2007年1月15日、京都市左京区岩倉幡枝町の歩道上で京都精華大1年生の千葉大作さん(当時20)が通りすがりの男に殺害された事件は容疑者が検挙されないまま、この15日で発生から10年を迎える。このほど事件現場を訪ねたところ、改めてミステリアスな事件だと思えたが、何より印象的だったのは現場に花と共に供えられた1冊の本だった――。
◆犯人に関する情報は多いのに未解決
事件が起きたのは2007年1月15日の午後7時45分頃だった。千葉さんは自転車で帰宅中、通りすがりの男とトラブルになり、胸部や腹部を刃物で10カ所以上刺された。そして通行人に「救急車を呼んでください」と助けを求めたが、搬送先の病院で亡くなったのだった。
千葉さんは当時、全国で京都精華大にしかないマンガ学部の1年生。マンガ家になる夢を叶えるため、故郷の仙台を離れて進学していたのだが、その夢は生命と共に凶刃に奪われてしまった。
目撃情報によると、事件直前、千葉さんは現場で犯人の男とトラブルになり、「あほ」「ぼけ」と怒鳴られていたとされる。男は20~30歳で、身長は170~180センチ。髪はボサボサだがセンター分けで、上下黒っぽい服装をしており、黒っぽいママチャリ風の自転車に乗っていた。目の焦点があっていなかったという。これだけ多くの犯人に関する情報がありながら、事件は10年経った今も未解決というのは不思議である。
現場を訪ねたところ、本当にのどかな田舎町で、よそ者がふらりとママチャリで訪れる場所とは思い難かった。犯人はどうやって逃げおおせたのか。そもそも、一体どこからやってきたのか。実際に現場を訪ねてみて、わかったのは事件が謎めいているということだけだった。
◆事件は風化していない
そんな現場には、命日でもないのに複数の花や飲み物が供えられており、生前の千葉さんが友人にめぐまれた青年だったことが窺えた。そんな中、目を引かれたのが花と共に供えられた1冊の本だった。透明なプラスチックケースに入れられているのは、雨などをしのぐためだろう。この本のタイトルは――。
私は恥ずかしながら知らなかったが、ライトノベルの人気作品だった。おそらくは千葉さんの友人が、この本はタイトルが千葉さんに贈る言葉としてふさわしいと思い、供え物にしたのだろう。さらに調べてみると、この本の著者である七月隆文さんは京都精華大のOBらしく、学校全体で千葉さんの死を悼んでいるような雰囲気が伝わってきた。
年月が経つうちに証拠は散逸していくものだと言われるが、事件はまだ風化していない。それはつまり、犯人は決して逃げ切れたわけではないということだ。
▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。