1週間、フィンランドに行っていた。
帰国すると、成田空港の入国審査で、「このパスポートでは入国できません」と言われる。
「なぜ?」と驚くと、「ここは、中華人民共和国日本自治区です。日本という国は無くなりました。日本のパスポートは、もうすべて無効。あなたは、無国籍者です」
がばっと、飛び起きた。悪夢だった。
日本行きの航空便は、すべて欠航、という夢も見る。
福島第一原発の4号機の使用済み核燃料プールが乾ききって発火したのだ。再び放射能がまき散らされる。収束の手段はなく、誰も近づくことができない。
日本から逃れようとする人々、韓国、台湾、中国でも、より遠方に逃れようと、パニックになっている。日本に帰ろうとする者などいない。
放射能はヨーロッパにもやってきて、フィンランドからも西へ逃げる人でパニックになる。
しかたがない、サウナにでも入って、地球の終わりを待つか、という夢だった。
幸いにも夢だったが、今この時にも起こりうることだ。
おちおち海外旅行にも行っていられない。
福島第一原発の、特に4号機は皮一枚でつながっている状態。さらなる事故、それも原子力産業がいまだ遭遇したことのない大惨事につながる恐れがある。
それでも、野田首相は「収束」とウソをついて、「自分の責任で」と大飯原発を動かした。
フィンランドは今、短い夏。といっても気温は、東京の2、3月程度だ。それでもフィンランドの人々は夏を感じようと、革ジャンを着込んだりしながら、オープンテラスに陣取って、昼間からビールを飲んでいる。
酔った男性から、話しかけられる。最初は津波の被害に関する心配だったが、そのうちに「ヒロシマ、ナガサキを体験しておいて、フクシマを引き起こすなんて、日本はクレージーだ」と繰り返した。酔っているだけに、これは本音だろう。
フィンランドにも2カ所、4基の原発がある。
日本との大きな違いは、原子力発電所内に電気会社の本社があることだ。そこで社長や役員も仕事をしている。それだけ、安全性に責任を持っているということだ。
地方の村が消滅しようと、都会と自分たちの生活さえ安泰ならいい、という日本の電力会社の態度とは、まるで違う。
日本に帰ってくると、悪夢とは違って、わずかながら、いい兆候が見られる。
毎週金曜日の首相官邸デモの代表者が、野田首相に面会した。代表者たちは、なかなか素敵な面々だ。
それを報じた『週刊文春』9月6日号の記事には、「野田首相よ、なぜデモ隊に屈したのか」という、櫻井よしこ氏の寄稿が連なっている。
そう、デモが首相に勝った、ということが、宣言されているのだ。
相も変わらず、「エネルギー政策こそ国家の基本戦略です」などということを繰り返している櫻井氏も、脱原発派に敗北している。
フィンランドと違って日本の夏は暑い。衣服で体感温度を調節するのは昔からの知恵で、薄着で外出するのは当然だと思うが、そうすると電車の車内や店の中など、クーラーの効きすぎで寒い。その状態が、東京電力管内の原発がすべて停まっている今年も、相変わらず続いている。
どんなデータよりも、原発なしでも電力は足りる、ということが証明されているではないか。
9月1日の東京新聞によれば、電力総連出身の藤原正司参院議員は「(人類滅亡の)ノストラダムスの大予言があったが、地球はまだある」と述べ、原発ゼロの議論は現実的でないと指摘したとのことだ。
震災以前からの脱原発派の警鐘は福島事故で当たったわけだから、この発言は「壊れた」と言っていいくらいの、意味不明だ。
藤原は元々関西電力労組の出身。「大飯原発の稼働で、この夏の電力不足は免れた」とでも言うのが普通だと思うが、大飯原発なしでも大丈夫だったというのがみえみえで、そんなことさえも言えなかったのだろう。
脱原発の趨勢は高まっている。一刻も早く大飯原発を止め、すべての原発を廃炉にする議論へと進んでいくべきだろう。
(FY)
★写真は、ヘルシンキ駅に置かれた戦車の前で募金を募る兵士