2016年3月12日、3・11甲状腺がん家族の会が設立された。設立時の正会員は5家族7人、代表世話人には河合弘之さん(弁護士)と千葉親子さん(元会津坂下町議)が就いた。これまでほとんどタブー視されてきた福島での被曝被害の核心を伝える貴重な設立会見を7回に分けて詳報する。第5回は福島におられる会員ご家族のお二人と東京の会見会場をスカイプで繋いでの質疑応答。

◆震災当時10代だった女子の父親(白い服の方)による自己紹介

私は、中通り地方に住む、震災当時10代の女子を子供に持つ父親です。今まで、子供の病気のことは、周りの誰にも言えず病院の先生と家族で話すだけでした。しかし、この間に甲状腺がん家族の会ができまして、同じ病気の子供を持つ親と子供の手術後の体調やその他の悩み事など、今まで誰にも話すことができなかったことを話すことができました。このことは、本当に良かったと思っております。

また、同じ境遇の人達と話しあうことで気持ちが大変楽になりました。病気の治療のこと、子供の将来のことを周りにいる人達に話せることが、私たち家族にとって大変力になり、また、様々なことを相談できる世話人の方たちも大変力強いと思っております。

そして、定期的に会の人たちが集まり、情報、意見を交わすことなどができれば良いと考えています。私たち家族たちと同じ立場にある方が多くいると思います。是非、この会の方へ勇気を持ってアクセスしていただければと思っております。以上です。
 
◆震災当時10代だった男子の父親(黒い服の方)による自己紹介

私は中通り地方に住む当時、10代であった男子の父親です。突然、息子が癌と言われまして、息子も私もショックが大きく大変つらい思いをしました。今回、こうした家族の会が設立できたということで、本当に気持ちの分かりあえる皆さんとお話しただけでも気持ちの救われる思いでいっぱいです。まだまだ、多くの方がたくさんのことを悩んでいらっしゃると思いますが、是非とも歯を食いしばりこの会に参加して頂ければと思います。

◆質問1=ウクライナでは子供の甲状腺がんと原発事故の因果関係を認めているが……

【Q1】 河合弁護士と牛山医師に質問します。政府が、原発事故と甲状腺がん被害の因果関係を否定しております。そうなると、こちらが立証しなくてはならないわけですが、チェルノブイリ事故を受けて、ウクライナでは事故由来とされる、がん患者1000人以上を治療、入院させている病院がある訳です。

そこの小児科部長に聞きましたが、福島原発直後、日本政府とそこの病院で30回以上行き来して情報交換をしているといいます。

ウクライナ政府はチェルノブイリから100キロ圏、つまりは当時、放射能プルームが飛んでいったとされる地域で発生した甲状腺がんの子供たちの因果関係を認め、病院に受け入れさせている。その小児科部長が言うには、明らかに(原発事故と)因果関係はあると言っていました。それを踏まえ、今回、家族会ではウクライナに調査団を出す考えはおありでしょうか。医師や弁護団とか。そこまでしないと白を切ると思いますよ。政府は。

【A】(河合氏) 急な質問で、答えにくいですが、財政基盤がそこまであるのかという問題もあります。チェルノブイリに調査団を派遣することが、社会的見解、政府見解を変えさせることに効果が出てくるかどうか、費用対効果を考えた上で対策を考えたいと思います。
 
【A】(牛山氏) 私自身は、2013年にベラルーシに派遣され、医学アカデミーで研修を受けさせていただきました。そこで、伺ったお話と日本で言われているベラルーシの実情とは微妙に違っていて、医師らにおいても、当時の資料と最近の資料でお話されることとは違ってきています。だから、非常に難しいと感じています。

しかし、そういう情報交換をしていかないと本当のことは分からない。チェルノブイリも30年経ちやっと分かってきていることがあるので、私たちもそこから学ばなくてはならない。お金が無くても、個人的にやっていかなくてはならないと思っているし、そういう所に行き、勉強したいという医者は他にもいます。

◆質問2=福島の医療現場で最も不審や不安などを感じた対応は?

【Q2】 福島の2人の保護者の方に質問したいのですが、お子さんが治療や手術を受ける時、医師、県立医大の方になるとは思いますが、その中で最も不審や不安などを感じた対応は何でしょうか。具体的な事があれば教えてください。こんなことが一番ショックだったということかあれば上げていただきたい。

【A】(白い服の方) 甲状腺がんが、放射線の影響とは考えにくいと言われました。それでは、逆に何が原因かを詳しく知りたいというのが本当の所です。(原発事故が原因とは)考えにくいとされる中、何度も検査しています。(原発事故が原因とは)考えにくいとされる中、なぜ何度も検査されるのかという思いもあります。原因がはっきりわからない中、再発、転移する可能性があるのか、無いのか、それが一番心配な所です。

【A】(黒い服の方) 最初に癌だと診断された時、息子の目の前で「あなたは癌ですよ」と言われた時は、ものすごくショックでした。もう少し、なんというか、10代思春期の人間に対し、あの言い方はちょっと辛かったのではないかと思いました。私たちも当然のことながら甲状腺がん関係の知識は何もございません。とにかく、わらにもすがる思いで先生の言うことを聞いて、治療すれば大丈夫なのかなと思っておりました。今後、治療が長く続く間、再発する可能性というのも未だ払しょくできない不安材料です。

◆質問3=「過剰診断ではないか?」と言われてしまうのような日本の状況について

【Q3】 国内では、過剰診断ではないか?という言われ方など、どこか患者の方々であるとか、被害者の存在が放り置かれてしまうようなことが出てきていると思います。そういった状況をどう思いますか?

【A】(牛山氏) 本当にその通りです。ご家族や患者さんがどのように感じているのかということを、この会の設立により、やっと聞くことができました。あまりにも、情報が出てこないのです。福島県立医大がまとめているとは思いますが、きちんとケアがされているのかといえば、決してそうではなかったと思います。こうしたことを家族会設立により改善していければと思っています。

【A】(白い服の方) エコー検査の性能が上がるなど、色々言われていますが、機械の性能も向上しているので、見つかるはずもなかったものが見つかるということは、あるとは思います。娘については、比較的大きな状態で見つかりましたので、これは明らかに癌だと分かる状態で見つかっていますので、過剰診断ではないと思います。

【A】(黒い服の方) 早期で癌が見つかっていますが、過剰診断だということを強く感じたということはないです。(つづく)


◎[動画]20160312甲状腺がん患者家族会設立記者会見(UPLAN三輪祐児さん公開)

▼白田夏彦[取材・構成]
学生時代に山谷、沖縄などの市民運動を訪問。その後、9・11同時多発テロ事件をきっかけにパレスチナ問題の取材を開始。第二次インティファーダ以降、当地で起こった非暴力直接行動を取材。以降、反戦や脱原発などの市民運動を中心に取材。現在、業界紙記者。