デヴィ夫人が自身のブログに掲載した記事と写真をめぐり、提訴されると報じられたかと思えば、すぐさま夫人がブログで反論した上、「逆告訴します!」と宣言し、世間に話題を提供している。報道や夫人のブログでの反論などによると、経緯はざっとこんな感じだ。

デヴィ夫人は7月10日付の自身のブログで、大津市の男子中学生がいじめを苦に自殺したとされる問題に言及。いじめの加害者とされる生徒の母親について、実名をさらした上で「自分の息子を人権侵害もはなはだしいリンチ同様な事を平気でする人間に育て上げるとは!」などと罵倒した。その際、生徒の親族とされる男性と一緒に女性が写った写真を掲載したが、この女性は母親とは別人の女性スタイリスト(50)だったという。

そしてデヴィ夫人は、自分の写真を掲載された女性スタイリストの代理人弁護士から「営業活動に著しい困難をしいられている」などとして金銭賠償や謝罪文の掲載を求める通知書を送られた。これに対し、「言い掛かり」「筋違い」などと文書で回答したが、この経緯が夕刊フジやスポニチに「デヴィ夫人が提訴される」と報じられたことなどに激怒。両紙や女性スタイリスト、代理人弁護士に対する逆告訴・逆提訴を宣言したのだ。

この騒動に触れ、某刑務所で服役中の冤罪被害者Aさんのことを思い出した。Aさんが冤罪被害に遭った原因の1つは、知人からお金を預かったことだった。お金を預かった直後、この知人が何者かに殺害されたのだが、これが警察や検察にはAさんが知人を殺害してお金を手に入れたように見えたようで、Aさんは殺人などの容疑で逮捕・起訴された。そして裁判でも有罪とされ、重い刑に処せられて現在服役中なのだ。

あれは、このAさんが上告中の被告人という立場で、拘置所暮らしをしていた時期のことだった。面会に訪ねた際、どうしたわけか例の連続不審死事件の被告人、木嶋佳苗さんのことが話題になった。その当時捜査中だった木嶋さんの疑惑については、Aさんも新聞で知っていた。そして、「あれはクロでしょう」と確信に満ちた表情で言うのだ。

これは少々意外だった。マスコミの犯罪報道というのはつくづくアテにならないものである。このことを本当にわかっている人は世の中にまだまだ少ないが、Aさんは実感としてわかっている人だと思っていた。彼自身、逮捕された当初や公判中に誤報や不正確な報道に苦しめられた「報道被害者」だったからだ。しかも、お金が疑われる理由になったのは木嶋さんと共通している。そんな彼が拘置所内で読んだ新聞の情報だけを元に真相が見通せたようなことを言うので、筆者は意外に感じたのだ。

ただ、よく考えれば、これはAさんに限らず、よくあることだと気づいた。自分が報じられる立場にあり、マスコミ情報のいい加減さをよく知っているはずなのに、自分以外のことはマスコミ情報だけを元にあれこれ言う人は少なくない。それはたとえば、ライバル政党のスキャンダルを追及する際の政治家や、バラエティ番組で物申すタイプの芸能人などである。冤罪被害者や報道被害者もまた、例外ではないということだろう。

デヴィ夫人の場合、自分に関するスポニチや夕刊フジの報道について、誤りがあるとか、不公正だと主張した8月2日付けブログの記事中で、大津市の自殺問題については報道やインターネット上の情報だけを元に事実と決めつけているように感じる部分も散見されて興味深かった。そこで、木嶋佳苗さんをクロだと確信していた冤罪被害者で、報道被害者でもあるAさんを思い出したのだ。

かくいう筆者も今回、デヴィ夫人がブログで粗相をして提訴されるという報道に最初に触れた時、「いかにもこの人がやらかしそうことだな」と安易に鵜呑みにしたし、偉そうなことを言える身分ではない。マスコミ情報は常に疑う必要があると頭ではわかっていても、実行するのはとても難しいと今回、改めて考えさせられたのである。

(片岡健)