以下は、警視庁の文面である。
――――――――――――――――――――――
探偵業の業務の適正化に関する法律
(平成十八年六月八日法律第六十号)

(目的)
第一条  この法律は、探偵業について必要な規制を定めることにより、その業務の運営の適正を図り、もって個人の権利利益の保護に資することを目的とする。
(定義)
第二条  この法律において「探偵業務」とは、他人の依頼を受けて、特定人の所在又は行動についての情報であって当該依頼に係るものを収集することを目的として面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その調査の結果を当該依頼者に報告する業務をいう。
2  この法律において「探偵業」とは、探偵業務を行う営業をいう。ただし、専ら、放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関(報道(不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせることをいい、これに基づいて意見又は見解を述べることを含む。以下同じ。)を業として行う個人を含む。)の依頼を受けて、その報道の用に供する目的で行われるものを除く。
―――――――――――――――――――――以上

2条の2 『専ら』で始まる文章はとてもわかりにくい。
「簡単に、そしておおざっぱにいえば、報道の自由は、何者も侵害できないということです。探偵業は営業する上での調査、報道では報道するための調査権があるということです」(弁護士)

ものすごく探偵業がもうかっていた時代があった。個人情報保護法案が施行される前には、登記簿や住民票はとり放題だったのだ。
話を変える。公安系の探偵社でちょっとしたリサーチをしていたときのこと。個人情報保護法案が施行された直後で、「調査がやりずらいのではないか」と考えていた。
調査チーフは言う。
「関係ないね。じゃあ、個人情報保護法案が施行する前はやりやすかったというと、そうでもないので」
個人情報など、いくらでも売られている。
名簿図書館では、ひとりあたりの住所は1万円前後で取引きされているではないか。
名簿図書館にはそれなりの、個人情報保護法案をはねつけるロジックがある。次回はその「からくり」に触れよう。

(鹿砦丸)