9月29日より広島市安佐南区の「カフェ・テアトロ アビエルト」で開催されていた「死刑囚の絵展」に行ってきた。展示されていた絵は、20数名の死刑囚による約50点。いずれの作品も、死刑囚・大道寺将司氏(1948年-)の亡母・幸子さんが遺した預金で創設された基金によって毎年開催される死刑囚の作品展に寄せられたものという。今回の絵展は、アビエルトのオーナー・中山幸雄さんがその作品展の主催者らと親交があった縁で実現したとか。
感想を率直に言うと、まず何より展示された絵のレベルの高さに感心させられた。一人ひとりの詳細な経歴は知らないが、おそらく作者の大半が絵を描き始めたのは獄中の身になって以降だろう。筆者は絵の専門的なことはわからないが、単純な話、自分が41歳の今から独学で絵を始めたとして、到底たどり着けないと思えるレベルの絵が並んでいた。
たとえば、今年3月に死刑執行された松田康敏氏(1968年―2012年)の遺作「富士山と梅」。ドットだけで構成されたコンピュータグラフィックスのような色鮮やかな絵だが、近くで見ると、実は貼り絵だった。ただ、貼り絵だということはわかっても、このドットの1つ1つは一体何なのかということまではよくわからない。獄中では画材も限られるはずで、その制作過程に興味を惹かれてしまう。
中国出身の謝依俤氏(1977年―)の「無題」は、B4の紙を15枚つなぎ合わせ、畳ほどの大きさの1枚の絵にした作品だ。「畳三畳くらいの広さしかない房で、この大さきの絵の全体を見ることはできない。一体どうやって描いたのか。そういうところにも思いをはせて欲しい」と中山さん。あらかじめ完成予想図のようなものでもつくってから制作したのだろうか? どんな手法で制作されたにせよ、限界への挑戦のような意図から描かれた作品なのではないかと想像させられた。
著名な作者の作品については、本人のイメージと重なり、よりいっそう色々と憶測させられる。たとえば、埼玉愛犬家殺人事件の風間博子さん(1957年-)の「潔白の罪」と「無実という希望」の2作。光が差し込む井戸の口を下から見上げる構図で描いた絵と、井戸の底で足の裏だけが白い裸の女性が這い上がろうとする姿を描いた絵だが、この2作はおそらくセットの作品だろう。息苦しくなるような迫力があり、冤罪の噂はやはり本当なのか……という気分にすらさせられた。
一方、小林竜司氏(1984年―)の「獄中切手 大阪拘置所独房」シリーズの3作。房内の様子を色鉛筆で描いただけの素朴な絵だが、その筆致には、なんともいえない情感がある。のどかな日常を描いた作品なのか、それとも、途方もない退屈を描いた作品なのか、あるいは、死の恐怖から逃れるためにあえて穏やかな絵を描いたのか……作者の心中を色々憶測してしまうのも、まだ20代の作者が今も記憶に新しい集団リンチ生き埋め殺人事件の主犯格としてセンセーショナルに報じられた人物だからだろう。
「絵を描いた人にどういう背景があろうと、公表するために作品展に送っている絵なのだから、公表の機会を与えるべき」という中山さん。今回の絵展は今月8日で終了したが、「また来年か、再来年にやりたい」とのことで、次はどんな作品に出会えるか楽しみだ。
(片岡健)
●カフェ・テアトロ・アビエルト
電話082(873)6068
http://cafe-teatro-abierto.com/
★?写真は、上より
林眞須美さんの「国家と殺人」
松田康敏氏の「富士山と梅」
謝依俤氏の「無題」
風間博子さんの「潔白の罪」と「無実という希望」、「無題(手の中の虹)」
小林竜司氏の「獄中切手 大阪拘置所独房」シリーズ