「果たして誰が芸能界で生き残るのか」と元SMAPの草なぎ剛や木村拓哉が出演している視聴率を“元SMAP対決、どちらが勝つか”としゃかりきにあおるなどメディアはメンバーたちの「職能分析」に忙しい。
元SMAPのメンバーたちの“演技力”はいかほどか、とさんざん演出家やファンたちが語り尽くしてきたが、ベテランの脚本家が「ソロ俳優として脚本を書きたくなる俳優」として元SMAPメンバーを語った。連続ドラマや時代劇ドラマなど多数の脚本歴を誇る、25年目のベテランA氏に、匿名を条件に「本音」を聞いてみた。
「脚本を書きやすい」「演技させてみたい」1位は、ダントツで稲垣吾郎だという。稲垣は08年に小雪と共演して弁護士を演じた『佐々木夫妻の仁義なき戦い』(TBS)を最後に「バイプレイヤー」に徹している感がある。
「若いときの演技のほうが印象に残っています。92年のドラマ『約束の橋』(フジ)では牧瀬理穂相手に『オレ、君のためなら死ねる』と叫ぶなど純粋でストレートな表現と、過去は不良だったというブラックな内面を併存させて演技した。こういうナイーブな演技ができる素材は稀少だと思う。いまひとつ、ぴたっとした役が回ってこなかったと思うが、映画『十三人の刺客』(2010年)で残虐きわまりない殿様を演じて演技に開眼した感じ。演出の人たちは、もっとうまい稲垣の使い方があると思う。稲垣の場合は、『佐々木夫妻の仁義なき戦い』のケースみたいに、役が合わないと、実に幼稚な演技に見える。04年から09年にわたって5回放送されたフジテレビのスペシャルドラマ『稲垣吾郎の金田一耕助シリーズ』の金田一耕助だって、本当は残虐な一面とユーモラスな一面を出さないといけないのに、稲垣は苦しんでいた。これは配役ミス。ぴたっと役にはまれば画面から知性がほとばしる。僕が書くなら、たとえばやはり警察の上をいく誘拐犯かな」
2位は草なぎ剛だが、「稲垣とは個性派という意味ではそんなに差はない」とのこと。
「喜怒哀楽の激しさがうまく表現できるようになったのは映画『バラッド』あたりからだろう。新垣由衣と恋仲になる無骨な武士を演じたが、草なぎの真骨頂は『怒り』のシーン。実は『バラッド』あたりから演出家たちが褒め始めた。今回の連続ドラマ『嘘の戦争』(フジテレビ)も見ているが、とくに『怒り』の表現が迫力満点。自分の親を殺した会社社長に復讐する物語なのだが、1話の実行犯の『オレが味わった地獄をおまえら全員に見せてやる。おまえらの地獄はここからだ』と甲本 雅裕相手にすごむシーンは鳥肌がたった。個人的には、過去がある暗い役、とくにヤクザやヒットマンなどを主人公に書いてみたいが、コンプライアンスに厳しい地上波じゃ難しいから、ネットTVのドラマになるかな」
「演技をメインの仕事にしていない中居正広を3位に推すのは演出家にはありえない」とA氏は言う。脚本的には「あて書き」(主役を決め打ちして脚本を書くこと)しやすさでは、中居がダントツだという。A氏は言う。
「中居君の明るいキャラクターをいかして刑事か、探偵ものを書いてみたい。95年に放映された『味いちもんめ』(テレビ朝日)みたいにパワーがほとばしる演技が彼の魅力。たぶん生来もっている地の部分を活かしたほうがいい脚本がかけそうだ。12年の『ATARU』(TBS)みたいな病気もちの千里眼を演じるのもいいが、僕的には視聴者の間で賛否両論がまきおこるようなほどのおバカなキャラか、もしくは底抜けに明るくて頭がきれるが、どこか抜けているキャラを書いてみたい。いずれにしてもかなり台詞はスピーディーに展開しそうだ」
4位は「香取慎吾にしておこう」とA氏は言う。ただ香取は主演するドラマはとにかく評判もよくないが視聴率がとれない。昨年1月に『家族ノカタチ』(TBS)が視聴率的にダダ滑ってから連続ドラマのオファーはないとされる。
「脚本家とて、視聴率をもつ俳優や女優と熱烈に組みたいもの。だから脚本家テレビの制作や制作会社に企画書を出す段階で、視聴率がとれない香取の名前が企画書にのらない。だが視聴率をさしおいて、演技者とみれば香取慎吾は確かにキャラクターを設定しにくい。キャラ造形するなら12年の『MONSTERS』(テレビ朝日)で演じた、頭がいいが嫌われ者の刑事に代表されるように、とにかく変な色をつけるしかない。演出家たちは『基本的には下手だ』『演技力がないから映画『西遊記』の孫悟空とか『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の両津勘吉などすでにできあがったキャラクターを与えるしかない』などという。だが僕ら脚本家の間では『ガリレオ』(フジテレビ)で見せたように犯人役だとうまいし、NHK大河の『新選組!』の一本気なノリも悪くない。いい演出家に恵まれればまだいけると思う。個人的には主人公に嫌がらせをするポジションで使いたい」
5位はなんと『SMAP×SMAP』(フジテレビ)で毒舌で売っていた時代の有吉弘行に「月9バカ」「ドラマバカ」とまで言われた木村拓哉。木村の時代が終わったのは、今クールのドラマ「A LIFE~愛しき人~」(TBS)の初回が14.2%に終わったことからも想像できる。
「僕らも15%は軽く超えるとみていた。竹内結子、松山ケンイチ、浅野忠信を脇に置いて、これだけの視聴率なら、俳優や女優だけでなく、脚本家も怖くて組むのは難しい。93年に脇役でドラマデビューし振られ続ける役を演じた『あすなろ白書』(フジ)の演技は案外いいが、ああした気弱な男を配役したほうがよかったような気も。ただ、彼がちょっと人間味に欠ける役、たとえば半グレとして光る演技を見せた97年『ギフト』(フジテレビ)の自転車宅配便の役、2010年の『月の恋人~Moon Lovers~』(フジテレビ)の人に対して感情を出さない家具メーカーの社長役などは輝きを見せる。だが、木村が悪や、感情に欠ける役を演じたドラマはことごとく視聴率が出ない。だから、結果として木村に対しては『脚本は書きにくい』という話になる」
木村に関してはさんざんだ。
「それでも視聴率を木村でとりにいくなら、エリート社員で、無理めな恋愛、たとえば人妻に恋するなんていうベタな展開をするしかないかな。となると、現在放映している『A LIFE』みたいになるんだが、これで数字がとれないともう木村主演は、ないね」 今クールのドラマの視聴率結果にかかわらず、数年後に誰が演技のオファーがまだまだ現役として残っているか、脚本家レベルではひとつの結論が出たようだ。
(伊東北斗)