闘いに「一点共闘」は選択肢としてはありうる。獲得目標が同様な場合その課題に限って立場の異なる人たちが、行動をともにすることが、現状打破へ繋がることもないではない。

しかし、「根本的な敵」との共闘はあり得ない。もしそんな模様が展開されたら、どちらかが仮面を被って偽装同調しているか、下心がある(つまり誰かが利用されている)状態である。

自民党の西田昌司参議院議員は、先日成立したいわゆる「ヘイトスピーチ対策法」(以下、「対策法」)の自民党窓口として「正義の味方」になっているようだが、西田と言えば、国会質問でのネッチッこい差別性と、根っからの右翼思想の持ち主として、自民党の中でも有数の右派議員として悪名が高い。

現在も西田のHPには政策として、
・「国防を確かなものに」      自主防衛と集団的自衛権の容認
・「憲法問題の本質」        占領憲法の破棄
・「皇室典範の改正」        男系皇統の維持
・「教育勅語の精神を活かす」  日本人の価値観の再興
・「原発問題」            原発再稼働は稼働せずよりリスクが小さい

などの主張が掲げられている。そして以下の動画だ。この質問は旧民主党政権時代に行われたものである。少々長いが西田の思想を理解するためにご覧頂きたい。


◎[動画]西田昌司議員の質疑(短縮版)

上記の動画は、政治資金規正法により禁止されている外国人からの政治献金を巡って、前原外務大臣(当時)を追及しているものだ。前原が昔から付き合いのある在日韓国人の方から年に5万円の献金を受けていたことを追及している場面だ。確かに政治資金規正法に照らせば前原が受けた献金は違法となる。しかし海外に居住地を持つ外国人と在日の人々を同様に扱う「政治資金規正法」は、それ自体「差別的」ではないだろうか。同様な批判を受けて、外国法人の政治献金については2006年に政治資金規正法の改正で大幅に緩和されている。西田の質問は法的には間違いではないが、ことさら「在日」を強調することにより、国会内での質問とはいえ、「在日差別」の色が濃く滲む。断っておくが私は旧民主党の支持者ではないし、前原の支持者では断じてない。


◎[動画]岡崎トミ子が国家公安委員長時に、西田が行った質問

この映像も岡崎トミ子が国家公安委員長時に、西田が行った質問だ。こちらの質問は国会内で行われたあからさま「差別言辞」と断定してもよいだろう。韓国の日本大使館前で毎週行われている「水曜デモ」に岡崎が参加したことを西田は糾弾し、慰安婦被害者への「金銭的補償」を岡崎が主張していたことを批判している。「水曜デモ」は日本政府への謝罪・補償を求めて「韓国」で行われているデモだ。西田は岡崎への質問の中で「なぜ外国人に金を渡さなければいけないのか」、「従軍慰安婦自体が歴史によって確定されたものではないと思っている」、「私は河野談話自体を認めるものではない」とまで自身の考えを明確に述べている。

最後は首相であった野田への質問だ。ここでは野田と民団のか関わりを追及しているが、民団が呼び掛けた行為は法律によって規制されるものではなく、野田が卑怯にも民団との関係を曖昧に逃れようとしていることから、西田も調子に乗っているがこれは民団に対するとんでもない冒涜だ。重ねて強調するが私は旧民主党、いわんや野田の支持者ではない。


◎[動画]2011年11月15日参議員予算委員会より

西田が国会内で紹介した「差別的質問」を堂々と繰り広げている頃、街頭では「在特会」をはじめとした差別集団、個人が卑劣な行動をエスカレートさせていた。当時西田はネット内で右翼から「西田砲」ともてはやされ、紹介した質問などが右翼思想の側から大層賞賛を浴びていた。

そんな西田が急に懺悔をして、「差別的」な思想を改めるだろうか。西田の国会質問は「失言」ではなく、確信的な思想に基づくものである。そのことは冒頭紹介した西田のHPに現在も堂々と掲載されていることからも間違いない。

ではなぜ、西田が「対策法」の自民党窓口になったのか。その理由の1つは「在特会」をはじめとする街頭差別部隊が自民党(右派勢力)にはもう不要になったからだろう。国会内では西田をはじめ稲田朋美などが先頭をきって、旧民主党政権の「外国人地方参政権」などの施策をぶち壊し、街頭では在特会を中心とする連中が暴れまわった。そして政権は自民党へ戻り、特定機密保護法が成立し、解釈改憲も完了、集団的自衛権を認める「安保法案」も成立した。

西田らにとって、もう街頭での派手な部隊は必要ない。いやむしろ邪魔になってきた。だから喜んで「ヘイトスピーチ対策法」の窓口として手を上げたのだ。さらにここで紹介した西田の過去の質問(これだけに限らず他にもかなりある)は、下手をすると命取りになりかねない。「なぜ外国人に金を渡さなければいけないのか」、「従軍慰安婦自体が歴史によって確定されたものではないと思っている」との西田の思惑とは逆に、

西田昌司議員(自民党)と有田芳生議員(民進党)

「日韓両国政府は28日、従軍慰安婦問題で合意に達したと発表した。韓国の尹炳世外相との共同記者会見で岸田文雄外相は、安倍晋三首相が元慰安婦に対し心からのおわびと反省を表明するとともに、元従軍慰安婦支援のための財団を韓国政府が設立し、日本政府が自国予算で資金を一括拠出することを明らかにした。
 また、岸田外相は慰安婦問題が最終的・不可逆的に解決したことを確認したと述べ、さらに日韓両国政府は国連など国際社会で慰安婦問題に関して互いに批判・非難しないことで合意したと語った」(2015年12月28日ロイター

この決定には様々な問題がある。それは横に置くとして、少なくとも現政権、安倍と岸田は西田の言う「従軍慰安婦自体が歴史によって確定されたものではないと思っている」とは真逆の約束を韓国との間で結んだのだ。

私は「ヘイトスピーチ対策法」に危険性を感じている。その理由は右の写真である。西田の差別的思想と「対策法」がどうして結びつくのか。ニコニコ握手をしている有田芳生議員との写真に読者諸氏は違和感を抱かないだろうか。

からくりは簡単だ。「対策法」は今のところ「差別」を対象にしているけれども、その適応を広げれば(「付帯決議があるから心配ない」と考える善男善女は認識が緩い。総理が憲法の解釈を勝手に変える政権であることを、まさか忘れてはいないだろう)反基地、反原発、果ては反政府言説の全てを取り締まることの出来る21世紀型「治安維持法」導入の一里塚だからだ。これまで警察は「脅迫罪」、「公務執行妨害」、「道路交通法違反」を在特会などに差別集団に適用することに極めて消極的だった。やろうと思えば現行法で逮捕できる場面は数えきれないほどあった。なぜ警察が動かなかったのか。その理由がこの立法を支えるためであったと考えるのは穿ち過ぎか。

西田を英雄視する有田の姿、非常に強い違和感を感じる。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。