電通に関する記事を書いていたら、まさしくその影響力を体験するような出来事に遭遇した。10月1日、TOKYO MXテレビ(東京メトロポリタンテレビジョン)で毎週月曜夜22時から放映中の「ニュース女子」という番組の制作会社から、同番組へのゲスト出演依頼があった。

TOKYO MXテレビ

この番組は毎回保守色の強い論客(大学教授、作家等)を4、5人揃え、3本程度の時事ネタを若い女性タレントに解説するというニュースバラエティ番組だ。一応ゴールデンタイムの放送であり、MXとしても力を入れている番組のようだ。今回は東京都の豊洲問題、ビットコイン、そして電通の不正請求問題を取り上げたいとのことだった。

DHCシアター『ニュース女子』

◆企画から制作まで外注で行われるテレビ番組制作の仕組み

ここで簡単に番組制作の仕組みを説明すると、現在の民放番組の殆どは、外注制作会社(プロダクション)によって作られている。番組を作る膨大な機材やスタッフを社内で抱えることが難しいためで、「○○テレビの番組」などと言っても、内実は制作会社が企画・制作した番組をテレビ局が電波に乗せているに過ぎない。テレビ局側は内容チェックと局の名義を貸しているだけで、実際の現場の殆どは制作会社に任せきりなのだ。この「ニュース女子」もまったく同様で、連絡をしてきた制作会社が番組の企画や人選を一手に引き受けているのだった。

とはいえ厳しく電通批判をする私にとって、最も電通の影響力が強いテレビ局への出演可能性は限りなく低いから、私は連絡をくれた制作会社のディレクター氏に「私なんか出して、本当に大丈夫?」と何度も確認した。

『ニュース女子』出演者

『ニュース女子』出演者

それに対し、「電通の不正請求事件は記者会見まで開いて大きく報道されたので、それを扱うのは何の問題もありませんよ」との返答であり、「制作に関しては全てMXから一任されているので大丈夫」とのことだったので、それならばとゲスト出演を了承した。収録は10月6日、放映は10月10日とのことであった。

◆制作側も扱いの難しさを十分に分かっていた

送付されてきた企画書では、いきなり「不正請求」という言い方は厳しいので、「電通の噂、本当ですか」というタイトルで最近の電通の様々な問題(五輪エンブレム騒動、五輪招致裏金疑惑、不正請求問題等)を提示して、ゲスト出演する私に意見を求める、という形式だった。司会者やレギュラーコメンテータなどは著名人ばかりで日頃電通にお世話になっている人が多いから、ゲストの私に喋らせることによって「あれは本間の意見だから」という体裁を作ることができるという訳だ。

ディレクター氏はテレビで電通の諸問題を扱うことの難しさは十分に分かっているようで、噂程度ではもちろん取り上げられないが、今回は既に放送されたネタなので大丈夫と判断していたようだった。企画書や台本が送られて来たので、問題なく収録までいくかと思っていた。

『ニュース女子』MCは長谷川幸洋=東京・中日新聞論説副主幹

◆MX側が「電通の不正問題を放送することは不可」と一蹴

しかし、やはりことはそう簡単には運ばなかった。10月4日の夜になってディレクター氏から電話があり、出演中止を告げられた。制作会社が収録用の台本と番組内で使用するフリップ案を局に提出したところ、しばらくして放送を中止するようにとの命令がMX編成局からあったという。

その理由としては、とにかく「電通ネタは放送するな」とのことであり、ゲストの私の出演拒否ということではなく、「電通のネタは放送できない」というものだった。ディレクターは「既に9月23日に各局で記者会見の模様が報道されたので問題ないのではないか」と食い下がったが、「電通の不正問題を放送することは不可」と一蹴されたという。

MXの態度自体は、ある程度予想されたことだったので私は特に驚かなかった。ディレクター氏の落胆や謝意は電話を通してよく理解できたし、放送中止は制作会社の雇用者たるMXの意向なので、彼には何ら責任はない。

私は今まで電通の威光にひれ伏すメディアの実態を随分聞いてきたが、遂に自分自身でそれを体験することになったのだ。それにしてもこの「電通のニュースは絶対に流すな」という見事なまでの自主規制は、まさしく現在のメディアの電通に対する盲従ぶりを示す好例ではないだろうか。

ライブドアニュース2016年3月31日付記事

◆「自主規制」の岩盤はとてつもなく厚かった

東京MXは関東ローカルのテレビ局で規模も小さく、それゆえに比較的自由な番組制作が出来るという評判だった。ところが最近はジャーナリストの上杉隆氏が出演番組を一方的に降板させられる事件も起き、その影にはやはり電通の存在があると囁かれている。

私の件は、ニュースを扱うとはいえ、ほとんどワイドショー的な番組であり、しかもたった一回限りなので可能ではないかと思ったが、やはり「自主規制」の岩盤はとてつもなく厚かったというべきなのだろう。

◆テレビが沈黙してもネットの流れは止まらない

出演中止を受け、早速この件をツイート発信したところ、2日間で3500リツイートを越えた。これは相当な数であり、ツイッターのインプレッション(ユーザーが当該ツイートを見た回数)は約30万回にもなるから、かなり大きな数字だ。

多くの人々が電通に関する情報に敏感になっているのにどのメディアも沈黙しているから、逆に私のような無名の者の告発でさえあっという間に拡散され、増幅される。多くの人々が「メディアの電通に対する自主規制」に気づきはじめており、もはやこの流れは止まらないだろう。

▼本間龍(ほんま・りゅう)
1962年生まれ。著述家。博報堂で約18年間営業を担当し2006年に退職。著書に『原発プロパガンダ』(岩波新書2016年)『原発広告』(亜紀書房2013年)『電通と原発報道』(亜紀書房2012年)など。2015年2月より鹿砦社の脱原発雑誌『NO NUKES voice』にて「原発プロパガンダとは何か?」を連載中。