社会の耳目を集めた広島のマツダ社員寮男性社員殺害事件は、被害者の同僚の男性社員が強盗殺人の容疑で逮捕、起訴され、事件が解決したようなムードが漂った。そんな折、1人の無期懲役囚がこの事件について物申すべく、デジタル鹿砦社通信に手記を寄稿した。男の名前は、引寺利明(49)。2010年に起きたマツダ工場暴走殺傷事件の犯人である。
◆暴走犯から届いた手記
自動車メーカー・マツダの広島市南区向洋大原町にある社員寮で暮らしていた男性社員・菅野恭平さん(19)の他殺体が寮内の非常階段の2階踊り場で見つかったのは9月14日のこと。同24日に強盗殺人の容疑で検挙された上川傑被告(20)は菅野さんと寮の同じ階で暮らす同期入社の社員で、菅野さんを消火器で殴るなどして殺害し、現金約120万円を奪った疑いをかけられている。
一方、マツダの元期間工である引寺は2010年6月、広島市南区仁保沖町にあるマツダ本社工場に自動車で突入して暴走し、12人を殺傷。ほどなく自首して逮捕されたが、「マツダで働いていた頃、他の社員たちにロッカーを荒らされ、自宅アパートに侵入される集スト(集団ストーカー行為)に遭い、マツダを恨んでいた」という特異な犯行動機を語り、世間を驚かせた。その後、精神鑑定を経て起訴され、2013年9月、最高裁に上告を棄却されて無期懲役判決が確定。裁判では、責任能力を認められた一方で、妄想性障害に陥っていると認定されている。
この引寺が裁判の終結後も服役先の刑務所で無反省な日々を送っていることは、当欄で繰り返しお伝えしてきた。引寺が反省できない最大の原因は、マツダで働いていた頃に「集スト被害」に遭っていたと今も頑なに信じていることだ。そんな引寺だけに今回のマツダ社員寮事件についても黙っておられず、当欄に手記の掲載を希望し、私のもとに郵送してきたわけである。
引寺が書いた手記は読む人によっては、気分の悪くなる内容だと思う。しかし、引寺のような社会の耳目を集めた重大殺人事件の犯人がどのような考え、どのような精神状態で服役生活を送っているのかということは社会の大きな関心事であるはずだ。そこで、引寺から寄せられた手記を余すことなく紹介しよう。ただ、引寺は現在も自分が犯した罪について、まったく反省していないので、読んで気分が悪くなるのが耐えられない人はここから先を読むのは控えたほうがいいかもしれない(※以下、手記は行替えを除き、とくに断りがない限りは原文ママで引用)。
片岡さんも御存知と思いますが、マツダの社員寮で起こった事件に関してですが、発生当初から世間の見方では、同じ寮に住んでいる従業員による内部犯行の可能性が高い事は明らかだったのですが、犯人が逮捕されるまでは、新聞の記事やテレビのニュースでは、内部犯行説に関してはほとんど言及せず、何度も「警察は慎重に捜査している模様です。」と報道するばかりで、ワシはイライラしていた。
おそらくどこのマスコミも、内部犯行の可能性が高い事に関して、マツダに突っ込んだ取材はしていないでしょう。テレビ局のスタッフが、犯行現場である社員寮に出向き、寮に出入りしている社員達に逆取材した時も、インタビューを受けた社員が内部犯行の可能性が高い事について語った場合、その映像はニュースでは使われなかったでしょう。マスコミのボケどもがスポンサーであるマツダに配慮して、気をつかった報道ばかりをしている様子に、大人の事情が垣間見えて、カチーンときた。(怒)
マツダ事件(筆者注・引寺が起こしたマツダ工場暴走事件のこと。以下同じ)当時、一審を担当した主任弁護士の事務所に、マツダの従業員と名のる人達から「引寺容疑者が取り調べで語っているような嫌がらせをする連中がマツダにはおります。そういった連中による、嫌がらせ、パワハラ、セクハラ、暴行などの行為が、社内では日常的に起こっております。私も被害にあいました。」と訴えかけてくる電話が次々とかかってきた。主任弁護士は、電話をかけてきた人達の一人と実際に会い、直接、その人から被害の状況を聞いている。
