今年のキックボクシング界も一年を振り返ると大きなことから小さなことまで、いろいろありました。
大きな出来事では、
《1》T-98(タクヤ/今村卓也)と梅野源治がムエタイ殿堂ラジャダムナンスタジアム王座を奪取
《2》ムエタイチャンピオンを倒すまで止まることなく突き進む18歳・那須川天心の躍進
《3》「NO KICK NO LIFE」から「KNOCK OUT」へ、小野寺力のイベント発進
これら3つのニュースは他の出来事が霞んでしまうほど業界に大きなインパクトを与えました。さらに、
《4》もう一人のムエタイチャンピオン、初防衛成功の福田海斗
《5》最軽量級ながら15歳で世界に挑んだ高校一年生、吉成名高
《6》激闘を繰り返した蘇我英樹とルンピニー王座に2度挑戦した一戸総太の引退
《7》ムエタイ日本王座認定組織がさらに二つ発進
《8》NKB傘下ではデビューから7連敗して初勝利を挙げた岩田行央の小さな物語
《9》高橋三兄弟は試練を受入れ、前向きに踏ん張る現在
《10》キックボクシング創始者・野口修さん永眠
といった7つの出来事を加えた10大ニュースで2016年のキックボクシング界を振り返ってみましょう。
◆《1》T-98と梅野源治がムエタイ殿堂ラジャダムナンスタジアム王座を奪取!
前年、ムエタイ王座に挑戦したのは7人で全敗、今年はT-98と梅野源治の二人のみでしたが、二人とも奪取成功。T-98は初防衛戦を現地ラジャダムナンスタジアムでKO勝利し、日本人初の現地防衛を果たしました。
第三のムエタイ殿堂王座となるタイ政府公認下にあるタイ国ムエスポーツ協会フライ級王座を2015年12月に奪取した福田海斗(18歳/キングムエ)は、7月にディファ有明で不利な展開を見せつつポイント有利に進め初防衛に成功。実力は充分あることを見せてくれた試合でした。減量苦もあってその後王座返上していますが、タイ現地で活躍を続けています。
◆《2》那須川天心の躍進──ムエタイチャンピオンを倒すまで止まることなく突き進む18歳
幼少期からジュニアキックで経験を積んだ若年層では、大きく差を付けている感のある存在が那須川天心で、数々の王座を獲っている宮元啓介(橋本)とルンピニー系スーパーフライ級チャンピオンのワンチャローン・PKセンチャイジム(タイ)を大技でKOした試合は驚かされる結果でした。やがて壁にブチ当たると言われつつ、未知数の才能に注目されています。
◆《3》「NO KICK NO LIFE」から「KNOCK OUT」へ、小野寺力のイベント発進
キックボクシング創設“満50周年”を迎えた今年、「NO KICK NO LIFE」から新たな展開に船出したイベント「KNOCK OUT」が12月5日に開催されました。タイトルどおりの好カードを目指したマッチメイクからKO決着が続出する展開。
「KNOCK OUT」の代表、小野寺力氏は老舗・目黒ジム所属で日本フェザー級王座に就いた名チャンピオン。老舗で学んだキックボクシングから本来のノックアウトの醍醐味を魅せる興行を目指していました。ここへの出場を意識し「キックボクシング界は面白くなっていきます」とマイクで発言する選手が多い中、「そうは上手くいかないよ」という声があるのも事実。これがキック50周年を区切りに新しい時代を築けるか、(株)ブシロードという大きな後ろ盾が力強い存在ですが、キックボクシング業界全体がどう動いていくか、2017年の大きな注目でしょう。
◆《4》17歳のムエタイチャンピオン福田海斗と《5》WMC世界王座に15歳で挑んだ吉成名高
タイが主戦場となり、賭けの対象となる実力もある福田海斗(17歳)や石井一成(18歳)もまだ高校生の十代。
15歳でWMCの世界王座に挑んで敗れた吉成名高もまだ背の伸びる身体の成長期。タイが主戦場では選手層が厚く、接戦で勝ったり負けたりでも今後、サバイバルに勝ち上がる期待が持てる現在です。
◆《6》激闘を繰り返した蘇我英樹とルンピニー王座に2度挑戦した一戸総太の引退
