DENTSU TEC 2017 RECRUITより

 
11月7日に全社員に向けた社長メッセージが発せられ、12月2日には社員の1割を配置転換するという社内体制の改革を発表し、改革イメージを懸命にアピールした電通だが、それは偽りの姿であったことがハッキリした。11月30日のMNJ(マイニュースジャパン)が、NHKニュースで感想を述べた社員が戒告処分を受けたことをスッパ抜いたのだ。

NHK『ニュース7』の字幕では、「捜索が入って急に騒ぎ出すのは自浄能力のない会社だなと思う」と記されていた。その直前に行われた社長の社内会見では、石井社長が「様々な社員のみなさんの声を取り入れて、みなさんとともに新しい電通を作っていければと思っています」と述べていたのに、感想を述べただけの社員を戒告処分にしたというのだから、まさに驚愕である。これに対し、電通労組が異議を唱えないとしたら、もはや存在意義などないに等しい。

しかも、何らかの社内機密を漏らしたというなら別だが、この社員はインタビューに対して自分の感想を述べただけだ。石井社長は「先日来、社内の文書が外に漏れている。ご自分の考えを述べることはもちろん構わないが、社内の情報を外に出すことは、明確な社規違反です」とも語っていたという。

もし経営陣が上記の社員の感想を「社内情報」と判断したとするなら、まさにソ連時代の小話である『「赤の広場」で「スターリンは馬鹿だ」と叫んだ男が逮捕された。裁判の結果、懲役25年が言い渡された。刑期のうち5年は侮辱罪、残りの20年は国家機密漏洩罪であった』を彷彿とさせる愚かな状況である。いくらなんでも電通経営陣はトチ狂っているとしか思えず、こんな感想を述べた程度で戒告なら、真摯な意見を述べる者は誰もいなくなってしまうだろう。

実は、この社員がなんらかの処分を受けるかもしれない、という情報は以前からメディアにも漏れていたのだが、それを確認した記者に対し、電通広報は「そんなことをすれば(批判に)火に油を注ぐだけだから、ありえない」と回答していたというのだから、もはや経営陣と広報間の連携すら取れていないということなのだろう。そして、このMNJ記事の確認をした記者に対しては「社内事情を公開する義務はない」として回答を拒否したのだ。

以前も書いたが、メディアの間で電通広報の評判は非常に悪い。問い合わせに対しては曖昧な返事しかせず、無視することも多々あり、細かく追求する記者に対しては「社内事情を説明する義務はない」などと偉そうに回答する。あまりにも多くの問題が勃発しているから質問されるのに、「そんなことはお前らの知ったことか」という態度なのだから、周囲からの評判が悪いのは当然だろう。私のスクープである、石井社長が安倍首相と会談した件に関しても、確認を求めた記者達に対し「社長の動静を外部に開示する必要はない」として回答を拒否しているほどだ。

電通(博報堂も)がスポンサー各社に提案している「事件・事故対応広報マニュアル」では、重大事件後は広報担当者を選任し、メディアの質問には誠実に答える態度が必要だと書いてあるはずだ。あの悪名高い東電でさえ、定例記者会見では(不十分ながらも)一応は回答する姿勢を見せている。それは、事件事故の勃発時には厳しかった記者にも誠実に対応すれば信頼関係を構築でき、事態が治まってきたときには冷静な記事を書いてもらえるなど、味方になってくれる可能性があるからなのだが、電通の対応は見事にこの自らが提唱するセオリーを無視している。恐らく、店頭で物を売るコンシュマー製品を作っている企業ではないから、メディアを通じた丁寧な説明など一切必要ないと考えているのだろう。傲慢さは少しも変わっていないのだ。

しかし、こうしたメディアに対する「塩対応」は確実に記者達に「不誠実な企業」という印象を与え、彼らは不満を募らせている。実は電通にはもう一件、ここ数年内に起きた過労死事件が存在するという情報があり、いま多くのメディアがその存在を追っている。もしこれが確認され発表されれば、電通の信頼はもはや回復不能な状態に追い込まれるだろう。不誠実な対応をすればするほど味方はいなくなり、さらに急所をスクープされるという泥沼に入り込んでいるのだ。

おりしも、電通は毎年開催されている「ブラック企業大賞」にノミネートされた。今年も佐川急便や関電など錚々たる面子が揃っているが、特に今年の下半期でここまでイメージが悪化した企業は他になく、大賞受賞は間違いないと思われる。だが電通がノミネートされることが確実とあって、毎年取材に訪れるテレビ各局が、今年は一社もなかったという。いまだに電波メディアに対する電通の威光は健在なのだ。


◎[参考動画]電通グループの広告制作会社、電通テック2017年新卒採用リクルートムービー(DENTSU TEC RECRUIT 2016年6月12日公開)

▼本間龍(ほんま りゅう)
1962年生まれ。著述家。博報堂で約18年間営業を担当し2006年に退職。著書に『原発プロパガンダ』(岩波新書2016年)『原発広告』(亜紀書房2013年)『電通と原発報道』(亜紀書房2012年)など。2015年2月より鹿砦社の脱原発雑誌『NO NUKES voice』にて「原発プロパガンダとは何か?」を連載中。

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