アウン・サン・スー・チーさんは5月末から6月初めの6日間、タイを訪問した。軍事政権下で出国できなかったアウン・サン・スー・チーさんにとって、24年ぶりの国外訪問となった。
ミャンマーでは昨年の総選挙で、改革派と目される、テインセイン氏がミャンマー大統領に就任。軍政に終止符が打たれた形となった。アウン・サン・スー・チーさんとも協力しあうことで合意。ミャンマーでは、民主化が進んでいると思われている。
軍政下、国内で民主化を求めて活動をしていた人々は、投獄の恐れがあるため、多くが国外に亡命した。日本にも、そのようなミャンマー難民が数多くいる。
テインセイン大統領は、「海外にいるミャンマー人はミャンマーに帰ってきてください」とメディアを通じて発言している。しかしミャンマー国内では、民主化活動をした人に対する罰則法がすべて撤廃されていない。
日本にいるミャンマー人難民問題を扱ってきた、ジャーナリストの深山沙衣子さんは、2011年、難民であるミャンマー人男性と結婚し、長女を出産した。
夫はいまだ帰国に踏み切れないが、娘を彼の家族に会わせようと、自分の家族を伴ってミャンマーに行くことを計画。在日本ミャンマー大使館に、ビザ申請をした。すると、深山さんと彼女の娘は、観光ビザではなく家族ビザを申請するように言われ、そのように手続きをした。
深山さんの家族の観光ビザは出たが、深山さんと娘の家族ビザが出ない。「理由はご主人にミャンマー語で説明します」と、電話で大使館が言ってきた。
彼女の夫の携帯電話に、大使館から電話があった。
「通常、在日ミャンマー人はミャンマー大使館に毎月1万円の税金を納めている。それがないとパスポートを更新、発給しない。あなたの場合、来日時の1991年から税金を納めていないし、パスポートの有効期間が切れている。合計で243万円の税金が未納になっている。その金額を払えば、奥さんと娘さんのビザを出す」
これまで、軍政ミャンマーの出先機関であった大使館に、民主化活動家である彼女の夫は足を踏み入れることはできなかった。拘束される恐れがあったからだ。
そもそも異国に滞在する外国人が、本国の大使館に税金を払う必要があるのだろうか?
そこからが疑問だが、自分を保護してくれるのではなく、難民という状態に追いやっている国家の機関に対して、なぜ税金を払わなければならないのか。
他にも、まだまだ疑問がある。深山さんと夫は、日本の法律に則って結婚している。だが、夫がミャンマー大使館に足を踏み入れることさえできないため、ミャンマーの法律では2人は結婚していないのだ。それなのに、家族ビザを取れと促し、夫の税金未払いに言及してくるのは、まったく筋が通っていない。
深山さんの件に限らず、在日本ミャンマー大使館は、税金徴収という名目で在日ミャンマー人のパスポート更新に対して金銭を要求し続けてきている。この制度により、ミャンマーと縁遠くなったミャンマー人の日本人家族は、数少なくない。
ミャンマーの民主化の功労者が、ほとんど帰国できずにいるのも、この制度による。
民主化したという旗印の下に、ミャンマーに進出する日本企業も目立つ。
しかし、ミャンマー人自身が祖国に帰れない現状を見ると、いったい誰のための民主化なのか、首をひねってしまう。
(FY)