ボディブローもダメージを与える有効技

T-98(今村卓也)が10月9日、日本人として初の(外国人として2人目の)現地ラジャダムナンスタジアムで防衛を果たす快挙、更なる証しに挑戦です。

◆タイ国ラジャダムナンスタジアム・スーパーウェルター級(154LBS)タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.T-98(今村卓也/クロスポイント吉祥寺)
VS
挑戦者.プーム・アンスクンビット(タイ)

勝者:T-98 / TKO 3R / カウント8でレフェリーストップ

一瞬の隙を突いたヒジ打ちは要注意。やはり上手い現地のランカー

一瞬、危なかったプームのハイキック

ダメージを重ねたT-98の右ローキック

開始からT-98が右ローキックで、圧力かけるように前へ出る展開。足効かせて勝利を導く狙いがあるような流れでした。プームは、ヒジ打ちのタイミングやハイキック、組んで転ばす技はやはり上手で、後半にいくほど厄介さを感じさせます。

T-98のローキックは見た目地味にもコツコツ強く蹴り続け、ボディブローもヒットさせ、ひとつひとつの攻防に絶対劣勢に立たない、ダメージを与えられる打撃は何でも出す圧力を続けました。

力尽きたプームは心折れた表情で立てず

プームが組んでヒザ蹴りで出てきてもT-98は応戦し負けない蹴り合い。コツコツ蹴り続けた右ローキックで、3Rに最後の強烈な一発を食らって限界にきたプームはあっけなく崩れ落ちてしまい、キツさを表情に出してギブアップ状態。レフェリーはカウント途中で止め、T-98のTKO勝利。

T-98は感じていたプレッシャーから開放されたように喜び飛び跳ね、応援に来ていたリングサイドのファンに手を振っていました。

プレッシャーから開放された喜びのT-98

T-98は6月1日に後楽園ホールに於いて、REEBLS興行でのラジャダムナンスタジアム・スーパーウェルター級級王座挑戦し、チャンピオン.ナーヴィー・イーグルムエタイ(タイ)に判定勝ちし王座を獲得。日本人5人目となるラジャダムナンスタジアムのチャンピオンとなりました。

今回の防衛戦は前チャンピオンのナーヴィーとのダイレクトマッチが予定されていましたが、直前にプーム・アンスクンビットに変更となりました。

これでT-98は現役ラジャダムナン・スーパーウェルター級チャンピオンとして12月5日の「KNOCK OUT興行」に出場し、長島自演乙雄一郎と対戦することになります。

取材戦記

二大殿堂のラジャダムナンスタジアムに対するルンピニースタジアムでは、過去にムラッド・サリとダミアン・アラモスのフランス人選手2人がスーパーライト級で王座に就いています。

ラジャダムナン王座にタイ人以外の外国人が就いたのは過去、藤原敏男(ライト級)、小笠原仁(スーパーウェルター級)、武田幸三(ウェルター級)、石井宏樹(スーパーライト級)、ジョイシー・イングラムジム(ウェルター級)とT-98で6人目。現地ラジャダムナンスタジアムで防衛に成功したのは、ジョイシー・イングラムジム(ブラジル)に次ぐ2人目でした。ジョイシーが2度目の防衛を果たした時の相手がナーヴィー・イーグルムエタイで、ジョイシーが王座返上後にナーヴィーが王座決定戦で奪取していました。

ムエタイ二大殿堂王座は、その王座を奪取すれば、その階級で頂点に就いたと証しとなりますが、真のチャンピオンに達したと認められるには、賭け屋(ギャンブラー)と言われる観衆の大声援による支持が証しとされます。

現地で日本人チャンピオンの手が挙げられる

現地での堂々の防衛で勝者コールを受ける

タイは民族的に身体が小柄で、ボクシング、ムエタイにおいても軽量級が激戦区で、線引きするなら60kgに満たないクラス(スーパーフェザー級)までを指されます。そこで頂点を極めるのは至難の業で、日本人挑戦者も過去7人が挑戦していずれも撥ね返されており、センスや実力があっても獲れなければ無名のまま。その中には梅野源治も江幡ツインズもいます。

60kgを超えると中・重量級であるが故、層が薄いと言われるムエタイ王座ですが、そんな重量級の選手にとって、王座奪取してもより付加価値を付けなければ世間に認めてもらえない厳しさがあります。

T-98がまず目指したのは、「現地で防衛してこそ本物のチャンピオン」と言われる称号で、その第一歩に成功。更には今後、賭け屋の支持を多く受けなければならない難度な道程です。

過去の外国人ラジャダムナンチャンピオン全6人の内、藤原敏男氏は唯一、タイのトップクラスとの現地での激しい試合が賭け屋の支持を多く受けたチャンピオンでした。1977年4月、現地でノンタイトル戦ながら現役チャンピオンに判定勝ちする快挙を果たした後、王座奪取は1978年3月18日の後楽園ホールでしたが、初防衛戦は期間が3ヶ月弱での6月7日、現地ラジャダムナンスタジアム。短い期間で初防衛戦を迎え大声援の中、接戦の判定負けを喫しました。「藤原は勝っていた」という賭け屋の支持も多く、防衛は成りませんでしたが、藤原氏の名声は今も語り継がれるほど、現地のファンも当時のランカーもレフェリーも記憶に残る名選手でした。

藤原敏男氏の知名度には及ばないですが、これに次ぐ実績を残したのが、ブラジルのショイシー・イングラムジム(ジョス・ロドリゲス・メンドーサ)。彼は2013年7月、ラジャダムナン・ウェルター級王座を現地で奪取し、2014年9月、日本で田中秀弥(RIKIX)の挑戦を退け初防衛し、2015年6月、2度目の防衛戦で再び現地でナーヴィー相手に防衛を果たす、現地で獲って現地で防衛する実績を残ました。いずれも技術と駆け引きで優って勝つのは難しいと言われる判定勝ちでした。ノンタイトル戦で緑川創(藤本)も下している、日本でも名を知らしめた選手です。

T-98に懸かる期待は藤原氏とジョイシーの二人を超えること。対戦候補となるジョイシーは現役のトップクラスでいます。前チャンピオン. ナーヴィー・イーグルムエタイも現地での再戦を待っているでしょう。更に日本人同士のラジャダムナンタイトルマッチも計画されているという、日本を含め、外国にも強豪はまだいる重量級です。

チャンピオンベルトという物的証しの上に、一人一人のファンが集まって大群集となるファンの支持力が真のチャンピオンの証しとなり、そこではノンタイトル戦であっても大群衆は注目します。T-98は重量級であっても自身の名声を高める戦いは今後も続き、層が薄いと言われている現状でも、好カードで現地防衛を重ねることが一番価値を残すでしょう。

控室側にある撮影ブースで、応援の旅に付いて来てくれた仲間と記念撮影

《追記》

8月31日(水)、現地でのラジャダムナンスタジアム・ミドル級タイトルマッチで、チャンピオンのコムペットレック・ルークプラバートを4R、ボディブローで倒し、TKO勝利したユセフ・ボーネン(フランス)が、ラジャダムナンスタジアムの外国人7人目のチャンピオンとなっています。

また10月23日(日)、ディファ有明でのREBELS興行で行なわれた、ラジャダムナンスタジアム・ライト級タイトルマッチで、チャンピオンのヨードレックペット・オー・ピティサックを、判定3-0で破った梅野源治(PHOENIX)が、ラジャダムナンスタジアムの外国人8人目のチャンピオンとなっています。

[現地撮影]Mr.Pornchai Udomsomporn (weekly MUAY TU)
[文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」