注目される裁判で抽選券を求めて並ぶアルバイトは、「並び屋」と呼ばれ、5年ほど前までは週刊誌やテレビ局が「当たらなくても5000円」は約束されていた。当たれば1万円~1万5000円が相場。オウム真理教の代表だった麻原彰晃被告の初公判があった96年4月には、48席の傍聴席に1万2292人が殺到し、当選した抽選者には「10万円」の報酬が出た。

だがそれはもう過去の話で、このところ価格破壊が起きている。価格の下落はメディアの不況と連動しているといえるだろう。雑誌は部数を落とし、テレビはスポンサーが離れて制作費が激減している。

◆高知東生裁判でも『最小限対応』のテレビ局

8月31日、元俳優の高知東生(本名・大崎丈二)被告と、知人の飲食店従業員の五十川敦子被告の初公判が東京地裁で行われた。これに先立ち、傍聴希望者が18席の一般傍聴席を求めて1198人が並び、約66倍もの抽選となった。抽選場所となった中庭では、無言でガッツポーズをする女性が抽選券を握りしめて裁判所に入っていく。

「番号がありました」とテレビ局クルーが数人待つ場所に中年男性が駆け込む。

男性に話を聞くと
「腕にタグがバチッと貼られる清原和博さんのときみたいな抽選だと人に譲れないのですが、今回は抽選券は紙なのでテレビ局のスタッフに売れるのです。ギャラは並ぶだけで1000円、当たれば7000円です。週刊誌はもっと渋いですよ。並んで800円、当たれば5000円です。ネット媒体は僕はやったことがないですが、たぶん当たってもあたらなくても2000円くらいじゃないでしょうか」とのこと。

それにしても、暑い中、当選番号の発表を待っていると、戦後に食料の配給を待っているか。もしくは大学受験時の合格発表のようであり、情けなくなってくる。写真を撮影しようとすると「裁判所の敷地内では撮影しないでください」と警備員の怒号が飛ぶ。

やってきた媒体はテレビ、新聞で11社、記者は40名前後。

「今回は高知と五十川だけが来ることがわかっていたので、スタッフは減らしています。いわゆる『最小限対応』。清原とかASKAに比べればそんなにマークすべき相手じゃないってことですよ。高島礼子が来れば、抽選での『並び屋』も今日の倍くらいはつくかもしれませんけどね」(テレビ局スタッフ)

◆裁判自体に全く無関心な「並び屋」たちの増加

ネットニュースの場合は、並んでも相場は「500円+交通費」で、当たっても「特別報酬」が出るケースは少ない。

こうして「注目される裁判の抽選の並びバイト」の価格は、破壊されるいっぽうで、在日の中国人や韓国人、ベトナム人、インド人たちも進出。本来は日本人しか傍聴できないが、別にパスポートがチェックされるわけじゃない。在日外国人で大学生も多く来ている。

「だって並べばいいわけだから、健康で時間を守れば成り立つバイトですよ。ただし、何時から抽選が始まるかわからないので、時間が自由に使える人たちの仕事にちがいありませんが」(並んでいた中国人男性)

そして裁判そのものに「並び屋」たちはまったく興味を示さないのも特徴。
抽選で外れた20代男性は「高知ってテレビに出ていたのですか? 見たことがないですね。まあ有名人が犯罪を犯せば僕らは金になるから被告さまさまですけどね」と言う。

有名人が逮捕されて歓喜する職業、汝の名は「裁判抽選の並び屋」。しかしその職業すらも、廉価で外国人に奪われようとしている。

(伊東北斗)