2014年7月から法務・検察の実質的な最高位である検事総長のポストに君臨し、2016年9月に勇退していた大野恒太郎氏が日本弁護士連合会に弁護士登録していたことがわかった。当欄で2016年10月28日に既報の通り、大野氏は法務官僚時代、冤罪疑惑の根強い男性死刑囚に対する死刑執行に深く関与している。今後はその過去を伏せて日本有数の大企業に天下りすることが予想され、動向に要注目だ。

◆まずは「四大法律事務所」の客員弁護士に

検事総長を勇退以来、進路が注目されていた大野氏。最初に明らかになった勇退後のポストは、日本の「四大法律事務所」の1つである森・濱田松本法律事務所(東京都千代田区丸の内)の客員弁護士だった。同事務所のホームページによると、大野氏は2016年11月16日付けで入所。その後、2016年11月吉日(原文ママ)付けでホームページには、大野氏本人による入所の挨拶文も掲載された。

それを見ると、書き出しは〈拝啓 皆様におかれましては、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます〉と初々しいが、その後は〈内閣司法制度改革推進本部事務局次長として司法制度改革を担当〉したとか、〈裁判員制度や被疑者国選弁護制度の導入、法曹養成制度改革、法テラスの創設等を実現〉したなどという手柄話が連綿と綴られている。しかし当然というべきか、「あのこと」には一切触れられていない。

大野氏の挨拶文も掲載された所属弁護士事務所のホームページ

1992年に福岡県飯塚市で小1の女児2人が殺害された事件で、無実を訴えながら死刑判決を受けた久間三千年氏(享年70)が死刑執行されたのは2008年10月のこと。大野氏は当時、法務省の刑事局長だった。死刑は法務大臣の命令により執行されるが、その前に法務省の官僚たちが死刑執行の可否を審査し、決裁している。中でも中心的な役割を担うのが刑事局であり、そのトップだった大野氏は久間氏に対する死刑執行の実質的な最高責任者と言ってもいい。

私は大野氏が検事総長だった頃、この冤罪処刑疑惑に関する取材を申し入れたが、事務官を通じて、取材を断られたことがある。手柄話ばかりを連綿と綴った上記の挨拶文を見ても、大野氏は今後もこの冤罪処刑疑惑について、公に語ることはないと予想される。

◆大野氏同様に冤罪処刑への関与が疑われる1つ前の検事総長も・・・

そこで注目すべきは大野氏の天下り先だ。歴代の検事総長は誰もが大野氏同様に弁護士登録し、日本有数の大企業に天下りしているからだ。直近5代の元検事総長たちの天下り先を別掲の表にまとめたが、文字通り、日本を代表するような大企業ばかりだ。大野氏と共に法務事務次官として久間氏の死刑執行の決裁に深く関与した1つ前の検事総長である小津氏も、何事もなかったかのようにトヨタと三井物産で監査役のポストを得ている。大野氏も小津氏と遜色のない天下り先を得る可能性は高い。

久間氏の遺族は現在も裁判のやり直し(再審)を求めており、福岡高裁で再審可否の審理が続いている。その一方で、この冤罪処刑疑惑に深く関与した官僚たちが何事もなかったかのように恵まれた天下り先を確保し、ゆうゆうと余生を送る不条理。我々はこの現実を直視しなければならない。

直近5代の検事総長の天下り先

〈追記〉
大野氏をはじめとする久間氏の死刑執行に関与した法務・検察官僚たちに直接取材した結果や、大野氏らが決裁した久間氏に対する死刑執行関連文書が私の編著「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(鹿砦社)に収録されている。一読の価値はあると思う。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2017年2月号!

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

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