激闘を繰り返してきた蘇我英樹が地元の市原臨海体育館で、爆腕・大月晴明を相手に引退試合。前年5月にも激闘の末、判定で敗れている蘇我でしたが、最終試合を華やかに飾る意図は全く無く、激闘のKO負けで締め括る後、引退式を行ないました。
WPMF世界王座で2階級制覇、タイ国ルンピニー王座挑戦は奪取成らずも2度挑戦経験を持つ一戸総太も最終試合を判定勝利後、引退式を行ないリングを去りました。
◆《7》ムエタイ日本王座認定組織がさらに二つ発進
乱立する国内王座のキックボクシング界に於いて、2009年以降、ムエタイという分野の王座はWBCムエタイと、WPMF傘下の日本王座が誕生し、今年更に二つ誕生したのがWMC日本王座と、前年8月に発表のあったルンピニー・ボクシング・スタジアム・オブ・ジャパン(LBSJ)の日本王座でした。いずれも大きなムエタイ組織の傘下にありますが、さすがにここも増え過ぎではあります。活性化していくことが大事ですが、いずれその差は出てくるでしょう。
今年、ムエタイ王座再挑戦があるかと思われた江幡ツインズは更に経験を積みながら、現地、ラジャダムナンスタジアムでの試合も経験、5月に敗れた江幡塁と重森陽太は日本で雪辱に成功。7月に出場した江幡睦は現地でKO勝利を飾り、昨年3月のラジャダムナン王座挑戦失敗から今年12月までで6連勝中。また逃すことは許されない中、来年こその再挑戦を待つ日々。
◆《8》36歳二児の父・岩田行央の挑戦──“7連敗からの初勝利”
ひとつ指摘されなければ気がつかない話題で、元・NKBウェルター級チャンピオン.竹村哲氏が試合パンフレットの「PICKUP NKB」で披露した記事からですが、NKB傘下の日本キック連盟で2009年7月のデビューから7連敗し、今年4月にデビュー戦の藤田洋道(35歳/ケーアクティブ)に1R・KOで初勝利を挙げた岩田行央(36歳/大塚)がいます。
岩田は二人の子供が居る上にデビュー戦後に離婚。シングルファーザーとなってブランクを作りつつも、子供の後押しもあって再起するも更に連敗し、周囲の引退の勧めにも笑って受け流し、とにかく1勝すること心に誓い、ようやく初勝利した瞬間は格別な想いだったでしょう。12月の再戦では1ラウンドに2度ダウンを奪いながら2ラウンド目に逆転されるダウンを奪われるも激しい攻防の末引き分け。初勝利より場内を沸かす熱い試合を展開しました。こんな新鋭3回戦クラスで将来性も無くても、選手ひとりずつ拾えばそれぞれの物語が存在するものですが、“7連敗からの初勝利”が導いた物語となりました。
◆《9》高橋三兄弟は試練を受入れ、前向きに踏ん張る現在
同じ日本キック連盟内で期待のエース、高橋三兄弟も長男・一眞は他団体進出では苦戦が続きますが、KO狙いとスター性から「KNOCK OUT発表記者会見」での初戦ビッグマッチに起用された経緯がありました。次男・亮は話題の佐々木雄汰(尚武会)に判定勝利も、他団体興行で敗戦を味わい、三男・聖人はまだ3回戦。行く先の試練はあっても経験値を増やし、焦らず乗り越えて欲しい次期エース格の三兄弟です。
◆《10》キックボクシング創始者・野口修氏永眠
昭和41年に日本でキックボクシングを作り、ブームを興した野口修氏が今年3月に永眠されました。ここ数年は会場に足を運ぶのもやっとの状態で、7~8年ほど前から体調を崩し、手術で入退院を繰り返す事情もありました。2014年8月の新日本キックボクシング協会代表・伊原信一氏主催の「キックボクシング創設50周年パーティー」にはしっかりした足取りで来場していたものの、その後、会場に姿を現すことは極端に少なくなっていました。このように成長した現在のキックボクシング界、または御自身の理想から外れたキック界を見てどう想うか、その聞き難い本音を聞きたいところではありました。
[撮影・文]堀田春樹
▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」