8月15日。終戦記念日の九段下交差点は、例年通り大荒れだった。
天皇制廃止論を掲げる新左翼団体の反天皇制運動連絡会(通称・反天連)が100~200人規模でデモ行進を行なった。在日本韓国YMCAを午後4時15分に出発して靖国神社から。主張は侵略戦争の象徴である靖国神社解体、昭和天皇の戦争責任追求といった反戦平和がテーマである。血まみれの昭和天皇の胸にナチスのハーケンクロイツが輝くプラカードが尊皇派を挑発する。
「靖国解体!戦争反対!安保いらない!基地はいらない!」
対して、在日特権を許さない市民の会(通称・在特会)やチャンネル桜をはじめとしたネット右翼(ネトウヨ)と呼ばれる500~1500人が抗議のカウンターデモを行なった。反日左翼が靖国神社に祀られた英霊と天皇陛下を冒涜することはけしからん、よりによって終戦記念日に破廉恥なモチーフを掲げて騒ぎ立てるとはもっての外だ、というのがおおまかな主張である。反日極左=朝鮮人という認識のもとで排外主義を叫ぶ。
金曜日の首相官邸前脱原発デモに対するカウンターデモを仕掛けて原発推進を叫んでいた連中も何人か見かけた。
黒ヘル完全装備の機動隊が、行進する反天連を両脇から挟み込むような形で靖国通りを進む。外側から隊服姿の右翼や日の丸ハチマキの若い兄ちゃんが機動隊めがけて体当たりで突っ込む。
「おいこら朝鮮人!ぶっ殺してやるゴキブリ野郎日本から出て行け!」
「機動隊この野郎、俺たち愛国者じゃなくて反日極左集団を取り締まれ!」
「俺たちだって戦争賛美なんかしてねえぞこら!」
反天連と機動隊に浴びせられる罵声と怒号。沿道には日章旗、旭日旗、Z旗が幾重にも翻る。
午後5時、反天連のデモ隊は九段下交差点に到着した。車道と歩道を仕切るように鉄柵が設置されて、在特会はカゴの鳥状態。交差点は機動隊車両の行列で一時完全封鎖、伸縮式車両阻止柵(金属製の蛇腹シャッター)でデモ隊と警察以外は侵入できないように厳重警備された。
左翼運動におけるサンドイッチデモをご存知だろうか?
表現の自由が担保する当然の権利であるはずのデモが、過激派左翼=反社会的集団との認識から機動隊に阻まれきた歴史がある。機動隊が盾で足を潰す、誰にも見えないように膝蹴りを食らわせる、警棒で突っつくというのは当たり前で、その挑発に乗ってやり返したら公務執行妨害で逮捕するというがよくあることだった。
アラブのジャスミン革命や3.11以降の脱原発デモを皮切りに日本国民の多くが政治運動に関心を持ち始めた現在では、警察機構もあまり過激なことはできなくなった。国民の監視が権力の暴走を食い止めるための一番の拮抗力になることがよくわかる出来事だ。
警察も一応のところ、反天連にはデモをさせるし、在特会には抗議をさせる。
反天連も在特会も主張したいことは100歩譲ってわからなくもないが、どちらも差別的発言が目立つことに違和感がある。しかし影でコソコソと悪口をこぼしているよりは100倍ましだ。政治的発言がタブー視されなくなってきた現状はあながち悪いものでもない。今後、相互に話し合いの場が持てるような機会が訪れることに期待したい。
(原田卓馬)