ワシは広拘(筆者注・広島拘置所)で面会していた記者連中にこの件を話し、「こういった事態が実際に起こっとるんじゃけぇー、主任弁護士から裏をとってキッチリ報道しんさいや。それが現場の記者がやらにゃーいけん仕事じゃないんね」と持ち掛けた所、記者連中は「わかりました。主任弁護士から話を聞いてきます。」と動いたのだが、結局、この件はテレビや新聞では、一切、報道されなかった。
記者連中に報道されなかった理由を聞くと「デスクに止められてダメでした。」と回答する記者ばかりだった。この時は本当に頭に来た。スポンサーであるマツダのイメージが悪くなるような報道は出来んとゆう事か。(怒)
マツダ事件には、この件のように現場の記者連中は知っていたのに、マスコミの都合により報道されなかった裏事情がたくさんある。ワシは裏事情に関して、一審の法廷で何度も主張したのに、一切、報道されなかった。報道されなければ世間には伝わらない。自分達にとって都合の悪い情報を握りつぶすんなら、マスコミも腐った警察や検察と変わらんよのー。所詮マスコミにとって大事なのは、真実である現場の声を報道する事よりも、スポンサーの御機嫌を損なわないようにする事が最優先!!という事なのでしょう。ホンマ、腐っとりやがるでえー。(怒)
もし、犯行現場がマツダの社員寮ではなく、マスコミにとってスポンサーのからみなど全くないような、従業員が20~30人程度のチンケな工場の社員寮だったとしたら、マスコミは「内部の者による犯行の可能性が非常に高い」という言葉を、事件報道の中で普通に使っていたと思いますよ。
事件から1週間が過ぎた頃に犯人が逮捕され、被害者と同じ寮に住んでいた従業員である事が明らかになった時には、ざまあみさらせマツダのバチクソがあー!!といった感じで溜飲が下がりました。まさしく自演乙(筆者注・おつ。以下同じ)じゃのー。(爆笑)
マツダ事件発生当時には、事件発生から数時間後にマツダのトップ連中が記者会見を行い、マツダは被害を受けた事をアピールしまくり、「警察の捜査には全面的に協力します」などとホザいて、世間からの同情を買っておりましたが、今回の事件については、内部犯行の可能性が高い為、ヘタな記者会見は出来なかった訳です。
もし、逮捕された犯人が従業員ではなく、外部の者である事実が明らかになっていたら、おそらくマツダのトップ連中はシレッと記者会見を行い、その中で「今回、我が社の社員寮において、社員が殺害されるという大変痛ましい事件が発生し、真に遺憾であります。亡くなられた〇〇さんの冥福を全社員で祈っております。これからは社員寮などの施設のセキュリティを強化し、警備員を常駐させ、金銭トラブルに巻き込まれる事のないよう、コンプライアンスを重視した社員教育を徹底して行い、二度とこのような事態が発生する事の無いように全社を上げて努力していく所存であります。」などと語るんじゃろーのー。(笑)
大企業がマスコミのスポンサーになるというのは、今回みたいな自演乙の事件が発生した時に、マスコミに気をつかった報道をさせる口止め的なメリットがあるんじゃろーのー。ホンマ、大企業とマスコミによるこういった関係というのは、ヘドが出るで。(怒)長いものにはグルグル巻きじゃのー。(笑)
今回逮捕された従業員のアンチャンが、かつてワシが取り調べを受けていた南署(筆者注・広島南署)におるというのも、なんか笑えるのー。テレビのニュースで南署の建物が写っておりましたが、な~んかなつかしく感じてしまい、留置場生活の事をあれこれと思い出しちゃいました。(笑)どーでもえーが、南署の建物は早いとこ建て替えた方がええでー。震度3程度の地震でも倒壊しちゃうぜえーーー!!(笑)
念のために断っておくが、重大事件の犯人は引寺のような無反省な人物ばかりではない。また、自分の犯した罪については徹底的に無反省な引寺もそれ以外のことでは、意外に真面目な顔を見せることもある。しかし、こういう悪ふざけをしたような手記を書くのも間違いなく引寺の特徴の1つだ。この手記は殺人犯の生態を知るために有効な資料だと思う。
▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。